紋章、占い、旅立ち・・・迷子
「さて、スピカさん。最初の魔法の修行はこれを折ることです」
と緑色をした布を渡されてから早2日
成果は全くだった
まず手で折ることすら難しく、あの男性がこんな繊細なものを作ったというのが信じられないほどだった
「はぁ~、難しいですね…」
ついため息とともに愚痴もこぼれる
手で折ると共に魔法を使って布を浮かせてみたり遠くへ飛ばしてみたりと他の事も平行してやっていた
「まだ2日です。まずは魔法を使うという事に慣れてください。手を動かしながら聴いてくださいね。今から魔法について軽くお話いたします」
魔法はこの世界を作った神様からの贈り物と言われ、大小有りはするが誰でも魔力があり魔法が使える。
生まれてきた場所なのか、親の血なのかわからないが属性は偏りが見られる。
ここクソンやスピカの育った村アウズなどがあるマカニ地方は風の魔法を得意とするものが多い。他には
水を得意とするものが多い先日の男性の出身地、トゥームを含むヴァイ地方
火を得意とするものが多い先日の男性と一緒に来ていた女性の出身地、コンシャースを含むアヒ地方
然を得意とするものが多いプア地方
地を得意とするものが多いアイナ地方
闇を得意とするものが多いマヒナ地方
空を得意とするものが多いラニ地方
と分かれている
得意となっているだけで他の属性が使えないわけではなく、闇や空以外は全ての人が満遍なく使える
闇や空はめったに使えるものが居らず、それらを奉る神殿があるごく一部の地域に限られている。
最近は魔力を多く内包しているものが減り、火を熾すや明かりを灯すなどの生活魔法がせいぜいというのも少なくない。
その為魔力を多く内包しているのがわかると、神官として神殿に仕える為にと神殿から迎えに来る事もあるくらいだ。
「もしかしたらスピカさんも神殿からお迎えが来ていたかもしれませんね」
口調が変わったエッジワースの言葉にスピカは布から目を離した
「えっ?」
「気が付かれていないようですがスピカさんの魔力は大変多いですよ。紋章がある、なしに係わらずもともと多かったのではないのでしょうか?ご両親からなにか言われていませんか?」
なにも。という意思表示のため首を横に振る
「そうですか…」
変ですね…。とつぶやきながら神殿を出て行ってしまった。
まだ終わるには日が高い。これは一体どうしたものか、と少し悩んだが息抜きと称し外に出る事にした
パーヘルが言ったとおり天気はぐずっていた
幸い雨はまだ降っていないようだったが、雲が厚く垂れ込めていた
雨が降るのも時間の問題だろう
凝り固まった背を伸ばしながら空を仰ぎ見た
風も雨が降る前兆の埃っぽい匂いを運んできていた
さて、戻ろうかと振り返ったところ
「あれ?この前の…」
布の鳥を折った男性が神殿の正面入り口で中を伺うようにしていた
少年もスピカが気が付いたのがわかったのか、ぱっと笑顔で近づいてきた
「こんにちは。今日も参拝してもいいですか?」
「こんにちは。たぶんいいと思いますよ?エッジワースさんもしばらくしたら来ると思いますし…」
案内するようにスピカも正面から神殿に入った
「あれ?今日は一緒ではないのですね?」
この前の女性がいない
「ああ、ミサト?彼女なら神殿に来るって言ったら興味がないからいいって断られた。勿体無いよね、こんなにいいところなのに」
受け答えをする男性にスピカは首をかしげた
この前は自分と同じ年齢か少し下か、と思ったがどうも違うようだ
随分下に感じる
大人ぶっていたのだろうか?それとも一緒にいたミサトという女性のなせる業か
参拝を終えた少年が振り返り
「僕はシュナといいます。お姉さんは?」
思案をしているスピカを不思議そうにみながらシュナは自己紹介をしてきた
「私はスピカです。今日もそれで鳥を折りますか?」
手に握られている布を指差した
せめて折り方だけでも教えてもらおうと机に案内した
「へぇ~、スピカさんも魔法使いなんですね。神殿にお仕えになるんですか?」
教えてもらいながら色々話をする
手は動かしてはいるがスピカの手は止まる事が多かった
「はい、神殿に仕える気はありませんが。と言う事はシュナさんも魔法が使えるのですか?」
「え?僕というより兄が…です」
少しトーンが落ちたのに気が付いたスピカ
「あ、…」
「はい。出来上がり!僕はもう帰らないと…。スピカさんもう覚えましたよね?エッジワースさんともお話をしたかったですが仕方ありません。また今度来ますね」
触れられたくはない話だったのだろうか。シュナは逃げるように神殿を去って行った
「その鳥、スピカさんが仕上げてお供えしておいてね」
と言葉と鳥を残して
「仕上げってこれ出来上がりでは?」
手にちょこんとのった鳥とシュナが去った方を交互に見やった
「ははは、そりゃぁ作っただけじゃ出来上がりじゃないな」
大声で笑うカイト。
エッジワースもカイトの様子に呆れつつも机に置かれた鳥を見ていた
「これには魔法がこめられていません。手で折られたとおっしゃっていましたが魔力を込めながら折るとしばらくは壊れないものが作れるんですよ」
“してやられました…”ポソリとつぶやいたのがスピカの耳に入った
「エッジワースさんが魔法で折れって言われたのはこのことだったのですか?」
2日間の努力が…と少しへこみかけていた
「騙したわけではありませんよ。こうやって魔力を込めて折ることで集中力が養われますし、物に魔力を込める練習になります。それに慣れればこうやって手を使わずに折ることも可能なんですよ」
口を動かしながら目は左手に乗せられた布に向けられおり、それは止まることなく折られ気が付けば鳥に形を変えていた
「誰かを倒したり、魔獣を倒すだけが魔法ではありません。修練をつみこれに慣れれば伝令に使えるほどになります。カイトもこれを使っていつ帰ってくるか、今どこにいるのかを教えてくれるんですよ」
ふっと息を込めると折られた鳥が羽を広げ、本物のように首をかしげた
「えっ!」
言葉を発する事を忘れ鳥に目を奪われたスピカ
エッジワースが放る様に手を動かすと鳥がパタパタと飛び出した
エッジワースの周りを一周するとそれはスピカの手に乗りただの布になった
『後少し、頑張ってください』
と、書かれていた…のは一瞬の事で読み終わると文字は消えていた
「まぁ、そんなふうに使えるわけだ。さてお二人さん食事だ」
呆気に取られるスピカを押すようにカイトは神殿から連れ出した




