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変態オオカミと忘れた君 ラストワンダーランド  作者: 新藤 愛巳
第二章 うそつき人形と真っ暗オオカミ
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真っ暗オオカミ

 学園に通うのは楽しくてたまらない。

 僕は真里菜ちゃんと学園に通う。僕と真里菜ちゃんは三年間同じクラスだ。


 真里菜ちゃんが私立からこの学園に引っ越して来てからずっと僕が守っている。

 前向きに真里菜ちゃんは学園のマスコットで僕はその腰巾着だ。


「昨日は散々だったよ。前向きに」


「ごめんなさいっ。悪気は無かったんですっ。ただ私は今年こそ……その、そうですっ。そうですねっ。

今年こそただで済ませようと」


「前向きに困る話だよ」


 役得だけど。嬉しかったけどさ。命が足りない。


「私、今、お金をためているんですっ。旅行に行くお金ですっ」


「旅行って」


「アナスタシアさんに会いにいきますっ。海外旅行しますっ」


「鎖国中だぞ」


「ですから泳いでいくんですっ」


「泳げるのか?」


「私は気が長いんですよ。ずっと遠くまで泳いでいけますよ。背泳ぎですっ。ラッコですっ。遠泳で

すっ」


「長泳だよな! 長泳と言ってくれ!」


「はいっ。ロングロングアゴウですっ」


「それは昔話だよ!」


 僕は手に汗を握った。しかし。


「そうか。そんな君は前向きに可愛いな」


「綱子ちゃんが焼きますよ」


 昨日の綱子ちゃんは凄かったな。


 綱子ちゃんは自分の上司が好きだった。上司の頼光さんが好きだった。


 頼光さんが救われた今、綱子ちゃんは僕との関係に戸惑っている。

 二度と会えなくなった僕と上司を重ねて怒ったり、泣いたりしている。


 僕は彼女のことが好きなのに彼女はそうでないかもしれない。

 だから焼きもちを焼かれるのは嬉しいんだが、命が足りない。


 確かめたいけど、それで今の関係が壊れるのが恐ろしい。今のままでいたい。

 愛されたままでいたい。

 僕は寂しいんだろうか?


 国道沿いの道端を歩いていると地面から糸が湧きだしてきた。

 人の記憶は僕に読まれたがる。誰かの残した思いは詠み人である僕のところへやってくることもある。


 時々、僕を嫌がって逃げていくこともあるが……。

 今回は前者のようだ。一歩足を踏み出すと真っ暗なその糸たちに足を取られた。


 僕は時々記憶の糸の中に落っこちる。

 記憶の糸とは人々の記憶のことだ。物に残された人々の記憶。


 それはその瞬間を焼き付けた地面の記憶だったり、触れた者の記憶だったりする。


 それを整理してくれるのが僕の図書館司書、武者小路さんと玉藻ちゃんと居候の頼光さんの役目なのだが、彼らが眠っている間の僕は読まなくてもいい記憶を拾うことがある。


 たとえばこの記憶もそうだった。そういった種類の記憶だった。


 ムジナの記憶だ。


 いつの記憶かもわからない。ただ地面を足につけた瞬間にかみつくようなその記憶に襲われた。

 なんだ。この糸は。薄暗い糸だ。


 僕はその糸を読んだ。


「来たぜ。来たぜ。この街に来たぜ」


 ムジナだ。真っ暗狼だ。真っ暗狼が真夜中に幾多の国道の真ん中で歌っている。

 右手には杭。左手には木槌。


 僕は瞼を震わせる。


 ムジナは再び、この街にやって来ている。そのことが分かった。


「三春。懐かしいなあ。この街はよお」


 ムジナは目を細める。


「この街は霊的パワーに満ちている。稚日女尊わかひるめのみことの力だ。すげえなあ、おい」


 ムジナはスーツケースを持っている。


「三春。アハハハハハ。楽しいな。お前との旅行はよお」


 ムジナはスーツケースを握りしめている。


「三春。お前がまだ形があったころ、愛した街だよ。イカルガのくそったれの町だよ」


「ム、ジ、ナ」


 か細い声がした。


「いい声だ」


 ムジナは目を細める。


「いいねえ。良い。本当にいい」


 嬉しいねえと声をころがす。


 嬉しいねえと。


「北斗七星が守ってくれる。この真っ暗狼を。だからてめーは心配しなくていいんだ」


「ム、ジ、ナ」


「お前は何も心配するな。何も心配しなくていい。全部うまくいく。いざとなったら満月狼を仲間に加える」


 真っ暗狼は目を見開いた。


「聞けよ、満月狼。まだ生きているんだろう? 死んでないんだろうがよお?」


 そこで僕は我に返った。記憶の中の真っ暗狼がこっちを見ていた。僕が通ることを予測していた。そしてこの情報を読むことも。未来予測か?

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