表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/100

蹴速、世界を渡る。

「おおおおおおおおおおおおおお!!」


 吠える青年。身長180センチ、体重98キロ。

 その名、対魔蹴速たいまのけはや。ざっと世界最強の人である。

 その人が何故理性を失ったかのように吠え立てているのか?


 物語はさかのぼる。今より1時間前。場所は高知県。


「蹴速あ、部活決めたあ?」


「まだよお。今日入学式やん。色々見て回りたいわ」


「そうやけどよ。でも運動部は決まりなんやろお?」


「それこそ嫌よ。なんで学校で」


「せっかく家で武術やりゆうのに。もったいない」


「だから。家でやりゆことを、学校でまでやらんでいいやん。せっかくの高校生活。文化が香るわあ」


「文化部?武術史?」


「離れろや。武から」


「もったいないて。実家で古武術習ってますとか、絶対面白可笑しい経歴やのに」


「そんなんおれの勝手やん。そういうお前はどうするん」


「ええ。まだ考え中」


「人には言うだけ言うておいて」


「私には蹴速みたいに特技ないもん。仕方ないやん」


「お前こそ何でも出来るやん。全教科満点とか。逆に阿保やろ」


「逆に阿保!意味分からん。これが武術脳ね」


「いや、それは、ええ?」


「蹴速はやっぱり・・・」


「ん」


「ねえ。変な音、せん?」


「する・・工事?」


「工事ってもっとドドドとかゴゴゴとか、そういう音やん。これ、おかしい」


 確かにその音には違和感を感じた蹴速であった。工事の音と言ったのはそれが遠くから聞こえたため。そして広く大きい音だったから。


 しかし。これは違う。耳で聞いているのではない。先程から街のざわめきが止んでいる、つまり、なにがしかの事情で全身が音に触れていない。にも関わらず音が鳴る。


 これは音波ではない。でありながら、この全身を揺さぶる振動。


 (地震・・)


 蹴速が思いついたのはそれだった。大きい地震も予期されている。今起きてしまったのか?その異変で耳がおかしくなった・・。大地震は未体験の蹴速。この推測に満足しかけた、が。


「蹴速!」


「!」


 祝寝すくねが!黒い穴に!吸い込まれ行く!


 (漫画かあっ!!)


「おお!」


 蹴速は祝寝のもとに飛び込み、祝寝の手をつかんだ!


「蹴速ああ・・」


「つかんだ!大丈夫!」


「うん!」


 蹴速の力は、座礁した大型フェリーを港まで1人で引っ張れる。女の子1人、こぼすわけもなし。しかし。


「・・・!」


 蹴速は焦っていた。先程から足をコンクリートの大地に縫い付け、踏ん張っている。祝寝の手を痛めない全力で引っ張っているのだ。それが、むしろ、蹴速までが黒い穴に近づいている!


 この吸い込み。ハリケーン程の規模じゃない。あの時はポケットに入れてた飴玉を取られた。アレ程きつくない、はずなのに。


「蹴速?」


「大丈夫。今。何とか、する」


 祝寝はこの幼馴染が焦る事態をさほど知らない。太平洋から100メートル超えの怪獣が来たときも、日本全土を威力半径に入れた風速1キロの台風も、何だってみんなで解決してきた。いつだって、ここまで焦った顔はしてなかった。何よりこの青年、たいそうな面倒臭がり。だらだら事態の収束を待つタイプではない。事態が起こる前に、その芽を地面ごとえぐるタイプ。こんな、時間、かけるわけない。


「難しいん?」


「いや、まあ、手こずっては」


「じゃあ仕方ないわ」


「ふざけるなや」


「蹴速が頑張って何とかならんことなんて無かった。でも今は何ともなってないやん。なら。しゃーないわ」


「ふ、ざけるなや!」


「ふざけてないわ。手、離し。ただ蹴速も巻き込まれるだけで、どうにもなりそうもない。それより警察とかに言うて救助隊とかさあ」


「阿呆。お前を助けるのが、おれ以外に居るか」


「だってえ・・」


 祝寝は泣いた。助からない自分。もう蹴速とつるめない自分。そして。蹴速に無力感を味わわせてしまう自分。蹴速の、心に、傷を。


「あかん。無理」


「やろう?」


「ああ、やけ、付いていかあ」


「・・もお」


 蹴速は祝寝の顔を見た後、黒い穴に抵抗せず、ただ祝寝の手を握ったまま吸い込みに身を任せた。


 ちい。おれもまだまだ力不足。これからどうなるか知らんが、打開策を練らにゃあ。生きておったら、やけどにゃあ。


 そして時は今。未知の山。対魔蹴速ただ1人。


「おおおおおおおおおい!!!」


 雄叫びを、呼ぶ声を上げる蹴速。もちろん祝寝を呼んでいる。全く未知の場所に放り出された後、蹴速は叫び声を上げた。それは祝寝には残念ながら呼び声ではなく。近場の敵対するかもしれないモノを目覚めさせるためである。危険の芽は種のうちに潰すのがモットーであった。しかしながら、敵は現れず、今は安心して祝寝を呼んでいる。


 だが山は広かった。休み休み20分叫んでも、山彦以外に返答は無かった。


 まずい。手を離した覚えがない。それでも離れている事実。何か、超常的な何かが起きたのだ。自動車を100台連結させていようが引っ張りきれる自信はある。そのおれが、祝寝を離した!


 悩む蹴速。だが、


「音?」


 山中に鳴り響く轟音。それこそ太山鳴動の。


 これは、分からん。聞き覚え無し。爆薬ではない、倒壊でもない、破裂音に近いっちゃあ近いが・・。かつて爆砕させた怪獣もこんな音だったか?


 おぼろげな記憶だが、蹴速は動くことにした。手掛かりは今、何もない。ならばこの音を。今、手に触れたものを、しらみつぶしにしてゆく他ない。


「確かこっち・・」


 だいたいの見当をつけて蹴速は木に登り始めた。およそ2秒で大木の先端に到着。ほんの少しの足場にて、遠くを見渡す。


 分からん。見えん。行くしかない。


 結局目視は出来なかったが、そのまま木の上を跳ね続け、疾走。大音の元までおよそ1キロ。蹴速は木を蹴り潰さないよう、ゆっくりと1分かけて着いた。


「おおお」


 それは百戦錬磨の蹴速を以ってして驚かすに十分な光景。


「初めて見た」


「龍」


 蹴速が、たどり着いた場に残っていたもの。それは巨大な龍の死骸。まさに今殺された温かな戦闘の痕跡を、明らかに。


「居るんや、本当にこんなん・・・」


 蹴速は一瞬、祝寝のことを忘れた。今までの人生で見たことのない、伝説に残りはすれど、一度たりともやりあってない強豪。是非殺してみたかったが。自分の先祖か誰かが、殺し尽くしてしまったのであろうと、諦めていたのだ。


 う、うわあああ。ここどこ!また今度、暇なときに遊びに来よう。


 新しいおもちゃを見つけてしまった蹴速は少し興奮してしまったが、すぐに頭を切り替えた。


 ついさっき戦ったばかり。まだその辺に戦ったやつが居るだろう。人だと、いいけど。


 龍をやったのは虎でした、ということも頭の片隅において、蹴速は動き出した。


 龍の死骸があった場所には道があった。すごい話だが、道路上で猫やタヌキがひかれているのと似たようなものだった。この道の下りを選び歩む。


 およそ時速20キロ。安全な、人にぶつからない速度で歩いていた。ここに来るまでの、樹上からの光景は間違いなく山でしかなかった。建造物は何も見えなかった、はず。流石にここまでの山には入ったことがなかったので、少し不安はあった。


「お」


 蹴速は建物を見つけた。家を。


 高さ3メートル程、奥行があり、広い。倉庫のような家だ。


 チャイムを鳴らして蹴速は挨拶の言葉を考えた。

 女の子探してます!いや初対面でこれは。人探しをしているのですが・・・。これかな。


 チャイムと同時に家の中で動く気配がし、それから1分。


 完全武装の兵が出てきた。


 見たことないな。


 蹴速は取りあえず有名な強者の姿形を知っている。超騎士、古強者、無双双児、彼ら彼女らに代表される世界の戦士を知っているつもりだ。しかし目の前の兵達の格好は見たことがない。普通、有名所の格好から派生するものだが。かく言う蹴速も、スタイルを真似る後進が出てきて、恥ずかしいやら誇らしいやらである。


 古い和装のような姿形。露出は少ない。頭部の鉢金から始まりあちこちに金属部品が見える。日本で蹴速が知らない実力者、もしくは蹴速を知らない者はそう居ない。仮にも世界最強は伊達ではない。では彼女らは・・?


「あ、どうも。あの・・」


「何者か」


「あ、あの、人を探してまして」


「目的ではない。お前は何者か」


「え?ああ、対魔蹴速と言います。初めまして」


「知らない。故に死ね」


 武装兵からの斬撃。大地を切り裂きえぐり、5メートルほどの跡が出来た。つまり、蹴速には当たってない。


「あの、本当に怪しいものではなくて」


「問答無用!」


 一太刀で切り捨てるつもりもなかったのか、避けられても動揺を見せず、次から次へと斬りかかる。無論それら全てを回避し、蹴速は尋ねた。


「あの、もしかして、おれ指名手配とかかかってます?」


「くどい!消えろ!」


「あ、はい。お邪魔しました」


 そう言って蹴速は背を向け、とぼとぼと道を下っていった。背後からの攻撃を全ていなしながら。


 ここまで悪評が広がっている?えーでも、あの時は他の人のが被害多かったやん。おれだけ嫌われてないか?

 

 過去に人家を、建造物を破壊しつつ、怪獣の類を殺ってきたこともあるので、恨み言も慣れていた。ここまで攻撃されるのは久しぶりだが。


「待て!ここから先には行かせん!」


 ええええ。消えろ言うたやん。流石に死にたくはないけ、見逃してくれよ。


「あの、申し訳ないんですけど、おれも死にたくないんですよ。なので通りますね」


「待ってくれないか」


 蹴速を攻めていた人とは違う声。もっと大人っぽい。


「君はフォーデス山脈から下りてきた。それは間違いないんだね?」


 蹴速は首をかしげた。


「いえ、おれは交差点に居ったはずながですけど」


 なんとなく土佐弁で答えてしまった。


「交差点?フォーデスと、何の交差点なのかな」


 何故か緊張している。よほどそれがキーワードなのだろう。


「あー、うーん。・・・全く違います。おれらあが居ったのはこんな場所じゃなくて。おそらく、空間転移の何かに巻き込まれたんです」


「ほう。ならばここに居たのは偶然と」


「あ、はい。アクシデントです。あの、それで、それに同じように巻き込まれた人を探してるんですけど」


「なるほど。アクシデントだったのか。それで」


「ええ。黒い穴に吸い込まれてしまって」


「それは大変だったね」


 斬りかかってきた方の戦士が、うさんくさそうな目でこちらを見ているが、話をしてくれる方の戦士は落ち着いている。むしろこちらのが怖さは有る。斬りかかってきたやつは、いつでも倒せた。だが話をしてくれるやつは、まだ隙を見せてない。倒せるかどうかまだ分からない。

 

 ちなみに両方女性だ。斬って来たやつは、短髪の女性。服の上からでも筋肉の盛り上がりが分かる。よほど鍛え込んでいるらしい。話をしてくれる方は髪の長い女性。綺麗な美人さんだ。だが、すごい綺麗な姿勢でもある。多分、短髪とはレベルが違う。


「先輩」


「んん?」


「やりましょうよ。絶対にこいつ、ただものじゃないですよ。生かしておくより消したほうが」


「ふむ」


 目の前で言うなと。


「確かに。このような服装、気配、知らない。そして強い。しかし、お前を殺さなかった。おそらくだが、いつでもお前を殺って、私と1対1でやれたはずだ。信じてよいと思う」


「それはそうですけど・・」


 後輩?のほうも分かっていたらしい。蹴速が手加減をしていたこと。


「あの。おれもあなた方と戦いたいのではないです。どうやら緊張する必要のある場所らしいですね、ここ。でも、信じてほしいです。おれはあなた達の敵ではないです」


 対魔蹴速。15才。話術は不心得であった。


「信じるよ。君にも私達を信じてほしい。君の事情を聞かせてほしい」


「あ、はい。おれの知ってることでよければ」


「いいんですか先輩」


「殺せないなら仕方ない。信じて話を聞くのがマシというものさ」


「先輩なら。おれだって擦り傷くらい付けますよ」


「無理だ。私でも勝つ自信はない」


 先輩の兵士。まだ家の外の蹴速がチャイムを鳴らす前から、気付いていた。少し前の龍の存在感。龍を倒した者。そして、近づいてきて分かった、龍より大きなモノ。


 即座に後輩を街へ走らせるべきであった。いや、身動きが取れなかった。ただただ普通の娘のように茶を飲んでいただけ。外に出れば全てが終わると思ったから。


「話は中で。茶菓子くらいならあるぞ」


「どうも。いただきます」


 後輩はおいてきぼりで、2人は家の中に。頭を振り振り後輩も後へ。広い。スペースがある、というより物がない。倉庫のように見える室内。2階建ての1階部分は土間のようだ。靴を脱ぐ場所が奥に見える。 


「何がいい?コーヒーと緑茶、あとは、インスタントのスープもあるぞ」


「えーと、コーヒーお願いします」


「これもインスタントなんだが。味わってくれ」


「ありがとうございます」


 先輩の方の兵が手ずからコーヒーを入れてくれる。女兵はそのまま自分の分のコーヒーも入れ、後輩のポタージュ?も入れている。後輩は茶菓子として、煎餅やらチョコやらどんどん出してきた。テーブルの半分が埋まった所で用意が終わったようだ。


 土足のままで、兵の2人は服装はそのまま硬質のベンチに座る。兜を脱ぎ座っているベンチに置く。蹴速も対面する位置に座る。


「楽にしてくれ。飲みながら、食べながらでいい。まずは自己紹介。私は三鬼梅みき うめ


「おれは平特盛たいらのとくもり


「おれは対魔蹴速たいまのけはや


「改めて座してみると、まだ若いな」


「ああ、いや、15ですからね」


「15!その年で、もうそんなにでかいのか!」


 特盛が勢いよく突っ込んできた。


「あはは」


 体格の話は愛想笑いで返す。面構えも相まって、いつも老けて見られる要素になっているのだ。


「花も恥じらう高校一年ですよ」


「ほう。学生か。既に熟練の兵といった趣だが」


「ああ、まあ。実戦は適当に行なってます」


「謙遜を。特盛とやった時の動き。全くよどみを感じさせない。こいつも十分に使える兵なんだがな」


「ありがとうございます。しかし確かにおれでは、蹴速には通じませんでした。お前、どれくらい強いんだ?」


「うーん」


「私も気になるな。おそらく私より強いはずだ」


「そう、ですね・・・。多分世界最強だと思います」


「・・・・・・」


「・・・・それは言い過ぎじゃないのか」


「君の目では本当に?」


「はい。五分のやつとかも結構居たんで、あまり偉そうに言えませんけど。負けたことはないです」


「すごいものだな。繰り返しになるが、その年で」


「世の中どうなってんだよ・・」


「うーん・・・。確かに今はおれが世界一くさいですけどね。でも明日はどうなっているか。もっと強いやつが居るかもしれない。そんなもんですよ、最強とか。日替わりの日直みたいなもので」


「おれは、なれねえよ!日替わりであっても!」


 強い突っ込みの特盛。


「ちくしょうが。先輩始め強いやつがごろごろしてるのは百も承知。しかしなあ・・・・。改めてお前みたいなクソガキが、化け物みたいに強いなんて聞くと」


「ちょっと、ひどいですよ、特盛さん」


「黙れ。くそ・・・」


「お前もそう変わらんだろ。19だったか」


「19才なら強いほうですよ。決してぬるい太刀筋じゃ、ありませんでしたよ」


「お前に言われてもな。お世辞だろ」


「はい。すみません、特盛さんレベルなら、まあ、普通じゃないかな、と」


「ち。まあ、先輩は強いんだろ、お前の物差しであっても」


「んー。まだ分かりません。簡単に勝てる、とは言えない。そんな感じです」


「有難う・・私は、君に勝つ自信は、ないがね」


「すごいですね。おれ、相手の強さとかよく分からないんですよ」


「それでよく生き残れたものだ」


「はい。ラッキーなことに、今までおれより強いやつに出会わず生きてこれたんで」


「嫌味のようだが、本音か」


「はい。強いやつは強いし、弱いやつは弱い。砂糖が甘い、塩が辛いってのと同じことです。普通ですよ」


「・・もう理解も出来ねえ世界の話だ」


「んなことないですよ。特盛さんも、そのうちこっちに来ますよ」


 大量にある茶菓子は、主に特盛が口に運び続け、蹴速と梅もぽりぽりつまんでいた。


「もう」


 特盛は感嘆と観念のため息を吐き出すと、自分のカップにお湯を注いだ。


「それで。そこからどうやってここに?違う世界から来たようだが」


「それが、分からないんですよ」


「ふーん。最強でも分からんもんは分からんか」


「そりゃね。他人と比べて強いって意味でしかないですよ、最強なんて。全能、全知ってわけには」


「ほっとするご意見だな。参考にさせてもらうぜ」


「・・どうぞ」


「君は。最初、人を探しているとか、言っていなかったかな」


「あ、はい!そうです!そいつを・・」


「落ち着け。もう、ちゃんと聞くから」


「はい」


ゴホン


能美祝寝のみのすくね。という女の子を」


「女子か。どんな姿だ」


「そうですね。髪は長いです。背中の途中まで届いてるかな。いつもは、それを束ねてくくってるんです。それで服はおれと同じ色で、こう、女子らしい、というか。スカートです」


「ふむ。長髪で黒い服の女子か。それは目立つな」


「え?自分で言うててなんですけど、いくらでも居る格好じゃないですか」


「君はこちらの風俗に詳しくはないのだろう。黒い服は縁起が悪いのだ」


「はっきり言って、葬式でもないと黒服なんて居ねえ。めちゃくちゃ目立ってるぞ、そいつ」


「葬式の際にはむしろ黒服以外は縁起が悪いのだ。面白いだろう?」


 そういえば、梅は紫色の髪。特盛は緑色だ。人の外見など一切気にしていなかったが。


「ええ。はい。ん?どういう扱いになるんです?」


「別にどうもしないさ。ただ目立つ。人に聞けば一発だ」


「おお!それはありがたいですね」


「聞き込みするんですか」


「いや。歯牙を頼る」


「あの人ですか。じゃあその後ピンポイントで探せるってことですね」


「ああ。安心していい。今日明日のうちに探し出してあげよう」


「?ありがとうございます!」


「信じにくそうな顔だな?」


「いや、まあ」


「今まで当たらない占い師に当たっていたのだろう。大丈夫だ。私の使うやつは当てる」


「大船に乗ったんだよ、おめーは。安心しろ」


「あ、ありがとうございます」


「どうだ。少しは腹が満ちたか」


「はい。本当にごちそうになって」


「じゃあ下りるか」


「はい」


「え」


 梅と特盛はおもむろにテーブルを片付け始め、蹴速もなんとなく手伝った。


 下りる?まあいいわ。茶菓子に見覚え有りまくりで、異世界感ゼロなんやけど。どれもこれもスーパーで見たわ。というかバーコード有るし。ここ日本やろ、絶対。

 

 蹴速はここが、自分の居た世界と全く関係のない異世界であると思っていなかった。おそらく平行世界とかだと、可能性の幅を狭めた。


「忘れ物はないな?」


「あ、はい」


 おれの手荷物っていうか、学校からの帰りに持っちょったカバン。あれどこ行ったがやろう。


「おれも大丈夫です」


 兜を着込み、その辺に有ったのだろう私物をリュックサックに詰め込んだ特盛が答えた。同じくリュックを背負った梅が家の外に出る。特盛と蹴速も続く。家の戸締まりをする梅。ぼやっとしてる蹴速。蹴速をじろじろする特盛。 


「もう来るはずだ」


「はあ」


「と、言ったら来たな」


 家の外で突っ立ってた3人。下り道の先には、まだ何も見えないが。1分経ったかどうか。


 お目当ての者達が来た。梅達と同じ格好。つまり鉢金に和装。それが2人。


「おや。梅、そちらの御仁は」


 にこやかに語りかけてくる男性の声。しかし、梅と同じく隙がない。男の後ろに居るもう1人も、こちらを伺っているようだ。


「ああ、いや。信じがたい話なのだがな。異世界から来たらしいのだ。こいつは。それを今、街に下りて色々とな」


「なるほど。さっぱり分からないが、大丈夫なんだな?」


「ああ。信じてほしい。簡単に人に害を為す男ではない」


 梅さん!


 蹴速少年、ここまで言われると感じ入ってしまう。


「行かせてもらえるだろうか」


「うーん。見覚えのない者を連れていって良いのかどうか。しかし、梅は連れていくんだな。なら、良いんじゃないかな」


「そうか。ありがとう」


 良いんか?説明になってなかった気がするが。


「どうも・・・。その子、おそろしく強い・・よな」


「ああ」


「ははは。特盛が斬れなかった・・ということ。そして梅が対等に扱っている。こわいなあ」


「流石に見えるか」


「そりゃもう」


 梅と男の間で話がまとまっているようだ。その間、蹴速、特盛ともう1人は黙って聞いていた。


「止めることも出来なさそうだしな。良いだろうさ。連れ帰れば何か有る、んだろう?」


「まあな。何とかしてみるよ」


「なら、そういうことで。お疲れさまでした」


「はい。ここからお願いします」


 2人がお約束の言葉を並べて、交代が完了したらしい。


「さあ行こう」


「はい!」


「はい」


 やけに気合の入った特盛。


「ここまで全く出なかった。そこまで気合を入れなくても大丈夫だよ」


 男の兵が特盛をリラックスさせる。


「とはいえ、気を抜くなど」


「特盛の美点だからな。真面目で結構。頼りにしている」


 気を張る特盛。清々しい梅。2人の後をついて行く蹴速。3人はゆっくり歩く。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ