第9話 離れゆく仲
節が告白した次の日、聖奈は節に琥珀石を渡せないまま、時間が経とうとしていた。
「・・・・ズビ。」
昨日の雨のせいか、物凄く体が怠いのだ。
「う~・・・お腹重いし、頭痛いし・・・・学校休むかな。」
聖奈は携帯を開いて美和にメールした。
「ま、これでよかったのかも。あの後節ちゃんに会うのちょっと気まずいって思ってたし♪」
なんて、のん気に文字を打っていった。
学校_____
「ん、おい今日聖奈は?」
節が、ガランとした聖奈の机を見ていった。
「あー、今日休みだって。体調悪いらしい。」
「マジかよ・・・・・」
節は心底ガッカリしたように机につっぷった。
(俺の答え、きけねぇじゃねーかよ・・・・・)
不意に首のネックレスを触る。
(琥珀だけ、ないんだよな。どっかで落っことしたみてえだけど、聖奈の家に行くまではあったんだ。おそらく、切れちまったんだよな。あのときに。)
溜息を漏らすと、賢明が普通通りに頭をごついてきた。
「どうしたんだよ、節!まるで失恋したかのように。」
「うっせーな賢明ー。それよりお前らどうしたんだよっ!?」
「どうしたって??」
「話題とやらは済んだのかーっ?」
「あぁ、なんだ節も気づいてたのかよ。解決したぜ。なぁ?」
「おうよ!賢明のおかげさんで♪」
「よかったなー。」
「なんだよその言い方。」
「別にィ?」
テンション下げ下げなまま、二人に振り向く節。
「じゃあ、なんでもなかったのかよ、お前ら。」
「ただの助け合いだけど?」
「あっそ。」
いつもの節ならホッとしたところでも、今なら何があってもテンションは上がんないのであった。
その放課後、節は心配になって聖奈の家によることにした。
しかし、昨日のことがあってか、流石に中に入る勇気はなかった。
しばらくアパートの前でジッとしていると、そこに車が止まった。黒いヴェルファイヤー。この住宅地では結構見掛けるそれに乗った者は、逞真であった。
車から降りると、節を睨むように近寄った。
「何か用か?」
「聖奈は大丈夫なんだろうな!?」
「・・・何の話だ?」
「今日学校休んだことだよ!」
逞真は少し沈黙して考えた。
「あぁ。確かに青白い顔をしていたが・・・学校を休んだのか。それはまずいな。」
「あんた・・・知らなかったのかよ。」
「まぁな。体調を見る前に勤務時刻となった。」
「チ・・・・」
節はどうしても逞真のことを許せそうになかった。直接節に関わったわけでもないが、昨日の聖奈の話を聞いてから、節の中での逞真の存在が一層悪くなったのだ。
二人はいつかのように睨み合った。
ガチャ
(・・・本当だ。寝てやがる。)
聖奈の部屋に入ると、そこには人というよりもベットの上に大きな塊があるようだった。
逞真は聖奈のベッドに腰を落とした。すると、毛布の山がゴソ・・と動く。
「聖奈、さっき津田が来ていたぞ。」
「えぇ・・・?」
聖奈は火照った顔を布団から覗かせた。
「お前をとても心配していた。」
「なんだよぉ・・・、インターホン押せば行ったのに。」
「お前、体調は大丈夫か?学校を休んだそうだが。」
そういうと、妹の額に手を当て、次に襟元を触った。
「けほけほっ。」
「・・・咳もしてるし熱っぽい。鼻声だしリンパ管も腫れている・・・昨日体拭いてなかっただろう。完璧な風邪だ。」
「けっほこほっ!咳出るし熱あるし鼻声なのもそうなんだけどぉ。」
「?」
逞真が小さく首を傾げると、聖奈は顔を赤くして声を張り上げた。
「私今日女の子の日なのっ!生理痛でお腹だるくてベッドから出られなくて・・・」
逞真は一瞬調子狂った顔をしたが、不意に口端を上げる。
「そうか。それは失礼した。」
「ホントさ・・・」
「・・・よかった。」
「なにがぁ!?」
「いや、別に。」
「なにさ、気になるじゃん!」
逞真は聖奈を目線から外して口を開いた。
「昨日の様子を見ると放課後相当なことしてるんじゃないかと。」
「昨日・・・?」
「津田となにやら接触してなかったか?」
聖奈はかあっと顔を赤くした。
「なっ、なんでそれを・・・!?」
「悪いが、拝見させてもらった。不審だったからな。」
「ばっ・・・バッカじゃないのっ!?勝手に覗き見するなんて趣味が悪いのにも程があるってーのっ!!」
「済まない。お前のプライベートに首を突っ込む心算はなかったんだ。」
「勘違いしないでよね?あれ、節ちゃんが勝手にやってきたことだからっ!私は別にキスしたいなんて思ってなかったんだって!!」
「わかっている。聖奈がそういう奴ではないのはいつも見ていて理解できる。・・・昨日のとこでショックを受けていないのなら俺の心配する意味もないだろう。生理で休んだんだな?」
「うん。こんくらいなら学校イケるなbって思ってたらやっぱ体はいうこときかんのね。」
逞真はフッと苦笑した。
「本当に学校や友達が好きなんだな、お前。羨ましい。」
「兄ちゃん、好きじゃなかったの?」
「・・・・」
黙然とする逞真。教師のくせして、学校のような場が面倒だった自分にただ冷笑していたのだ。
「教えてよ。先生だからっていうプライド今はどうでもいいからさ。なんで嫌いだったの?」
「嫌いというか、面倒だったんだ。勉強はまだいいさ。脳を鍛える行為だから。何故かクラスメイトがいる理由が理解し難かったんだ。中等の後半、高等までだったがな。人同士の醜い派閥争い、客観的に団栗の背比べのような馬鹿馬鹿しい仲違い、イジメ、恋愛の嫉妬心・・・・・何もかもが無駄。ややこしい組織だ。友情も、正しいことを求めてなければただの同類の集まりだとさえ思った。ま、教員やっててそういう気は無くなったのは確かだ。だから、聖奈とか津田とか、高校の内で理解して楽しめる奴らが羨ましい。」
「そっかぁ。確かにわかるかも。自分がこんな想いするなら初めっからなにもやんなければよかったって。実は昨日も。」
聖奈はニカッと笑ったが、目は笑っていなかった。むしろ、辛くてどうしようもない感じだった。
「お前、初めてだったんだろう?」
「うん・・・。しかもそれが今まで友達だって思ってた男子。ヤツは私のこと好きだって言ったよ。知ってるでしょ?・・・でも、私は正直わかんないんだ。好きだって言われたらその気持ちに応えてあげるべきだけど、自分自身が同じ気持ちになれないと思うんだ、今は。だって、今までワイワイやってた自然な仲だったんだよ?はぁ・・・・」
「・・・・・」
「兄ちゃん、私、どうしたらいい・・・?」
聖奈が助けを求めるように声ですがると、逞真は真っ直ぐ聖奈を見詰めた。
「・・・・それは、お前自身が決めることだ。」
「・・・・・そう、だね。」
「済まない。俺はそれくらいのことしか言えん。」
「いいよ。それが、一番の答えになったんだもん。」
「本当?」
「うん。」
逞真はスクッと立ち上がった。
「もう、行ってもいいか?」
「あ、うん。なんかゴメン。」
「いい。」
「ありがとっ。」
「お大事に。」
逞真は微かに微笑んで、ドアノブをひねった。
バタン
聖奈が学校に復帰しても、その微妙な仲は途絶えたままだった。
気まずくて、今までのようにいかないのだ。
美和と賢明が頑張って二人をくっ付けようとしても駄目。琥珀石も渡せていないままだし、聖奈の心は滅茶苦茶であった。
「聖奈。節が会いたがってたぞ?」
賢明が聖奈のもとへやってきた。
「絶対違うっしょ。逢いたくねーって顔に書いてある。」
「馬鹿だなぁ。アイツの性格、お前が一番わかってんじゃん。そーゆーの隠すほうじゃん?」
「・・・まぁ。」
「何があったか知らねぇけど、会ってやったらどうだ?」
「私のほうがそんな勇気ないよ!・・・あ、そうだ。」
聖奈はポケットから、節の琥珀石を出した。
「これ、節ちゃんのなんだ。渡しといてよ。」
賢明は首を振った。
「お前が渡せよ、聖奈。そのほうが二人にとってもいい。」
「どういう意味ー?」
「自分で考えろよっ!」
ガシガシと聖奈の頭を撫でた。
「?」
聖奈は混乱した頭で、賢明を見上げた。
一方節のほうには美和が助っ人に行っていた。
「節ー、なんで聖奈とこの頃亀裂起きてんのさ?」
「俺が知るかよ。あっちが会ってこないんだろー?」
「節、なんかしたの?」
節はムキになる。
「し、してねえよ!!」
「はぁ・・・図星か。節って突っ走っちゃうからねぇ・・・。」
「ほっとけよ。」
「ほっとくから、聖奈とこうなっちゃったんじゃないか。」
「・・・・そうだけどよ・・・・」
「メールとかしてみれば?」
「そんな勇気、俺にはねぇよ。美和ちょっと聞いといてくれよ。なんで節と会わないの?とかさー。」
「自分ですればいいじゃんか。」
「はぁ・・・・マジかよ・・・・」
節は舌打ちして、携帯のキーを押した。
〈なんでそんな余所余所しいんだよ?俺のこと、嫌いか?_せ〉
その時点で、節は耐え切れなくなってその文章を消去した。
「駄目だ!俺にはできねぇ・・・・」
節は恋愛小説とかでよく見る、ラブレターを書くのに苦労して何回も書き直す場面が浮かんだ。
(俺は、恋愛小説の主人公かよ・・・・はっ、笑える。)
その絶望的な表情を、ただ美和は見守るしかできなかった。
「賢明、聖奈どうだった?」
放課後、二人だけの秘密基地で美和は木の上から賢明に話し掛ける。
「全然だめだ。節のことになると、心閉ざしちゃってるみてぇだ。」
「節もだよー。メールしたらって言ったら、そんな勇気ないって。」
「似た者同士だよなー、あの二人。」
「ホントさ。」
二人は溜息を吐いた。
「難しいねぇ、関係をくっつけ直すって。」
節と聖奈の仲がぁぁぁ!!
どうすんでしょ、これから。。。
次回もヨロシクです☆