プロローグ
眠りの森を知っている?
あなたは一人ですか?
寂しくありませんか?
彼方で優しい声が歌っている。心地よい。なんて心地がいいんだ。
僕は……祈るように目を閉じる。
『忘れてください』
両眼から大粒の涙がこぼれる。
誰かが泣いている。悲しくて泣いている。
そこは忘れられた者の森。忘れられた者たちが集う森。忘れ者の森。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
『例えば黒船が来ず
世界大戦が起きなかったイカルガのお話を聞きたいかい?』
『人はそれぞれに自らの固有結界を持っている。
それは人との距離感だったり、心の葛篭だったり。
僕らはその領域を自由自在に操る事の出来る一族だ』佐伯皓人
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
桜の花は美しい。
けれど、散ってしまった桜は汚らしい。
壊れかけた者は美しくて、壊れた者は汚らしい。
汚い物を僕らは、たぶん嫌いだ。僕は妹達が壊した玩具をゴミ捨て場に捨てた。
僕はゴミが嫌いだ。ゴミに興味を持てない人間だ。
壊れた物に興味がもてない、興味が続かない人間だ。
「兄ちゃんは冷たい。ブンブクマルは壊れてもブンブクマルなのに!」
双子の妹達にそう怒られた。でもゴミはゴミだろ?
「冷たいのかな……」
冷たいのかもしれない。僕の世界はいつも淀んで軋みかけている。
それはもしかしたら……。僕の中の……。
「狼の所為かも知れない」