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そうなのだろうか。
少女が言うならそうなのかも知れない。
僕がお人好しなのか、それとも神経質なのかはわからないが生乾きの黒髪を放置する気にはなれないので僕はドライヤーを手にした。コンセントを刺し入れ、少女と共に座り髪に熱風を送る。
「んー!」
少女が外見で変わっているところは黒猫のような大きな耳と尻尾だ。生体パーツのそれは感覚の延長線上にあり、僕の手に柔らかな感覚を返す。
タスクドール。
意識・感覚・思考といった精神面を時には覗き、時には共有し、時には奪うといった極めて一方的で暴力的なシステムだ。
一度少女が願えば誰も逆らえない。
今は暴力的な力は眠っているが少女が僕のところに来なかったら何れ罪を犯していたのかも知れない。
「…………」
「熱い!」
「ごめんごめん。考えごとをしていた」
「カワイイコがいるのに駄目!」
それは誰に教わったのだろうか。
少しだけ気になった。
しばらく乾かしていると、振り向いた少女の大きな黒い瞳が僕を見つめていた。
「……なに?」
「名前欲しい」
「考えといてあげる」
いつものお決まり。いつもの誤魔化し。
ドライヤーを片づけながら思う。
同居期間はすでに三日目か。
「ご飯冷めちゃったかも、夕御飯食べよう?」
席を立ち、僕は台所に戻る。
「いつになる?」
戻る途中。僕の背中が声を聞いた。振り向かずに返す。
「難しいね。僕じゃないならいつでもだよ」
恐らく少女は不機嫌そうに唇を歪ませているだろう。僕はそれを見ないで置くことにした。
意地悪したいわけではないのに、結果的になっている。
「おっと」
皿に手を回したところでポケットに入っていた巻物型液晶携帯電話が音を発した。
液晶画面には僕に少女を押し付けた女の名前が示されていた。
軽く画面を開き液晶部分を広げてから僕は画面をタップして応答する。
「ハロー」
「……ここは日本です」
「いぇあ、サンキュー」
とてつもない日本語英語だ。中学生が茶化した風に聞こえる。無論、日本でしか到底伝わらないだろう。
「なんですか?」