別れと魔獣と双子・・・仲間
クルクル、クルクルと回り続ける花弁からこぼれる蜜のような魔力
気が付けば枯渇していた泉には水=魔力が溢れかえるほどに溜まっていた
しかし、シュナからの合図はなく、スピカの集中力も魔力も切れようとしていた
溢れるまで貯めないといけないのだろうか?
少し不安に思いだした頃、ポンっと肩を叩かれる
「そのままで、押しますからゆっくり歩いてください」
目を開けようとしていたスピカを止め、叩いた肩に両手を添えゆっくり押し始めた
十歩程歩いただろうか?肩を押す手がゆっくりと離れていくのがわかった
「スピカさんそのままゆっくりと手を伸ばしてください」
言われるがまま手を伸ばす
結界石が少し熱く感じるのは気のせいだろうか?
「後一歩前に出てください。結界石に違和感を覚えるかもしれませんが気にしないでください。台座に魔力が引っ張られているだけなので」
熱く感じたのは気のせいではなかったようだ
一歩足を踏み出すとつま先が何かに触れた
台座だろうか?
「少し肘に触れますね?ゆっくり結界石を降ろしていってください」
目を開けることが出来ないスピカは指示された事をやるしかなかった
目をつぶっているスピカには外の世界の出来事はわからなかった
カイトがいつ古い結界石をどけたのかも
シュナが真剣な目で古い結界石と新しい結界石を見ていたのかも
彼に声をかけられたこともわからなかった
気が付いたら結界石から手を放していた
スピカに見えていたのは
地上に有ったよう見えていた泉が空中に浮いていた事
泉の水が、まるで布から染み出るかのようにゆっくり一滴一滴落ちていった事
一滴が二滴、二滴が三滴…とどんどん増え数えき切れず落ちていった事
落ちる先は何もなく、真っ暗だった事
その先に何か、誰かが見えた事、それだけ
それだけが、スピカに見えていた
「おい、スピカ!スピカ大丈夫か?」
肩をゆすられ、声をかけられてスピカは終わったことに気がついた
「…えっ、はい。大丈夫です」
目の前にはカイトが心配そうに顔を覗き込んでいた
「たぶん魔力の使い過ぎと集中のし過ぎです。しばらく休めば気分も良くなると思いますよ。何でしたらコレ飲んでおきますか?」
左隣にいたシュナが何やら瓶を出してきた
親指大の小ぶりな瓶。それ自体に着色がしてあるのか、中身の元々の色なのかわからないが緑色をしている
「それ、飲んでも大丈夫なものなのですか?」
「シュナ、それを飲ませるのか?」
カイトとスピカ二人の不安な声が重なる
「…美味しくないのはわかっていますよ。スピカさんの体調次第ですよ、飲む飲まないは」
僕だって好き好んで飲みません…と呟きスピカに瓶を手渡した
「立てるようでしたら飲まないのをお勧めします。まだ、頭がくらくらするようでしたら飲んだ方がいいです。味の補償は全く全くしませんけどね」
言うや否やシュナはスピカのそばを急いで離れた。
それは気が付けばカイトも同じであった。
「もし、飲むんなら近くに水を置いておいた!一気に飲むのをすすめるぞ!」
カイトの言うように手元には水が置いてある。
シュナとカイトはスピカから一番遠く離れた風下の階段近くで待機している。
マクベル卿とグスタフは風上で新しい結界石の確認をしているのか、そばで何やら話し込んでいた。
「何故そんなに離れるのでしょう?」
シュナとカイトの態度におかしいと思いながらも、体調不良は何とも我慢が出来そうになかったので飲むことにした
キュポン!といい音を立て蓋を開ける。
匂いを嗅ぐが特に変なにおいもしないし、柑橘系のいい香りがする。
少し吐き気もしていたスピカには気分の良くなる匂いだった
鼻から瓶を離し口元に持っていくと一気に中身をあおった。
「あれ、匂いだけはいい匂いなんですよね。柑橘の匂いで…」
「ああ、確かに。ただなぁ…何故か人の魔力当たると…」
「!何ですか!この匂い!毒ですか」
グスタフが慌てたようにマクベル卿の口元にハンカチを当てている
グスタフ本人は手が塞がっているために匂いを我慢しているようだが、どうやら口呼吸で難を逃れ様としているようだが難しいようだ。顔をしかめている。
彼の目線は左手の壁際で悶絶を打っているスピカに注がれている。
そばにはあの瓶が転がっていた。
「スピカさん!」
「スピカ水を早く飲め!中和しないと匂いはなくならない!」
駆け寄ろうとするグスタフを遮るようにカイトが叫んだ。
彼が寄ったところで何が出来る訳でもない。あの匂いに耐えて介抱出来るのならばいいが、あの表情ではむりだ。
調合過程でも発生する匂いに慣れているシュナでさえ、魔力に反応したアレの匂いには耐えられないものがある。
要するにスピカに頑張って水を飲んでもらわないといけないのだ。
カイトのアドバイス通りに水を一本飲み切ったスピカ。
顔色は先ほどよりも悪化しているようにも見えるが、魔力は回復しているようだ。
「何ですか!あれは!詐欺じゃないですかアノ匂いは!」
水筒から口を放すと文句を言い出した。
気持ちはわかるカイトとシュナは素直に謝った。
先に教えてしまうと飲まない可能性が高かった。だからどうしても言えなかったと、少々言い訳がましい事を言っていたがスピカには関係のない事。
お腹も減っていたし、口直しにとカイトとシュナからお昼ご飯を奢ってもらうことを約束し塔を降りることにした。
もちろん、匂いにびっくりしていたマクベル卿とグスタフにも説明し謝罪もした。
カイトが、だが。




