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変態オオカミと忘れた君 ラストワンダーランド  作者: 新藤 愛巳
第二章 うそつき人形と真っ暗オオカミ
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進まない車輪

「ムジナが本物の爪を手に入れて、何をするつもりだ!」


「忘れたのか? 女の復活だよ」


 亡者の復活。


「追うなよ。ここの生徒なんて食い放題だ。追えば食う」


 ムジナは笑いながら生徒にまぎれて消えた。


「何のためにあいつは現れたんだ」


「先輩、今、託宣が来て狼が……」


 走ってきた真里菜ちゃんは絶句した。顔を真っ赤にしている。

 どうした真里菜ちゃん。


「先輩は変態ですかっ?」


「なぜだ」


「かっこをつけていますが制服の後ろ半分がありませんっ。相当、お恥ずかしい格好ですっ」


「なに!」


 僕の上着の背中がすべてなくなっていた。


「そうか、佐伯はやはり変態……魅せる変態。背中の自慢大会か? いいなあ、肌のきれいな男は」


勅使河原君が通りすがる。


「僕は変態じゃないやい!」


 勅使河原君は変人だが友達も多い。

 噂が広まるのは時間の問題だった。


「前向きに絶望した。前向きに最悪だ。前向きにぃ」


「先輩。こうなったら背中にファンシーな絵をかくのはどうでしょうっ。魔法少女のような桜吹雪とか」


「前向きにそれはやっちゃだめだよな!」


 しかし、なんで真っ暗狼はこんなところに現れたのだろう。


 力をつけた今、なぜこんな場所に。疑問は結局解消されないまま、僕はワンダーランドを経由して家に逃げ帰った。

双子の妹たちに、「にいには服のセンスが半端ない」とののしられた。完全なる敗北だった。


     ☆     ☆     ☆     ☆     ☆


 真っ暗狼には好きだった女がいたらしい。その女は死んだらしい。

 そんな話を以前していたような気がする。


 昔の記憶なので曖昧だ。


「ムジナはやってきた。女を救うために」


 僕を仲間に取り込むために。それはすなわち女のため。

 糸で読んだムジナの周りに女はいなかった。


 あいつは何を考えているんだ。何もわからない。


「三春か」


 僕は自宅の一室で唸る。


「三春。桜だね」


 頼光さんは僕の領域、ワンダーランドの中で植物図鑑をめくった。


「確か、そんな桜がイカルガのどこかに咲いていたようだね。滝のように美しい桜だ。武者小路さんからパンフレットを手に入れてね」


 頼光さんは穏やかに笑う。


 桜か。木の精霊は間の者に近いのだろうか。それとも神に近いのか。


「神に近いよ。神に最も近いんだよ」


 僕の領域、ワンダーランドの中で頼光さんはくつろいでいる。


「この図鑑は面白い蔵書だね。実に面白い。楷書で書いてあるのが残念なくらいだ。草書の方が僕としては読みやすいね」


「そうはいきませんよ。草書だと僕が読めない」


「オオカミの力をもってしても?」


「狼の力は万能ではありません。頼りすぎるのは怖いと感じます。真っ暗狼が現れてからは特に」


「不安になった?」


「そうですね」


「間の者は狂っているね」


「そうですね」


「僕も大変だったよ」


 頼光さんは面白そうな顔で本を閉じた。


「ところで、世の中には三人ぐらい自分に似ている人がいるそうだね」


「はい。そうらしいです」


「君と綱子の関係はどうなったのかい?」


「相変わらずです」


「君は綱子の心をどう考えている?」


「前に進まない車輪」


「そうか。なら君はどうなんだい?」


「え?」


「君も同じところを回っているんじゃないか?」


「僕が?」


 会話はそこで途切れる。


 頼光さんはワンダーランドの図書館に肘をついて眠り始めた。


 復活した頼光さんは一分しか生きられない。このワンダーランドの中でしか生きられない。だから彼はよく眠る。肝心なことが聞けなかった。


 桜の木を見に行くか。

 そこで情報を仕入れよう。


 とにかく今は情報が欲しい。

 赤雪姫と僕は袂を分かった。別れてしまった。もう交わることはないだろう。


 綱子ちゃんに頼ってしまいたい。だけど彼女は僕にこう言った。


「皓人はとても強いです」


「いや、僕は弱いよ」


「いえ、とても強いはずです。今なら肘からミサイルだって出せます!」


「出せないよ!」


 綱子ちゃんは残念そうな顔をした。しかしすぐ笑顔に戻る。


「頑張ればシータ波だって出せます! 皓人の歌は最高です!」


「それなら自慢じゃないが出せる気がする!」


 絶対出せる。


「でしょう。皓人は強いのです」


 僕は強くない。


「あなたの強さは私がよく知っています」


 僕は君の期待に応えられない。


「あなたの凄さを私は知っています」


 今回の件は僕だけで処理しなくてはならない。


 今の季節なら桜の木も葉が落ちているんじゃないかな。

 それでも、何か糸口が読めるかもしれない。

 行こう。三春に。

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