別れと魔獣と双子・・・仲間
「僕の知っている事すべて話します。もし違っていても彼らを町から連れ出して欲しいくらいです」
彼の言葉にスピカは少々不安を覚えだしていた。
「彼らはカストル姉弟。姉がマギ、弟がガータ。両親は彼らが小さい頃に他界していて、曽祖父の神官様が育てています。マギが動物を操れて、ガータが植物。さっき飢饉があって彼のおかげで助かった、とか言っていたけれどアレ嘘です。というか彼のせいで凶作になったんです。小さい頃の話だし、彼らも僕と同じ年齢だから仕方が無いのかもしれないけれど、魔力が暴走したみたいです。どういう理屈かはわからないけれど。だから感謝しなくていいと思います、僕は。」
最初に話した盾持ちは複雑そうな表情を浮かべていた。
「彼らは双子ですがあまり似ていません。よく見るとああ、姉弟なんだな。ってくらいです。でも特徴があって榛色の瞳に同色の髪、ここまでは珍しくないんですが、僕が町を出る少し前くらいにマギは左手にガータは右手に手袋するようになったんです。何でも酷い怪我を負ったとか…。彼らならあり得ますけど、でもその前日の遅くまで一緒にいたし、次の日一日中神殿から出てこなかったっていうのがおかしいって町の同じ年の間では怪我じゃなくて何やらあざ?みたいなのが在ったって言っている奴もいるくらいで。本当の所は誰も知りませんが。僕が知っているのはこれくらいでしょうか?で?彼らなのでしょうか?」
彼は報酬の減額よりも、カミーナから双子が出ていくかもしれないという事が気になるようだ。
「直接会って見ないとなんとも言えません。しかし先ほどおっしゃっていた“悪魔”というのは?」
すがるような彼の表情に苦笑いを浮かべた。
双子は余程の態度だったのだろうか?
「ああ、“悪魔”ですか。あくまで僕ら若い者が言っている彼らの二つ名ですよ。家畜は行方不明になるわ、卵や乳が出なくなるわ、作物は時期をおかずに育ってしまって収穫の計画がパーになるわ、雑草は生え放題だわで迷惑でしかなくって。しかも彼ら手癖が悪いというか、結構乱暴なんですよ。特にマギが。彼女に殴られた事のないものは同年代の男にはいないと思いますよ」
だから“悪魔”です。と、握りこぶしを作り力強く答えた。
大凡予想はしていた内容ではあったが、最後の暴力的という言葉にスピカは頬が引きつるのがわかった。
仮に彼らが仲間だったとして、全うに旅が出来るだろうか?
いいや、出来ないと心の中で断言した。そばにカイトがいたとしても。
いずれ彼とは離れて旅をしないといけない、ならば最初からいないものとして対応するのがいいだろう。
「わかりました。私が知らなかった噂は最後の方が話してくれた事ですね。“手袋をしていること”“姉の方が暴力的であること”“ご両親が亡くなられていて曽祖父に育てられている事”の三点です」
確認を、と手帳を取るように勧めた。
女性の手帳という事で気を使ったのだろう、目配せをしながら手に取ったのは弓使いの女性だった。
「確かに、その三点ね。しかし細々と凄いわね」
パラパラと手帳をめくってゆくその表情は感心しきりのようだった。
「恥ずかしいので止めてください」顔を真っ赤にしながら手帳を取り返すスピカの様子に他のメンバーが笑った。
「年は俺らと変わらないのにしっかりしていると思ってたのに。やっぱりそうやって見ると年相応に見えるわ」
“で?報酬は”と目で訴えてくる。これから解体が待っている。あまり長く時間をかけたくはない。
「こほん、すみませんでした。報酬ですがこれくらいでいかがでしょうか?」
取り繕い、示した金額に納得してくれたのか快く頷いてくれた。
「あ、そうだ。魔法が使える人を探しているのなら“トゥーム”に行ってみたらどうかしら?あそこに“神の子”って言われるくらい魔力が強い人がいるらしいわよ」
“これは手帳を見たお詫びね”と笑いながら仲間の所へ行ってしまった。
慌ててお礼を言うと聞こえたのか手を振ってくれた。
良い情報が手に入ったと、ほくほくしながら心配そうにこちらをみるカイトとシュナの所へと戻った。




