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静脈の見方から、血液を採取し採血管に流し込むまでルーチンワークのようにことは進んだ。痛みが少なかったのか少女の表情は一切変わることはなかった。紅は熟練した人を真似ていたのかもしれない。
採血管を軽く振り、抗凝固剤と軽く混ぜていると紅は新しい注射セットを用意していた。
「はい、次は蒼ちゃんの番です」
「僕もなの?」
「健康診断ですから。働いているときにしませんでした?」
タスクドール計画に巻き込まれて、無断欠勤を一ヶ月以上することになったので入社する前しかしていない。その辺りをわざわざ掘り返したくないので僕は曖昧に笑っておいた。
この後、視力・聴力・身長・体重・脳波・心電図・尿検査・胸部X線の写真を撮ったところで終わった。簡単な検査なことと空いていたこともあり、病院の受付開始する時間前に終わってしまった。
「お疲れさまでした」
紅は短く僕らに健康診断の終わりを伝えると、A4のプリントを手渡して来た。
「蒼ちゃんを呼んだ理由ですよ。健康診断はあくまで私たちのタスクドールがにぶらないようにするための私の配慮ですので当然本題ではありませんよ」
貼り付いた笑みに軽く僕は暴言を浴びせるのだった。
「早く言えよバカ」
僕は軽く肩を落とす。
どこか疲れてしまったようだ。
「桜ちゃんには伝えましたが。ああ、寝てましたね」
どこか確信犯だ。誤用でも僕は笑みを見てその言葉が思い浮かんだ。
少女は特にそのことについて不満はないようだが僕の手を掴むと、紅から離れようとする。まるで、もう終わったのだから行こうと言わんばかりに。
「お大事に」
病院特有の言葉を背中で聞き、僕らは車に戻るのだった。
「どうします?」
少女は助手席に座ると小さなため息と共にそんなことを言った。紅の前ではおとなしくしていたが不満だったのかもしれない。どこか、外ではポーカーフェイス気味だ。タスクドールの外見上、猫をかぶっていたとでも言った方が正しいのかもしれない。
質問内容が何に対してなのか少し範囲が広いので僕は尋ねる。
「どのこと?」
「依頼のこと」