別れと魔獣と双子・・・仲間
手紙で双子にトゥームへ来るよう言ったが、カミーナからトゥームへは距離がある。
スピカが倒れた次の日に手紙を出したが、鳥を送ったところで半日ほどはかかりそれから旅の準備をしたとしてやっとカミーナを出たくらいだろう。
「なので、スピカさん魔法の訓練をしませんか?」
ベッドからまだ出ることを許されていないスピカにケンは唐突に言った。
「えっ?ベッドから出ていいんですか?」
ベッドで寝ていることにたった一日とはいえ、多少飽いていたスピカは出られると喜んだ。
のも束の間
「いいえ、ベッドからは出てはいけません。そこで出来る訓練を行うのです」
とケンが取り出したのはいつもの布。
また“鳥”を折るのか…と渋った顔をしたスピカを見逃さなかった。
「“鳥”ではありませんよ」
お手本を見せましょう。とケンは布に魔力を通してゆく。
真四角の布が三角にそれからまた四角にと、様々な形に変化していく。
気が付けば花の形になっていた。
「…ばら?ですか?」
綺麗な青いバラの花に見える。
なんとも器用な、しかし“鳥”よりも難しいのでは?としり込みしてしまう。
「これを折れとは言いません。ようはなんでもいいんです。スピカさんは魔力を手に出して視えますか?」
と、スピカの前に手を出した。
そこには小さな光が視えた。
「視えます…ね。光っているものが…」
「 ! 本当ですか。でしたらコレを自分で作ってみてください」
スピカが魔力が視認出来ると聞き、嬉しそうに笑いながら新たな課題を出した。
「やったことがないのですよ?簡単に出来るものではないでしょうし…」
ちらっとカイトの方を見るが、彼も何やら訓練をしているようだ。
目を瞑りうーんとうなっている。
「カイトさんも同じことをしていますよ。ただ彼は魔力は視認できませんが、魔力を感じることが出来ますので多少時間はかかるかもしれませんが習得できると思います。カイトさんよりスピカさんの方が楽に習得できるはずですよ。そこにあるものを漠然と感じているよりも視えている方が集めやすいですから」
床に座り込んで頑張っているカイトを見て、スピカもやらなければならないんだとわかった。
「あの、どうしてですか?」
どうしてケンが教えてくれるのだろうか?確か彼は儀式の準備で忙しいはず。
スピカにかまけている暇はない。現に先ほどからシュナがちょこちょこと部屋を出入りして何やら指示を出している。
「魔法は魔力を持っていれば自然と使えるものではありません。スピカさんは旅に出るまでに魔法を使っていましたか?」
ケンの問いにスピカは小さく首を振った。
アウズの村にいる頃は家族で魔法を使っていたのは両親だけ。
スピカは魔法を使おうとは何故か思わなかった。
村の友人らは使っていたのに…。
「確かスピカさんは16歳でしたよね。その年齢まで魔法を使うことがなかったというのが驚きなのですが、よほどご両親が過保護だったか周りに使うものがいなかったのか、村の風習なのか。それはわかりませんが他所の村では生活魔法くらいならば物の分別が付くころには教えますよ。スピカさんは自身の魔力に対して無知すぎるんです。どれくらいの魔力を使えば“鳥”が暴れることなく、解けることなく折れるのかわからないからうまく折れないんです。“風の神殿”で基礎は教わったと聞いていますが、そこでもあまりうまくいかなかったのではないでしょうか?」
優しい口調で一つ一つ丁寧に答えてくれるケンに申し訳なさを覚えた。
「まぁ、私もずっとはお付き合いできませんので少し強引だとは思いますが…ちょっと失礼しますね」
と、スピカの目を塞ぐ様に手で押さえた。
答えになっていない。と思った。
けれどスピカ自身魔法に関して全く分からなかったのは事実。
自身の中に確かに存在する未知の感覚を有する物に、恐怖を抱かなかったかと言われれば否定できない。
「動かないでください。これから私の魔力を少しだけスピカさんの体を通して手に集めます。その感覚を覚えてください。手のひらを上に…そうです」
少し慌てたスピカを落ち着かせるようなゆったりと口調で話す。
なるようになれ!と腹をくくったスピカはグッと腹に力を入れ、先ほどケンが見せてくれように掌を上にし少し前に差し出した。
「流していきます。少し違和感があるかもしれませんが…。我慢してください」
スピカは後頭部辺りから、液体が流れる音を聞いた気がした。




