第4話 高校生らしい
「おい、200円!ちゃんと取れよな!」
「200円って何さ!?節ちゃんから頼んだくせに!!」
と、大声で叫び散らしながら話しても全然大丈夫。というのも、ここは街にあるゲームセンターなのだから。
節が聖奈のことを”200円”といっているのには理由があった。アホらしいことだが、節はUFOキャッチャーが大の苦手で、無理矢理聖奈に押し付けたのだった。
「まぁ、いいじゃん。聖奈、こういうの得意でしょ?」
「美和ぁ~、なんで君までそんなこと言うんだい??ま、そーなんだけど・・・」
「ならいいじゃんか。やれば?」
聖奈は約3名に勧められ、しぶしぶ聖奈は2枚のコインを入れた。
「取れるかは保証しないからね!」
「へいへい。」
ボタンを動かし、ぬいぐるみのほうへ。
「何取ればいい?」
「あれあれ。カッパのヤロー。俺、凄くハマってるんだよね。」
「・・・うちの従弟にもさ、カッパとか妖怪好きな子がいるんだよね。全く意味不明なんだけど。」
そう言いながらも、聖奈はそのカッパを掴む。
「うわ、聖奈って手つき上手いな。勉強以外のことは得意なんだろ。」
ニヤッと笑う賢明を聖奈はじと目で睨んだ。最後に持ち上げボタンをポンと押すと、カッパの下にある違うぬいぐるみまでとれた。
「あ、二つ取れちった☆」
「おぉ!!流石聖奈じゃん!!」
下から取り出すと、それはトラ模様の猫だった。
「ぎゃ、可愛いじゃん♡なにこの感じ!キュンキュンしちゃうぅ~!!」
思わず聖奈はそのトラ猫のぬいぐるみを抱き締めた。カッパのぬいぐるみをとった節は少々呆れ顔で笑う。
「だったらそれ聖奈がもらっていいぜ。」
「え、マジ!?」
「だって俺これ欲しかっただけだし、取ってもらった恩だよ。」
「うわ~!!ありがと、優しい男の子♪」
「さーて!次どこ行くー?」
「え、まだ行く感じ!?」
「今日はパーッと盛り上がる日だろ!?それともなにか?またあの生真面目兄貴に門限つけられてんの?」
「い、いやそうじゃないけど・・・・」
聖奈は一度、ドアのほうを振り向いた。聖奈は学校の講習に行ったきり、家に帰らないまま、街に来たのだった。少し、不安な気持ちが抱かれる。
(でも・・・ま、いっか。どうせかるーく心配するだけでしょーよ!)
再び無邪気な顔に戻った。
「ねぇ、次カラオケ行こーよ!!」
「お、いいじゃん。」
「ギャオ~!ギャオギャオギャオ~!!ヘヘイ♪皆ー、盛り上がってるか~い!??」
爽やかな笑顔でマイクを握り締める聖奈、以外の同室しているメンバーは皆耳を塞いでいた。
「な、なぁ、聖奈が歌ってる歌詞、全部”ギャオ”ってしか聞こえないの、俺だけか?」
「いや、俺もだ・・・」
「そんなこと言ったら、誰だってそう聞こえるし(汗)」
賢明は辛うじて美和に近づき、耳元で声を張った。
「聖奈ってさぁ!」
「うん!?」
「合唱、こんなんじゃなかったよな!?どこをどうすればこんな芸術的な歌い様になったんだ!?」
「あのねーっ、聖奈合唱とか真面目な状況になると、ちゃんと音取るの!でも、フリーのカラオケとかになると、ド音痴魂が発動されちゃって、こんな感じになっちゃうわけ!!」
「マジかよ!?」
歌声に耐え続けていた勇者・節も、我慢の限界に達し、嘆いた。
「聖奈!いいから歌やめろ!!」
「ふぇ?」
「俺に貸せ!」
節は乱暴にマイクを奪い、自分の選択した歌に切り替える。
♪~・・・♬~・・・・
節の発する歌声は存外素晴らしかった。
「うわ~・・・・節って歌上手かったんだね。」
「俺も、初めて聞いたんだけど・・・・ハンパなくね?」
「フンだっ!これくらい私だって歌えんのに。何で奪りやがったの訳!?」
「いや・・・わかんないほうが可笑しいだろ・・・。」
「これでよかったんだよ、はい黙ろうかb」
「ブ~・・・・」
しかし、聖奈は悪い気はせず、むしろ楽しかった。
時計の差す時刻は、もう7時30分過ぎ。そんなこと、聖奈の今の心は知る由もなかった。
一方、逞真のほうはというと・・・・
「ただいま。」
会議を終え、自宅に帰宅していた。
「・・・?何故室内が暗い。聖奈・・・?」
電気を点け、辺りを見渡す。
(靴もないし、いる気配はしないな。・・・・まさか、まだ帰ってきていないのか?)
逞真の表情は段々渋みを増していく。
「大丈夫・・・だよな。高校で、何か頼まれごとでもあるんだろう。中学生でもこれくらいの時刻に帰ってきてもおかしくないんだ。なにを心配することがあるんだ、俺。」
自分に言い聞かせているところでもう逞真に冷静さは消えていた。必死に心を静めている。
(落ち着け…。聖奈はもうガキじゃない。)
重い溜息を吐き、鞄を置いた。
でも、いくら経っても聖奈は帰ってこない。もう8時は軽く過ぎているのに。
(本当に、大丈夫なのだろうか・・・。)
すると、外のほうで救急車の音が鳴り響く。
(まさか・・・聖奈の身になにか起きていないよな・・・?)
時計を見て、静かに首を振る。
(1時間待とう。)
「うわ、マジうめぇんだけど!!」
「でしょー??これ、私のおススメ商品だから♪」
コンビニの外で、4人は軽い夕食を食べていた。
節が食べてるのは聖奈が勧めた新商品・チョコストロベリーミックスまん。(マカロン風)俗にいうスイーツ系のものだが、甘いものには目のない節にとっては幸せの塊。おやつに入らない食べ物だった。
聖奈はコッペパン。(アニメで出てきたトッピング仕立て)
美和は今ハマっている梅おにぎり。(コンビニによって味が違うらしい。)
賢明は意外と渋い、おでん。(これもコンビニによって味が違うらしい。)
「なんでだろ、こんな軽い食べもんなのにさ、お腹満足するんだよね。」
「それは、友達と食べてるからじゃない?」
「あ、それ言えてる。」
微笑みながら、それぞれ食べ物を頬張る。本当に幸せだった。
「ねぇ、そろそろ帰んないとヤバくねぇか?」
不意に賢明が呟いた。見ると、辺りは真っ暗だし、時計は9時をまわっている。聖奈もハッとした。一番浮かんだのは、兄の顔。そして考えられる台詞。
『どこに行ってたんだよ、この馬鹿。そんなに兄に心配させたいのか?しかも俺が否定していたあの友達とこんな時間まで一緒にいたなんてな。何をしていた?・・・何にせよ、これからはこのようなことが起きないように、聖奈の行動を制限させてもらうぞ。』
考えただけでゾッとした。
節は淡々とした目をしている。
「まだこんな時間じゃねーかよ。なに?お前親うるせぇ感じ?窮屈だな。」
「私んちも何も言われないよ。高校生なんだし自分で行動に責任持ちなさいって。」
「あぁー・・・、俺も美和のようなんだが、流石にここまですると同居している奴くらい心配するだろうと思ってよ。」
「聖奈は?」
「え、わ、私?」
急に振られ、ただ戸惑っていた。
「私は・・・・・」
正直言われたことは一回もない。ただ、行動で示されただけだ。門限つけられたり、冷酷な瞳を見せられたり。
「なんも言われてないやっ☆」
「そっか。あの兄貴でもこれくらいのことは許すんだな!」
節の顔が本当に嬉しそうで、聖奈は本当のことを言えなかった。
「じゃ、賢明は帰っていいぞ。兄弟だっているもんな。」
「あぁ。わり!」
「じゃあね♪」
「また明日ー!」
「おう!!」
賢明は自転車を飛ばし、帰っていった。
「んじゃ、最後に寄りたいところがあるんだ。2人とも付き合ってくれねぇ?」
「別にいいけど、どこ行くの?」
「いいから。」
ニコニコしている節の背後を、二人は不思議そうについていった。
ドンッ!
逞真は思わず机を叩いた。
「なんだ・・・?いつになれば帰ってくるんだよ・・・。こんなに遅くまで、一体何をしてるんだ?」
途端に、携帯電話が振動する。逞真は冷や汗を掻きながら、耳に傾けた。
「もし・・・もし」
「あ、駿河先生ですか?」
一気に緊張が抜ける。
「はい。そうですが?」
「1年3組の神路です!」
「おう、勝か。どうした?」
「明日、参観日ですけど制服なんですか?ごめんなさい、親が訊けってうるさくて・・・」
「あぁ、構わないよ。こちらこそ、不足していて済まなかったな。・・・ジャージで結構だ。親子レクを行うからな。」
「わかりました!おやすみなさい!!」
「あぁ。おやすみ。」
携帯をしまい、フッと溜息を吐く。
「・・・クソ・・・・!」
舌打ちし、素早く家を出ていった。
(この馬鹿野郎。)
手当たり次第に駆けていく。
(もし何かあれば、俺は、俺は愚か者じゃないか・・!妹一人守れない、情けない男じゃないか・・・!!)
歯を喰いしばるたびに、胸の鼓動が速くなっていった。
「ぎゃっ!」
聖奈の叫び声に誰もが振り返る。
「ど、どうしたんさ聖奈?」
「うわぁ~ん、痛い~!!」
「はぁ?」
見ると、聖奈は床に落ちていたバナナの皮を踏んづけて転んでしまっていた。
「うわ、見事にこんな場所に落ちてたとは。多分、ポイ捨てかな?」
「逆にすごくね?バナナの皮で本当に転ぶんだ・・・。」
「結構痛いんですけどっ!!」
それもそのはず。右足からは出血。
「大丈夫?」
「おうよぅ。これくらいでくじけてどなんすんねん!」
「その気合ならこれから100m走走っても平気そうだな!」
「お、おうよぅ!!」
人気のいない、草原を抜けると、そこには大きな木が月夜に照らされていた。
「へぇ、なにここ・・・綺麗・・・・」
「だろ?俺が見つけた秘密基地。街からそんな遠くないのに、人ひとり通らねー。」
「節ちゃん今までなんで教えてくんなかったの?」
「だって、こんだけ月夜が綺麗な日は少なかったんだ。お前ら親友には、とびっきりいいもん見せてやりたくてさ。」
美和と聖奈は顔を見合わせる。
「あーあ。賢明はもったいないねー。もう少しいればこれ見れたのに。」
「あ、大丈夫。あいつには一度ここ見せたことあるんだ。ま、昼間だったしこんな綺麗じゃなかったけどよ。」
「なんだ。なら、話し通じるね。ここ、私たち4人だけの秘密基地にしようよ!」
「そのつもりで私らここにつれてきたんでしょ??」
節は苦笑した。
「ああっ。」
3人が微笑んだとき、聖奈はふと人影が見えた。
(ん・・・?)
よくみると、聖奈は顔を歪ませた。そちらもとっくに節たちに気づいていて、ただ睨んでいた。
「どうしたの?聖奈。」
「あ、私、もう帰るね!急に眠くなってきてヤバいわ。んじゃね☆」
「お、おい!」
聖奈は足早に草原を抜けて、例の人物のもとに走った。
「こんばんは、お兄さん。」
「こんばんは、聖奈さん。」
その冷ややかな言い方に、聖奈は頬を膨らませた。
「なんだよ・・・、言いたいことは大体わかってんだからね!バンバン言ってくださいよう!覚悟はできてます。」
「何の話だ?俺はただここを立ち寄っただけなのだが?」
「へ?」
思わず彼の顔を見た。ズボンのポケットに手を突っ込んで不機嫌そうにしている20代の端整な顔の男は、正しく兄・逞真だった。
「立ち寄っただけ?待ってください、君は駿河逞真ですか?」
「君というな。当たり前だろう。他に誰に見えるんだよ。・・・俺も散歩にくらい行くさ。」
聖奈はますます反抗的な顔をした。
(ウソばっか。だって、自分で気づかないの?革靴は走り過ぎて磨り減ってるし汚れてるし、せっかくのスーツもシワだらけ。いつもならどんな日でも帰ってくれば私服に着替えてるのに、スーツってところがもうおかしいじゃん。それでも意地張ってるつもりなの?)
「ふーんそうなんだ。あ、さっきの場所、4人の秘密基地だから誰にも言わないでね。」
「フッ、高校生がこんなところでお遊びか。馬鹿で、ある意味高校生らしいよ。」
「なに、その嫌味ったらしい言い方。別に高校生が遊んでても違和感ないじゃない?」
「確かにそうかもしれないな。現代の奴らにすれば。」
語尾の言い方が、あまりにも冷酷で、なにか怒りが含まれているようだった。
「っ・・・とにかく帰ろうよ!私見つけたってことは帰る気まんまんなんでしょどーせ。」
「まだ散歩を続けてもよかったのだが、こんな暗がりだしな。複数のほうが安全だ。」
聖奈は、逞真が意地っ張りだと改めて思った。本当は自分のことを心配して探しに来たんだと知っていた。見え透いてる行為なのに、逞真はそれを続けている。聖奈はなんとも言えない気持ちになった。
(どうして、怒らないのかな?いつもなら怒鳴るはずなのに。いや、兄ちゃんは声張り上げないか。睨みつけるんだ。でも今日は違う・・・・。)
歩こうとすると、急に右足が痺れたように痛んで、聖奈は息を詰まらせた。
「・・・どうした?」
「別にっ。」
なんとなく、今の逞真に甘えたくなくて、聖奈は何もない様に歩き始めた。
「・・・・」
逞真は右足に勘付いて、スカートの裾のすぐ下に触れた。
「うわっ、変態!!」
「怪我したのか!?」
久々の逞真の荒げた声。思わず言葉に戸惑う聖奈。
「・・・そう、だけど?」
少し不器用な言い方になってしまう。
(ホラ、やっぱり心配になってきたんじゃないか。)
「痛くはないか?というか・・・何があった?」
「何があったって・・・大袈裟だなぁ。ただバナナの皮にズッコケただけだし!」
「バ、バナナ・・・?」
「ハッ・・・」
しまった、と聖奈は思った。ここでギャグを使うつもりはなかったのだが、つい口を滑らせてしまった。(っていうか、本当のことを言っただけだが。)
「なんだって?バナナに足を滑らしただと?」
「だから何さっ!!(恥)」
我慢が出来なくなった逞真はプッと笑った。
「お前、本当に馬鹿だなぁ。」
「もういいじゃん!はやく帰ろって!!」
そう、聖奈は逞真の背中を押した。
「はいはい。」
逞真も呆れたように歩き出した。
「講習が終わったのは約4時30分。5時間ほど遊んでいて、楽しかったか?」
「え?」
不意に逞真の言った言葉が真面目なことになって、聞き返してしまった。
「俺は、そこまで楽しいことなのか解らない。友人とそんなにいて疲れないのか、逆に関係が崩れることもあるんじゃないのかと考えてしまう。増してや、見た目が大人に対して反抗丸出しのようなやつと一緒にいて、自分も流されてしまうんじゃないかと思うことはないのだろうかと思うんだ。」
聖奈は初めて逞真の本音を聞いた気がした。
「・・・そんなことないとおもうなぁ。私、とても楽しいもん。でも、兄ちゃんはきっとそう思わないんだろうね。」
「・・・・」
「だって、私と兄ちゃんは違う人間だもん。」
その瞬間、逞真の表情が一瞬虚を衝かれたものとなった。
「兄ちゃんは真面目で、しかもプライド高いじゃん。だから、他人に惑わされたくないって思うんじゃない?でも私はそれが人を逆に信じていないように見えるんだ。やっぱり人ってそれぞれだよね。」
逞真は嘲笑を浮かべた。
「まさかそれを、妹に言われるとは・・・。」
しばらく空を見上げ、逞真は囁くように言った。
「お前が友達の大切さを選ぶというのであれば、俺は、なんでもかんでも入り込む必要性はないな。」
逞真はただの心配性だったんでしょうね。
でも、聖奈の一言で変わりました!
次回も宜しくお願いします☆