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変態オオカミと忘れた君 ラストワンダーランド  作者: 新藤 愛巳
第二章 うそつき人形と真っ暗オオカミ
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花弁

「それでどうなったの、皓人」


 綱子ちゃんは必死にうどんを飲み干していく。

 悪い癖は直っていないようだ。可愛い大食い選手権大会のようだ。


 僕もその隣でうどんのパックを重ねた。


 売店の二年生が感激している。この日のためにアルバイトしていた僕の財布が痩せていく。前向きにどうしよう。


「もともと美弥は海の神に仕えていた従者だった。海の神の大事にしているギアマンの皿を割って追い出

されたそうだ。そこで腹いせに悪さを働いた。桜の精をそそのかし、木の上で毒を撒き、大量の人を夢にいざなった」


「そこに来たのが赤い靴だったのね」


「そうだ。だからあのウミヘビはここに」


 僕らは校庭に出た。そこには金木犀が咲いていた。

 大ぶりの枝が華やかな匂いを演出する。美しい金木犀。その木の根元には大岩が眠る。ムジナの岩だ。


「【香り立つ あなたのことを 今でも思う】」


 あの戦いの後。


「これはよい薬石になる。莫大な富ダナ」


 ムジナの石を売り払おうした紳一郎さんを押しとどめて、僕はここに埋めた。


「皓人の自己満足で気が済むのならダナ」


と言われた。自己満足でも僕は真里菜ちゃんが喜ぶほうがいい。


「それで、皓人。私に話ってなんですか?」


 ここからが本番だ。


「綱子ちゃん。僕、好かれてもいいかなあ?」


「それはどういう意味でしょう、皓人」


 綱子ちゃんの目が美しく輝く。


「好きになってもいいですかって言われたんだけどそれぐらいいいよね?」


 綱子ちゃんは噴火した。


「皓人様は誰からも愛されなくてはなりません。だって、皓人様は人格者ですから。しかし、私はあなたに誕生日プレゼントをあげません!」


 なぜだ!


「なに、なに、なんだったの?」 


「私の手編みのマフラーです!」


「嬉しいけど、不器用な君がマフラーなんて編めるもんか!」


「ですから、長さ五センチのマフラーです!」


 僕は失神しそうになる心をつなぎとめた。

 ああ、危ない、危ない。前向きに気を失うところだった。


 遠くから勅使河原君が手を振っている。そして笑顔で隣にいた真里菜ちゃんを指差した。


「真里菜ちゃん」


 真里菜ちゃんは僕へのプレゼントを持って立っていた。


「先輩。総天然石で作った長い数珠です。先輩のために準備しました!」


「おお、これは前向きに美しい。なんて長いんだ!」


「手作りですっ」


 綱子ちゃんが僕の隣に寄り添う。


「皓人。これを売ればうどんがたくさん食べられます。さあ売りましょう」


 え?


「大切にしてくれますよねっ。先輩」


 え?


「皓人様は数珠なんて身につけません」


 綱子ちゃんは無形を振り回す。


「綱子ちゃん。先輩は長い数珠が大好きですっ。私のチャームポイントですから!」


 真里菜ちゃんは赤いブーツのかかとを鳴らす。

 まずい、まずい。僕はこっそり逃げ出す。


「皓人!」


「先輩!」


 僕は二人に見つかって締め上げられる。どうしたらいいんだ。そこに笑顔のアナスタシアさんが現れた。


「何とかしてください。アナスタシアさん」


「皓人、お誕生日おめでとう。お前のことが好きだよ~~~。大好きだ~~~」


 アナスタシアさんは僕を鯖折りにした。前向きに嫌な予感がする。


「もしかして本気ですか?」


「うん。本気だよ。君を本気で好きになったよ。お前はマダムキラーだな!」


「黙れ、独身!【静けさや 長屋にしみいる 人の声】。寂しい奴はみんな、僕んちに遊びに来い!」


「好きだ~~~!」


 長いマフラーの綱子ちゃんと長い数珠を身に着けた真里菜ちゃんと長い金髪のアナスタシアさんにはさまれて僕は魂が抜けるかと思った。


 前向きにどうしていいかわからない。校庭にアナスタシアさんが持ってきたレジャーシートを広げ、川柳部の抹茶とお菓子とケーキと、うどんと、ピザと、サンドイッチを食べ、みんながお祝いしてくれた。


 勅使河原君に紳一郎さんまでいる。


「皓人、面白いことになっているんダナ」


「この状況はどんな噂になるのかなあ、佐伯」


「楽しまないでくれ、二人とも」


 綱子ちゃんは笑顔でうどんを噛んでいる。アナスタシアさんは笑顔でコーヒーを飲んでいる。盛り上がりは最高潮だ。


 紳一郎さんは盛り上がり、勅使河原君は大爆笑し、綱子ちゃんはアナスタシアさんにからまれてぶるぶる震えている。前向きにとんでもない状況だ。


「平和ですね」


 真里菜ちゃんがささやく。僕のとなりでニコニコ微笑む。 

 金木犀の香りが辺りに漂う。浮世がうたかたの夢ならば、今は甘い夢を見よう。


「【うたかたに モテる妄想 変態狼】字余り。なんてね、あはは」


 良い気持ちになって金木犀にもたれかかる。僕は真っ暗色の薬石に腰かけ花弁の浮いた抹茶を一気に飲み干した。

真里菜ちゃんのお話をお届けしました。

ここまで読んでくださってありがとうございます。


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