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蹴速、龍に会う。

 本部に来訪者あり。


「ようようよう!あたしを雇え!」


「何言ってるんだ?」


「近頃不穏な世の中じゃねえか?あたしも国家のため役立ってやろうと思ってたんだ!治癒が使える!金さえくれりゃあ働くからよ!」


「ううん。治癒能力者というのは本当だろうな」


「当たり前だ!試せ!その代わりイイ職くれよ」


「ああ。ちょうど騒がしい時期だ。最前線に送ってやる。家族への仕送りにも事欠かんぞ」


「そりゃあいいな!」


「名前は?」


青嵐亜意あおあらし あい!」


「青嵐?あの青嵐か?」


「知らねえな!あたしはあたしだ!」


「ふむ?まあいい。治癒を試させてもらう。訓練場まで来てくれ」


「おお!」


 潜入成功!この手際!誰もあたしを魔王だなんて思ってねえ。くはは。


 にやにやしながら試験に向かう亜意を、誰も頭の軽い守銭奴とは思っていてもそれ以上の存在とは思っていなかった。


「おーい」


「はい?」


「こいつ、新しく来た人間なんだが、治癒が使えるとか言っててな。誰かやってもらっていいか?」


「ああ。そうなんですか。じゃあ私が」


「いいのか?在前」


「ええ。ちょうど腕がズキズキしてて。素振りのし過ぎなんですけどね」


「お前が無理しすぎてたら下はどうなるんだ。適度にやれよ」


「すみません。今回は丁度良かったと考えてください」


「まあいいじゃねえか。こいつを治せばいいんだな?」


「ああ。お手並み拝見だ」


「よろしくお願いします」


「任せろ!」


 へえ。大層な筋組織だ。それをこうもブチブチに。いい訓練してるじゃねえか。



「つ」


「おい」


「治ったぜ」


「ほんとだ」


「本当かよ」


「へっ。この国一番の治癒と思ってもらって構わねえぜ」


「それはどうか知りませんが、すごい。あっという間に」


「へへ。これで合格だな」


「ああ。すごいものだな。早い」


 亜意の実力は御徳に認められた。御徳としては、この治癒能力もすさまじいものだが、それ以上に、亜意本人の迫力を感じていた。


 ・・・やたら圧力がある。この人、どんな修羅場くぐってきたんだろう。


 ん?こっち見てるな?惚れられたか?しゃあねえ!この美貌じゃあなあ!


 割と平和的に魔王アオの任務はスタートした。


「しばらくは本部を拠点に兵を癒してくれ」


「おうよ。で、だ。そのうち大物に会わせてくれよ」


「ああ?調子に乗るな」


「はっ。あたしは有能だぜ?当然の要求をしてるんだよ」


「まあ、そのうちにな」


 係官は在前を呼び引っ込んだ。亜意は係官の指示に従い、周囲の兵を癒し始めた。


「あいつ、スパイかな」


「さて。可能性は有ります。が、それを言うと、私達全員に疑いは有ります。何せ魔王、魔神に、人間に成り代わることが出来ないと否定しきれません」


「普通に使っても良い、か?」


「そうですね。怪しい動きをしたら、その時問い詰めればいいでしょう。怪しいと思えば、何でも疑えるものです」


「じゃ、そういうことで、頼むぜ在前」


「は?」


「お前、人数要るんだって?ちょうど良いじゃん。既に山を包囲してる連中、本部詰め、3名家。これらで治癒能力者は使い切られてる。お前のとこに最初に入れとけば、既成事実が出来るってわけよ」


「まあ、そうですが」


「あんなの他のとこに入れて面倒なことになったら嫌だし。治癒は欲しいし。お前なら使えるだろ。頼んだ!」


「分かりました。三鬼梅とも相談してですが、使わせてもらいます」


「三鬼はお前んとこに入るの?」


「いえ。帰ってから話を持ちかけるつもりです。まだ決まってません」


「ふうん。10人だっけ。頑張ってくれよ。バックアップは任せてな」


「はい。私達に出来ることを頑張ります」


 蹴速帰国。港まで走ってきて、そこから三鬼家に直接帰った。


「ふう。ちょい休むか」


「ねー。蹴速もお疲れだろうけど、私達も体固まっちゃってるよ」


「私は少し水が欲しい」


「俺は蹴速と戦いたいな」


「ちょっと待ってもらっていいですか」


「うん!じゃあ俺は走ってるよ!」


 二神神無は三鬼家訓練場を周回走行し始めた。蹴速の空中走行に刺激されたようだ。


「お前は海水でなくていいんか?」


「ああ。乾いているだけだ。川の水でも海の水でも良い。頼んだ」


「そういえば、あなた名前は?」


「名前か。なんだろうな」


「ないんか」


「うむ。一族の宝という呼ばれ方だけだな」


「宝ちゃん・・・。適当過ぎる」


「ううーん」


「蹴速の人魚の妻、でいいぞ」


「ええと、人魚の宝で、蹴速のお嫁さん、なわけね」


「うむ」


「海鶴、とか」


「うみづる?」


「うん。宝物で、あの鶴の恩返しって昔話思い出して。それで人魚は海の人かなって」


「なんでもいいが、鶴とは何だ」


「綺麗な鳥よ。あなたみたいに」


 祝寝は、蹴速に付いてきたあなたにも翼が有る、と言えなかった。蹴速とお似合いだと、なんとなく言いたくなかった。


「そうか」


「海鶴、か。しっくり来るな」


「夫がそういうなら、それが良い」


「じゃあ海鶴ちゃん、これからよろしくね」


「うむ。名をありがとう。初めてだ」


 海鶴は少し戸惑い、少し嬉しそうだった。


「海鶴は歩けるのか」


「ああ。ゆっくりだが、たまに海岸を歩くこともあるのだ」


「そういえば、アザラシなんかもそうか」


「へええ。器用だねえ」


「じゃ、台所行くか」


「うむ」


「うん」


 走り込んでいる神無を尻目に、蹴速達は室内へ。


「んで、水をどうする?」


「こうするのだ」


 海鶴は蛇口から出る水を普通に飲んだ。


「ああ。普通に乾いていたのか」


「うむ」


「そりゃそうだ。河童じゃないんだから」


「ねー」


「じゃあおれの部屋行くか」


「うむ」


「うん。あ、でも、神無は」


「30分で話す。その間は走っててもらおう」


「夫よ。私も聞いていいのか」


「構わんよ。海鶴に直接関係はないけど、家族らしいからな?」


「だってさ。行こう海鶴」


「うむう」


 若干照れる海鶴。


「で、よ。おれがお前らあを迎えに行ったのは、もちろん祝寝が居るから、やけど、それだけじゃないんよ」


「へええ。どんな理由なん?」


「んー。何か、すごい当たる占い師の人が言うに、魔神て言う化け物がここに来るらしいんよ。この街に。ちなみにお前の居場所を当てた占い師やけ、おれは信じちゅう」


「大変なことなんやねえ」


「そう。それで神無と祝寝。お前らが必要らしい。ここが分からんのよ。神無はめっちゃ強い。戦力に数えられる。けど、祝寝が呼ばれた理由が」


「うーん。私何も持ってないしねえ」


「勉強が出来る、とかそれ位か」


「祝寝、は優しい」


「ありがとね、海鶴」


「ううん。これは梅さんが帰ってきてから聞くしかないか」


「それか占い師の人に聞けば?」


「うん。それも梅さんじゃないと、どこの誰か知らんのよ」


「じゃあ、結局その梅さん待ちかー」


「そ。おれは神無とトレーニングするけど、祝寝と海鶴は?」


「私は街を見て回りたいけど、蹴速は今日は出歩かない?」


「うん。神無待たせてしもうたけ。今日は神無に付き合う」


「じゃあここで、料理とかさせてもらえるかな」


「お前が料理?」


「カレーぐらい作れるし!」


「そうか。私も夫に何か作ろう」


「ああ。そうか。じゃあ祝寝、海鶴をよろしく。料理でも何でも、菅女さんに聞いたら分かると思う」


「うん。蹴速も頑張って!」


「頑張れ。・・蹴速」


「おう」


 自分を名前で呼んだ海鶴にびっくりしながら、笑顔を祝寝と海鶴に向けて訓練場に出ていった。


「さ、私達はお料理上手になろうか!」


「ああ。人間の好むものを教わりたい」


「へへへ。妹が出来たみたい」


「そうか。私は後から来たからな。祝寝が姉か」


「そーいう意味じゃないけど、まあいっか。がんばろうね海鶴」


「ああ姉者」


「す、祝寝でいいよ」


「そうか」

 

 少しガッカリする海鶴。だが姉者呼びはちょっと、の祝寝。


「はっはっ」


「はっ」


 走る神無に追いついた蹴速。


「蹴速。どうだ、やれるか」


「ああ。今日はお前に付き合う」


「本当か!じゃあ、じゃあ、日が暮れるまで模擬戦な!」


「おう。神無の強さ、見せてもらうぜ」


「ああ!蹴速も本気出してくれ!」


「それは神無次第よ」


「そうかあ!」


 切りのいいところで走るのを止め、息を整える神無。神無の態勢の整うのを待つ蹴速。


「じゃあ、行くぞ」


「ああ」


 またしても蹴速は棒立ち。またしても神無はすり足で近づく、と。その時、神無は跳ね、蹴速を襲った。


 巧い。


 神無がすり足になった、そう蹴速の無意識が捉えた、その瞬間に神無は跳ねた。故に蹴速と言えど、不意を突かれた初撃。


 だが、残念ながら、蹴速はそれでも反応し、打ち落とした。


「ゴハッ。ふっ!」


 うめき声一つ落としただけで、またも神無は蹴速に近寄る。今度は蹴速の周囲を時計回りに回る。背後に回ったが、それでも蹴速は動かない。背後からなで斬り!蹴速が消えた。


 いや、上。


 蹴速は足首から下、足の指の力とカカトの反発だけで、その場で2メートル跳んだ。さらに旋回し、神無を踏む!神無は後ろへ転がり逃げる。


 捉えきれん。これが蹴速。


 遠慮ないなあ。二神だけのことは有る、ってか?


 だが神無は諦めない。


 人間である以上、無敵なわけはない。必ず斬れる。


 神無、すごい迫力や。おれも、本気出したい。


「アアアアアアアッ!」


 神無は初めてその気を開放した。蹴速の前では、力まず自然体で襲っていたのだが、それでは機会は訪れなかった。方針を変える!

 

 裂帛の気合のまますり足。今度、図っているのは蹴速の隙ではない。自らの必殺技を蹴速にぶち込む間合いを計っている。その謀は蹴速の棒立ちによって上手くいく予定だ。


ドゴンッ


 蹴速の立っていた場所。その周辺部は土煙に覆われた。神無の決め技が見事に命中したからだ。

 

 今までの経験上、この訓練場には深さ10メートルほどの地割れが出来ているはずだ。後で梅に謝らなければならない。それはともかく。


 蹴速は?反撃が無かったということは、回避したのか。それとも直撃で受けてしまったか?


 晴れる土煙。


 蹴速はただその場に立っていた。技の発動前と同じく。


ごくり


 神無は小便を漏らしそうになった。自分の必殺技が決まっていながら、おそらく擦り傷すら負っていない。


「すごいな。ちょっと痛かった」


「そうか」


 神無は漏らした。


「え!?あ、あのトイレ行くか!?」


「いや。構わない」


「いやでも」


「そんな溜まってない」


「そ、そう」


 下半身をびしょ濡れにしたが、神無はどうとも思っていないようだ。


 勝てない。どうしよう。


 どうしよう!?祝寝、おれどうしたら!


「蹴速。俺、お前に、勝てない」


「お、おお」


「どうしたら良いんだ」


「ん。訓練して強うなったら良いんよ」


「そうか。強くなれるのか?俺でも」


「うん。強うなろうとして頑張るやつは、絶対に強うなるよ」


「そうか。蹴速。俺、お前の子が欲しい」


「は?」


「魔神殺して、生き残ったら、で良い。子を産ませてくれ」


「あ、あの」


「祝寝と人魚の後で良い」


「う、うん」


 これは、もう、なあなあに出来ん!


「ど、どうする。まだ日暮れまで全然時間あるけど」


「うん」


 顔を目元をこすり、神無は答えた。


「体、動くから。もうちょっとやろう」


「そう。じゃあ頑張ろう」


 神無は覇気を失ってしまったようだが、それでもその若さに似つかわしくない熟練の腕前で蹴速を驚かせた。蹴速もまた本気とはいかなくても、気を入れた練習が出来た。


 夕暮れどき。祝寝が2人を呼びに来た。


「晩ご飯!出来たよー」


「おお。神無、行くか」


「うん」


 借りてきた猫のような神無は蹴速の一歩後ろを付いていく。

 

 神無、どうしたの?すごいおっとなしいやん


 いや、分からん。あっと、神無は先にお風呂入らせちゃって。女の子やし。


 はあ?妙な気遣いして。まあ良いこと・・やろうけど。


 まあ、そういうことで。


「神無、お風呂先行く?蹴速とすごい汗かいたでしょ」


「ああ。そうだな」


「うん。菅女さんに、って私が案内するよ。付いてきて」


「ああ。行ってくる、蹴速」


「おお。温まって来い」


 祝寝は神無の手を引いて風呂場へ行く。蹴速は汚れきった服を脱ぎ、肌着で飯に。


「来たか、蹴速。その薄着は私を誘っているのか。今日はそういう日なのか」


「え。いやそうじゃなくて」


「ふふ、分かっている、混浴だろう。一緒に背中を流し合うのだろう。知っているぞ」


「うーん。間違ってない、のか?」


「早く風呂に行くため、早く晩ご飯にしよう」


「う、ん。いただきます」


 でかい食卓の上には色とりどりの料理が。蹴速の知ってる地球の料理に見覚えのないこちらの料理、そして、そして魚。

 

 デカい。意識的に視野から外そうと努力してしまった。テーブルの半分が魚で埋まっている。鯛の尾頭付きみたいなものか。うー。


「うむ。その魚は私が勧めたのだ。とても美味しい」


「そうか。楽しみだ」


 火は通っているんだよな?祝寝、頼むぞ。


「・・・美味い!」


「うむ。もっと食べろ。こっちのは祝寝が作ったのだ」


「おお。いくらでも食べれるぞ」


「そうか。では次を作ろう」


「い、いや。これで、満足出来る。ありがとうな」


「うむ」


 人間の上っ面の会話は慣れてないか。そらそうか。じゃあ、本心でおれの嫁になるつもりなんか。いやまあ、人魚が陸に上がった時点で本気なのは分かっちょったけど。


「なあ」


「うん?」


「お前はおれが幸せにする。だから、皆で仲良うしてくれ。今でも充分仲良いろうけど」


「ふむ。良いだろう。祝寝にもあの女にも敵愾心はない。だが蹴速。お前は間違っている。皆で幸せになるのだ。家族は」


「う」


「泣くな」


「汗が、目に」


「汗などかいていなかったぞ」


 ええい。分らず屋め。


「ん。どうしたの」


「なんでもない」


「蹴速の目に汗が入ったようだ」


「ふーん」


「神無は風呂にどれ位かかるろう?」


「さあね。食べて待ってよ」


「うむ」


 見覚えのない料理は、やはり三鬼の人が作ってくれたらしい。美味かった。


「上がったぞ」


「おお。すごく美味しいから、期待していいぞ」


「そうか」


 暗い。蹴速、思い当たる節は。


 うん。分からん。


 蹴速とトレーニングしてからやろ。


 うーん。もしかして。


「うん。美味い」


 おおっ、1皿が既に空!着席後1分経っていない! 

 

「料理が上手いんだな。祝寝」


「えーと、うん!こっちのお魚は海鶴が作ったんだよ」


「海鶴?」


「ああ。私の名だ。祝寝にもらった」


「おお。それは重畳」


「食べてくれ。我が妹よ」


「妹?」


「祝寝、私、神無の順で、私達は姉妹だ」


「そうか。姉ちゃん、いただくぞ」


「うむ」


 仲良さそうね。


 う、ん。


 どしたの。


 食事終わって、風呂入ってから、話がある。


 うん。


「蹴速、祝寝、もっと食べろ」


「おお。もちろんよ、こんな美味しいもの」


「太っちゃうけど、いっぱい食べるよ」


 晩餐はそれなりにわいわい楽しくやれた。やはり神無の突き抜けたテンションは見られなかったが。


「それぞれの部屋は用意してもらったんやろ?」


「うん。続きの部屋があって、それにお願いしたよ」


「じゃあおれ風呂行ってくる」


「うん」


「ふむ。人間の部屋で寝るのは初めてだ。胸が騒ぐ」


「俺が眠り方をレクチャーしよう。姉ちゃん」


「うむ。私の妹は優しいな」


 2人は部屋に入っていった。そして祝寝は蹴速の部屋に向かう。


 あいつ、どんな話が。さっきのとは別のことやろうけども。いつ帰るのか。帰れるのか、かな。


トントン


「入るよー」


「おう」


 室内の蹴速は布団に寝っ転がっていたが、床に正座した。


「座ってくれ」


「うん」


「結婚してくれ」


「うん?」


「おれと夫婦に」


 ゴロゴロゴロゴロ・・・


 祝寝は横座りの姿勢のまま 部屋の中を転げ回り服と髪型を滅茶苦茶にした後、転げながら蹴速の前に戻り、答えた。


「うん。結婚しよう」


「そうか!ありがとう!」


「絶対あの2人の影響なんやろう?」


「う。まあな」


「別に良いけど、もうちょっとロマンチックにさあ」


「そういえば指輪も何もないな」


「やろう?思い描いちょったのと全然ちがう。なあなあでこうなるんやろうなあ、とは思うちょったけどね」


「おお・・。信頼が低い」


「てっきりカメラ中継ででもプロポーズされるかと」


「ドラマじゃないぞ。いくらおれでも」


「そうかなあ。蹴速なら、高校の卒業式で2人の門出にしたいと思います、とか言いそうなんよね」


「そうかあ?」


「そうよ」


 2人の時間は夜遅くまで続いた。



 そして早朝。


「おはよう」


「おはよう」


「おう。おはよう!」


 蹴速、祝寝、神無が起きてきた。


 神無、元気戻った?


 ぽいけど。


「2人とも」


「うん?」


「いや、なんでもない」


 神無は出しかけた言葉を、蹴速と祝寝の空気によって引っ込めた。


「海鶴はまだ寝てる?」


「ああ。ぐっすり寝てた。それより、朝ご飯も期待していいな!」


「うん!頑張って作るから期待してて!」


「おお。楽しみ。じゃあ神無、朝練でもするか」


「・・おう!」


 朝早くとはいえここは三鬼家。何人かの家人は起きていた。


「うむ。いい家だ」


「二神もこんな感じなんか?」


「ああ。もうちょっと堅い気はする、ウチは」


「へえ。神無もお嬢様なんよな。よくよく考えると」


「お嬢様?初めて言われたな。俺は強者になるために生まれて、そうなったんだ」


「すごいな」


「蹴速はもっと強かった、な」


「んー。神無も強かった。ちょっと本気出してしもうたもん」


「そうなのか?」


「昨日のあの決める気満々の一撃。きっちり力を入れて防いだけんど、そうせんかったら危なかった」


「へえ」


 神無は、体から少し力が湧き上がるのを感じた。


「俺は蹴速を倒せる?」


「100万回戦ったら1回は負けると思う。今の神無に負けることはまずないと思うけど」


「本当に、強いよな」


「そんなでもない。神無がおれより強くなる可能性はあるよ。もちろんおれも頑張りゆうけどよ。んで、おれより強いやつが今現在おってな。それが魔神というやつなんやけど」


「魔神」

 

 神無は身震いを抑えられない。蹴速より強いものが実在するという現実に全身が恐怖に包まれていた。


「次は勝つ」


 しかし蹴速は言ってのけた。神無は恐怖が薄らぐのを感じた。


「あいつ、おれより強かったし、多分、肉体のスペックそのものが違う。けど、何も通用しなかったわけじゃない。あいつも傷付いていた。勝ち目は、死ななければ、常に有る」


 それは神無も常に思っていたこと。というより、二神の戦士が教え込まれること。生きていれば、再起の時は来る。だからまず生き残ること。


「蹴速、今日も付き合ってくれるか!」


「今日は祝寝と街を歩き回る。一緒に来るか?」


「そうか。俺は訓練したい。魔神と、お前と戦って勝つために」


「街歩きながらでも出来るトレーニングあるけど、やる?」


「そんな便利なものが。やる!蹴速に付いていく!」


「じゃあ試しにやってみるか」


 蹴速は神無の肩に手を乗せ、重みをかけた。


「ぬ!」


 神無は重みにうめく。そう、蹴速は肩から手を離しているのに!


「神無の肩に今、そうやな、30キロほど乗せた。両肩で60キロな」


「ふむ!重い。これで何の意味が?」


「その状態で姿勢正しく。そうしたら、どんな状態でも態勢を保てる。んで、基礎筋力の底上げ」


「ふむ!」


「慣れたかな?じゃあ全身に乗せようか」


「お」


 神無の太ももに80キロ、足首に20キロ、腹部、背部に20キロずつ。総計200キログラムが神無に伸し掛っている。


「これは、重い」


「姿勢を崩すなよ。下手にこけたら、そのまま全身ぐちゃぐちゃになるからな」


「うむ!」


 神無は重みが横から下から、掛かってくるのに、不思議を感じつつ、何も言わなかった。蹴速がすることならば、そういうことも有るだろう。


「そのままで1日過ごしてみるか。剣なんて振らなくていい。1日、神経を全身に張り巡らせろ」


「おお!」


「神無は既にめちゃくちゃ良い線いってる。そのまま底上げしていいと思う。技量はおれに劣ってない。純粋に身体能力の問題やと思うよ」


「そうか。それは、朗報だ」


 神無は息切れを起こし始めていた。


「無理そうなら言うてくれ。すぐに外す」


「あ、あ。だが、こうすれば強くなれるのに、外すのはもったいない」


「そんなことはない。いつでも付けてやれる。遠慮するな」


「そうか!なら、お言葉に甘えよう。外してくれ」


「おう」


 そう言って蹴速が神無の体をアチコチ触ると、神無は重みから開放された。


「ふう。正直、今日で俺の人生は終わるかと思った」


「そこまでじゃないろう。神無ならいけたはず」


「きつかったぜ。かなり」


「でも、そこからがトレーニングよ。おれも、きついって思いながら、畜生って声にしながらやりゆもん」


「蹴速、でもか」


「おお。これでもちゃんとしゆんよ」


「今の俺の負荷と比べて、どんなんだ?」


「んんっと。おれの普通の時は、全身に10トンずつ、計100トン。神無の500倍の重さやね。本気で気を入れて力を出す時は、1万トンを全身に、で10万トン。50万倍になるか」


「そうか。想像も出来ん!」


「そのうち追いつくよ。焦らずやりよったら良い」


「うん!」


 神無は目を輝かせて蹴速を見つめている。


「蹴速、神無、ご飯!」


「おう!」


「おお」


 朝ご飯が用意されたようだ。昨日の晩餐ほどではないにしても、大した分量だ。


 もりもり食べつつ神無が口火を切る。


「蹴速は、何が、好きだ、おかず」


「おれは、肉と野菜が混じってるの、ハンバーグとか、肉団子入ったシチューとかの。そういうのが旨いと思ってる。魚は魚だけで食べたいかな」


「ふううん」


「神無は?」


「肉!陸の肉も海の肉も畑の肉も。肉が好きだ!」


「おお。いいな、肉」


「うん!祝寝は、何が好きだ!」


「ううーん。お魚かなあ。野菜も好きだし、お肉も好きだし、何でも好きかな。嫌いなものはあまり無いと思う」


「良いことだ!何でも食べて良く栄養を摂取することだ!」


「それは、うん。祝寝の良い所よな」


「祝寝は好い女だ!」


「ありがとう、神無」


 そうこうしていると、海鶴が起きてきた。


「うむ」


「おはよう、海鶴」


「おはよう!」


「おはよう。顔洗ってきた?」


「うむ?汚れてはいないぞ」


「ああ。陸の人間は朝起きると、顔を洗う習慣が有るのよ」


「ほう。目覚めの気付けか」


「それもあるんだけどね、目やにとかヨダレとか、みっともないっていうのもあるの」


「ふむ。洗ってきた方が良いか」


「うう、ん。ちょっと待って。ええと」


「うむ」


 祝寝は海鶴の顔を覗き込み、少しは汚れているのを確認した。


「うん!顔を洗おう!付いてきて。私の洗い方を教えてあげる」


「うむ。祝寝が教えてくれるのなら、嬉しい」


「なんのなんの」


 2人は洗面所に行く。


「いいな」


「ん?」


「俺も祝寝のような姉が欲しかった」


「神無はそういえば、姉妹は」


「いない!1人っ子だ」


「おれも。祝寝もそうよな。海鶴はどうなんやろう」


「そうか。そうだったのか」


「その、二神って名家なんやろ。子供はいっぱい居りそうなイメージやったわ」


「うん。親父様と御袋様が死んじゃって、俺の後はいないんだ」


「そうか」


「ちゃんと二神として戦場で逝ったからな。名誉は保たれた。だから、俺の成長も待ってもらえた」


「大変やったな」


「うん。いや、そこまででもない!」


「おお。いつか、お墓参り、してもいいか」


「うん!きっと喜ぶ!」


「何の話?」


「内緒や。そのうち一緒に神無の家に行こういう話」


「へええ。私達も行っていいの?」


「もちろん!」


「ふむ。行かせてもらうか」


「海鶴も来てくれて、嬉しいぞ」


「うむ。墓というのは分からんが、きっと大事なものだろう」


「聞こえてたか」


「私の耳は良いのだ」


「そっかー。行く時はちゃんと言ってね。準備しなくちゃだし!」


「ああ!楽しいな!皆を紹介するのが待ちきれない!」


「ふ」


「祝寝も海鶴も朝ご飯食べろ。いやお前らが作ってくれたんやけど」


「はいはい。ちゃんと食べないとね」


「うむ」


「昨日は全然気にしなかったが、海鶴は嫌いな食べ物とかあるのか」


「うむ。カニが嫌いだ。堅い」


「おおお。え。あー、そうか」


「陸にはカニの柔らかい食べ方があるんよ。今度一緒に食べようね」


「そうなのか?期待しよう」


「期待していろ!」


「うむ」


 和やかな雰囲気で食事は進む。


「街歩き、言うてもな。おれも実は初めてぞ。初めて街に来た時は意識無かったからなあ」


「え、どうしたん。ここに落ちて来た?」


「や、魔神と戦ってな。命辛々助かったんやけど、自分の足やのうて、人に背負われて帰って来たんよ。やけ、街の風景とかは見ずじまいよ」


「蹴速が死にかけたん?」


「んー。死ぬまではいってなかったか。ただ骨折られて、自分で動けんようになってたわ。梅さんともう1人の人に助けてもろうたんやけど、その人らあが居らんかったら帰れんかったな」


「すごいんやね。こっちの世界。怖いであ」


「うん。まあでも、行きがけの駄賃や。魔神と魔王ぐらいは、殺して帰る」


「蹴速。死ぬくらいなら、逃げるよ。向こうに」


「こっちの人に助けてもろうたんや。返してから帰る」


「知らん。例え誰がピンチでも帰る!」


 蹴速と祝寝の故郷の話に海鶴と神無が興味を示した。


「帰る?」


「どの程度遠い所から来たんだ?」


「分からん。黒い穴に吸い込まれたら、こっちよ。それで梅さんにお世話になってって」


「うん。昨日のことなのに、すごい時間が経ったように思うわ」


「祝寝は神無に拾われるまでは、どうしよった?」


「私はねえ、いきなり、神無に拾われたんよ。文字通り」


「うん!船の上で剣を振っていたらな、空から人間が落ちて来たのだ。それが祝寝だった」


「いきなり斬られなくて良かったな」


「うむ!俺も悩んだが、女の子だったからな、助けた!男だったら、観察してからどうするか決めただろうな」


「まあ助けてもろうたんやけ、文句なんて1つもない。ありがとうな」


「何!礼なら祝寝に何度も言われている!それに俺達はもう家族だ!気にするな、こんなこと!」


「それで。蹴速と祝寝はどこから来たのだ」


「分からん。どうしてここに来てしまったかは覚えてる。でもどうやったら帰れるのかは分からない」


「私らの国は日本ていう所で、高知県っていう街に住んでたのよ」


「ほう!同じだな、ここもコウチだからな」


「うん。不思議なんよな。はっきり言うて、見覚えあるものばっかりなんよ。お菓子も自販機も家の外見も」


「そうそう。日本語通じるし、名前は漢字。平仮名もカタカナもある。日本じゃないの、ここ」


「日本には流石に魔神は居らんかったろ。そういや龍も初めて見たわ」


「龍!どこに居た!」


「ん。その、フォーデス山とかの。梅さんに聞かんと、正確な場所は分からんぜ。あそこら辺~ていうなんとなくの記憶はあるけんど」


「今日は街を歩くと言っていたが、俺は山に行かせてもらう!」


 神無の血相が変わった。


「どうした」


「龍を保護しなければいけない!」


「すまん。龍はおれが見つけたときは、もう死んじょった」


「なんだと!!いや、蹴速が悪いのではない!だが、この場合は、どうすれば」


「龍ってどういう存在なの、神無。とても重要そうだけど」


「うん?ああ!そういえば知らないのか。龍は名家誕生以前より、この世界を守っていたものだ。本物の守り神、とでも言うべきか」


「守り神、か。それが、死んでいた、ということは?」


「蹴速。どう、死んでいた」


「殺されてた。戦闘の跡があった」


「龍は、普通、人間より強い。一一人は分からないが、俺が龍に勝てる自信は、ない」


「ほう。龍は戦闘においてのみ、意味があるのか。それとも」


「うん。龍は守り神。人間の守り神、じゃない。この世界の守り神。龍に手出しした国が滅んだ例がある」


「この国の誰かが殺ったなら、この国が滅ぶ?」


「うん」


「どんなふうに滅ぶんだ?龍の大群に襲われるとか」


「いや。戦いによってではなく、天変地異によるらしい。俺が教わった知識ではそうだ」


「なるほど。龍に手出しするなよって言われたのか」


「うん。見かけても、攻撃してはいけない!って」


「それは、この国の戦士なら、誰でも教わること?」


「う、む。龍に攻撃するな、は教わるはず。世界の常識だろう」


「そうか。やったのは、魔族である可能性が濃いか」


「おそらく。自暴自棄になった、あるいは死期を悟った戦士の仕業かもしれないが、そのような者に心当たりがない。3名家でなければ、龍を倒せないだろうし」


「なら、魔族、魔王か魔神がやったと仮定して、それで?ここへの影響は無いの?」


「分からん!」


「分かった。梅さんに聞こう」


「うむ!」


「それで、現地に行った方がいいんよな」


「うむ!三鬼梅が戻り次第な!」


「良し。じゃあ今日は遊ぶか。梅さん、多分明日帰ってくる」


「なるほど!」


「お出かけするよ、海鶴」


「そうか。龍は明日か」


「興味あったの?」


「うむ。海竜とはちがうものかどうか、気になった」


「海にも龍がいるのか!」


「同じものかどうかは知らぬ。だが触れてはならないのは同じだ」


「へえー。面白いねえ。海鶴の故郷の話も、ゆっくり聞きたいなあ」


「ああ。聞いてほしい。父の母の、水の国の話を」


「おれも聞く」


「俺も!」


「当たり前だ。夫と妹が聞かなくてどうする」


「ふ」


「うむ!」


「うん」


「それはともかく。お出かけでいいんやね」


「ああ。それで明日は龍のとこ」


「うむ!」


「私は歩くのが遅いが、かまわないか」


「車いすがあれば、楽だな」


「病院行って、それどこで買えますかって聞けば分かるかな」


「車いすというものがあればいいのか。俺がプレゼントしよう!」


「良いのか」


「姉への少しの贈り物だ!」


「有難くいただこう。妹よ」


「おう!」


「いや待て。多分高いぞあれ」


「うん。相場は知らないけど、お小遣いで買えるとは」


「そうなのか?」


「今日歩いてみて、きついなら何とかするか」


「面倒をかける」


「言わない約束だ!家族が!」


「そうだったな、神無」


「うむ!」


「きつかったら我慢せず言ってね。海鶴」


「ああ」


 三鬼の家を菅女さんに見送られ出る。行き先は市街地。ぶらつくだけだ。


「まずどこ行く」


「うーん。ぶらぶらするだけで、いいんじゃない?お金ないしね」


「俺が用立てるが」


「私も宝石くらいなら」


「お前ら、実はすごいな。でもまあ、今日はいいわ。のたのた歩こうぜ」


「でも神無。食事はおごってね」


「おお!」


「では神無。これを」


 海鶴は神無に、懐から取り出した貝殻を渡した。


「これは?」


「中に適当に集めたものが入っている。金に換えてくれ。私にはよく分からないからな」


「ふむ!」


「わざわざ持ってきたのか?大事なものなんやろ」


「集めていたものの中から、陸でも価値のありそうなものを持ってきていた。使ってくれ」


「だが!今日は俺のおごりだ!」


「そうか。助かる」


「蹴速!無い袖は振れないけど、あんた」


「何!問題ない!金など使わないからな!」


「そうなのか。それでも神無。役に立つのであれば使ってくれ」


「分かった!」


「お」


 蹴速達はとつとつ歩いてきたのだが、角を曲がると、人通りの多い道に出た。


「こっちにも日曜市あるんか」


「いや、これは木曜市だ!」


「今日は木曜日か」


「うむ!」


「すごいねえ。服装がちがうし、品揃えもちがうんやろうけど、まんま日曜市や」


「うん」


 まだ自分の世界からこっちに来て日は浅い。それでも故郷を懐かしく思う2人だった。


きゃあああああ


「なんだ」


「悲鳴!」


 神無は駆け出した。蹴速が追いかける。


「祝寝、海鶴、やばそうなら帰れ!ちょっと行ってくる!」


「うん!海鶴、少し離れてようか。蹴速が力を出しちゃうかもしれない」


「なるほど。確かに蹴速が戦うと危ないな」


「ふふ。じゃあ行こうか」


「うむ」


 祝寝と海鶴はざわつく周囲をよそに、ゆっくり歩いて神無の走った逆方向に向かった。


「待て!それ以上の暴虐!この二神太郎花八郎神無が許さん!」


 神無は悲鳴の根源、とある街中の暴行現場に着いていた。蹴速も一歩遅らせてついてきている。


「人間めっ!死ねい!」


 黄金の少女は大声を上げた神無に襲いかかってきた。蹴速はその隙に倒れている人々に駆け寄る。


「大丈夫か!」


 幸い、小競り合いで済んでいたようだ。軽症者のみで、身動きできないものはいなかった。


「あいつ、いきなり・・」


「何があったんだ」


「知らん。龍がどうこう言ってきて、はあって言ったら」


「人間どもめが!」


 少女は神無に仕掛けているが、神無は余裕でさばいている。斬らないのは捕縛するためだろうか。


「あんな感じで突っかかってきて。痛え」


「そうか。もう大丈夫や。ここにおる怪我人で全員やな?」


「ああ、多分。ここで初めて騒ぎになったんだろうし」


「なるほど。教えてくれてありがとう」


「ああ」


 蹴速は話を聞き終わると、神無の戦いに注目した。


 あの子も無手か。神無は流石。悪くない動きの少女に決して触れさせない。もう何十回も神無なら斬れている。でも、なんで落とさんのや?殴り倒せば。


「神無。どうした」


「蹴速。手を出すなよ」


「うん?」


「こいつが龍っていうのは有りうるか?」


「・・・まじか」


「魔族くさくない。魔の匂いはする、がちがうものを感じる」


「我が親を殺しておいて!恥を知れ人間っ!」


「それは多分、人間の仕業じゃないぜ」


「なんだと!」


 少女は手を止めた。神無も距離を取り、剣を下げる。


「誰が、何者がやったと言うのだ!!」


「魔王、もしくは魔神」


「・・・・・」


「どした」


「嘘だ!」


「嘘を言っているつもりはない。人間ではないと思ってる。おれたちに心当たりはないぜ」


「うむ!蹴速の言うとおり!」


「そんな馬鹿な」


「いや、魔王や魔神なら出来ても不思議はない。あいつらめちゃくちゃ強いからな」


「ちがう!魔神様が、何故我が親を」


「魔神様?」


「龍が何故、様付なのだ」


「人間。その話、本当だろうな」


「ああ。人間が龍を殺しても人間自身が損するだけや」


「うう!」


「どうした!」


「人間め!考えているのだ!」


「そうか!黙って待っていよう!」


「そうしろ!」


 蹴速には神無が2人いるように見えた。


「蹴速、どう思う」


「さっぱり分からん。龍もまた魔神の配下なのか」


「うむ・・それは考えたくないが」


「たまたま今回の龍の親子が魔神になびいたとか?」


「有りうるな。転ぶやつは転ぶ」


「しかし、最近分からんことしか無いぜ」


「そうか。俺は分からんことはいくらでも有るが、斬れないことはあまり無かった。だから気にしたこともなかったが」


「人間!」


「なんだ」


「・・・ま、魔神様か魔王はどこに行った」


「知らん。帰っていった、と思うが」


「魔界か」


「どうするんな。仇討ちでもするか」


「ぐっ!」


「せんのか。まあ魔神と魔王は、おれらあがそのうち倒す。待ちよれ」


「ま、待て!我も、我も・・」


「無理するな。魔神とは戦いたくないんやろ。お前はお前の家に帰れ」


 龍とかいうわけの分からんものを戦闘に加えて、間違って死なれでもしたらここの人が大変なことになりかねん。恩を仇で返すことになってしまう。


「そんなわけには・・」


「それにお前の力じゃ、魔神はどうしようもない。出てきても何もならん」


「なんだと!」


「お前の今戦った相手、神無というが。魔王でさえ神無より強いかもしれん。魔神は比べ物にならない。出る幕じゃない」


「今のが我の力と思うたか」


「なにい」


「よかろう。本気を・・」


 言いかけた黄金の少女を神無が気絶させた。


「おい。いいんか」


「駄目だ。しかし、龍の本気を出されると分かっていてやらせるのも駄目だ」


「すまん。おれがやれば、ここへの影響はなかったかもしれん」


「いや。蹴速なら本気を出した龍を抑えることも出来たのだろう。しかし俺は二神だ。その前に止めなくてはいけない」


「まあ、いいわ。何が起きても、おれが何とかする」


「俺達だ!」


「そうだな。で、こいつどうする。とりあえず三鬼に連れて行った方がいいか」


「いや!そこまで迷惑をかけるのは不味い。ウチに、二神に連れて行こう」


「今、梅さんおらんからな。神無はそれでいいんか」


「うむ!俺が当主だからな!何をしても良い!」


「まじか」


「ふふん!」


「まーいいわ。じゃあ祝寝らのとこ行って、事情話して、行こうぜ、神無ん家」


「おう!」


 蹴速は少女を肩に担ぎ、神無は手近な人間に通報、救助の手配の有無を確認し、祝寝達の元に向かった。


「あ。蹴速」


「おお」


 大通りから離れた、元来た道に入った所にある喫茶店。そこの外ベンチに座っていた祝寝、海鶴は蹴速達を確認した。


「いやあ。変な事になったわ」


「また?」


「おお」


 蹴速、神無の事情説明の間に、店員が注文を取りに来る。


「抹茶パフェとストロベリークラッシュジュース、あと海老煎餅お願いします」


「カツ丼を頼む!」


 2人が注文を済ませ、落ち着いて説明する。


「その子が、今朝の話の龍の子供」


「らしい」


「こいつは確かに人でも魔族でもない」


「ふむ。感じるものはある」


「分かるのか、海鶴」


「おぼろげにな。龍は知らないが、何か特別な者だな」


「確定でいいな。神無と海鶴、2人が認識したってことはもう疑いの余地はない」


「ということは、この子を気絶させた神無の国、この国に悪影響があるかもしれない?」


「そうだ!」


「まあそんなことで大層な事は起こらんだろうが。知ってる人に教えてもらえば安心だな」


「龍を知っている人」


「そんな者は知らないが、本部に行けば詳しい者も居るだろう!」


「うん。神無なら簡単に聞けるだろうし。二神におれ達を紹介してもらってから、神無に本部に行ってもらうか。それともこいつごと本部に向かうか」


「うむ。出来れば一一人にも同席してもらいたいが。さて」


「一一人ってのは?」


「3名家のトップ。この国の最強だ」


「ほう」


「もちろん、俺より強い。蹴速と比較すると分からないが」


「その人が居れば本部に連れていく?」


「うむ。一一人、三鬼、二神が揃っていれば問題は無い」


「今回は、おれで我慢してもらうしかないな。梅さんも居らんし」


「蹴速が居れば、問題あるまいが」


「こっそりは不味い気がする。神無はこっそりさらったけどよ」


「ふむ。俺も考えるのは苦手だ。本部に頼むか。よし!本部に連れていく!」


「良し」


 話がまとまった所で、注文の品が運ばれてきた。


「これを腹に収めたら本部に向かう!祝寝と海鶴ももう少し食べておけ!」


「うん。じゃあフルーツパフェ2つお願いします」


「海鶴もそれでいいのか」


「うむ。私にはほとんどの物が初めてだ。祝寝に任せてある」


「せっかく陸に来たんだ!楽しめ!」


「うむ」


 天狗高地。一一人に付き合ってもらい、鍛え上げている梅、特盛。


「オアアアアアアアッ!」


 特盛、渾身の一撃。おそらくは地平線の彼方まで切り裂いたであろう、現在の最高の攻撃。


「うん。強い」


 有我は受け止めた。


「ちいっ!カアアアアアア!」


 全力を振り絞った後、続けて即全力。


「良い。効かなければ効くまでやる。それでこそボクらに並べる」


 またしてもきっちり受ける有我。だが、刃こぼれは起こしている。全く通用してない、わけではない!


「カ、アアアアアアア!!!」


 今度こそ最後。これで使い果たす、全て!


「おお」


 有我は本気にさせられた。丁寧に剣筋を見極め、ぴったり力を切り裂き特盛の全てを無効化した。


 だが特盛は悪あがきも出来た。残心している有我の横に回り込み、一閃。殺意を乗せた華麗な殺撃であった。


「上手い。敵は攻撃を無効化したことで、安心してる所だよ」


 当たり前の話をするが、有我は余裕しゃくしゃくで受けた。今度は刃こぼれ無し。ちなみに、有我も特盛も使ってる剣は練習用の同じものだ。


「じゃ、おやすみ」


 今日はあまりやっていなかった、首筋への峰打ちで気絶させ、ついでに倒れきるまでの間に、全身180箇所へ打撲の痕跡を付けた。きっと起きたら、地獄の苦痛だろう。我ながらいい教育だ、と有我は思っていた。


「次だ」


「はいはい。ほんと元気だよね2人とも」


「それだけが取り柄でな」

 

 梅もやる気満々だった。本日20度の気絶を体験しているのだが。


「気をつけてね。今の梅ちゃんは、ボクも本気になっちゃうかも」


「ああ。万が一の時は特盛に謝っておいてくれ。すまないが」


「それぐらいはいいよ」


「ならば。行くぞ!」


「うん」


 景気のいい声を出した梅だが、すぐに突っかかったりはしない。そのような児戯は一切通用しなくなっていた。


 全く、強くなるとはなんと難儀なことか。


 梅は、じりっと近づく、と見えた次の瞬間、剣先が消えた!


「巧い。体を動かす素振りの後で、実際に動いたのは微動だにしていない剣。流石、三鬼梅」


「それを造作もなく受けられてはな」


 梅の消えた切っ先は、しかし、有我に弾かれていた。有我の首筋の手前数センチに現れた神隠しであったが、そこから有我は反応した。


「切っ先だけを動かすのは、まだ出来ないみたいだね。どうしても腕が動くから読めるよ」


「ふ。化け物め」


 梅の奇策はしかし阻まれたが、終わっていない。


「行け!」


 今度は剣が、腕が消えた。


「すごいなあ」


 だが有我は止めた。消え失せた梅の肩から先、腕は離れた位置で操作、切っ先及び刀身は別々に有我を襲っている。それでも有我は止める!


「再度言わせてもらおう。化物め」


「ありがと」


 神隠し、ではない。純粋に梅の動体視力では有我が追えなかった。これでも在前御徳の速度に慣れていたはずだが。気付いたら剣はへし折られ、腕はミリ刻みに打ちのめされ、痛みを味わったその時、意識を刈り取られた。


「すごい速度で成長するなあ。梅ちゃんはもっと使えるようになるだろうし、特盛君も化けるかもしれない。・・蹴速君て、どんな人なんだろう」


 一度たりとも土を付けられてない有我は自主トレーニングに励む。


 ただ剣を振るうだけで剣風が巻き起こる。連れてきていた従者の作った結界がなければ、天狗高地は更地になってしまっていただろう。踏み込みの一足で地響きが起こり、振り下ろした腕の威風で木々が薙ぎ倒される。ただひたすらに強い。これが一一人。


「ん。お願いします!」


 目覚めると同時、模擬戦の申し込み。治癒は気絶と同時に行われるため、身体機能に問題はない。しかし、記憶は消せない。痛覚が覚えた痛みを存分に味わっているだろうに。


「よし、頑張ろうか」


 この国に取って良い駒となる若者の育成に、一一人は手抜きをしない。


「ええいっ!」


 大振り、力の入った先制。しかし、先ほどまでの全力と比べれば見劣りする。だが特盛は続けざま、飛び込んでいた!


「良いとは言わないけど」


 残念ながら少し本気になってしまっている有我にはあくびの出る動きだった。その辺の魔族になら通用したかもしれない。しかし、目の前に居るのは最強の一一人。効き目など有るわけがなかった。


「おや?」


 特盛は悪あがきが得意だったようだ。大振りからの返しで飛び込んできた特盛。だが、剣を放していた!そしてその場で回し蹴り、剣は特盛の意思通り有我を狙い飛んでくる。


「悪くない」


 剣をやはり造作もなく弾き、流れるように淀みなく、蹴りを同じく蹴りで蹴り返した有我。ちなみにこの蹴り返しで特盛の足は骨折した。だが、特盛はまだ動けた。いまだ回転する体に任せ、手刀を突っ込む!


「良いよ」


 その手刀を受け止め、粉砕する有我。


「あああああああああ!」


「うん。よく頑張った」


 今度こそ有我は気絶させてあげた。


「ちゃんと治してあげてね」


「はっ!」


 粉々になろうがどうしようが治癒は完璧に行われる。トップお抱えの治癒者なのだ。


「うむ・・」


「お。おはよう。どうする?」


「うむ。少し、神隠しを練習したい」


「いいんじゃない。明日帰るにしても、まだ時間はあるよ」


「ああ。しかし、本当にお前の時間を削ってしまって、すまない」


「いいよ。普段ならボクは相手のいる稽古なんて出来なかったんだから。梅ちゃんが居るだけで、実りは多くなったよ」


「そうか。そう言ってもらえると助かる」


「ねえ。蹴速君て、そんなに強い?」


「ああ。信じがたいほどに。少し時間が経った今では、夢のように現実感がない。全く、どうにもならなかった」


「それは魔神でしょ?」


「その魔神を一時的に倒したのだ。攻撃も効いていた。私の神隠しは、完全に無効化されていたがな」


「魔神が気になるなあ。梅ちゃんの神隠しは、当たればボクにも効くのに。少し怖いね」


「ここまで言っておいてなんだが、お前なら何とかなる気もする。私でも御徳でも相手にされなかった。だが、二神かお前なら」


「神無ちゃんなら、どうにかしそうだよね。ボクも魔王くらいなら、どうにか出来るつもりだよ」


「うむ。話に付き合わせてしまったな。私は神隠しをお前にも通用するようやってみる」


「りょーかい。お互い頑張ろうね」


「ああ」


 梅は神隠しを操り始めた。以前は刃に触れたものを消す技だった。だが、今梅のやっているのは、自分自身を消し、現す。ワープ、瞬間移動、どう呼んでもいいが、梅がやろうとしていることは、それなりの高等技術だった。


「出来ることは出来るが」


 以前の神隠しでも感覚はあった。消えたものが未だ刃に触れている感覚。何処か、でつながっている、というあやふやな自覚しかなかった技を、意識的に深く開発する。危険だから、なんて逃げ口上はもう使わない。


「お願いします!」


「おっけー」


 またも特盛が挑む。特盛は梅と違い、持っているスキルを磨く方向ではなく、ひたすらに有我に挑み続けている。一瞬で落とされたり、褒められたりしながら、長くても30秒の剣劇。それを我武者羅に。


 なんて眩い。


 そして相手取る有我も心なしか楽しそうだ。はっきり言って梅、神無以外にまともな練習相手もいないのだ。一一人家にも。独りでも強くなれる有我の絶対的な素養だが、別に楽しかったわけではない。一緒に強くなってくれる仲間の存在は、有我を少し刺激していた。


「があっ・・」


「おやすみ」


 全身くまなく殴打されて倒れ落ちる特盛は、そこまで楽しそうな表情ではないが。


「頼めるか」


「いいよ」


 梅は今度は自然体で挑む。歩幅狭く、ゆっくり、そして、消えた。


「む!」


 完全に消えた!梅が、ここに居ない!有我の感覚でも捉えられない!


 梅ちゃん、大丈夫なの。


 有我は、梅がこことは別の、神隠しでつながっている世界に迷い込んではいないか、心配してしまっていた。だから、


「あ」


 斬られた。有我の真正面、に現れたその時、梅の斬撃は斬るモーションに入っていた。有我は全力を出せば反応は出来たが、それでは梅を完全に殺してしまう。生き返らせるほどの術者は居ない。だから、有我に出来たのは、力を圧し殺すように防御するだけ。結果、肩口を少し斬られてしまった。


「すごい。パパ以外に初めて斬られた」


「そうなのか?流石に一一人ほどでないにしろ、幼少期のお前なら、斬れるやつは居ただろう」


「居なかったよ。1人もね」


「そうか。それなりに誇っていいのかな。明らかにお前の剣が鈍っていたとは言え」


「気付いてたか。梅ちゃんを殺すわけにはいかないからね。でも、これはボクの事情。手加減せざるを得なかったのは、ボクの都合だよ。梅ちゃんは誇っていいよ。ボクは手抜きはしてないんだから」


「ふむ。ならば、一一人有我に傷を付けたと自慢しよう」


「梅ちゃん、面白くなったね」


「そうか?」


「そうだよ」


「そうですよ」


「起きたか、特」


「はい。お願いします!」


「いいよ」


 特盛はただ、有我にぶつかる。


 本部。竜の子を連れた蹴速一行は、在前御徳に再会していた。


「蹴速君。大丈夫かい、その後」


「はい。あの時は、在前さんに連れ帰ってもらわなければ、死んでました。本当にありがとうございました」


「なんの。私達こそ、君が居なければ、こうしていられなかったよ。お互い様さ」


「在前御徳。蹴速を助けてくれたそうだな。礼を言うぞ!」


「二神殿。いえ、私も助けてもらった者です」


「水臭い!蹴速の戦友ならば、神無と呼べ!」


「は、はい。神無さん。所で、何故ここにいらっしゃるのですか。確かあなた方は南海の方に」


「うむ!蹴速に連れてこられた!」


「どうしても神無が必要な事態らしくて、それで南海に出向いてさらって来ました」


「そうか。君には常識が通用しないようだ。知っていたことだが」


「ははは。それで、またご迷惑をおかけするんですが、龍について詳しい人って居ますか」


「龍?龍というと、手出しをしてはいけない、あの龍のことかい」


「そうです」


「詳しい人か。うーん。そう言われても、この国では誰も調べようなんてしてないはずなんだよ。だから龍の知識もまた、無いと言っていい」


「なるほど。確かにそうなりますか」


「知識、という意味ではなくなるが、河歯牙という人物を頼る手もある。高いがね」


「ああ。占い師さんでしたっけ」


「うん。経路、結果を教えてくれるよ。その意味までは分からないけどね」


「ふむ。占い師には梅さんが帰り次第、会おうかと思ってました。丁度いいんで、会ってみますね」


「ああ。所で、まさかとは思うが、龍の話題を出した君が担いでいる女性」


「ああ。龍の子らしいですよ」


「はは。参ったな」


「やはり困りますか」


「ある意味、魔王などよりはるかにね。戦って倒せばいい問題に、収まらないからね。しかし、だから龍の知識、か」


「そうです。こいつの親の龍が、どうやら魔王か魔神に殺されたみたいで」


「ものすごく不味いな」


「らしいですね。だから聞きに来たんですが。ううん」


「助けてやれないな。申し訳ないが」


「いえ。仕方ないですよ、そういう事情なら。同じ事情で困ってるんですから」


「様子見と河歯牙。この2つしかないな」


「ですね。話を聞いてもらってありがとうございます。では御徳さんも量猟さんもお元気で」


「ああ。ありがとう。君の前途に幸あれ」


「失礼します」


 御徳と別れの挨拶を交わし、蹴速一行は二神家に向かった。


「占い師とやらには、梅を待って行くのか」


「ああ。梅さんの知り合いらしいし。そっちのが話が通りやすそうな」


「ふむ。二神の名を使ってもいいが、いざという時に取っておくか」


「それが良い」


「蹴速が言うならそうしよう!」


「うぬう」


「お目覚めか」


「おはよう!」


「う?」


 状況が分かっていなさそうな黄金の少女は、蹴速に担がれていると分かると、暴れだした。


「おい。下ろすから、動くな」


「ぬっ!」


 ぴたり、と動くのをやめた少女は、蹴速にそっと下ろされ、こちらを睨んできた。


「何故こうなっている!」


「ん。すまん。お前が龍の力を示すとかそういう感じやったから、意識を奪った。この街を守るためやったんや。許してくれ」


「むう!」


「許せ!」


 難しい顔の少女に神無が堂々と言い放った。


「仕方あるまい!そういうことなら!」


「そうか!感謝するぞ!」


 和解は成立した。


「話はある。でも、話は落ち着ける場所でしようぜ」


「どこだ!」


「ウチだ!」


「まあ悪いようにせん。付いてこい」


「ぬう!」


「飯も出す!」


「ぬう!!行こう!」


「良し!」


「じゃあ行くぞ」


 蹴速御一行は二神家に神無を先頭に歩いて行った。


「お前、腹減ってるのか」


「そんなことはない!昨日食べたばかりだ!」


「今日は食ってないのか。もうお昼ぞ」


「ウチに着いたらいくらでも食わせてやろう!」


「むう!」


「礼など!気にするな!」


「話が通じてるっぽい。すごいね、神無」


「うむ。神無はすごい」


 楽しそうな一派は目的地に到着した。


「ようこそ!我が家へ!蹴速!お前の嫁の家だ。ゆっくりしていけ!」


「おお。お邪魔します」


「お邪魔しまーす。大きいねえ。三鬼さんとこと同じくらい?」


「うむ。立派な家、そしてすごい気構えだ」


「!」


 黄金の少女は門前で止まってしまった。


「うむ。魔除けの結界があるからな。龍にも、もしかしたら影響はあるかもしれない。ゆっくり入ってみてくれ!」


「ぬ・・」


 恐る恐る、少女は門をくぐる。違和感はありそうだったが、弾かれはしてないようだ。


「良し!通れたな!何か気持ち悪かったりしたら言え!結界を外す!」


「我に結界など効くか!気遣い無用!」


「なら良い!」


 神無の案内で応接室に通される。早すぎる当主の帰還に混乱の生じた二神だが、間違いなく自分達の主と思い知らされ、蹴速達の歓待に熱を入れた。


「まず昼飯だ!皆腹いっぱい食ってくれ!」


「うん。ありがたくいただくぜ」


「美味しそうだよね」


「ふ。妹の味か。愉快な気持ちだ」


「むう!」


「遠慮するな!」


 少女も含め、全員が満足する食事が出され、人心地ついた。


「美味かった。神無の家の食事が食べられて、私は幸せだ」


「ふ!海鶴に喜んでもらえて、とても嬉しいぞ!」


「こっちに来てから美味い飯しか食ってねえ。舌が肥えたらやばいな」


「同ー感。美味しすぎるよお」


「ふん!」


「そうか!良かった!」


 黄金の少女もまた、初めてのテーブルマナーに戸惑っていたようだが、もりもり食べていて、食事にはご満悦のようだ。


「腹もいっぱいになった所で、話をしようか」


「うむ」


「まず、自己紹介ね。私は能美祝寝。この蹴速の幼馴染よ」


「おれは対魔蹴速。魔神と戦って死にかけた男だ」


「海鶴。蹴速の2番目の妻だ。祝寝の妹で、神無の姉だ」


「二神太郎花八郎神無!この国で2番目に強い者だ!そして蹴速の3番目の妻だ!」


「う。龍、だ。」


「名前は?」


「龍だ」


「?個人の名前はないのか。お前の親とお前は同じ名前なのか?」


「ああ。我は龍。我が親も龍。龍は一個しか居ない。だから、名前は要らない」


「ん。でもお前と、お前の親が両方存在しとったんやないんか?なら、両方が龍じゃないの?」


「我はまだ龍でなかった。我が親が龍。我は子。しかし親が死んでしまった。我が今は龍なのだ」


「少し二神と、3名家と似ているな」


「世襲制か。でも代替わりしたからって何か変わるのか」


「今までの我はただの子。だが今の我は龍。我とこの世は存在を同じくしている」


「どういうこっちゃ」


「つながってるってことでしょ。龍に何かあれば、攻撃されれば、国が滅ぶって伝承にある。つまり龍は世界の現界した姿・・かな」


「ふうん。そうなん?」


「知らん。ただ我は世界を識り、世界を護る。我に何か変異あれば、世界にもそれが現れるだろう」


「祝寝の説で正しいっぽいな」


「龍がこの世界そのものなのかしら」


「すごいな!」


「龍だからな!」


「ふむ」


「もし魔族が龍を攻撃したら魔界とやらに影響がある?」


「我は魔界を知らぬ」


「んん?人間が知っていることだぞ」


「龍は3名家より古い存在。その頃より魔族とは戦っている。知らないはずがない」


「知らぬ。魔族は知っている。たまに出くわす」


「魔界とこっちは、自由に行き来できないのよね。なら、龍はあくまでこっちの世界の神様なんじゃないかしら」


「で、魔神が魔界の神様か。有りうる話だが」


「ふむ!」


「うむ!」


「中々に難しい話だな」


「海鶴。海にも、もしかして神様とか居る?」


「うむ。らしきものは居る。海竜に海神。神らしきものはその2つだな」


「2つもそれっぽいのが」


「海は我の領域だ!海に神などおらぬ!」


「ふむ」


「そうなのか?」


「当たり前だ!」


「神というか、3名家のようなものか」


「海神ならば私でもなれるからな。龍というものとは違うかもしれん」


「そうなの!?すごいね、海鶴!」


「その資質があったというだけの話だ。それでも蹴速に倒してもらった海獣に手が出せなかった。蹴速は海神より強い」


「あとは海竜か。どんなものなのだ」


「7つの海を泳ぎ回り、あらゆるものを食らう、海流そのもの。それが海竜」


「ふうむ。天災のようなもんか」


「というか陸の魔王みたいなものでしょ。普通の人魚では手出しできないっぽいし。でも海竜にも意味はあるんでしょうね。簡単に倒しちゃダメよ、蹴速」


「分かっちゅうわ。そんな簡単に殺ったりせん」


「いや構わん。人魚もたまに食われる。倒せるなら倒してもらいたい」


「海鶴がそう言うなら、蹴速、頑張って!」


「おお・・」


「海竜と海神はこの場合の龍とは違うようだな」


「ふん!」


「それで、こいつはどうする」


「何もしなくていいんじゃない?」


「何が起きるのだ」


「む!」


「お前はこの神無に気絶させられた。お前は世界に影響を与えると言った。それで、この国に何が起きる」


「ふん!それしきで起こるものか!ただ、我が親の死の影響は、起こる。あっちの山が噴火するだけだ。この国は半分ほど溶岩に飲み込まれる。それだけだ」


「すげえな」


「本当に解るんだね。すごい」


「分かった」


「うむ!教えてくれてありがとう!感謝するぞ!」


「ふん!」


「案ずるな!晩飯も食っていけ!」


「ぬう!」


「何?親が死んで住処にも戻りたくないだと!良し!ウチに住め!俺に付いてこい!」


「む!」


「気にするな!どうということはない!」


「神無が居てくれて助かるな」


「うん」


「神無は全く役に立つ」


「照れるぞ!」


 話し合いは無事終了した。龍はしばらくは、二神に住むことになった。


「噴火とかは、どうするのだ」


「おれが止める。大穴を空けて地下に逆戻りさせてもいい、海までの道を作って誘導してもいい。神無、少しこの国の地形を変えるが、構わないよな」


「うむ!だが、蹴速。お前は無事ですむのか」


「どうってことはない。来ると分かっている現象だ。止める自信はあるぜ」


「蹴速ならどうとでもするから、大丈夫だよ。いつも何処にでも出かけてって、いつの間にか帰ってきてるんだから」


「流石蹴速」


「流石夫!」


「ふん!」


「何!お前が悪いのではない!謝ることはないぞ!」


「ぬっ!」


「龍の本性で手伝うだと!しかし、その姿になるということがどういうことか分からん!またぞろ悪影響でもあったら適わんぞ!」


「うん。ここで蹴速を待ちましょう?今回のは不幸な事故のようなものよ」


「ふん!」


「人間に甘えすぎている?良いではないか!今まで甘えたことはあるまい!今日から俺達は友だ!」


「なっ」


「俺は神無!」


「龍だ」


「よろしくな龍!」


「龍か。祝寝、名を付けてやってはどうだ。これは、人魚と呼んでいるのと同じではないか」


「ふむ!どうだ龍!」


「むう」


「どちらでも良いか!ならば、祝寝!頼む!」


「え。神無が付けてあげたほうが、良いんじゃないかしら」


「むうう」


「ふ!名付けられるという行為に意味を求めるか!意味はない!ただお前がお前として見られるというだけだ!」


「我は龍だ」


「お前だ!」


「龍ね」


「うむ。私と同じだ。こいつも家族になるか」


「なるか!」


「おお!」


「黄金の龍・・この世界そのもの・・、己黄みお


「己黄?」


「そのまんまなんだけどね。あなたそのもの、黄金色の輝き」


「良い名だと思う」


「うむ!」


「我が名」


「己黄。これからよろしく」


「う、む。すくね、うみづる、けはや、かんな。みお」


「4番目の妻!しかしお前は俺の妹だ!何でも頼れ!」


「うむ。私の妹でもある。家族なのだ」


「我は己黄。龍だ!だが、お前達の妹。家族」


「いやまあ深刻に考えるな。一緒に飯食っていこうぜって話だ。美味かったろ」


「うん」


 己黄は蹴速に素直に頷いた。


「よろしくな己黄」


「うむ!」


「じゃあ。ちょっと道を作ってくるわ。神無、付いてきて土地の話をしてくれ」


「おう!」


「祝寝らあは、ここに居らしてもらって良いんよな」


「無論!俺の家族だぞ!」


「夜は三鬼に向かわないと、菅女さんに心配をかけちゃうから」


「おう。夕方までには何とかしてくる」


「我は、行きたい」


「来い!」


「行っても良いのか」


「神無と一緒に居ってくれよ。そしたら安全や」


「うむ!妹は俺が守る!」


 蹴速は神無と己黄を脇に抱えて、跳んだ。


「この山か」


「ああ」


「良かった。ここは人口密集地ではない。避難は容易だ」


「水道、電気は切ってしまう。神無、連絡頼む。己黄、神無に付いてけ」


「蹴速!ここの集落の情報を仕入れる!役場に向かってくれ!」


「おお」


「蹴速。本当に何とか出来るのか。相手は山だぞ」


「おお。山よ。ちょっと量が多いだけの、石と土の塊にすぎん。どうってことないわ」


「ここだ!」


 しょんぼりしている旗の立つ建物に突入する神無。


「頼もう!!」


「・・・・・・はい」


「二神太郎花八郎神無だ!!」


「・・おお!二神様ですか。あの当時は大変お世話に」


「うむ!今日は聞きたいことがあってな!ここの住民の地図が欲しい!そして避難をしてほしいのだ!」


「避難?地図を持ってきてくれ・・避難とは一体。魔族の襲来でしょうか?」


「いや!そこの山が噴火をする!万が一のため、そして溶岩の流出を制限するための工事があってな!住民を安全な場所に移動させたい!家財道具を持って逃がさせるのだ!!」


「は、はいっ!」


 役場の人間は総動員され、住民300余名の避難に当たった。


「ピクニックやら登山、観光に来た人間は居ないよな」


「前日までに来ていた人間は帰っている。今日は来てないそうだ」


「好都合。避難までたったの1日か」


「うむ!近所の町にも手伝ってもらったからな」


「おれが抜くルート全部に連絡付けてもらったのも有り難いぜ」


「勝手にやっても構わんが、通告しておいたほうが何かと都合が良い」


「まー、おれも何度かこういうことやったけど、だいたい感謝と非難と半々なんよな。そら、いきなり自分の居場所奪われたら嫌よな」


「仕方あるまい。命には代えられん」


「明日までかかるのは、予想外だった」


「俺は明日で終わるのが信じられん。何時噴火するか分からんからと言って、工事に1月はかかるのではないか」


「簡単に溝を掘るだけなら、そんな日数はかからんぜ、おれでなくとも。それに舗装なんぞせんでいいしな。楽なことよ」


「そうか!人員は集めずともよいのか」


「ああ。その人らあを逃がす自信はない。人海戦術はしなくていい」


「明日午前9時から工事できる。一回帰るか!」


「だな。でも、責任者であるおれらが帰っていいんか」


「うむ!俺は帰れん!蹴速、己黄を連れて帰っていてくれ。三鬼に対する説明もせねばなるまい!」


「そうか。神無は1人でいいんか」


「うむ!寂しいが、俺は二神だ!守らねばならない!」


「かっこいいことを言うぜ。神無はおれが守る。今は何も出来んがな」


「うむ。ときめくものを胸に生じさせる言葉だが!蹴速は帰るがいい。明日会えるのだ」


「確かにおれは交渉事では何の役にも立たんが」


「お前を詳しく知られるのは、不味い。蹴速は俺の知己の誰か、でなくてはいけない。今は帰っていてくれ」


「なるほど。じゃあ帰るか、己黄」


「おう!頑張れ、神無!」


「ああ!」


 蹴速と己黄は二神まで帰っていった。


「寂しいぞ。蹴速」


 神無は、初めて芽生えた寂しさを飼い慣らそうとしていた。


「やろお!死ねえ!」


「遠慮がなくなってきたね。始めから無かったかな」


 特盛は有我に突っ込んできた。初日は、即落とされた攻めだが、有我は今、特盛の斬撃を避けることにしていた。


 特盛の力が上がっている。10回前の攻防で、有我は剣を折られていた。ただ、それで剣を取り落とした有我が、すぐさま特盛を叩きのめしてしまい、特盛の勝利の余韻は、目覚めるまでお預けだった。


 戦えば戦うほど磨き抜かれる、平特盛。


「おやすみ」


「ぐう」


 それでも、有我は遥か遠くに有った。特盛の斬り込みを一撃一撃、刃を1センチずつ刻みながら、丁寧に指導していった。今度は360回の打ち込みを味わわせた。有我はここまでのサービスを人にしたことは無い。


「随分気に入ったな」


「梅ちゃんが買う理由が分かるよ。この子強くなる」


「ふふ。それと、面白いだろ」


「うん。全然似てないのに、梅ちゃんくらい面白いよ」


「私は面白くあるまい」


「そんなことないよ。前は、真面目なお姉さんだったのに」


「そうか?」


「自覚は無いんだねえ。らしいかもだけど」


「ふむ。まあ、いい。いけるか」


「いいよー」


 声をかけると同時、梅は消えた。今の梅はどこからでも現れることが出来る。全方位から攻撃が来るプレッシャー。



 前触れもなく、有我の頭上数センチに現れた刀身。だが、有我は避けた。しかし、その避けた直後に別の刃が襲う!有我は握りで弾く、が、弾いた有我の懐に、梅の手が現れ有我の喉首を掴んだ。


「参った」


「ふう。ありがとう」


「これでも魔神には勝てないの?もうほとんど無敵じゃない」


「ふ。お前が手加減してくれている、それは分かっている。魔神にはまだ、擦り傷1つ負わせられるまい」


「化け物なんだね」


「攻撃力、火力を何とかしなければならない」


「そこはこの子が、何とかしてくれそうだよ」


「ふむ」


 梅の言う通り、有我は梅の攻撃を防ぐ方法を持っていた。それは絶えず斬撃を周囲に繰り出すこと。単純だが有我の体力ならば、何時まででも出来る。これをされると、梅はこっちに現れることが出来なくなる。何せ有我の手加減抜きの攻撃は、受ければ即死する。逃げる以外の選択枝が消えてしまう。


「お前の目から見て、特盛はどうだ」


「すごいよ。攻撃力は申し分ない。向き合ったなら、ボクや梅ちゃんにはまだ勝てないだろうけど。伸びるね。今でも神無ちゃんの次くらいに火力が有るんじゃないかな」


「・・・持ち上げすぎっすよ」


「そうか?」


「でもないよ。もちろん神無ちゃんに勝つのも無理だけどね」


「分かってますよ!おれが、二神に、勝てるわけないでしょうが」


「うーん。体捌きにおいて論外レベルの差が有るからね。神無ちゃんには当たらないだろうし、神無ちゃんのが力有るからね。どうしようもないよ。それでも特盛君は可能性は有るよ。頑張ってるもん」


「んー。お前にゃ無理だって、言われたっぽいすけど」


「うむ。その通りだ」


「ええー・・」


「普通に戦っては、だ。お前の伸びしろは火力だ。初戦で有我の剣に当てたのはお前だけだ。神無にも私にも出来なかった。我々は皆、自分の特技を活かす方向で行っている。お前はお前の出来ることを伸ばせばいい」


「ううーん?でも、おれ結局、有我さんに当てれてないんですけど」


「それはそうだよ。本当に休み無しに襲われたって、今の特盛君には当てられないよ。そうじゃなくて、ボクは結構受けてるでしょ」


「剣で、ですか?でも、完璧に防ぎ切られてますけど」


「当たり前でしょ。食らったら痛いもん。でも、ちゃんと気を入れて防がないといけない。ボクは特盛君を脅威に思ってるんだよ」


「マジすか」


「うん。威力は目を見張るべきものがある。それ以外はめためただけどね。今よりはマシになるだろうけど、身体操作で神無ちゃんに追いつくのは不可能だよ。年季がちがうもの。才能も二神レベルには見えない。だけど、特盛君の破壊力は良いよ。是非磨いていってほしい」


「はあ」


「ま、考えすぎるな。お前は我武者羅なのが似合ってる。それで良い」


「はい!」


 褒められて、ねえよなあ・・・


「そろそろ終わりだ。明日、朝一で帰りたいんでな」


「あっという間だったね。つかめたものは有った?」


「私は一歩前に進めた」


「おれは・・あれ?」


「特盛君。君、今まで、何度死にかけた?」


「え?いや、そんな経験有りません」


「うん。今回の修行では?」


「多分、100回は」


「そうだね。160回くらいかな。気絶回数は。そのうち60回は治癒させてなければ、再起不能の怪我だったよ」


「ははは」


 特盛は足がグラグラしてきた。戦っている最中は問題ないが、落ち着いて向き合っていると否応なく、目の前の人間が「強い」ことが分かってしまう。


「君の実戦経験は跳ね上がった。命の危険を何度も乗り越えた。ボクが手心を加えたとはいえね。自信を持って。今のウチでここまで戦っている若者はそう居ないんだから。君はかなり特別扱いだよ?」


「それは、梅さんが連れてきてくれたからですよ。おれなんぞ、梅さんの足元にも」


「そんなことないよ。君はもう、梅ちゃんの役に立てる」


「マジすか!」


「ね?」


「ふむ」


「梅ちゃんが囮になって誘導、特盛君は死なないように近寄って、一撃加えて即逃げる。それでいいんじゃないかなあ」


「梅さんありきっすか」


「君は二神じゃないし、三鬼でもないんだよ。普通の敵じゃなく、魔王、魔神を相手取るんなら、それで良いよ」


「うう、ん。そうかもしれませんけど」


「君が一一人なら、その葛藤はアリだよ。でも君は常人なんだ。戦えるつもりでいると簡単に死んじゃうよ」


「それは。そうです。でも、おれは、誰かを盾にして戦いたくない」


「そんな力量は無いでしょ。ボクより強くなってから言いなさい」


「はい」


「特。お前は何も間違っていない。むしろ清々しいほどに正しい。だが、敵は強すぎる。私達の美学は胸にしまっておくべきだ」


「相手によって。相手が強いから、戦い方を変える。正しいっす。でも、そんなの!おれが!やりたいことじゃない!」


「口だけは一丁前だねえ」


「だって!!」


 特盛は泣いていた。


「おれ達は!正義の味方じゃないすか!皆を守るんですよ!!仲間だって!どいつもこいつも!!それが、味方を・・・!!!!」


「ふーん。まだ朝まで8時間ある。特盛君も若いし、もう少しできるね」


「こちらは構わないが、有我。お前の負担が」


「気にしないで。特盛君。悔しいかい。辛いかい。じゃあ戦って憂さを晴らそう。君が本当に正しくなるまで。何時までだってボクは付き合うよ。ただし、一一人の時間を使わせおいて途中でやーめた、は通らないよ。その時はペナルティを払ってもらう」


「おれはやめません!!」


「うん。さ、剣を取って。君は死ぬまで戦うんだ。正義には終わりがない。何時でも悪に備え、悪現れれば戦い、悪消えれば、次の悪に備え鍛える、警戒する。君は本物の正義であり続けるんだ。そうであるなら、ボクは君の友達だ」


「・・舐めるなよ。おれはお前なんて気にしてねえ。梅さんに認められてるんだ!お前なんか要るかよ!」


「良い子だね」


 梅は特盛がいつも通りで嬉しかった。全く一一人に気後れしてない。今の一一人が有我で本当に良かった。この国のために戦う限り、特盛は一一人のバックアップを受けられる。本人がどう思うかは知らんが、きっと役に立ってくれる。


 果敢に立ち向かっていく特盛。感情が先行しているかと思いきや、攻めはさらに洗練されていた。


 その動きに有我も機嫌が良い。より高度な、今の特盛よりほんのちょっぴり高等な動きを、見せつつ、叩きのめした。


 千金を積んでもこの個人特訓は受けられん。特盛を連れてきて本当に良かった。


 特盛で、良かった。


 私も神隠しをさらに鍛える!おっと、特盛の気合がうつったか。


「ね」


「なんだ」


「梅ちゃんが羨ましい」


「私と神無では不足か」


「だってー。この子は3名家じゃないもん。よくこんな子見つけたね」


「発見する気は無かった。ただ私の訓練に付いて来ようとして、私を見ながら修練して。結局最後まで付いてきた馬鹿がこいつだったのだ」


「いいなあ」


「怖くなる時はある。私は強さには自信があった。しかし、こいつをちゃんと育てられる自信は欠片も無かった」


「そんなの関係ないでしょ。強くなるのも弱くなるのも、その子次第だよ」


「普通のやつは違うんだよ。私達とは違うんだ」


「そうなの?」


「ああ」


 その時、動く気配があり、2人は会話をやめた。


「お願いします!」


「おっけ」


 特盛は、やめない。


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