12
少女の機嫌があまり良くないので車内に会話はない。借りた車のために備え付けの機材に音楽を再生する機械はあっても、機械に入れて再生する音楽はない。
そのためバックミュージックを流れるのはラジオだけだ。それを聞き流しながら僕らは走る。
中学校に到達するまでにタスクドール使用者を割り出す方法を考えていたが何も良い方法は思いつかなかった。運転しながら二十分の間ではやはり思いつかないか。
中学校の正門を越え、駐車場に車を止める。
ラジオの音声が消えてから僕は尋ねる。
「どうする?」
少女は僕を見ない。それでも返事はする。
「行く……」
「それでは行きますか」
僕の差し伸べた手を少女は重ねた。
勿論、車から降りるには重ねた手はすぐに離さないといけないのだが。
「待って、そっちから降ります」
少女はなぜか手を離したくないらしく助手席側から降りずに運転席側から無理やり降りた。
「どうしたの?」
「人が嫌いだから」
「それでも行くの?」
「津久野さんは幽霊が出るかもしれない廃墟の前に一人で残されるのと、二人で廃墟に行くのだったらどっちが良い?」
すごい例えだが少女にとってはそういう覚悟のもとなのだろう。
行くのは何の変哲もない中学校なのだけれども。
「寝ているけれど桜がいるよ? 廃墟前に二人だね」
茶化してみた。
「僕は……津久野さんしか信用していません」
すると重たい返事が返ってきた。聞かなければ良かったとやや後悔。
剥がすべく絡みついた手を軽く引っ張ると、少女の身体ごと動いた。
「……」
なるほど。
何も言わずに、いや何も言えずに僕らは手を繋いだまま中学校の玄関口へ向かった。
それにしてもまるで桜が役に立っていない。車から出るときにちらりと見たがまだ眠っていた。