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紅はそれらの人をまるでいないかのように気にせず、迷うことなくカーテンで仕切られた処置室のプレートが書かれた部屋に入った。僕らも遅れずに追随する。
「どういうこと? 夢で行き先を替えるように言ったのはなんでなのさ?」
「別にここが適切だと思っただけよ」
言いながら紅は用意を始めた。
採血針、注射器、採血管、駆血帯、肘枕を並べたところで素人ながらも採血の用意をしているのだとわかる。
少女は表情こそ変化はないが、威嚇するかのように猫のような尻尾を上げていた。警戒心が強い。
紅が少女を僕に送った割には少女は紅をあまり信用していなかったりする。
「なにをする気なの? 回りくどいんだけど」
「これが性分よ」
まるで昨日のお返しとも言わんばかりな笑みを僕は受ける。
僕が苦笑しているとようやく説明された。
「冗談ー。健康診断をしたかっただけよ。私からの採血が嫌だと言うのなら蒼ちゃんが少女にしてあげてね」
「嫌ですよ。注射器なんて持ったことないですから」
「蒼ちゃんは成熟優位説って知っているかしら。すでにレディネス(身体的発達基礎)に達しているのだからあとはする経験よ」
「僕も紅にされるぐらいなら津久野さんにして欲しい」
少女は僕の袖を掴む。観念するしかなさそうだ。
手をアルコール洗浄し、清潔な手袋をはめながら僕はタスクドールを起動させる。
少女のタスクドールの性能の差は単純に燃料タンクと出力が違う。僕らはその燃料タンクの問題を七人が集まり共有することによりようやく少女に並ぶ。
そう、僕ら七人は夢で繋がることにより欠点を減らしている。
『申請:採血の手段』
程なく、許可を得て僕は紅の採血の知識と経験を身に纏った。
出力の関係上、僕らは少女と違って暴力的に奪うことは出来ない。
七人であっても出力はあまり増えない。
「腕を出してくれる?」
少女は眉を顰めながらも上着から細く白い腕を晒した。