第10話 友情の刹那
暁 闘哉:20歳 逞真の住んでいるアパートの住人。教育大学の2年生で夢は中学の国語の教師。逞真のことを駿河先輩と呼んでおり、聖奈は気の合う友達である。懐っこく、若々しい好青年。
寿 誠之助:52歳 通称・ジョーさん。アパートの住人兼管理人。ノリのいいキャラでよく逞真をいじりたがる。時に頼れるおじさんパワーを発揮。住人を我が子のように思っている。
柊 秋乃:26歳 逞真の住んでいるアパートの住人。自称プロ少女漫画家。しかしぺンネーム、漫画の題名ともに不明。突然現れ、そして音もなく帰っていく。逞真と同い年で、彼からは秋乃ちゃんと呼ばれている。
西 孤太郎:30歳 逞真の住んでいるアパートの住人。通称・ニッシー。キツネ顔で嘘が得意。そのせいで妻と離婚した。一人息子を養っている。(息子・智史君)逞真のことは人生に成功した男と(勝手に)認め、羨ましがっている。
そう、逞真の住むアパートの住人は全て苗字が一文字なのである!逞真だけぇ・・・(T_T)www
この話で初登場です☆ではでは、ごゆっくりご覧くださいb
「おはよー、聖奈!」
「おっはー!美和☆」
聖奈のテンションは元通りに戻っていた。
「今日宿題ないよねぇ?」
「んー、多分。」
「え゛、なにそれ。」
「だいじょぶ、だいじょぶbあったとしても、賢明がいるでしょ、あたしらには。」
「あっ、そーだよね!!」
そう、他愛もない話をしながら、曲がり角を曲がると、途端に聖奈は美和の腕を掴んで逆方向へと駆け出した。
「へっ?せ、聖奈どうしたっ!?」
「いいから、黙ってついてくるのぉ~!!」
50mくらい遠ざかると、聖奈は、息を切らしながら止まった。
「お、驚いたぁ~・・・」
「驚いたのはこっちだって!いきなりどうしたんだよ?」
「・・・節ちゃんがいた。」
「・・・・・・・・・・・は」
「”は”だよね、ホント!マジでゴメン/(>_<;)」
「いや・・・いんだけどさぁ、まだ気にしてんだ。」
「急には戻んないよぉ。」
「何があったんサ、君ら。まさか・・・・告白ぅ?」
「ングゥ!?」
「アンタ・・・わかりやす・・・。」
聖奈は”ヘタこいたぁ~”と地面にへたり込んだ。
「告白、かぁ。節がしたの?」
「・・・・・」
「いいじゃん。好きだって言われたんでしょ?」
「ん・・・・」
「節じゃ駄目?ほかに好きな人がいんの?」
「そんなんじゃないよ。ただ、友達だったから、理解不能なだけ!」
「そういうもんかねぇ。」
「美和は、なんか思わないの?私と節ちゃんが付き合ったら、美和と賢明、二人だけになるんだよ?」
「平気だよ。それが二人の願いだったら。どうせ高校卒業したら離れるんだし、うちら。」
「そ、そんなこと言ったら、付き合うとかの話も水の泡になっちゃうじゃん。」
「違うよ。それは自分の中で思い出になる。この人と付き合ったの、いい思い出だったなぁとか思うんじゃない?ま、そうなったら、4人で友達だった時もいい思い出だったなぁって思うかもしんないけど。」
聖奈は押し黙る。
「ポジティブに考えれば、これもいい思い出になるかも。」
聖奈は乾いた空を見上げた。秋に近づくその空を見ていると、それでさえ切なくなってしまった。
授業が終わり、帰る時間となった。この時間が、聖奈の気まずくなる時間帯だ。
急いで教室を出ないと節とでくわしてしまう。
素早く学校を出て、一人だけで歩くと、たくさんのことが頭に浮かんだ。
(最近、前みたいに遊んでないなー。秘密基地にも行ってないし。コレという勉強もしてないし・・・・なんだろ私って。)
ふと足を止めた。
”いいじゃん。好きだって言われたんでしょ?節じゃ駄目?”
(駄目じゃないよ。もっと遠い関係だったら、OKしたよ、私は。ただ・・・親しくなり過ぎちゃったみたい。)
聖奈は、節のことが頭に浮かびあがる。
『あー、あんときのアホな女?駿河ってんだ。いい名字だね。』
『何笑ってんだよ。ヘンな奴だなぁ。』
『俺、短気じゃねぇし!!』
『甘いもんの何がわりぃの??俺、菓子あれば一生生きられんだけど。神だな、アレ。』
『勝手にダチ殺すな!』
『あれあれ。カッパのヤロー。俺、凄くハマってるんだよね。』
『死にたいって思ってもさ、死ねなかったんだよ。受験するって決めちまった弟だっているし、なによりお前や賢明や美和がいるよなって。なんも関係ないのに急に俺が死んだってなったら、今の俺よりお前らはショックだろうと思って。だから、俺は生きるよ。』
(・・・もっ。普段私並みにバカだし単純だし、女のコ染みた性格だけど、でも真面目なこと偶に言って、私を助けてくれたりしたよね。)
急に心臓が脈打った。
(どうしたんだろ、私。なんでこんな気持ちになるの・・・?)
聖奈は自分の気持ちに気づくのが怖くて、家まで全速力で走った。
バタン!
「はぁ・・・はぁ・・・・」
聖奈は勢いよくドアを閉めた。
「なんなんだよぉ・・・・」
部屋の中を見ると、机の上に、一枚の写真が置いてあった。聖奈はそれを掴み上げると、一気に涙目になった。
その写真。聖奈にとって思い出深い、秘密基地での4人の写真であった。最初で最後のデジカメで撮った写真。彼らは快楽な笑みを浮かべ、誰一人不満な顔はしていなかった。
「・・・・っ」
急に聖奈はそれを見てムシャクシャした気持ちになり、写真を床に叩き付けたのだった。
パリー・・ン
ガラスが割れ、写真にヒビが入る。最初は抵抗があったが、しばらく黙っていくうちに勢いと精神力に負け、聖奈は暴れ出した。
枕を振り回したり、棚の置物を落としまくったり、蹴ったり殴ったり・・・・・思えば部屋にあるもののほとんどが4人の思い出の品だったために余計に聖奈は癇癪気味になっていた。
・・・・・・・・・・・・
しばらくし、部屋は滅茶苦茶になった。足の踏み場もない。
聖奈は先ほどよりも落ち着いたようで、部屋の隅でうずくまっていた。
(どうして・・・こんな気持ちになんなきゃいけないんだろ・・・?こんなの初めてだよぉ・・・・・)
聖奈は引っ切り無しに出てくる涙を必死に拭った。
(私って、素直じゃないよね。自分の気持ちを受け入れることができない。だから自分がホントは何考えてんのか、さっぱりわかんない・・・!節ちゃんのことは大好きだよ。でも・・・恋人になるってなったらまた違う気がする・・・。でも迷ってこんなことになるくらいなら、素直に付き合っちゃえばよかったのかなぁ・・・?)
聖奈はふと昔話していた会話を思い出した。
まだ高校1年生の時だ。美和がこんなことを言い出した。
『ねぇ、節と聖奈の字をさぁ、繋ぎ合わせたら面白いんだよ。』
3人は首を傾げていた。
『節と聖奈を合わせたら、”刹那”って言葉になるんだ。』
『せつ・・・な・・・あ、確かに。』
『ハッ、くっだらねー!』
『節ちゃん!!』
『だってよー、それが何だってんだよ・・・ハハハwww』
『そこまで笑うなよ!私がしらけたみたいじゃんか!!』
『そうだぞ、笑い過ぎだ節。』
節はまだ腹を抱えていた。
『でも、刹那って言葉、カッコいいんじゃない?私は好きだなぁ。』
『聖奈・・・・』
『一瞬って意味なんでしょう?いいじゃん。』
『聖奈って、急に真面目なこと言い出すよな・・・。』
『ギャップ激しすぎじゃね?』
『ん??そんなことないよぉー♪』
普段通りの会話。今にしては少し懐かしい感じがした。
(あの時は・・・私がボケて、美和がツッコんで、節ちゃんがバカにして賢明がそれを静めて・・・・・楽しかったなぁ・・・・・。やっぱり今まで通りのほうが、私には合ってる気がする。でも、あの時の節ちゃんの顔、本気だった・・・・。)
聖奈は、顔を膝に埋めた。
(恋愛の小説とか漫画とか多いけど、どうして男女の付き合いって親しくなり過ぎると、今までの関係じゃなくなりそうになるんだろう・・・?ずっと友達同士でいられなくなっちゃうんだろう・・・・・?本当に”刹那”だ。”友情の刹那”だ・・・・。友情は一瞬にしか過ぎない。どうして?)
考えれば考えるほど空しくなっていくばかりで、聖奈は悲しかった。
聖奈は辺りが暗くなっても、そのままだった。
逞真がとっくの間に帰ってきても。
「聖奈、飯だ。来い。」
逞真が扉ごしに声を掛ける。
「・・・・・。」
「・・・聖奈?いるんだよな?」
「・・・・・。」
「返事くらいしろよ。入るぞ。」
ガチャ。
「グス・・・・」
「・・・・」
逞真は唖然とした。聖奈のピンで止めていない前髪はやたらと長くて、何よりそこから覗く瞳こそ今までに見たことのないくらい暗く闇にのまれていた。
(俺の見ていない所で何かあったのは事実だが、下手に触れると聖奈の繊細な心が割れてしまうのではないだろうか・・・・?)
そう怖く不安に思ってしまう逞真だが、それを表に出さず、ポーカーフェイスのまま物思いに妹を見詰める。
「はぁ。神経図太い奴だと思ったら。」
「なにさっ。別に兄ちゃんにはカンケ―ないことじゃんっ!!」
「それは関係ないことかもしれないが・・・・」
逞真は不意に床にあるトラ猫のぬいぐるみを手に取った。
「にゃー。」
と突きつけてきたため、聖奈はギョッとした。
「あの~・・・どういう風の吹き回しで??」
「クスッ、やっといつもの聖奈じゃん。」
トラ猫を気に入ったかのように微笑して見詰める逞真。
「え・・・っとぉ・・・・」
「例の連中も来ているから一緒に食べようかと思ったんだが、その顔じゃ無理そうだ。もし一緒に食べたかったら顔洗ってきなさい。あと、気が向けば部屋もきちんと片づけるんだぞ。」
そういうと、逞真は立ち上がり、部屋を出ていった。
「・・・なんなんだぁ??」
聖奈は逞真に差し出されたトラ猫を見た。
(あ・・・確かにちょっと元気出たかも。でも・・・どうしてだろう?余計に涙が出てきちゃうよ・・・。)
と、温かいトラ猫を抱き締める。
(あの頃は、まだ、こんなんじゃなくて、なんの苦労もなく楽しい日々だったのに・・・。)
不意に”にゃー”といった逞真の顔が浮かんだ。
(兄ちゃんは、中学校でこう単純に生徒たちを勇気づけてあげてんのかな?先生って凄いテクニックの持ち主だよね・・・・・・・)
聖奈はフフッと苦笑した。
(バカヤロォ、私、自分で子供って認めてどうすんだよ・・・・)
「先パーイ!早く食べましょーよー!!」
威勢のいい若者の声がする。それはリビングのテーブルから。
「ったく、お前の家じゃないのだぞ。」
「堅ってぇコト言うなよー。その分家賃安くしてるんだしよぉ。ホラ、料理上手いの逞ちゃんだけやし。」
「ジョーさんまで・・・。俺の家は食堂か。」
今の逞真の家には先ほど”例の連中”といっていた住人の2人、暁闘哉と寿誠之助が来ていた。
ピンポーン・・・・
インターホンが鳴り、ドアを開ける。
「あ、逞真君。うちで肉じゃが余っちゃったんだけど食べなーい?んー?」
「あれェ!?ニッシーじゃん!ご無沙汰だことぉ。」
逞真が話す直前にジョーさんがヒョコッと顔を出してきた。
「ジョ、ジョーさん!ってことはあれかい?闘哉君も・・・」
「こーんちわ☆」
「はぁ、他にニッシーみたいな優しい人はいないんですかね。」
逞真は溜息を吐いて肉じゃがの入ったタッパーを受け取る。
「あ、大丈夫大丈夫。僕も子守終えて一息つこうと考えてたからb」
「イジメだ・・・これはイジメでしょ、絶対。」
「あれ?聖奈ちゃんは?」
「・・・今取り込み中です。」
沈黙の中、闘哉だけニヤけた。
ガチャ
聖奈が部屋から出てきた。一旦こちらを向き、フイッと洗面台に行ってしまった。髪はきちんと整っている。
「どしたんじゃ、アレ。」
「失恋ですよ、失恋。」
「なんと!」
「暁」
「駿河先輩も気づいてたんでしょ?」
「・・・・・」
「図星か。流石人生に成功した男だ。うん。」
「でも、意外だなぁ。あの聖奈ちゃんが。」
米を頬張り、目を伏せる逞真。
「まぁ高校生だし、それは恋だってするでしょうよ。」
「そして甘酸っぱくてホロ苦い想いもする。」
気が付けば、小テーブルには秋乃が漫画セット一式持って座っていた。
「・・・秋乃ちゃん、君、いつの間に居たの?」
「いまさっきよ。ここいいネタ浮かぶわけね。あ、さっきの言葉いただくわ♪」
「お、おい。聖奈を参考人物にするつもりか?」
「台詞もらうだけよ。世の中、日常も取り入れなきゃやってけないもん!」
「あぁ・・・そう。」
その時、聖奈がガタンと自分の席に腰かけた。フッ切れたかのような表情でニカッと笑う。
「ちょおっと!おい、逞真!私の分はまだな訳!?」
「何様のつもりだ馬鹿野郎。」
「んまッ、教師が子供に馬鹿っていったぁー!」
「やかましい・・・・」
逞真はしぶしぶ聖奈の分の食事を温め直す。
住人たちはうんうん頷いた。
(これでこそ聖奈ちゃんだ。うん。)
「おかわりっ!!」
今晩の聖奈の食べる量といったらハンパなかった。
「お前・・・太るぞ。」
「ほっとけぃ!今日はハラ減ったのっ!バンバン食べるんだから~。」
「それがいいぞ、聖奈ちゃん。まだまだ成長期☆」
「そっスよ!俺だって力つけてるしー。」
聖奈は闘哉とジョーさんとハイタッチした。
ニッシーは満足気に微笑み、逞真も安心したように聖奈を見詰めた。
「ん~いいわねぇ・・・・今の聖奈ちゃんの表情、主人公に使えそうだわッ!」
「やった☆」
普通通りの駿河家のディナー(?)に戻って、一気に雰囲気が明るくなった。
その夜中のこと。
逞真はぐっすりと眠りこんだ聖奈の部屋に入った。部屋はさっきとは比べ物にならないくらい片付いていた。
妹の無邪気な寝顔に微笑んで、深刻な顔をベッドの隣の小さな棚に向ける。そこには電気と本と、携帯が置いてあった。
逞真は携帯を静かに手に取る。そして、物音を立てないように部屋を出た。
携帯をいじり、節の携帯アドレスを見つけ出す。逞真はその発声通信ボタンを押し、耳に傾けた。
〈もしもし、聖奈!?〉
案の定節の驚愕した声が返ってきた。
「・・・・の、兄だ。」
一気に節のテンションが下がっていた。
〈これ・・・聖奈のだよな__ですよね?〉
「そうだ。」
〈・・・何の用___ですか?〉
逞真は冷酷な声で言い放った。
「明日、土曜日の午後4時、北公園に来い。」
〈・・・は。〉
「必ず来い。わかったな?」
〈え・・・あ・・・はぁ・・・。〉
曖昧なまま電話を切った。
その逞真の表情は、無に近く、また、怒りもこもっていた。
逞真お兄ちゃん、一体何するつもりなんでしょうかねぇ・・・・
次回も宜しくお願いします☆