別れと魔獣と双子・・・仲間
“どうしましょう?”と足を止め兵士の顔を見た。
が、見られた本人の兵士もどうしましょう。といった面持ちだった。
魔法の事はさっぱりわからない。駐屯所に行けば魔法を使えるものも少しはいる。
魔術具の類の扱いがある際は魔法を使える、或るいは魔法を感知できる者が付き添うのだが、今回の荷物に間魔術具の類は申請されていなかった。
記載漏れか、故意かはわからないが自分では対応できない事は明らか。
どうするか…
「仕方ない…。仲間を呼ぶから少し時間をもらえるかい?」
深いため息を吐いた。
スピカもシュナも兵士の様子にただならぬものを感じ、静かに頷いた。
消耗品であるがゆえに使いたくない。がそうも言っていられないと自分を納得させるように小さく目をつぶり、剣についている小さな玉を2回弾いた。
スピカはそれから少しだが魔力の流れを感じた。
プル…プル…プルとほのかに揺れる魔力、魔術具など初めて見たスピカは目が離せなかった。
「しばらくしたら仲間が来るだろう。中身の点検は彼らと一緒にするから先に屋敷へ向かおうか」
道は坂道から曲がり平坦な道へ入っていく、しばらくもしない内にマクベル卿の屋敷へ着くだろう。
だが、かなり時間が経っているし魔法のこともある。マクベル卿はいい顔をしないだろうが、彼らにはなんの責任はない。わずかだが手伝いになれば。と思い止まっていた荷車を彼は押し始めた。
* * *
大きな門扉が見えてきた。
そばで兵士と貴族のような男性が何やら話し込んでいるのが見える。
後ろで押している兵士の顔を見ると軽く頷いた。どうやら貴族はマクベル卿のようだ。
車輪の音が聞こえたのだろう。話し込んでいた全員がこちらを見た。
その時のマクベル卿の年甲斐もない満面の笑顔は、しばらく頭から離れないと見たものは思ったはずだ。
貴族らしからぬいい笑顔だった。
反対に隣にいた兵士は自分を呼んだ兵士を見て、ほっとしたような表情を浮かべていた。
貴族の相手はやはり慣れている兵士でも、気遣うところがあるらしい。
小走りに近寄ると荷車の後ろに回り手伝ってくれた。
「遅くなって申し訳ありません。お荷物を届けに参りました…」
「ああ、わかっているよ。ところで何やら荷物に問題があるような事をこちらの兵士から聞いたのだが…」
ちらりと兵士の顔を見やると、直ぐに荷物を見た。
「それも含めて一度敷地内に荷物を運び入れませんか?マクベル卿、あなた様にお聞きしたいことがありますので…。内容によってはあなた様を一度取り調べしないといけないかもしれません…」
スピカ達と一緒にいた兵士がマクベル卿に門扉を開けるように促した。
兵士の態度に少々不機嫌になりながらも、どのみち荷物は中に入れなければならないもの。と納得したのかしぶしぶ門扉を開けるように門兵に告げた。
門をくぐってから屋敷内に入るまでここでも少々時間がかかった。
気を使ってくれたのか、兵士二人が手伝ってくれたので随分と楽をさせては貰ったが、これから起こるかもしれないことを想像すると気が重く軽いはずの荷車が一段と重たく感じた。
「スピカさんとシュナさん、どれかわかりますか?」
最初からいた兵士が二人にそっと耳打ちしてきた。何のことかは聞かずともわかっている二人は小さな箱をそろって指さした。
もちろんマクベル卿からは見えないように。
兵士は小さく頷き、荷物の確認をしている他の兵士へ近づくと何やら相談し始めた。
「まだ、時間がかかるのでしょうか?」
ピリピリした空気にスピカが不安になったのか肩をさすりながらシュナに尋ねる。
「僕にもわからないけれどさすがに関係ないし、もうそろそろ帰れると嬉しいね」
二人はあくまで荷物を運んできただけ。中身なんて知らないし詮索もしてはいけないと雇い主に言われている。貴族のものならば尚更だ。
余計なことを言わなければよかったと、シュナは一人ごちた。
「私は白銀部隊第一隊の副隊長を務めさせていただいておりますグスタフ・ハルマン。さてマクベル卿この箱の中身は何でしょうか?それを確かめないといけませんので」
「私は同じく白銀部隊第一隊のアドルド・ダイモン」
最初から付き合ってくれていた兵士は副隊長だったようだ。
三人の会話を小耳に挟みながらスピカとシュナはなるべく目立たないよう隅に移動しようとした。
その間にも会話は進んでいたようで、
「そこの二人がこの箱の中身が魔術具ではないか。と言い出したものでして」
三人の注目が集まり、それは出来なかった。
マクベル卿とアドルドは驚いたように二人を見たが、どこか面倒そうな表情が浮かんでいた。
もしかしたらアドルドは知っていたのかもしれない。箱の中身を。
「僕たちが説明してもお二方は信じてもらえないようですし、中身を見た方が早いのではありませんか?」
シュナが二人の様子からして箱の中身は危険を伴うものではない。と予想してみた
「確かに危険なものでもない、副隊長ならば知っておらねばならぬもの。構いません開けろ…。と言おうと思ったのですがだが」
マクベル卿が楽しそうに子供二人を見た。何やら企んでいるようでスピカは目をそらしたくなった。
「この中身を当ててみてくれないか?というか君は中身の予想が立っているのではないか?」
箱を受け取るスピカは驚いてシュナを見る。
危うく落としそうになるのをシュナが受け止めてくれた。
「よくお分かりになりましたね。僕は神殿の者ですので、わからないと修行のやり直しになってしまいます」
その答えにマクベル卿、アドルドそしてグスタフも納得した様な顔を見せた。
グスタフもシュナの言葉でおおよそ見当が付いたようだ
「はい、スピカも中身を見れば何かすぐにわかるよ」
箱を解くように促す。この中でわかっていないのはスピカだけ。その事実に少しだけ悔しく思った。
が、そうも言っていられない少し乱雑に箱を解いていった
「…結界石ですか?」
街や村、人が住む場所には必ずあるもの。魔物を入って来られなくし、多少の疫病も防いでくれる結界を張るものだ。
しかし、
「こんなに魔法が籠っていないのを見るのは初めてです」
結界石は魔力を蓄えそれを力に結界をはる。村に有ったものやクソンの物は既に魔力が籠っており少し色がついてた。
が、目の前にあるのは多少シュナの魔力が入ってしまったとはいえ、無色透明にしか見えなかった。
「まぁ、私も見るのは2度目。滅多に結界石を交換することはないし人様に見せるような物でもない」
知らなくて当然だ。と目で教えてくれた。
「もういいだろう。グスタフ殿。さぁ、君たちはもう帰りなさい。これから下町まで帰るのならば暗くなってしまう」
そういいマクベル卿は二人を帰路に着かせてくれた。
貴族内のもめ事とも言っていいような事に巻き込んだことを詫びられ、雇い主への手紙も持たせてくれた。
遅くなった理由を話さずに済むのはありがたい。
二人は軽くなった荷車を押し坂道を下って行った。




