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友情の刹那  作者: wokagura
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第8話 節の本音








 この頃美和の様子がおかしい。授業が終わり、休み時間になると


「はぁ・・・・」


 と不安そうに携帯を見ては閉じ、溜息を吐いているのだ。


 それに逸早く気づいたのは賢明で、最初は気に留めなかったものの、ときが経ってくにつれてだんだん気になっていったわけだ。


「よう、美和。なんかあった?」

「あ、賢明!・・・いや、別になんでもないよ。」


 その言葉を聞いて、賢明は困ったような顔をした。


「絶対違うだろ。何があったんだよ。」

「・・・・・・」

「俺たちの仲だろ?なんでも相談出来んじゃないのか?」

「・・・・だよね。」


 美和は賢明を信じて、微笑んだ。


「誰にも内緒にしてくれないかな?結構噂になったらヤバいことだから。」

「勿論。」

「賢明を信じてるから、だから言うからさ。」

「おう。」


 決心したように再び美和は唇を開いた。


「姉ちゃんが、行方不明なんだ。」

「行方不明」

「うん。ここ何日もずっとでさぁ。一度だけメール入ったんだ。」


 そう言って賢明に自分の携帯をみせる。


〈美和、沙和(さわ)の分まで家に貢献しろよ(^o^)/サラバだ!_沙和_〉


 賢明はフウッと小さく溜息を吐いて、顎に指を当てた。


「なんか悩みがあったような書き方じゃねぇなぁ・・・・。」

「そうなんだよ。でも急にいなくなったからこれもなんか関わってんのかなって思って、だからさっきから携帯見てたわけ。」

「確かに”沙和の分まで”って書いてあるしな。親と喧嘩でもしたんじゃねぇの?」

「そうなのかなぁ。」

「なんか心当たりとかないの?」


 ”あ”といって美和は賢明に耳打ちした。


「あんま大きな声で言えないんだけどさぁ・・・」

「なになに。」


 コソコソと伝える。


「援助交際!?」


 一気に注目を浴びる二人。美和はブンブン首を振って賢明の肩をベシッと叩いた。


「バカっ!声デカいってーのっ!!」

「わりわりっ!でも・・・今確かに援交って言ったよな?」

「うん・・・。だって見たんだ、前。姉ちゃんが、男にもらった金を数えてんの・・・・・。そのことで問題になって、もしかしたら家を出ることになったのかも・・・!」


 美和の言葉がだんだん強くなっていって、ついには泣き出してしまった。


「なんで・・・!?どっから間違っちゃったんだよぉ・・・・・!!」

「美和・・・落ち着けよ・・・・」


 賢明は机に顔を伏せる美和の背中を静かにさすった。


「お前がそんな泣くことないだろ?」


 そして美和の前の席に腰かける。


「そりゃ、姉貴が行方不明になって心配になるのはわかる。ヘンな心当たりがあって考え込むのもさ。でも、それは美和がそんなに悲しむことじゃねぇよ。」


 美和は思わず顔を上げた。


「それはお前の姉貴のことで、美和のことじゃねぇんだ。大丈夫、なんとかなるさ。」


 賢明の今の言葉が身に染みて、美和は涙ながらに微笑んだ。


「ありがと・・・賢明・・・・。」

「いや。」

「あっ、賢明!このこと・・・・節と聖奈にも言わないで!!親しい関係だとさ、言いづらいことだってあるじゃん?」


 賢明は美和の気持ちを悟った。


「わかったよ。俺も、いち早く解決するよう手伝えることは手伝うからさ。」

「よろしく・・・・頼むよ。」










 






 その日から、二人は二人だけの話題で話すようになった。勿論、美和の姉・沙和のことであるが、そんなこと他人(ヒト)は知ったことじゃない為、まるで節と聖奈を仲間外れにするようにまた付き合っているように見えたのだ。


「美和、それでさぁ・・・・・」

「うん。え、マジで!?」


 それを見ていた節と聖奈は別に何も気にしなかった。仕方なくこちらも二人だけで話しているが。


「別にいいよねぇ?」

「んー。帰るときも最終的にペアで別れるし、そこで積もる話題でもあんじゃねぇ?」

「だよねー。節ちゃんのお母さん亡くなったときだってこんな感じだったし。あ、そういえば昨日コンビニでさ、新しいプリン発売したんだよぉー!」

「うっそ、そこどこだよ!?」







 そしてその昼休みのこと。聖奈はクラスメイトに声を掛けられた。


「ねぇ、聖奈。」

「ん、どうかしたぁ??」

「最近さ、どうしたん・・・?」

「・・・・なにがぁ?」

「4人の仲だよ!最近2、2に分かれてるじゃん!」

「そうだけど・・・・そんなに気になること?」

「だって、クラスで結構噂になってるんだよ?美和と久田君が付き合ってるとか、2人ずつでケンカしてるとか・・・・。」


 聖奈はブンブン首を振った。


「ケンカなんてしてないよっ!!なに、そんな噂になってんの!?」

「ちょっとね。だっていつも4人でいるでしょ?」

「まぁ、そうだけど・・・・」

「じゃあ、付き合ってたりとかは?」

「う~ん、多分ないとは思うけど・・・。」


 聖奈が賢明を美和の姿を上目で見詰めた時、節がやってきた。


「よう、聖奈!ってどうした?」

「あ、いや別に??」


 クラスメイトが


「この二人は?」


 と訊いてきたので、聖奈は声を張って


「絶対違いますっ!!」


 と答えた。

















 その日の帰り道、聖奈はまるっきり学校から節と二人だけで帰った。


「節ちゃ~ん。」


 節は自転車、聖奈は歩き。不利だと言い出した聖奈をしょうがないから節が乗せてあげている。


「あん?」

「昼休みさぁ、私女子と話してたじゃん。」

「あー。」

「噂になってるらしいよ。賢明と美和のこと。」


 それだけで節は察した。


「らしいな。いきなり二手に分かれちゃ、誰だってそう思うだろ。」

「流石の節ちゃんもそう思うかぁ~・・・」

「流石のってどーゆー意味だよっ!?」

「ははは。」

「何笑ってんだよ。ヘンな奴だなぁ。」

「やっぱ、二人だけじゃあ、物足りない気がするな。」

「そうかぁ?」


 聖奈は前に美和が言ってたことを思い出した。


『でも・・・ホントにそんな日が来るかもしれないね。3人どころか2人とか・・・・もしかしたら最終的に孤立しちゃうかもよ?』


 節が礼乃と仲が良かった時の言葉だ。


「ホントに、付き合ってんのかなぁ、あの二人。」

「さーなっ。」

「真面目に考えてよ!」


 節の呆気のなさにその背中をベシッと叩くと、思いも由らない言葉が返ってきた。


「ま、美和と賢明が付き合ってもいっか。だってそうなったら、聖奈と付き合えばいいんだもん。」


「____え・・・?」


 節は黙ったままだ。聖奈は自転車を止めようと、精一杯足を地面に引きずった。仕方なく節はブレーキを掛けた。


「なんで急に止めたがんだよ。」

「・・・それ、また下手な冗談?」

「何言ってんだよ。」

「ってことはマジ?」

「マジ。」

「・・・・ウソォ・・・・?」


「それじゃ、駄目か・・・?」


 珍しく、節の言葉に”真面目”なものが含まれた。顔も見れば深刻だった。


「駄目って言うか・・・節ちゃんと今以上の関係になんの考えられなくて・・・・節ちゃんとは高校生活でずっとこのままだと思ってたからさ・・・・勿論賢明も!!」

「・・・・っ。」


 節は再びペダルをこごうとした。


「待って!待ってって、節ちゃん!!」


 聖奈の言葉は届かず、自転車はぐいぐい進んでいく。節の心情は風の様な勢いが感じられた。


 あっという間に聖奈の家に到着してしまった。


「・・・ありがと。」


 そういうと、節もサドルから降りた。


「え?なに、寄ってくの?」

「入りてぇんだ。」

「で、でも・・・」

「どうせまだ夕方だろ?あの兄貴夜になんねーと帰ってこねぇって。」


 アパートの駐車場を見て吐き捨てる。聖奈のスクールバックを引っ張って、無理矢理家に入った。


 







 聖奈の部屋に入ってからの節の熱情ぶりには、聖奈も驚きのあまり黙り込んだ。


 聖奈をベッドに押し倒して、その上に自分が覆い被さって、まるで悔しがる子供の様な表情で想いを口にし始めたのだ。


「お前・・・気づいてなかったのかよ。俺、ずっと前からお前のこと好きだったんだぞ?砂浜で洞窟にいた時にこの気持ちに気づき始めて、母さんが亡くなってお前にそれ伝えた時はもう確信してたんだ。聖奈のことが好きなんだって。大好きだって。お前と話してたら、嫌なことは全部忘れられて、心が安らいで、他の二人とは違う感情抱いちまったんだ。」

「・・・・・」


 こんな状況初めての聖奈は、ただただ黙るしかなかった。声を出すことができなかったのだ。








 ガチャ




 玄関が開く。逞真だ。

 逞真は玄関にある靴を見て、思い切り不機嫌な顔をした。眉根を寄せて


「津田・・・・」


 と静かに呟く。思考回路を循環させると、逞真は不安で不安でいてもたってもいられなかった。


 自分の荷物を置き、聖奈の部屋の扉による。ドアと壁の隙間を覗くと、二人の姿が見えた。思わぬ二人の体勢に驚愕したが、声を漏らさないように部屋の中を覗いた。


「・・・賢明と美和が付き合っていようがなかろうが関係ねぇんだよ。俺の気持ちは変わんねぇ。だから、付き合ってくれ!聖奈、お前の気持ちはどうなんだよ!?なぁっ!?」


 聖奈はガクガク震えていた。涙目で節を見ている。


 聖奈も流石に感じだのだ。節が怖い。クラスの皆が言っていることが今ならわかる気がすると。


 妹がこんな状況に遭っているのに、逞真は動けなかった。自分の情けのなさに、冷笑する。


「何か言えよ・・・・おい。」


 節は聖奈のシャツの襟のボタンを乱暴に外し、顔を近付けた。聖奈はその肩を掴んで悶えようとした。


「フッ、何だお前。初めてなのか?ハハ。」


 目が笑っていない。耳元でそっと呟いた。


「まだ何もしてないだなんて・・・・真面目だね。まるでお前の兄貴のよう・・・・」


 その言葉に聖奈はカッとなって癇癪を起した。


「違う、聖奈は兄ちゃんみたいな真面目じゃないっ!!なんでみんなそんなこと言うの?真面目真面目・・・・兄が例えそうだとしても妹の私にはカンケーないじゃん!!なのに二人一緒にされてさ・・・・。兄ちゃんのせいで、私のやりたいことも制限されてるんだよっ?私だって今どきやりたいことだってあるよ!!なのにできなくて・・・そのせいで真面目って言われて!」


(聖奈・・・お前、こんなこと思っていたのか・・・?)


 その心情には逞真も唖然となった。心にチクチク何かが刺さった。


「聖奈、落ち着けって。」

「ヤダッ!!」

「落ち着けって言ってんだろ!?」

「ッ____」


 節は、無理矢理聖奈にキスをして口を封じ込めた。聖奈は頭が真っ白になって、押し黙った。


「・・・・・・っ・・・・・・・」


 逞真のほうも、あまりにも衝撃的で今まで立っていたところ、床に崩れ落ちた。体の震えが止まらない。


(今の高校生というものは・・・・こんなに激しく、痛々しく魅せつけられるものなのか・・・!?)











 それから、しばらく時間が経っていた。








 気まずくなり始めた時、聖奈が口を開いた。


「帰って、節ちゃん。」

「聖奈・・・」

「節ちゃんの気持ちは、よくわかったよ。でも、自分の気持ちが整理できないんだ。ごめん。だから帰って。帰ってよ!」


 最後を少し怒鳴り気味に、聖奈は言った。節は無言でドアを開ける。


 部屋を出ると、リビングには逞真がいた。服は私服に着替えており、コーヒーを片手にパソコンをいじっていたのだ。


(ゲッ・・・駿河逞真・・・・・)


 逞真は節に気づき、ゆっくりとそちらを向いては、ギロッと一段と冷酷な瞳で睨んだ。


 節はギクシャクしながら


「お邪魔しました。」


 とだけ言い、玄関を出ていった。









 聖奈は、自分の部屋でベッドに横たわっていた。不意に起き上がると、そこには節の母親の形見である琥珀があった。おそらく、キスをしたときに、勢いで切れてしまったのだろう。


 急いで渡しに行こうと部屋を出ると、兄の姿にビックリした。


「うわっ、兄ちゃんいたんだ。おかえり。」

「ただいま。今日午前授業だったんだよ。部活済ませて残業終わらせたらいつもより2時間近く早くなったというわけだ。」

「そ、そっか。」

「・・・どうした?様子がおかしいぞ。」

「う、ううん!ちょっと外行ってくるね!」


 そそくさと家を出る。


「おい、外は雨だぞ。」


 そういう頃にはもう聖奈はいなかった。


 雨の中、辺りを見渡すと、節はいなかった。途端に涙が出てくる。顔に当たるのは果たして雨なのか涙なのかわからなかった。


「うぅ・・・・はあっ・・・・」


 聖奈は泣き崩れた。雨は、自分の心までも叩きつけてきたのだった。








 家に入ると、逞真がタオルを聖奈の頭に置き、クシャクシャと拭き始めた。


「ウギャッ!!」

「お前傘差さないで行っただろう。ずぶ濡れだ。」

「うぅぅぅぅぅぅ・・・・」


 温かい涙まで出てきたが、タオルが拭ってくれていいフォローとなった。


「も!ガキじゃないんだから自分で拭くし!!」

「そう。急に大人びたじゃないか。」

「フンッ!兄ちゃんは真のワレのスガタを知らんのじゃッ!!」


 そういう聖奈の表情はいつものように戻っていた。安心したように逞真は聖奈から距離を置く。


「目薬、貸すか?」

「え、まさか目ぇ腫れてるカンジ??」

「割と。」

「ギャー!貸して貸して!!べ、別に泣いたんじゃないよ!?雨のせいだよ、雨!」

「ほう。」


 逞真は敢えてそれにふれないで、目薬を渡した。逞真は微笑んでいるものの、心の中では聖奈に申し訳ない気持ちだった。
















(明日になれば、元通り友達として話すことができるよね。)


 聖奈はそう思ていた。


 しかし、友情関係というものはそうそうやわなものじゃない。途轍もなく難しいものなのだ。








 

節、告りましたねぇ・・・・。

なんか、ヒートアップしてねぇ?節ちゃんよぉ・・・(^^;)


とにかく、次回もよろしくお願いしま~す☆

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