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友情の刹那  作者: wokagura
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第7話 悲しみの琥珀





 節の着けるアクセサリーは日によって変わる。


 ある時は十字架、ある時はドクロ・・・・そしてある時は宝石だったり。


 ここまでアクセサリーを変えられるってことは、相当持っているということ=金持ち。という風に感じられる。


 聖奈も美和も賢明もクラスメイトにどれだけ質問されたかわからない。


「ねぇ、津田って金持ちなの?」


 と。しかし、本人に訊いたこともなかったため、答えることができなかった。ただ、3人はこれだけは知っていた。


”親は、どこか大きな会社の権力を握っていたらしい。”


 だから、金は結構持っていてもおかしくなかったが、親友としてもそんな失礼なこと確かめたくはなかった。








 そんな節にも日常生活がある。最も、4人でいる時間が一番多いのだが、家族でいる時間も必ずあるわけだ。


 ガチャっと扉を開け、家に入る。無言で帰るのはいつものことだ。


「あ。お帰り節。」

「ん。父さんと母さんは?」

「まだ仕事だって。あ、会議とかもあるらしいからテキトーになんか食べてって。」

「ふーん。」


 節の言葉に頷いたのは、弟の(てる)だった。現在小学6年生で受験勉強に励んでいる。


「暎くーん、そんなに勉強したら逆にバカになっぞ?そのうち死んじゃっても知らねーから。」


 そう言って整った坊ちゃんヘアーである暎の髪をくしゃくしゃにした。


「頭やめろっつってんだろ!?人は勉強して死にませんっ。」

「いい子だねー、まるで賢明みてぇ。」

「賢明さん一緒にしてくれるんなら、すっげー嬉しいんですけど。」

「うわ、貶したつもりなのに。つまんねぇ。」

「逆に、節と一緒にされるほうがよっぽど貶されてるし!」

「可愛くねー!」


 節は興がそがれたように、部屋に入った。


(暎、親に騙されたらいけねぇぞ。俺、わかるからな。自分だって昔暎みたいだったんだ。そんで親の言われたとおりに勉強してきて今中途半端な生活してる。自分が何やりたいのかもわかんね。暎にはそんな風な人生送ってほしくないんだぞ・・・。)


 節は普段思っていることを表に出さないが、それゆえに心の中で深く考えてることがある。こういう人物だからこそ、心を開く相手は少ないのかもしれない。


 そんな節の親は、確かにすごい権力者であった。


 父親は車の販売を専門とする会社の店長。というのは表書きで、本当はその会社を裏で助け社長に貢献し金を沢山もらうなど大いなる支配者なのである。


 一方母親は昔父親と同じ会社で働いていたが、今は社長の秘書やなんかを任されている。


 その双方はかなりと厳しいイメージが強い。節も何度も恐れ、嫌い、反抗している。節が大人に反抗するようになったのも、大方親のせいだと考えるべきだと思う。しかし、顔だけは節同様美人であった。若くして節を産んでいるため、意外と歳も若いほうである。


「節。貴方また赤点取ったの!?」


 母親が在宅するときはこの言葉は毎回のように聞くだろう。


「はぁ・・・。別にてめぇには関係ないだろっ!?」

「”てめぇ”ってそれが親に向けて言う言葉?」

「っるせーなっ、いちいちいちいち・・・・。俺がどうしようと勝手だろうがよ!俺よりも・・・」


 テーブルに座る弟・暎を指差す。


「暎のほうが何倍も辛いんだよっ!」

「暎を使わないの!!」

「節、俺辛くないし。」

「なっ、せっかく助けてあげたのに礼もなしかよ。」

「別に頼んでないし。」


 これが日常といっても過言ではない。節は毎回家が嫌で嫌で・・・なるべく外にいようとするのだ。












 そんなある日・・・・・



 節のアクセサリーがガラッと変わった。


「ん、あれれぇ??」


 聖奈は節の首元を見て、にんまり笑う。


「今日はわかったよ!節ちゃんネックレス変えたでしょ。」

「ん、まぁな。」

「なんで?なんで?また宝石だけど、今度はどうしたの?」

「別に・・・なんでもねぇよ。」


 何故か節はノッてくれず、気まずい雰囲気が続いた。


「それ・・・・琥珀(コハク)っていうんでしょ?綺麗な石だよね。」

「そうだな。」

「・・・・・」

「・・・・・」

「なんかツッコんでよっ!!」

「・・・・わり。今日はムリだ・・・・。」

「なんで今日に限ってムリなのさ??」

「・・・・・なんででも。」

「は。」


 今日の節はなにかがおかしいってことは聖奈も気づいていた。しかし、美和と賢明がやってくると普段通りに戻ったため、何も気にしなかった。






 しかし、毎日節がその琥珀を身に纏い、変えるとしてもそれ以外のアクセサリーだったため、妙に思った。まるで、琥珀を大切にしているようだったから。


 帰り道、聖奈は不意に訊いてみた。


「節ちゃん、その琥珀ってなんか意味あんの?」

「別に。」

「だって毎日してんじゃん。」

「それだけで決めつけんのかよ。」

「別にそうじゃないけど・・・・」

「だったら訊くな。」


 聖奈はムッとして叫び散らした。


「最近節ちゃんおかしいよっ!!琥珀の話になるといっつもそうじゃん!ゼッタイなんかあるでしょ。私はそーおもったらきかないからね!?」


 節はその真っ直ぐな瞳に溜息を吐いた。


「他の誰にもいうなよ。」

「うん。」

「賢明や美和にも、話せるときがきたら話すから言わないでくれよ。」

「わかったよ。」

「・・・・・母親が、死んだんだ。」












 聖奈は一瞬頭が真っ白になった。


「え、死んだ・・・?」

「死んだ。」

「なっ、なんで・・・・」

「自殺だとよ。」

「じさ・・・・っ・・・・」


 聖奈は急に胸が苦しくなって、言葉が出なくなった。


「色々苦しんでたらしいぜ。社長が秘書以上のこと頼んで来たり、ヘンなことやらそうとしたり脅迫したりさ。俺になんも教えてくれなかったくせに。」

「・・じゃあ、それはお母さんの・・・・形見・・・・?」

「形見っちゃあそういうもんになるのかな。。」


 節は首の琥珀を手に、空を見上げた。


「急だったんだよ。ホント。帰ってきたら、親父に

『母さんが、今さっき亡くなったよ・・・』

 っていわれてさ。思わず焦ったよ。病院行って霊安室覗いたら、確かにそこに、母親がいたんだ。白い布被って。まるで雪みてぇに白くてだけどそれよりも冷たくてさ。


『なんでもっと早く教えてくんなかったんだよ!?』

『母さんが言ったんだ。節には言うなって。』


 最初、ナメてんのかって思ったよ。だけど、それにはわけがあったらしい。


『節はきっと友達と楽しく遊んでる。そんななかで親が亡くなったって知らせが入ったら、どれだけ傷つくんだろうって。ほら、母さんが手紙を。』


 俺はそれを開いた途端、馬鹿馬鹿しくなったよ。


”節へ。

 今までうるさく言ってごめんなさいね。節のため節のためって思ってたけど、今思えばちゃんと子供のそばにいてやれなかったのにそんなこと言う資格無いなって思ったの。

 お母さんも、節の気持ち気づいてたよ。親の言うことばかり聞いてたら、自分でやりたいこと見つけられなくなるんだよね。だから、反抗して、暎のこともとても気にかけて。でも、人生に失敗してほしくなくて、だからつい口うるさくいっちゃったんだと思います。これからは自分の意志で人生を決めて行ってください。貴方は本当に優しい子だから。そういう子に育ってくれて感謝の気持ちでいっぱいです。お母さんはもう駄目です。だから、さようなら。


                         貴方の母.”


 馬鹿馬鹿しくなったってのは自分がってことで、親はきちんと気づいてたのに、何であんな反抗しちまったんだろうって。もっと、できることがあったんじゃねぇかって。そう思った。」


 節の言葉がどんどん自虐的になっていく。


「ホント、馬鹿馬鹿し。俺がマヌケに遊んでたときに母さんは考えられねぇくらい辛い思いしてたんだぞ?なのに、俺は自分勝手に色々やって、親困らせて・・・何やってんだよって話だよな。」


 聖奈は何も言えなかった。こんな時に声かけたってなんにもなりやしないって。その代り、節の腕をとり、ギュッと抱き着いた。


「あんなに毛嫌いしてたはずなのに、今はそんな気持ち全然なくて・・・・ただひたすらに悲しくて空しくて仕方ねぇんだよ!!あんな大切な人がもういないんだって自覚した時、思い出の品は全部やけになって前に捨てちまって、この石くらいしかねぇんだって・・・なんだよ。」


 琥珀の石を握り締める。


「これ、母さんが俺の誕生日に昔買ってくれたんだよ。全然使わなくて、捨てるのも忘れたくらい奥のほうにあって、今頃つけ始めてる。最低な奴だって思わねぇか?」


 聖奈は節の腕に顔を埋めたままピクリともしない。


「死にたいって思ってもさ、死ねなかったんだよ。受験するって決めちまった弟だっているし、なによりお前や賢明や美和がいるよなって。なんも関係ないのに急に俺が死んだってなったら、今の俺よりお前らはショックだろうと思って。だから、俺は生きるよ。」


 腕にある暖かな体温が微かに震えていた。


「申し訳ねぇ。八つ当たりするつもりなかったんだよ。ごめんな。」

「うっ・・・ひっく・・・ぐす・・・・」


 聖奈はしゃっくりを上げ始めた。


「何泣いてんだよ。お前が泣くようなことじゃねーじゃん。」

「だって・・・節ちゃんの考えてることが、凄いわかるよ。家族が亡くなるなんて、そんなこと私考えられないもん。節ちゃんの吐く一語一語が悲しくて・・・涙が止まんなくなっちゃったよぉ・・・・。」

「ったく、馬鹿じゃね?」

「今は馬鹿でいいもん。グスッ・・・・ただ今は自分に正直になってるだけだし。」

「聖奈・・・・」


 節は辺りを見渡し、頭を掻いた。


 そして・・・・聖奈の頭に手を載せる。


「ありがとな。」

「うん。・・・・節ちゃん、もう死ぬなんて言わないでよ?」


 そのままの体勢で呟かれ、節は苦笑した。


「・・・・あぁ!」


 聖奈はそれを合図のように明るい表情で顔を上げ、涙を擦りながら笑った。


「私もねッ、兄ちゃんから石もらったことあるんだよ。トパーズっていうの。オレンジ色で綺麗なんだ。私さ、自分の進路に躓いて目の前真っ暗になっちゃって、高一で兄ちゃんのアパートに逃げてきたんだ。悪いイメージしかない兄ちゃんでも仕方なく受け入れてくれたんだけど、ある時買い物から帰ってきたヤツが言ったの。”自分に必要なもの、チャンス、希望。11月生まれって明るいパワーの誕生石みたいだな”って。そしてトパーズを投げた。”これで、少しか自分のしたいこと見つかるといいな”苦笑しかしないヤツの優しい笑顔は今でも覚えてる。石って凄いよね。なんだかんだの気持ちが籠ってるんだもん。これからも、大切にしたいよね。」


 無言で彼女を見つめていた節は、心の奥底から笑った。

















 節は今まで通りに戻った。


 首に下げてある琥珀を見ると、聖奈はいつでも心がいっぱいになるのであった。









あぁ・・・悲しいですね、節。

それにしても、節に異変起こってる気がしません?

今回優しかったし・・・・まさか・・・・

次回もよろしくお願いします☆

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