第13話 強運の2人
それから高校2年生が終了するまで聖奈は節との時間を楽しく過ごした。そして春になり、高校3年生となると、今まで付き合っていたのが嘘のようにただのクラスメイトに戻った。いや、クラス替えで違うクラスになってしまったためほとんど逢わないも同然となっていた。ただの友達のようにだけ接し、他人にはまるで別れたかのように見せた。
そして高校3年生の時が終わりになりかかろうとしている。現に聖奈はその約束のために全力で勉強していた。
それを思い出し切った逞真は、ベッドから起き上がり、私室を後にした。
(携帯を変えた様子はないし、だが連絡したような様子もない。きちんと約束を守っているようだ。あとは・・・・大学に合格するだけ。それで2人の約束は果たされる。)
逞真は困ったような顔をして切なそうに聖奈の部屋のドアを見詰めた。
(これで、いいんだよな。聖奈の幸せ・・・・・なんだ。)
そしてセンター試験当日となった。緊張したようにギクシャクして玄関で靴を履き終える聖奈に、逞真は溜息を吐き、肩を叩いた。
「ウワッ!?」
「落ち着きなさい。」
「だ、だってぇ・・・・・」
「らしくないぞ。聖奈は聖奈らしく深刻なことを茶番劇のように熟せ。・・・・大丈夫だ。お前は必ず受かる。変な不安は余計に力を発揮しなくなる。」
「わかってるよ!」
「節の為、でもあるからな。」
聖奈は”覚えてたんだ”と言わんばかりに逞真に微笑み返した。
「うんっ。よしっ、いっちょ頑張ってくるよ☆」
「あぁ、さっさと終わらせて、受かってこい。」
「は~い♪」
普段の調子を取り戻して、聖奈は家を出ていった。
駐車場でそれを見送っていると、
「とうとう試験かい?聖奈ちゃん。」
ニッシーに声を掛けられた。
「はい。こんにちは、ニッシー。」
「ご無沙汰だねぇ。このごろはあんま君の家に行けなくて残念だったよ。」
苦笑する逞真。
「いつも通りに行ってくれて安心しました。」
「そっか。いつもの聖奈ちゃんに戻ったんだね。よかったよかった。」
「聖奈ちゃんもこのアパートの住人。つまり俺の孫娘みてぇなもんだからなぁ。成長を感じるよ。」
いつの間にかジョーさんもやってきた。
「1年前は、色々とご迷惑を掛けましたね。」
「何だよ、水くせぇ。逞ちゃんと聖奈ちゃんは俺に頼ってくれりゃあいいんだよ。」
逞真は微笑みかけた。
(皆に守られているんだ、聖奈。)
強く逞真は妹に投げかけた。
その試験から帰ってきた聖奈は今までにないくらい不安な表情を見せて、兄に泣きついていた。
「うわぁぁぁ!どぉしよぉ~、失敗したかもしんない~!!落ちそう~!!!」
「馬鹿。弱気になるな。そんなこと誰だって思うことだ。しっかりしろ。お前はなんだ?ランク想定外の高校にラクラク受かった女だぞ。そんな強運な奴が、簡単に落ちるはずがないよ。」
「ありがと、兄ちゃん。」
そして、合格発表の日。
ドキドキしながら受験した大学に行って受験番号と掲示板を見比べる。すると_______
「あ・・・・・あ・・・・・・・」
驚愕のあまり何も言えない。聖奈は震えながら再び見比べた。
思わず涙が出てくる。
後にやってきた兄・逞真が聖奈の様子を見に行くと、聖奈は涙を溜めて、駆けてきた。
「・・・・どう、だった?」
「兄ちゃん、どうしよ・・・・私・・・私・・・・・」
唇を噛み締めて、傍にいる妹を見下ろす。まさかと思った瞬間、聖奈が叫ぶように言った。
「約束・・・・叶えれるかもしんない!!」
「本当、か?」
思い切り頷く。つまり、受かったということに相当する。逞真も掲示板を見て、目を見張った。
「よかったな。」
「うんっ!!」
満面な笑みが寒さを吹き飛ばすほど温かかった。拍子抜けしそうになり、逞真は苦笑した。
(ここまで幸運な奴、初めて見たな。これで運を使い果たさなければいいが。)
早速聖奈は久々の節に向けてのメールを送信した。
〈節ちゃん久し振り☆受かったよ、私、受かったんだよ!!〉
返信を待つと、すぐにそれは返ってきた。
〈そっか。やったじゃねぇか!・・・・・でも俺、聖奈の期待に応えられねぇカモ・・・・・〉
その瞬間、青ざめたが、メールの下らへんでそれは解消された。
〈なーんてな。真に受けた?はは、バカめ!大丈夫、俺も受かった。約束、叶ったな!!〉
聖奈は思わず微笑んだ。
「・・・・兄ちゃん、節ちゃんも大学受かったって。」
「そうか」
「はぁ・・・・なんかすっごい緊張する。センター試験の時とは違うドキドキ感!」
「すぐにでも、逢ったらどうだ?」
「そうだね♪そのこと、メールしてみる。」
本日の聖奈は一段と幸せそうで、逞真は安心しながら見守った。
「あ、そこそこ。その角、右に曲がって!」
その後、聖奈は兄の車に乗り、節との待ち合わせ場所まで道案内をしていた。
まだ寒いせいか、外は白く乾いていて、窓を曇らせた。そのせいで、聖奈は運転席を凝らして見ないと目的地がわからず、助手席から身を乗り出すように窓の外を眺めた。
「う~ん・・・・どこだろう?節ちゃん。」
逞真は無言で辺りを見渡し、車を止めた。
「え」
「降りなさい。」
「え、ここなの!?ってかどこに見えんの??」
「降りて行った方がわかりやすいぞ。」
兄の言われるがままに、聖奈は車から降りた。
「帰りは?」
「あ、多分自分で帰れるかも。」
「それでは、迎えにいかないからな。」
「ふぇい♪」
兄の車を見送り、辺りを見渡す聖奈は思わず呆れた。どこにもそれらしき人影は見当たらない。それどころか、人の一人や二人、歩いていてもいいはずなのに、誰一人歩いていなかったのだ。確かに逞真は確信したようにここに妹を置いていったが、本当に節を見つけたのだろうか。探せば探すほど、気が遠くなっていく。
「節ちゃーん、どーこでーすかぁ??」
そんなことを呟きながら歩いていると、珍しく人物に遭遇した。聖奈はそれに気づかず、ふらふらと歩く。その二人が擦れ違う際に、双方の肩同士がぶつかった。
「わっ、ごめんなさい!」
「・・・・すいません。」
「・・・・・・・・・え」
「・・・・・・・・・あ」
「「あ゛~!!!!!」」
他に誰もいないこの場所で、彼らは叫びに叫んだ。お互い、探していた人を見つけたのだろう。その勢いは凄まじい。
「ちょっ、え!?もしかしてのもしかしなくて節ちゃん!?」
「んだよ、その言い方はさ!そうだよ、俺だよ!・・・・ま、そっちが聖奈だってことはハッキリだ。」
そう満面な笑みを見せる青年は紛れもなく節だった。しかし、妙に思うところがある。普段なら絶対に擦れ違う前に節だと気づくはずだが、今回だけは、気付けなかった。その理由として、聖奈は思った。高校生の時と見た目が少し違うから。
今まで見てきた津田節という人物は、髪は黒いはずなのに所々金色に染まっていて、Yシャツは第3、4ボタンまで外れているしネクタイはほぐれている。中のTシャツは見せるためのもののように派手な色合いで、よく見ると耳にはイヤリング。Yシャツの裾は中途半端にズボンから出ていて手首にはアクセサリーと思わしきリストバンド。そして首には多数のチャームネックレスが装着されている_____そんな男だった。
しかし、今ここにいる彼はそんな感じではなかった。髪は黒だけで金色の部分なんてどこにも見当たらない。きちんと服は着こなし、アクセサリーは母親の形見である琥珀石だけ。極普通の18歳だった。
「ねぇ、節ちゃん、なんか変えた??」
「あ、気付いた?ちょっとな。受験中はずっとこう。じゃねぇとマナーに引っ掛かるらしくてよ。それに気ィ遣ってたらこれが癖になっちまった。」
「も~、最初誰かと思った!でも・・・・なんかいい。こういう節ちゃん。」
「ホントか?」
「うん。マジマジッ☆」
「兄貴も・・・・許してくれるかな、今の俺。」
「うん。きっと大丈夫だよ!流石の兄ちゃんも解ってくれるって!!」
「・・・・ありがとな。」
安堵の吐息を吐いた節は、再び彼女に頬笑みを見せた。
「また、付き合えんじゃん。これも、二人の強い気持ちが_____ってヤツ?」
「バッカじゃないの!?・・・・でも、ホントにそうだったら嬉しいかも。」
「だろ?じゃあ、その祝いとして__________」
その瞬間からは、言葉は要らなかった。二人とも次に行う動作を悟っていたから。互いの距離を無くして、目を閉じた。そして、気温と対立した温かさが2人を包み込む。2人が1つになった刹那だった。
友情の刹那、人は苦しみも悲しみも喜びも快楽も味わうことができる。人との付き合いは何よりも大切だ。それを感じられるとき、人は感謝の気持ちを憶えるだろう。
御久しぶりです☆
なんだか、別れた瞬間に再会してバンバン事が進んでしまったようですね^^;
一応ハッピーエンドです。
しかーっし!まだ、物語は終わりません!!
次回もよろしくお願いします☆