表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
変態オオカミと忘れた君 ラストワンダーランド  作者: 新藤 愛巳
第三章 旧校舎ときつねの物語
34/141

赤い雪が降る頃

 君のことを考えると胸が軋む。昔、君に助けられた。


 彼女を助けることはあの時の僕には無理だったから。


 救われた。


 今の僕に何ができるのか。


 わからないなりに僕は走ろうと思う。今年も冬がやってくる。


 暖かい冬が。そして赤い雪が降るのだ。


 君の為に走ろう。


     ☆     ☆     ☆     ☆     ☆


 鎖国をしていて、世界大戦が起きなかったイカルガの話。


 僕等は領域師りょういきし。心の葛篭つづらを使い、土地神に仕え、瘴気を出す間の者を狩り、倒して薬石に変える一族だ。


 文化祭三日目。海美うみがこの学校にやってきた。違う学校の制服は燃える。ブレザーに長いネクタイ最高だ! お前のところの制服は良い!


 おしゃれで頭に花かんむりなんかつけているがそれはこの際、どうでもいい。


「何を見ている、変態」


「誰が変態だ」


「お前が変態だ、皓人」


「何しに来たんだよ、従妹」


「いろいろあったんでね。調査だ。当然の話だが。大量脱力事件を調べに来た」


「調査ね」


 僕と海美は生田中学の廊下を歩く。なんだ、海美。変な顔をして僕の顔を眺めて。


 海美はついにこらえきれなくなったのか肩を揺らし、大声で笑った。


「お前、馬鹿じゃないの、皓人。その頬」


 そう。この両頬は問題だ。大問題だ。現在、わけあって真っ赤に腫れ上がっている。

 僕の持つ満月狼の力、すべての攻撃をはじく硬化の力を使う暇もなかった。あの攻撃の前では。


「捕まえました、皓人」


 そう。綱子ちゃんのあの攻撃の前では。


「これは綱子ちゃんにはさまれた」


 正確にはキスされそうになった。綱子ちゃんは昨日の片付けの後、両手をぐりぐりさせて僕の頬を両手

で挟み、僕を壁に押し付けて囁いた。


「大変です。リップを塗ってくるのを忘れました」


「え?」


「あきらめてください」


「えええええぇぇぇぇぇぇぇぇえぇ」


 僕の気持ちのボルテージはどう下げたらいいんだろう。


 綱子ちゃんはこの前の真里菜ちゃんに対抗しようと画策して、いろいろ失敗したらしい。


「真里菜のプルプル唇に勝つためには最高級ハチミツリップが必要です。しかしそれを買う経済力が私には!」


「え、え、綱子ちゃん?」


「経済力が私には……ううううううぅぅぅ」


 泣きながら走って逃げていく綱子ちゃん。叫ぶ僕。


「待て! カサカサでもいい。カサカサでもいいから!」


「いやああぁぁぁぁあぁぁぁ。変態!」


「というわけなんだ」


「やっぱり変態か」


 毒つく従妹。


「海美。お前って奴は前向きに最悪だよ」


私様しさまは最高である! 最悪なのはお前だよ、皓人」


 僕は全身を震わせた。


「お前、僕の家のハムスターを五百円ハゲにしたくせに。ハムスターの五百円は貴重だぞ!」


 十円よりも五百円。なんて広範囲。


「それはそれ、これはこれだ。私様には関係ない」


「お前しかいないだろうが。お前しかいなかったろうが。二回言うぞ」


「何のことだ。記憶がよみがえってきたぞ。あれは良い経験だった」


「興奮するな!」


「いろんなドレスを着せたんだ」


「ハムにストレス貯めさせんな」


 微笑む海美。


「ともかく。ハムのことは私様の所為ではない。全部、皓人が悪い」


「なんでだよ」


「お前、真里菜と旅行に行ったじゃないか」


「行った」


「お前の妹たちが寂しがったじゃないか」


「寂しがった」


「そこで私様はお前の家のハムとスキンシップを」


「オカシイだろうが、どう考えてもオカシイだろうが。妹たちとスキンシップしろ」


「そうだろうか」


「そうなんだよ」


 ため息を吐く僕。


「海美。お前、何を考えているんだ?」


「ハムケツだ」


 僕はさらにため息を吐く。


「いい年した女の子がハムケツの事ばかり考えているのは感心しないぞ」


 海美はのけぞった。


「皓人。最近、頼光さんに影響を受けているとは思っていたが今日は親父臭さを感じる!」


「あの人は全く親父臭くない」


「じゃあ、どこの親父を受け継いできた! いえ、言うんだ! 言わないならお前のハムにかつらをかぶせるぞ」


「せめてマフラーにしてくれ!」


 そんなこと言われてもどこの親父って一人しかいない。


「うちの親父だよ」


「うちの親父って。あの双子の父親、現在放浪中の?」


「そう。西洲斎せいしゅうさい写楽しゃらくその人だよ」


 僕は長いため息を吐いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ