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変態オオカミと忘れた君 ラストワンダーランド  作者: 新藤 愛巳
第三章 旧校舎ときつねの物語
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見えたのか

「幽霊。そんなものが本当にいるのか?」


 海美は怪訝な面持ちで僕を見た。僕だって半信半疑だ。

 でも勅使河原君の情報はいつも正確なのだ。


「勅使河原君、どこに幽霊が出るんだ?」


「旧校舎らしいけどね」


「それは綱子ちゃんだろう。その件はもう解決した」


「それが解決していないんだ。今度は狐の幽霊が出るんだからな」


「狐の幽霊?」


 僕よりも海美の方が身を緊張させた。


「狐だと?」


「何かまずいのか?」


 勅使河原君は首をかしげる。


「狐は天からくる星の欠片……」


 僕は海美の口を抑えた。


「そこまで、そこまでだよ。海美」


「どうしてだ。こんな重要な情報、他にない」


「だから」


 僕は海美を廊下に連れて行った。


 休み時間の閑散とした廊下のメンバーは僕らをじっと見ていた。

 知らない海美の顔が気になったのだろう。


「海美。屋上に行くぞ」


「了解した」


 僕らは生田中学の屋上にたどり着く。


「あそこでしゃべってはまずい会話だったのか? 皓人」


「まずい会話だった。一般人を巻き込むつもりか、海美」


「巻き込むって狐の話をしただけでか」


 あきれる。


「最重要機密事項をしゃべろうとしてなかったか?」


「殺生刀の話の事か? 広くしゃべって意見を聞こうとは思ったが」


 そうなんだよ。


「お前はもっと一般常識を学んでくれよ。僕は悲しいよ」


 巻き込まれる刀のない奴らのことをまるで考えないんだから。


 前向きに不安になるよ。

 僕はうずくまって溢れる冷や汗を拭いた。


「なんであなたが悲しいのかわからないよ。皓人」


「はあぁぁぁ。お前よくそれで中央第一の王子様が出来ていたな」


「私様は演劇部だ。何もかも演劇だと思われたようだよ」


「それでよくファンとの交流が出来たな!」


「私様がしゃべれば女子はみんな感激してよく話を聞いていなかった」


「どれだけモテていたんだよ!」


 うらやましい。


 海美は肩を落とした。


「そんなあなたにドロドロした女子中の話をしてやろうか?」


「聞きたくないな、前向きに」


 夢は夢で持っていたい。そんなロマンのある男だ、僕は。


「あっ」


 海美は旧校舎を指差した。


 僕も思わずそちらを見た。


「あれが間の物か?」


 海美は呟くが、僕には何も見えなかった。何を言っているんだ、海美。


「なんだ、何かいるのか?」


「大きな狐が歩いて行く! 旧校舎を蹂躙していく」


「大きな狐?」


フンドシをまとった大きな狐だ」


 そんな愉快なものが!


「そのフンドシは長いか」


「長い」


 僕は途方に暮れた。


「長い物は好きだ。長いフンドシも好きだ。だが、見えない。僕は前向きに悲しい」

 

 海美は僕にビンタを決めた。


「嘆くな。あれは敵だぞ」


 海美は現校舎の屋上から跳んだ。海美の領域の属性は変形だ。

 海美は屋上のフェンスを掴み、それを変形させながら向こうに跳び移ろうとして、そこにうちの川柳部の先生が現れた。


「何やっている? お前ら」


 海美は王子様のように叫んだ。


「何って狐退治に決まっている!」


 言うな。言うんじゃない。この先生はおしゃべりなんだぞ。趣味は蒸気携帯に一日、百回呟くことなんだぞ。川柳を夜中に!


 僕は海美の口を抑えたが間に合わない。


「狐を消すんだ!」


 先生はぽかんとした顔をした。


「ほら通じないだろう」


 先生は真摯に僕らを見た。


「お前らあれが見えるのか」


「あれって」


「そう。あれがこの学校の七不思議の一つ。さまよう妖怪だ!」


「さまよう妖怪?」


 初耳だ。三年間暮らして来て全然気がつかなかったぞ。

 どうしてそんなものが、この学校に?

 なんで僕が知らないんだ。今までこの学校中の糸を読んでも気がつかなかったというのに。旧校舎の秘密なんて。


「先生、それはなんですか? 聞いたことないですよ」


「だから七不思議の七つ目。女性にしか見えない妖怪だ」


 僕はぽかんとした。


「先生女だったんですか?」


「男だよ。去年、女の先生に聞いた話だ」


「先生。川柳はモテますか?」


「モテないな。お前はどうだ?」


「モテないはずだったんだが、長い物好きだとモテるようです」


「それは本当か!」


「先生に嘘の情報を教えるな」


 海美は僕を軽く締め上げた。なぜだ。僕は本当にことを言っただけだ、前向きに。


「ところで、そっちの女の子は」


「僕の従妹、横志摩海美です」


「そうか。見えたのか」

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