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友情の刹那  作者: wokagura
14/14

番外編 聖奈の家出

 




 私が大学入試に合格して、暫らくの時が経った。


 節ちゃんとは、いつも楽しく過ごしてる。大学は違えど、他は何も変わらない。・・・でも私が大学生になって、変わったことは結構あった。


 まずは私が一人暮らしをすることになったこと。でも家が変わった訳じゃない。どういうことかというと、本当のこのアパートの住人である兄ちゃんが家を建てたんだ。結婚してね。だから代わりに私が此処に住まわせてもらってる。いつも二人で住んでたから、少し物足りなさを感じていたけれど、このアパートには楽しい住人がいっぱいいるから、辛くはない。それに、ちょくちょく節ちゃんが来てくれるから心強かった。


 そして、私と節ちゃんの仲が急接近して・・・二人の間では結婚前提で付き合ってるってことになってる。まだ誰にも話していないけど、いつか節ちゃんと結婚して暮らせるんだと思うとなんか毎日がわくわく♪


 そして今日も、節ちゃんがうちに来ていた。


「聖奈~、腹減った。」

「今作ってるっちゅーねん!!もー、二人は二人でもヒトが違うのね~ヒトが!!」


 包丁片手にブツブツ言っていると節ちゃんがキッチンまで来てできかけのおかずをつまみ食いした。


「兄貴いるときは兄貴が作ってたん?」

「ほとんどね。でも帰ってくんの遅いときも多かったしアヤツ疲れてるから気が向いたら私も作ってたb」


 節ちゃんは“うまっ”と満面の笑みを見せ私にふと尋ねた。


「そーいやさー」

「うん??」

「聖奈になんでここに住んでんのって聞いたこと無かったよな」

「えっ」

「だよな?」


 想定外の質問だな。曖昧にしか返せない。


「ん~・・・そだね。」

「ここ、先公始めるときに兄貴が住み始めたんだろ?聖奈って確か高2のときからここにいるんだよな?兄貴が・・26?もう教師やってんじゃん」

「うん。私、家出してきたの。」

「なんで?」


 私はは改まって彼の方を向き、包丁を台に置いた。


「これにゃ、深ぁーーーーーーーーーーーーーーーーいワケがあんだよ!日本列島もぐってブラジル着くぐらい」

「どんだけ深いんだよww」

「でもこれマジな話。そこまで深くないけど。知りたい?」

「知りてーよ!でもメシ食いながらにしようぜ。冷めんだろ」

「だね☆」


 私はごはんのおかずをつくりながら、節ちゃんに話すべく2年前のことを思い出していった。

 ごはんを全部盛り付けテーブルに置くと、節ちゃんのほうを向く。


「この話ね、友達でも美和しか知らないことなんだ。だから・・・・彼氏ってことで話すから」

「わかった」


 そういう節ちゃんの目は真剣だった。

 二人で“いただきます”と声を合わせ、聖奈ちゃん特製の料理を食べ始める。どこから始めようかと一旦間を置き、私は話し始めた。


「北高ってさ、将来のこと尊重するじゃん。こんな夢叶えるためにどこの大学へ進学するっていうことを入学の段階から決めさせられたり、北高タイムっていう総合的な学習があるくらい」

「だな」

「けど私将来のことなんてこれっぽっちも考えてなくてさ。ただ盛りあがって楽しい高校だから選んだだけで。高1のときはなんとか誤魔化してきたけど高2からだんだん本格化してきたじゃん。焦ってきて・・・・親とも揉めちゃって。そんなある日言ったんだ、私。“とりあえず国公立で私の学力に一番似合う大学にいくよ”って。そしたら、いつもは無口で黙って聞いてるようなお父さんが怒ったの。たぶん、私のこの一言でもう始まってたんだと思う。ここに住むってことが。


『それじゃあまるで高校選んだ時と一緒だろうが!大学は就職の為に学んでいくところだ、遊び場じゃない!』


 そのお父さんの一喝に乗じて今度はお母さんが嫌味みたいに兄ちゃんを褒めた。兄ちゃんだよ?どうしてこの人がでてくるのってなるじゃん。


『逞ははじめっから将来のこと決めててそれに見合う優秀な高校に受かってその学力のまま市内の教育大に推薦で合格したよね。そして今は市内の先生やってるでしょ。逞はちゃんと先々自分のやるべきことを見つけて努力してたのに、あんたはなんだろうねえ。市内二番目に優秀な高校入ったかと思えばすっと遊びっぱなしで。そんなんじゃ、私立大だって危ういわよ』


 頭に来た。だってね、例え兄妹でも兄ちゃんと私は別じゃん。もともと似てるなんて言われたことも無かったし、血を分けたとかそういうの関係なしにほんとに別の人間だと思ってた。それを、ああいうときに限って兄妹なのにって持ち込んでくるの、うちの親は。卑怯だと思わない?


 ____中学の時もこういうことあって。そのときは親じゃなくて近所の人だったんだけど。どうやら進路の話してたようでさ。


『聖奈ちゃんは今年受験よね?』

『ええ。』

『どこへいくの?お兄さんは確か東高に行って優秀だったとか・・・・教育大学を卒業して今は中学校の先生をなさってるんでしょう』

『はい、そうなんですけれど、聖奈は自分に合ったことをのびのびしたいと北高を志望に頑張ってます』

『北高は楽しいと有名ですものね』


 その楽しいっていうのにも嫌味にきこえたけど、それよりも兄ちゃんと一緒にされることが嫌だった。


『なんで・・・いつも兄ちゃんと一緒にされるのかな。全く真逆なタイプなのに』

『今帰りか?お帰り』

『兄ちゃん。何でいるの?』

『居ちゃいけないか。今日は市教研だから、その帰りだよ。家、帰らないんだ』

『うん。お客さんがいるから』

『はぁお前、人見知りになったつもりか。俺じゃないんだから入ってってこんにちはぐらい笑顔であいさつできるだろ?行って来いよ』


“俺じゃないんだから”・・・・それもグサッてきた言葉だった。


『やだよ。ねぇ兄ちゃんウザい』

『は?なんで』

『何でもできる秀才だから』

『別に直しようないだろ』

『嫌味っ』 

『何かあったのか?らしくないぞ』

『・・・・兄ちゃんがこんな優秀だから妹の私はプレッシャーかかってんでしょっ!!いいもん別に!早く帰って。忙しいんでしょっ』

『客、進路の話してたんだろ。___妬くな。お前はお前らしくしてればいいんだよ。』 


 微笑む兄ちゃんのその言葉は強かった。それが私の自信に変えてくれたんだ。


『それこそ、俺なんで圏外の男にしてしまえばいいんだ。俺の学歴がどうとか無しにお前は北高へ行く。な?』

『・・・・うん。』

『笑ってろ』

『・・・・ヒヒ。』 

『怖いって。・・・じゃあな。久々にお前の顔見れて安心したわ。』

『なんやねんもー』

『はは。お互い、頑張ろうぜ』

『うんっ!じゃーなっ!!!』


 そんなこともあったから、それが重なって余計に腹が立った。だから、私はキレて叫び散らした。


『なんでアイツがでてくんの!?将来のことなんてそれぞれ別でしょ!?あっちは決めんのが早かっただけで、私はちょっと遅いだけ・・・・。自分のしたいこと見つかるまで待ってよ!進路くらい_____自分で決めさせてよっ!!!』


 そしてそのまま家出したわけ。学校の道具とか、何日か過ごせるだけの道具一式は持って。それで兄ちゃん家に行ったんだけど、それには理由があってさ。割と家から近いってこともあったけど、中学のときも私を勇気づけてくれたヤツなら、私の気持ちわかってくれるかなって、そう思って。だから兄ちゃん家に向かった。

 当時、あんまり連絡取ってなくて、そのときのヤツの状況なんて知りもしなかったけど、雨が降っていたから傘も持ってなくて急いでて、なにも確認しないまま行った。

 兄ちゃん家___このアパートのインターホンを勇気を出して押すと、私だって確認した兄ちゃんは沈黙してた。当たり前だけど。少し間があって、待ってろとだけ冷静に言って玄関を開けてくれた。

 ドアを開けたYシャツ、ネクタイ姿の兄ちゃんは私を見た途端眉根を寄せてた。ずぶ濡れだなって。それだけで察したんだと思う、傘を持たない程穏やかな理由ではないことに。

 あとから聞いたけど、その時期の兄ちゃんの中学校は色々トラブルが続いてたみたいで、兄ちゃんの表情も硬くて、神経研ぎ澄まさせてたようだったけど、どうした?って訊く兄ちゃんの声は優しくて、思わず抱きついちゃった。号泣して、何も言えずに嘆いてる私を、兄ちゃんは無言で受け止めてくれた。やっと声が出せるようになって“泊めて”って言ったら、溜息吐いてたけど中に入れてくれたんだ。

 タオルで髪とか拭いて、兄ちゃんからホットミルクをもらったあと、家出してきた訳を全部話した。被害者観点からだけど。そうしたら兄ちゃん、呆れた表情して一言だけ言ったの。帰れって。そのときは、は!?なんで!?って思ったけど、今は思う。こうして逃げてくることが私にとってプラスにならないってヤツは悟ってたのかもしれないんだってね。高校受験の時とはまた別で、違った大切さがあるんだと知ってたんだよ・・・・。

でも私は必死に粘った。もうあの家に二度と帰ってやるかって思ってたから。

 

『嫌だ、帰りたくないっ!』

『聖奈』

『だって私、お先真っ暗で諦めきった訳じゃない。これから探していこうと思ってる。でも、あの家に戻ったらそれさえもできなくなっちゃいそうだから・・・!兄ちゃん家なら安心してできる。勿論迷惑はかけない。兄ちゃんは今まで通り先生として生活して。自分の身の回りのことは自分でするから。だから・・・・泊めてもらうだけでいいから・・・ここにおかせてくださいっ!!』

『馬鹿野郎』


 兄ちゃんは怒ってなくて、それどころか淡々と呟いてた。


『俺は、別にお前がここにいようが迷惑だとは思ってねぇ。別に人1人増えたって家事くらいやってやるよ。だがな、こうやって家出してくることが本当に両親も聖奈自身にも、ためになることだと思うか?絶対にここにいれば将来が決められると確信できるか?・・・・できると思える覚悟がないなら、帰った方がいいぞ』


 その口調と眼差しが痛くて、何も言えなかった。私は兄ちゃんの考える程深い意味でここに来たわけじゃなかった・・・。また、ぽろぽろ涙が出てくる。それでもなお帰ろうとしなかった私に、兄ちゃんがとうとう動き出した。無理矢理追い出すのかなって思ったら、ソヤツは私の荷物を持つと、寝室のクローゼットの中に突っ込んだ。


『お前、目が腫れているから洗面所で顔洗ってこい。よく洗え、念入りにな』


 早口にそういうと、猫のように私を掴みあげて洗面所に追い出した。なに急いでんのかなって思ったけど取りあえず顔洗ったよ。念入りに。出ようとしたら、なにやら話し声が聞こえたから私はそっと聞き耳たててみた。

その声は、まさかのお父さんとお母さんだった。きっとここに来るだろうって予想つけてやってきたんだって思った。兄ちゃんが急いでたのはこのせいだったの。


『ねえ逞真、なにも聞いてない?』

『なにが』

『・・・・・・・・』

『聖奈?』

『やっぱり来てるのね』

『まだ名前しか言ってねぇよ。なに、あいつなんかしたの』


 流石兄ちゃん、演技が上手かった。


『進路そろそろ決めないとやばいのにのん気にしてるから怒ったのよ。そしたら家出して・・・』

『ふーん』

『ったく、世話の焼ける』

『だから俺ん家に来たんだ。でも残念ながらいないよ。どっか友達の家に行ったんじゃない?』

『そんな迷惑な・・・』

『・・・・・』

『叱るのもいいけどさあ、そのせいで進路決める気力まで無くさせちゃ元も子もないじゃん。あいつ俺よりずっと繊細で見栄っ張りなやつだからよ、もっと大事にしてやらねぇと』

『はあ、あんたはこうしっかりしてるのに、あの子はああなのかしらねホント』

『そりゃ妹だもん、生まれてからずっと甘えさせて育ててきたんだからあんたたちの責任だろう。それを今更ダメだしするのは理不尽じゃないの』

『なんだと・・・!』

『俺も聖奈も、理想の子どもにしたがるんじゃねえよ・・・・。_____とにかく、俺も探してみるから、もう帰ってくれ』

『・・・・・わかった。その前に便所貸してくれないか』


 まずい、来る、おわったって思った。でも、大丈夫だった。兄ちゃんがかばってくれたから。


『だめ、今はちょっと・・・・』

『何故だ』

『友人がきてて、風呂場使わせてるから。どうせ近いんだし家帰ってからでもいいだろう?聖奈は大丈夫だよ、高校生なりの常識弁えてるだろうから』


 とうとう折れた両親は兄ちゃん家から出て行った。それからしばらく兄ちゃん家に確かめには来なかった。

 洗面所を出て、お礼を言ったら


『別に。ただ、わかるんだよ聖奈の思うことが。親の欠点なんて子供は見抜いちまうもんだよな・・・・しばらくの間置いといてやるよ』


 って返された。ぶっきら棒だけど、兄ちゃんはやっぱり優しいんだ。

 そのご厚意に甘えさせてもらって兄ちゃんが結婚するまでは居候してたってわけ。

 結局、親にはバレたんだけど、その兄ちゃんの信頼感が認められた?みたいでなんかそのまま住んでもいいことになった。

 これがずっと言えなかった深あぁぁぁぁぁぁい訳。おっしまい♪」


 私が話し切るまでにはもう既に夕飯は食べ終えてしまってて、ソファの上で節ちゃんは話を聞いていた。


「そっか、兄貴・・・・そんなことがあったんだな。だから、聖奈のことになると_______」

「え!?どういう意味だよっ」

「なんでもねーよ!・・・・でもこれからは俺が兄貴みたいに聖奈を守ってやっかんな」


 節ちゃんはニッと笑ってテレビのスイッチを押した。

 私も恥ずかしくなって、一緒にバラエティ番組をみることにしたのだった。









これで友情の刹那が完結いたしました!

番外編までの間がありすぎて不自然になってしまいましたが

改めて区切りをつけたいと思います。(笑

他の連載小説もありますので、ぜひそちらも見てみては?


ではでは、見てくださった皆さん閲覧ありがとうございました☆

どうかこれからもwokaguraを宜しくお願いしますm(_ _)m


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