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「はいさー」
明るい返事をもらう。頼もしい。
後ろを振り返り、脱衣所の方に向かおうとしたところで意外なことを言われた。
「柔らかくなりましたね」
「褒め言葉なの?」
勿論、身体面ではなく精神面だろう。雰囲気が柔らかくなって取っ付きやすくなったとでも言うのだろうか。
「ふふふ。私は今の蒼さんの方が好きですよ」
「……美人さんに言われて光栄です」
「そんな心がこもってない言い方しないで下さいよ。本音ですって。少し前はもっとさばさばしてましたよ」
「変わったつもりはないです。おそらく、同居して僕の色んな面が見えたから勝手に思っているだけです」
「そうかもしれませんね。私たちは近いようで遠いですから」
そういって、桜は笑った。僕はそれに合わせるようにぎこちなく口角を上げておいた。
現在住んでいるところは田んぼや畑ばっかりで足回りが悪く、車を使わないとどこへ行こうにも難儀するところだ。例えば、買い物をしようにも近くのコンビニへは坂を下りて行くので歩いて行くには遠い。一軒家を用意したのは碧だと言うから何かを勘ぐってしまう。
例えば。
逃げられないようにしているとか。
「安直か」
それなら車を二台も用意しないだろう。僕用と桜用と用意が良い。碧のすることは先が読めにくいので気にするだけ無駄か。
普通自動車を運転し、都心部に向けて四十分。車内は家を出てからずっと穏やかな寝息を二つ響かせていた。
「少女は仕方ないけれど、桜はなんでさ」
僕が寝たときには桜はすでに夢の中にいたと言うのによく寝れるものだ。結局、目的地に辿りついて僕がしっかり起こさないと目を開けなかった。