別れと魔獣と双子・・・仲間
「お待たせしました。報酬の件なのですが…」
何を言われるのだろうと不安げに揺れる彼らの顔は、さっきまでの自分のようだと思った。
* * * *
ホクゾトから南に降りた先にある、小さな町カミーナ。
ここにも然の神殿があり、スピカが滞在していた風の神殿同様に神官は存在する。
そして、この然の魔力持ちも徐々に減っていき、今では一組の双子と神官のみと噂されている。
この双子、大変仲が悪くよくケンカをしては町人に迷惑をかけているらしい。
双子の一人は女性で、動物を使役でき大きな鳥を呼んでは背中に乗って飛び回っているらしい。
(動物を操って盗賊などを追い払たりはしているらしいが、見境なく操るので家畜などがいなくなっているらしい)
もう一人は男性で、植物を操り季節外れの花や、野菜を作って売りつけているらしい。
(付近の町や村が凶作に見舞われた際は、安価で野菜や穀物を売っていたらしいがそもそもの原因が彼の力の暴走らしい)
最近では双子のケンカが激しすぎ、家畜が精神不安定になって卵を産まなくなったり、乳の出が悪くなったり、来年植える予定の種籾が発芽したり、昨日刈ったばかりの雑草が生えてしまい一面草原になってしまったりと地味に迷惑を被っているらしい。
それでも、二人がいることによってカミーナは栄えるまではいかないが、多少の恩恵は受けている。
邪険にするまでの事はない、と誰もが思っていた。今までは。
だが、最近の迷惑の被り方が、常軌を逸していると感じるようになった。
盗賊は楽ではないが自分たちでどうにか出来る。
野菜も細々とでも育てていける。食べていければそれでいい。
だから「誰でもいいからこの子を連れ出して欲しい」
が、今の町人の心情だった。
* * * *
「しかし、あれで良かったのかな?報酬」
「彼女がそれで良いって言ってんだからいいのよ?」
「しっかし、竜か…。初めて見たよ。オレ」
「どこかの神官みたいだし、神殿管理の竜なんだろうな」
狩ったガルウを解体しながら、彼らは先ほど起こった出来事を思い出していた。
スピカと名乗った女性との報酬の話し合いと、彼女の連れを迎えに来た竜の事を。
* * * *
「えっ?報酬は“情報”?」
シュナと話していた盾持ちが驚き、仲間と顔を見合わせた。
「はい。情報の内容で私が受け取る報酬額を決めさせてください。一応最高額はどれくらいかは連れから聞いています。それから減額していきます。どうでしょうか?」
「聞きたい情報の内容による、仲間と相談しないと決められないけどそれで良いか?」
スピカは小さく頷いた。
スピカが欲する情報は仲間の事だ。
シェットでも少しだが情報を集めていた。主にカイトが、だが。しかし噂はあくまで噂。
自分と年齢の変わらないと思える彼らでさえも知っている噂ならば、いくらか信ぴょう性は増す。と考えた。
もちろんホクゾトでも情報は集めるつもりでいるが。
「私が欲しい情報はカミーナにいる魔法を使う双子の事です。私が知らない情報をくれた場合のみ減額していきます。あなた方の話を聞いてから金額を提示する予定です。で、」
「ちょっとそれじゃぁ…」
スピカの話に弓使いが口を挟もうとするが、スピカに止められた。
「言いたいことはわかります。私が知らない情報というのが本当かどうか確かめようがない。という事ですよね?」
弓使いは大きく頷いた。
「このノートにシェットで手に入れた情報が書いてあります。あなた方が話し終わった際中身を確認してください。私は違う紙に話してくれた事を書きますので、今からはこのノートに手を触れません。お話が終わるまで」
と、スピカはノートを近くの切り株に置くと、少し離れた位置に腰を掛けた。
彼らもそれに習い声が聞こえる範囲で、ばらけながら腰を落した。
「カミーナの双子はここいらじゃ有名だ。俺はホクゾトから近い名前もない村の出身だが、彼らがいたおかげで飢饉から救われた。って聞いている。何でも双子の一人が草木を操れるんだと、もう一人が動物だったか、を操れるらしい。俺が知っているのはこれくらいだ。」
盾持ちの一人が口を閉じた。
「次は俺だな。俺もこいつと対して変わらない。双子が男女で、一人が植物を使えて一人が動物。ケンカを売るやつはもういないらしいが、過去にいた奴らはコテンパンにされたみたいだ。」
次に話し始めた盾持ちもそれ以上の情報を持っていないようだ。
次、次と話し始めるが、最初の盾持ち以上の情報は聴けないようだ。
「最後は僕ですね。双子の事はよく知っています。同じカミーナ出身ですから。聴きたいのですが、彼らを見つけてどうするですか?もしかして町から連れ出してくれるんですか?」
スピカは最後の剣士が、噂の双子と同じカミーナ出身と聞いて心が弾んだ。
「私が望んでいる人が彼ら双子であった場合、一緒の旅をしてもらいたいと思っていますよ」
「本当ですか!彼ら悪魔があなたの望む人でありますように!」
ああ、と彼は希望を込めた息を吐いた。
「僕の知っている事すべて話します。もし違っていても彼らを町から連れ出して欲しいくらいです」
彼の言葉にスピカは少々不安を覚えだしていた。




