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友情の刹那  作者: wokagura
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第2話 津田 節

  


 


 約1年半前、聖奈が高校2年生の夏休みのことだった。逞真も部活がなく、家でパソコンに向かっていた。


 その時、不意にインターホンが鳴った。


「はい。」


 と、言った瞬間に逞真は凍りついた。さっきまでの暑さはどこへやら。


『・・・北高校のもの、ですけど・・・・』


 無愛想な声。逞真は一瞬にして反感を持った。


「少々お待ちください。」


 そう言い捨てて受話器を置き、玄関の扉を開けた。


「・・・・」


 眉根を寄せてその男を見る。


 髪は黒いはずなのに所々金色に染まっている。Yシャツは第・・・3、4ボタンまで外れているしネクタイはほぐれている。中のTシャツは見せるためのもののように派手な色合いだった。よく見ると耳にはイヤリング。Yシャツの裾は中途半端にズボンから出ていて手首にはアクセサリーと思わしきリストバンド。その手には聖奈のスクールバッグがあった。しかし、顔はモデルになれるんじゃないかと思うくらいイケてて、細身な体格をしていた。

 逞真の前に姿を現したのは、見た目からしてモロ不良でいかにも態度の悪そうな男子高校生だった。


「・・・聖奈はいますか。忘れ物を届けに来ました。」


 いきなりの呼び捨て。まずどんな関係なのかと逞真は訊きたかった。


「聖奈は留守だ。今学校にいる。」


 男子高校生は呆れた顔をして


「なんだよ、まだ帰ってきてねぇのかよ。アイツ、どんだけ遊んでんだよ。」


 と呟いた。ますますこの男について知りたくなる。


「忘れ物を届けに来てくれたんだってな。それなら預か____」

「アレェ?節ちゃん!?」


 元気のいい声がする。


「「聖奈・・」」


 息ぴったりで睨み合う二人。そこには聖奈がいた。


「節ちゃん、どしたん??なんでウチんち知ってんの!?」

美和(みわ)に聞いたんだよ。それよりお前、これ忘れてっただろ、俺ん家に。」

「あっ、そーだった!今日訊こうと思ったんだけど今日に限って節ちゃん学校に来てくれないんだもん。」

「わり。寝坊した。」

「だと思ったよ。美和も賢明(たかあき)もそう思ってるから言い訳はしなくていいよ。」

「あっそう。ほらよ。」

「ありがとー♪」

「今日はなにしたんだ?」

「3人しかいないから、ジャマバスケとか。」

「ふーん。バスケ部いなかった?」

「外でやったから!」


(”節ちゃん”・・・”俺ん家”・・・”バスケ”・・・・)


 逞真はそのやり取りにただ眉を顰めるばかりだ。


「とりあえずあがってよ。暑かったから冷たいもんでも出す♪」

「ハァ!?」


 裏返った声を出したのは逞真。


「ほら、お兄さんも嫌みたいだし、遠慮しとくよ。」

「”お兄さん”・・・」

「あー、こやつのことは気にせんどいて!この人教師のくせして人見知り激しくてさぁー。」


 逞真の肩をバシバシ叩く。


「教師・・・・」

「そ。」

「北中学校数学教師・駿河逞真だ。」


 教師という言葉に敏感に反応する男子高校生。


「ホント、やっぱいいわ。俺ねむてーから家帰って寝るし。」

「遠慮しないでって!ホレホレ」


 聖奈は彼の腕をひぱって無理矢理中に引きずり込んだのであった。












「んじゃ、まず紹介するね。」


 アイスティーの置いてあるリビングでニコニコしてるのは聖奈だけだった。


「こっち、さっきも言った通りうちの兄ちゃん。北中学校の数学教師♪」


 逞真は会釈すらせず腕と脚を組んでただ男子高生を舐めるように見ていた。そんな様子に聖奈は咳払いして兄の腿を叩いた。思わず聖奈に振り向くとジロ・・・っと睨んでおり、しぶしぶ逞真は腕と脚を組むのを止めた。


「んで、こっちは私の高校のお友達♡2年A組の津田節(つだせつ)君。」

「ちーっす・・・・」


 やる気のない声。


「ほう、”友達”ねぇ・・・」

「そんで、あと美和、って前に家に来た女の子いたじゃん。その子とまたも高校のお友達の賢明君で仲良し組作って毎日校庭で遊んでるんだ。みんなクラスメイトなの。」

「フッ、そうか。彼だけが仲のいい友人、というわけではなくて安心したな。で?いつどういう関係で今のようになったのか、兄として教えてもらいたいものだが。」


 逞真の言葉は嫌味たっぷりだった。節も負けずと嘲笑する。


「こっちこそ、なんでお兄さんと敢えて同居してんのか、友達として訊きてぇんだけど。」


 二人の間に火花は絶えない。


「ちょっとぉ・・・初対面でなに?ち、ちゃんと説明するから落ち着いて聞いてて。まず節ちゃんとの出会いから。

 それは・・・一年生の春だったね。まだ友達も少なくて中学も同じだった美和といつも一緒にいたんだ。自転車通学になった、ある日のこと。ギシ・・・と自転車が鳴った途端、ペダルが進まなくなってしまったのよ。降りてみてみると、チェーンが外れた。


『美和ぁ~、どうしよ・・・』

『そんなこと言われてもあたしこんなの詳しくないからな・・・』

『・・・どうしたの。』


 その時、賢明がやってきた。まだその当時は親しくないしむしろクラスにいたような・・・・って感じだったけど、賢明はボランティア精神があって誰にでも親切で優しいから、好奇心で近づいたんだと思う。


『チェーンが外れちゃって。』

『あー、よくあるよね。ちょっと見せて。』


 賢明は私の自転車を触ったりいじったりして呟いた。


『複雑な作りだね。』

『あ、これお父さんがこだわって買ったやつなんだよね。ま、何年も経ってるけど。』

『俺にはちょっと無理だな。』

『いいよいいよ。手伝ってくれてありがと!』

『でもそれじゃあ駿河が押して帰ることになるじゃんか。女がそんな重労働することないよ。』

『うわ・・ジェントル・・・・』

『誰か近くに・・・・あ。』


 遠くに人影が見える。賢明は微笑んでその人に手を振った。


『おーい!節!!ちょっと来てくれねーっ!?』


 人影は無言で寄ってきた。


『・・・・なんか用?』


 第一印象がまず不良だったのね。無愛想だし、チャラいし。正直私はドン引きしてたよ。


『チェーン外れたんだって。直してくれない?』

『・・・これ?誰の?』

『あ、私!』

『・・・あれ、アンタどっかで見たような・・・・』

『おいおい、同じクラスの駿河じゃん。最初教室の前でズッコケて一躍有名になっただろ。』

『あー、あんときのアホな女?駿河ってんだ。いい名字だね。』

『ンぐ・・・』

 

 私は悪口を言われて頬を膨らましたけど悪い気はしなかった。後味に褒めてくれるし、無愛想かと思ったら意外とフレンドリーだったから。


『なら見てやってもいいぜ。』


 節ちゃんは口端を上げて私の自転車を見始めた。


『な、なんなの??』

『こいつ、俺と同じ中学だったんだよ。技術的なことが凄く得意でさ。』

『へぇ、ならなんで工業高校とかじゃなくて普通科の高校来たの?』

『それは・・・』

『馬鹿だから。』


 自分からそう発した節ちゃん。でも妙に思った。ここのレベルって工業より結構上だった気が・・・。もしかして馬鹿ってそっちのバカじゃないのかも。


『・・・乗ってみて。』


 あっという間に垂れ下がったチェーンは元通りだった。乗ってみると、ペダルが動く。


『ぎゃ、ありがと!助かった!!』

『あとそれ、空気入れ直したほうがいいよ。抜けてる。』

『わかった。』


 節ちゃんは無言で立ち去ってった。


『気にしないでくれるか?アイツ、どこかひねくれてんだ。』

『うん。そんな気がしてた。』

『反抗期っぽいよね。』

『じゃ、気を付けて帰れな。』

『ありがとー!!』


 そして私たちは賢明と別れた。これが、4人のすべてもの始まりだったわけ。


 その日から、クラスで会うたび声を掛けあうようになって、すぐに仲良しになった。昼休み、昼食を食べる時、ふと美和が言った。


『ねぇ、うちらもう仲いいんだし、名字で呼ぶのやめない?』

『確かに。』

『別にいいだろ、めんどくせぇ。』

『はは、節ちゃんは賢明と違ってめんどくさがり屋なんだね。』


 3人が沈黙した。


『・・・賢明はわかるけど・・・節ちゃん?』

『節ちゃんて、どうした?』

『俺、戦争アニメの女の子と同じあだ名かよ。』

『字は同じだけどな。』

『うるせぇ!あっちは子がついてるだろ、子が!』

『節子www』

『あぁん?なんだよ聖奈。指差すんじゃねぇよ!』

『ほらーっ自分だって名前で呼んでんじゃん!』

『チッ、だったらもういい!名前で呼んでやるよ!!』

『『『ウーイ♪』』』


 私たち3人はハイタッチした。


 それから、よく校庭で遊ぶようになった。毎日、放課後。


 そして、今みたいになってるわけ。・・・ど?兄ちゃんなら理解した?」


「・・・割と。」

「よかったー!」


 逞真は再び節を睨み始めた。


「だが、本当にそれだけの仲なのか、怪しい気がするが・・・」


 節は黙って逞真を見ながらニヤリと笑っていた。










 これから、あんなことになるなんて知らずに・・・・









次回もよろしくお願いします☆

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