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変態オオカミと忘れた君 ラストワンダーランド  作者: 新藤 愛巳
第二章 うそつき人形と真っ暗オオカミ
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星空の調(しらべ)

「敵にいちばん近いのはお前たちだけダナ! 皓人。真里菜から糸を貰えダナ」


「紳一郎さん!」


 毒で想い道理にならない体で走る。間に合わない。

 術は完成し、暗雲は垂れ込めた。


 天から術式が降ってくる。こんな細かい術式見たことがない。


「真っ暗狼!」


 巻物を真里菜ちゃんが赤い靴の蹴りで燃やす。だがもう遅い。

 ムジナは半分狼の姿になった。手の中で最後の術式を完成させる。


「いいかお前たち。美弥以外全部、死んでしまえ!」


 それは自分の生存すら含まれていないということだろうか。真っ暗狼は追い詰められている。追いつめたのは真里菜ちゃんだ。巻物を燃やして二度と星君を召喚できなくしてしまった。

 

 だが、今回の星君の登場は防げない。天を雷が這う。美しい。その下に、星君の足が現れた。


「もう駄目だ。おしまいだ」


 みんなが地に倒れ伏している。

 もがき苦しんでいる。もうじき動かなくなる。そこに北斗星君が降ってくるのだろう。


 糸を通じて真里菜ちゃんのイメージが僕の図書館に流れ込んでくる。

 老人の姿をした北斗星君が降ってくる死のイメージ。


 僕が躊躇した所為で。僕が油断した所為でこんなことに……。僕は馬鹿だ。あんなことで動揺するなんて。あんなことで心が折れるなんて。みんなを救う、ただそれだけでよかったのに。


僕は馬鹿だ。僕は大馬鹿者だ。今あるものを大事にせず、他を望むなんて。


 真里菜ちゃんは僕の肩に手を置いた。


「先輩。真っ暗狼を倒しましょう」


 僕らの周りを紳一郎さんの絶海が覆っていた。綺麗な空気が辺りを支配する。


「紳一郎さん!」


「皓人の糸を逆探知してお前たちの動ける領域を張ったんダナ。信じている!」


「紳一郎さん!」


 僕は黒鋼を振るった。真っ暗狼はそれを正面から受け止める。


「加勢します。先輩!」


 真里菜ちゃんの回し蹴りが真っ暗狼に決まる。その時、天が光った。


 星君が腰のあたりまで現れる。


 僕は低く構えた。綱子ちゃんが僕に教えようとした技のように低く構えた。両腕を狼に変える。低く踏

み込む回転しながら刀を一気に引き下ろす。


 真っ暗狼は僕らを見ていなかった。美弥を見ていた。

 心は強く脆い物だ。それは誰でも。


「美弥、美弥、もう一度美しい姿を見せておくれ」


 美弥は光る。


 僕は刀を真っ直ぐに構え、真っ暗狼に振りかぶると全身の力をこめて振り下ろした。


     ☆     ☆     ☆     ☆     ☆


「それでどうなったんですか、皓人」


 綱子ちゃんは僕の隣で微笑む。


 今日は文化祭二日目だ。僕の誕生日。


「だからこの通りだよ」


 辺りには人が溢れている。人でしか溢れていない。


「北斗星君が現れたのにこんなに平和な風景が広がっている道理がわかりません」


 綱子ちゃんはいつものようにうどんを食べている。

 今日のうどんはホルモン焼きうどん、つまり焼うどんだ。学園祭らしい出し物だと言えよう。


「よく考えればわかることだよ」


 辺りにはまだ僕らの目だけに映る青白く光る杭が残っている。そして綱子ちゃんは僕よりも頭が良い。


 その杭の数を数えた綱子ちゃんははっとした。


「六本ですね」


「そうなんだよ」


 紳一郎さんとアナスタシアさんは無事、ノルマをこなし、一本の柱を崩した。


 柱は合計六本になり、呼び出されたのは。


「南斗星君ですね」


     ☆     ☆     ☆     ☆     ☆


 僕と真里菜ちゃんの前に後光がさす。そう、現れたのは南斗星君。その通りだった。

 天から降ってきたのは六つ星を従え赤い服を着た穏やかな子供。


「わしを呼んだのはお前たちかえ。ほほほほほ」


 南斗星君はにこにこしていた。


「あなたを呼んだのは僕たちではありません」


 僕の足元には大きな石が落ちている。ムジナだ。ムジナは石になったのだ。

 僕が石に変えた。ムジナを倒した。


 まともに戦えば敵わなかった。ムジナが光り輝く美弥に気を取られた瞬間に大きな隙が出来た。

 もう一回戦えば、勝つことなどないだろう。それほどシビアなタイミングだった。


 僕は隙を読んだのだ。そしてタイミングで当てた。遠あてと同じだ。刀の刃を投げて当てたのだ。二度とできない芸当だ。


 美弥が大声で泣いている。


「ああ、ムジナ。ムジナ。私は夢を見ているだけでよかったのに」


 ムジナは狂っていた。神に反逆しながら神の力を借りようなど。神はそれを許さなかったということだろうか?


 南斗星君は神妙な顔になった。


「あのオオカミくんか。わしは生をいじくることしかできんからなあ。死は無理じゃ。彼女を亡者にしたのが気に食わんかったとは。いやはや、残念じゃ」


 神気をまとった神はそれだけで辺りを威圧する。


 ムジナの這っていた領域が吹き飛ぶ。綺麗な空気がこの学校に入り込んでくる。


「せっかくイカルガに来たんじゃ。何もせずに帰るのもなんじゃしな」


 南斗星君は美弥の方を振り返った。


「さて、お前は何を望む?」


「私は……」


 美弥は、影のようなウミヘビはスーツケースからはい出し、僕らの前にその姿をさらした。

 それは夢のように美しい影だった。

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