十
「たった一日で出来たと言うのですか?」
「素材は揃ってましたし、全力を振り絞りましたから」
「神機と獣の融合体で、神獣という呼び方で如何でしょう」
「呼び名なんかよりも、見た目が殆ど変わっていない様だけど、本当に強化に成功したの?」
「取り敢えずもいいところのプロトタイプですし、実戦投入して確かめるのが一番だと考えています」
「幸いベースになったのは前回投入した獣ですし、数も同じですから比較し易いと思います」
「ベースも融合材料も豊富にあるから、随時投入して強化を推し進め行くのよ」
「クシナダ様より、海底施設の用意が整ったとの連絡が入っておりますが、如何いたしましょう」
「勿論遠慮無く使わせてもらうわよ。私は制御システムと攻撃部隊を伴って降りますけど、開発部隊は残って強化研究を進めるのよ」
「培養槽もあるそうですが、開発部隊は居残りなのですか?」
「ただの獣では歯が立たないのが分かったのだから、融合強化の出来るコチラで開発しなければ駄目なのよ。潜空艦が用意出来てるなら、攻撃部隊はただちに搭乗するのよ」
「神獣はどうしましょう」
「私が搭乗したら直に出撃しますから後を追わせなさい」
「了解しました」
「では、行ってまいります」
「クラオカミ殿も出撃しましたか」
「お前はどうするのだ?」
「私はツクヨミと共に降りるつもりですから、再起動後になります」
「そうか。ワシとどちらが先になるかだな」
「ツクヨミ再起動の目途は立ちましたが、問題は運用方法なのです」
「大き過ぎる力は身を亡ぼしかねんからな」
「我々が今の境遇なのも過去のツクヨミの暴走故ですから、慎重に慎重を重ねようと思います」
「切り札とも言えるのだから、急ぐ事はないな」
「クラオカミ殿との協力によって、新造神機の戦闘力も上げられましたので、試験投入してみます」
「こんな短期でどう戦闘力を上げる事が出来たのだ?」
「搭乗者を強制適合させる時に、獣の運動野と闘争本能を載せてやるだけですから、手間は掛かりません」
「更なる外道の所業ではあるな」
「何を今更です」
「お前の様な切れ者が一線を踏み越えると怖ろしいものだな」
「八体手掛けていますから完成しているものから投入します」
「闘争本能を載せた神機か……闘神とでも呼ぶか」
「良いと思います」
「神機同士の実戦は未だ無かった事だが勝たねばならんな」
「お任せ下さい」
二機の闘神が出撃した。
惜しまれながら退部の手続きを終えた妹を研究所に連れて行く。
「ジムに行くんじゃないの?」
「許可は貰っているけど、挨拶を先にするってのが常識だろ」
「そうだね。これから色々お世話になるかもしれないしね」
「本当は無関係で済めば良かったんだけどな」
「それでいいの?姫先輩とも関係無くてもいいの?」
「つまんないこと言ってると所長を前にしたら困るぞ」
「お兄ちゃん照れてる?」
「だから、元々先輩とはどうこうなるって関係じゃないだろ」
「どうこうって?」
かなりのペースで走っているのに軽口を叩き合える二人だった。
「宜しくお願いします」
「よくいらっしゃいました。堅くならずにリラックスしてください」
何か所長が妙に優しい、というかデレた顔付きになっている。
「お父様は昨日から楽しみにしてたのよ」と先輩が耳元で囁く。
会う前から発動するなんて「ツインテールの小悪魔」の魔力は本物かもしれない。
「こんな急激に伸びるとは思っていなかったので、剛君は取り損ねてしまったが、舞さんのトレーニング前のデータを取っておきたいので、医務室に行ってもらいましょう」
「それでは私がお連れします」
「いや指示を出す都合もあるから私が連れていこう」
所長は舞を連れて退室した。
「何だか少しお父様の様子がおかしい感じがします」
「僕もこの間から妹を相手にする人達の様子がおかしいと思っていました」
「やはり神と同化した影響なのでしょうか?」
「そうなのでしょうが、僕には周りの態度が変わった感じが無いので妹だけに起きてる現象みたいです」
「剛さ……君は身体能力の上昇という現象が起きてますし、人それぞれなのでしょうか?」
「身体能力の上昇は妹にも起きてるらしいですよ」
「そうなるとどう考えれば良いのか分かりませんね」
「僕が思うのには、妹は元々「ツインテールの小悪魔」なんて陰で呼ばれるくらい人を魅了する能力があったみたいですから、パーソナリティが伸びたということなんでしょう」
「そうですか……そうすると剛さ……君がとても頼もしくなってきているのはそれがパーソナリティという訳なのですね」
だから顔を赤らめ俯くって反則だって
「呼びにくそうですから呼び方はお任せしますよ。それと、僕は頼もしいなんて呼ばれる様な人間じゃ無いですよ」
「そんな事はありません。頼もしいです。もしかしたら、お兄ちゃん力というものがあるのかもしれませんね」
こんなに近付いて見つめて話すってのも反則だよ
「お兄ちゃん力とは、先輩も面白いこと言われるんですね」
「訂正します。お兄さんならそんな意地悪は言いませんからね」
頬を膨らませるって、想像してたキャラとのギャップが凄いだろう、実は天然なのかぁ~
「すいませんでした」
その時警報が鳴り急いで僕達は所長室を後にした。
最初の敵の襲来後に急ピッチで改修され、指令センターとも呼べる場所と化した部屋に飛び込む。
「昨日に続き月よりの未確認物体が確認されました」
「昨日に続きって僕は知らせれていませんよ」
「世界的に情報統制している事態なので、知っているのは極一部だけなのだよ」
遅れて妹を連れて入って来た所長が説明する。
「昨日は沖縄沖に落下したという事もあって、余計な心配を掛けまいと黙っていたのだが、知らせなかったのは間違いだったかもしれんな」
「いえ、御心遣い感謝します」
「もう剛さんは当事者なのですから聞く権利をお持ちですし、どの様な事態になろうとも大丈夫だと思います」
それ買いかぶり過ぎだって……それに剛さんだし
「そうだな。それと情報統制といえば、剛君達の存在は最高機密だと理解しておいて欲しい」
「分かります」
「どうして?」
「神が唯一の対抗手段である限り、鍵となる君達の存在は敵は勿論のこと、同盟国にさえ隠さなくてはならないからな」
「アキレス腱でもあり、アドバンテージにも成り得る存在ですものね」
「不測の事態に備えて、隠れてSSも付けているのだよ」
「そういう気配は感じてましたが、相手を考えると効果の程は疑問ですけど」
「まぁそう言うな。我々に出来る事はやらせてくれないか」
「ありがとうございます」
「SSが付いてるって、私たち何だか偉い人になったみたいだね」」
「それは何といっても神様なのですから」
それは先輩もですよと心の中で突っ込んでみた
「やはり十時間後くらいなのでしょうか?」
「今迄のケースから判断するとそうなるな」
「そう予想される程に襲来されていたのですか?」
「そうでは無いが学習中というところだ。そして今回はPAC-3の配備が間に合っている」
「パトリオットでしたよね」
「そうだ。地上に被害を出したく無いので、高度一万メートル以上で叩こうと思ってる」
「そうですね僕等が闘うと地上の被害は避けられませんからね」
「君等のおかげで被害が止まるのだから胸を張っていいんだぞ」
「そうだよお兄ちゃん」
「剛さんが闘ってくれなければ私達はどうなっていたか分かりません」
「また剛さんに戻ってしまったな」
そんな突っ込みいらんて、妹も先輩のこと睨んでるし困ったお父さんだよ
「こちらに向かって来る様な事態になったら携帯に連絡する」
「分かりました。それまでは自宅で待機します」
「十分に休息しておいて下さいね」
「はい。先輩もですよ」
妹に急に引っ張られ研究所を後にした。
「何かさぁ、お兄ちゃんと姫様って怪しいのよね」
「急に何を言い出すんだよ」
「だってさぁ、いい空気出しちゃってるし、姫様は乙女モードになっちゃってるし」
「お前なぁ先輩は二つも年上なんだし、何たって学校のアイドルなんだぞ」
「年下好きって意外と多いらしいけど、お兄ちゃん達って年とか関係無く見えちゃうんだよなぁ」
「今は異常な事態だし何と言うか、ほら吊り橋効果ってやつだと思うぞ」
「お兄ちゃんは自覚が無い様だから教えちゃうけど、一年女子の間で人気高いし先輩達からも評判いいんだよ」
「それはお前に遠慮して言ってるんだよ」
「違うよ。前から相談されたりしてたけど、最近はファンクラブが出来そうなくらいの勢いなんだよ」
「そんなの気が付かなかったぞ」
「そりゃあ全部アタシが叩き潰してるからね」
「え!?」
「お兄ちゃんは妹のものって決まっているの!!」
ちゃんと休息を取りたかったのに妹の爆弾投下によって無理っぽい……。