七
剛さんも交え、これまでの戦闘から得られた解析結果を会議室で検討する。
「我々とは違う次元との間を往き来しているのですか?」
「そうとしか考えられないと言うか、我々の科学力では解析出来ないというのが事実です」
「光の中から出現するって、大昔の特撮みたいですよね」
「それは私の年代のヒーローだから、大昔とは言わないで欲しかったな」
「すいませんでした」
「冗談だよ。それよりも今回新たに同化出来た妹さんにも、この場にいらして意見を述べて欲しかったな」
「妹は感覚派なので、解析のお役に立てるとは思えませんが」
「これだけ未知の現象に対しては、感覚の方が役立つと思うぞ」
「感覚派ということは、変なバイアスが掛かって無いでしょうから、是非お願いします」
「理系の話は苦手みたいだから、難しいと思いますよ」
「少しでも多くの意見とサンプルが欲しいので、宜しくお願いします」
あぁ、私が考えが足りずに……。
「その大事なサンプルを燃やしてしまって、申し訳ありませんでした」
「済んでしまった事だから仕方が無いが、お前にしては迂闊だったな」
「私も神の御力が借りられたと思い、舞い上がってしまいました」
「幼少期から与えられた使命だから無理も無いか……以後気を付ける様に」
「ありがとうございます」
「その御力についてお聞きしたいのですが、借りられたと思われたのはどうしてなのでしょう?」
「口で説明するのは難しいのですが、体の中から力が湧いてきた感じがしたとしか言い様が無いのです」
「僕も後で考えれば、最初にそう感じた時から始まっていたと思いました」
「事前に剛さんからその話を伺っていたので、確信したのだと思います」
「静。丁寧な言葉遣いは良いとは思うが、相手は後輩なのだから剛君でいいのではないか?」
「僕もそう呼んで下さったほうが良いと思います」
「分かりました剛さん」
「…………」
言われたそばから私ったら……
「本題に戻りたいと思いますが、あの光はどうやって行使されたのでしょう?」
「光ではありましたけど、湧き出た力のイメージは炎だったのです。それをぶつけようと思ったら、ああなったのです」
「静様が迂闊だったのは、燃やしてしまった事より、力の行使そのものだったと思っています」
「どういうことでしょう?」
「静様が行使される力といえば、天照大神の御力なのですから、理解が足りないと危険だからです」
「どう危険なのだ?」
「今回は一万度程度でしたから、スピキュールと呼ばれる現象の様なものだったから良かったものの、もしコロナ、ましてはフレアなどの現象を起こしていたら大事です」
「放射線ですね」
「ほぅ、剛君は大したものですね。太陽の化身たる天照大神の神威の行使には、細心の注意をはらっていただきたいものです。今回は、同化されていない不完全な状態だったのが幸いしただけかもしれません」
「……すいませんでした……」
「僕だって何も分からずに力を振るったし、得体のしれないハンマーだって使いましたよ」
「君の同化した神はおそらくタヂカラオ、天照大神とは神格が違うから同列に考えたらいけないよ」
「よさんか! 間違いが起こらない様にするのも君達解析班の役目だぞ」
「失礼しました。あの神威は八咫鏡だと思われます、出来れば理解が進むまでは使われない様にされた方が良いかと思います」
「僕のハンマーは使っても大丈夫なんですか?」
「この前は問題ありませんでしたから、何か変わった事でも起きない限り大丈夫でしょう」
「それなら八咫鏡も同様ではないのか?折角の神威を使わない手は無いだろう」
「不確定要素が多すぎて賛成しかねますが、少なくとも今回以上の思いやイメージは込めないで頂きたいです」
「分かりました」
何とか力になることが出来そうだと安心した。
「まだデータが不十分ではありますが、剛君の話から研究結果の一つに成果が上がると思われます」
「どういう成果だ?」
「先程の話がそれなのですが、同化した者の心身の力が神の強さに繋がるということです」
「今回の戦闘についての話という事ですね」
「そうです。ダメージの受け方の変化と怪我を受け治った過程は、研究が検証された思いです」
「研究というと最たるものは伝承関連だな?」
「はい。神の御身は緋緋色金で構成され、それは精神に感応するということです」
「何か伝承っていうより、ファンタジーの設定みたいですが」
「ファンタジーより遥か前より伝わる伝承なのですから、事実を元に物語が造られたと考えられます」
「それってどうなんだろう?」
「剛君には意見具申より戦闘データに期待してます」
「何を言ってるか!! これだから科学者って奴は!」
父が怒り場が終了する……当然だ。
私達は所長室に移動する。
「先程は失礼した」
たとえ我が子より年下の相手でも、当方に非があれば頭を下げる事が出来る父は、組織の長として親として素敵だと思う。
「こちらこそ、言い方が生意気だったと思います」
素直に自分の側の非を認める男の人っていいなぁと思う。
「何事も起こらずに、神も降臨する必要も無いというのが一番なんだが、科学者って連中は考え方が違うみたいだな」
「そういう科学者ってドラマだけだと思っていたんですけど、実在するんですね」
「ウチの環境と研究対象の特殊性も関係しているかもしれんな」
「妹を連れて来るのは少し考えさせてもらって宜しいですか?」
「残念ではあるが、無理強いは出来ないな」
「ありがとうございます。今日は先輩が物理が苦手な理由が分かった気がしました」
「良く知ってるじゃないか、理由は違うとは思うがな」
「あのぉ、先日も言われてましたが、何で私が物理が苦手だと思われたんですか?」
「あぁ、未確認物体が大気との摩擦で燃え尽きそうと言われてましたからね」
「違うんですか?」
「僕が説明するより、ネットの方が良いと思うので、断熱圧縮で検索してみて下さい」
「頼りになる後輩というより、どちらが年上だか分からんな」
「お父様」
「まぁ何だ、知るは一時の恥知らぬ一生の恥と言うから良かったな」
「良かったですけど、話が脱線してしまったと思います」
「そうですね、今日は嫌な終わり方をしてしまいましたけど、知識を持っておくのは大事だと思いますので、これからも色々と研究結果を伺いたいと思っています」
「そう言って頂けるとは有り難い、本来まとめ役である私が見苦しい真似をしてしまって申し訳なかった」
再び父は頭を下げ剛さんも恐縮して下げ返している。何かいい光景……
「心身の強さが影響するというのは、僕も感じたところがありましたので、トレーニングを始めたのは正解でしたね」
「そうだな、妹さんがいきなりあの様な動きが出来たというのは、相当心身の強い娘なのかい?」
「妹は全国レベルのアスリートなんです」
「それは興味深い。ああいう席以外なら会わせてもらえないだろうか?」
「分かりました。先程はああ言ってしまいましたが、妹も知識を得ないといけないですから、会議だとしても参加する様に話してみます」
「こちらもあの様な事にならない様に念を押しておくから、宜しく頼む」
最初の出会いから随分と打ち解けてきたみたいだと思う。
「お父様。念願の息子との会話をされているみたいですね」
二人が口を開けてこちらを向いている。
自分の発言の意味に気が付き火を噴いた顔を下げた。
最期にやってしまった…………。