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変態オオカミと忘れた君 ラストワンダーランド  作者: 新藤 愛巳
第五章 鏡の魔女とミケランジェロ
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視線

「皓人。皓人はみんなが好きです。そんな皓人を私は好きです。ですからご褒美のデートをしたいのです」


「デート」


「そうです。女の子なら一度はしてみたいイベントです!」


「女の子でなくてもしてみたいイベントだ!!」


「皓人はデートをしたことは?」


 僕がうどんデートだと思っていたものはデートではなかったのか!

 綱子ちゃん。


「したことないよ」


 なんてね。


「では初心者ですね」


「ああ初心者だ」


「小宮山君は凄いそうですよ。彼はいろんな場所を網羅しています。そしてマメです」


「ああ、知っている」


「彼のデートスキルは見習うべきです」


「そうだろうな……相談してみるかな」


 うーん。


「綱子ちゃん」


「なんでしょう」


「いきなり耳に息を吹きかけたらどうする」


「変態」


 綱子ちゃんは嬉しそうな顔をした。


「今日これから、君の頭を洗いに行きたいんだが。今月厳しいんだろう?」


「ハイ。そうです。喜んで」


 綱子ちゃんは下を向いた。


「私はすべて一人で完結できない人間です。誰かの助けがなくては生きられない人間です」


「それはみんなそうだよ」


「皓人を頼れるこの事実がとても幸せで嬉しい事だから。私は全部何もかも完璧にできなくてもいいのだと思うようになりました。人に頼れるところは頼ってもいいんだって知りました。私は弱くなったのでしょうか?」


「弱くないよ。出来ないことを認めることは強くなる一歩だから。君はできないからこそ何が出来て何が出来るか知るべきなんだ」


「皓人は自分に厳しいですね」


「自分がね、頭を打ったんだよ。何でもできると思い込んで満月狼にかみつかれて激しく失敗した。そのことがあって、できることとできないことははっきりさせた方がいいと思うようになった。僕はずるいよ。守りに入っているんだ」


「あなたは頭が良いのです。勉強のできる、できないではなく頭が良いのです」


「そうだろうか」


「そんな人は思考を先回りします。先回りはよくありません。先回りは可能性をつぶします。出来ないと思うだけでは意味がありません。どうやったらできるようになるか、それが大切です」


「割り切るなということか」


「出来なくても、出来るようになる。そう思って生きるのはどうでしょう。やらないよりもやった方がいい。学ばないより学んだ方がいい」


「綱子ちゃん。君は僕にいつも新しい物を見せてくれるね」


「満たされていないのなら、そこを満たすために頑張ればよいのです。あなたにはそれが出来る人です。私はそう信じています」


「ありがとう。綱子ちゃん」


「説教くさくなりましたが、私はいつだって真剣です。真剣にあなたのことを見ています」


「綱子ちゃん」


「だから、あなたも私のことを見ればいいんです。それで時々優しい言葉をかけてくだされば、綱は、綱は幸せなのです」


「綱子ちゃん」


 僕は綱子ちゃんを抱き寄せた。


「ありがとう」


 頭皮にキスをする。


「揉むだけでは飽き足らずキスまで!」


 綱子ちゃんは唇を震わせた。


「嫌なのか?」


「馬鹿なことを言わないでください。綱はあなたに何もかも許してございます」


 綱子ちゃんは軽く目を閉じた。


 僕は彼女を抱きしめた。

 僕はキスよりハグの方が燃える人だ。


「皓人。私、私」


「綱子ちゃん」


「あっ」


 そこに小宮山君からのメールが届いた。


『佐伯、バレンタインはどうだ? いいもんだろう。あはははは』


 綱子ちゃんは僕の蒸気携帯をへし折ろうとした。


「やめてくれ。高いんだ」


「やめません。悲しいから」


 そんな僕らは腕を握りしめ合い携帯を奪い合った。


「ところで小宮山君のことだが」


 完全に我に返った僕らだった。


「彼は気の毒です。間に魅入られて」


「光の妖精の一族か、鏡の魔女は何を狙っているんだろう」


「鏡の魔女はどうやって由貴音さんにとりついていたのでしょう」


「そうだな。赤雪姫の話によると目らしいよ。眼が鏡のように人の姿を映すだろう? その眼の中に住んでいたそうだ」


「目の中を移動する魔女」


 綱子ちゃんが考える。


「小宮山は今どこにいるのでしょう」


「教室だろうね。茶道部の部室かも」


「そこでは人の視線が飛び交っているのではないでしょうか?」


「人の視線」


「鏡の魔女が視線を移動する化け物なら」


「もっとも人が多い場所で小宮山君を狙う」


「朝の朝礼」


「今度、朝礼があるのはいつだ」


「数日後です」


「誰の視線に潜んでいるんだ。魔女は」


「あの時、魔女とまともに見つめ合ったのは、皓人、あなたです」


 綱子ちゃんは僕を見た。


 黒鋼を抜く。


「いざ参ります」


「ちょっと待ってくれ。黒鋼では僕を切ることはできない」


「ですから、無形を使います」


 綱子ちゃんはいつも身につけているマフラーに手をかけた。制服に巻いたマフラー。新鮮だ。


「戦えます。無形なら、鏡の魔女を切れるかもしれません!」


 僕の懐に無形が滑り込む。無形は僕の肌の上で止まった。


「皓人。あなたの目の中に魔女がいます。確認しました」


 無形が僕の目を狙った。霊的な物しか切れない刀。


「だけど、さすがに目はやめてくれ」


 僕は悲鳴を上げた。それと同時に鏡の魔女が回転しながら飛び出してくる。

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