セドリック・リドリーという男
閉会のあいさつも終わり、周囲の領主たちは意見交換の為に食事会などへ向かうらしい。
「ニール。私達も向かいましょう」
「はい、承知しました」
丁寧に返事をして席を立つと、目の前にとある人物が立っていた。
「……」
「あら、リドリー委員長。いかがなさいました?」
リドリー委員長は、何故かまっすぐと俺の方を見ていた。普通、こういう場では従者を一人の人間として見るのは、珍しい事だったので、俺もエレンも困惑した。
「エレン様、彼を少々お借りしても?」
「それは――」
エレンは反論しようとしたが、リドリー委員長は剃刀のように鋭い視線で牽制して、彼女を無理やり黙らせた。
「……少しの間でしたら、構いません」
「感謝します」
他人の従者を借りて何かを話す。なんてことはそうあるものじゃない。何か剣呑な雰囲気を感じつつ、俺は寂しそうなエレンに、心の中で詫びた。
――
「あの、どういったご用件でしょうか?」
「左目の傷、そして使用人らしからぬ歩行法、貴様、冒険者だろう? なぜ従者の真似事などしている」
エレンから少し離れた場所、丁度窓際の目立たない廊下で、リドリー委員長は開口一番そう言った。
その眼には疑念の色が浮かび、下手な事を言えば首が飛ぶんじゃないかとさえ思える。
「……幼き頃より良くして頂いているからです。それともエルキ共和国では、冒険者が従者を務めてはいけないのでしょうか?」
「ほう、村の方は難民の受け入れによって出来たと聞いたが」
俺はリドリー委員長にこれまでの経緯と自分の出生を伝える。話の途中、何度か質問を挟まれたが、おおむねの事は伝わったはずだ。
「なるほど、一応は信用できるようだ」
「……? ありがとうございます」
意図の掴めない言葉に、俺は疑問符を浮かべつつも謝辞を述べる。
「正直なところ、あの若さで領主となった彼女には、様々な面で繊細な立場に立たされている」
それは、流石に政治に疎い俺でも、理解できる。
急激な代替わりで、引継ぎも碌に行われず領主となったのだ。ユナ以外の家臣は信用できないと言っても過言ではないだろう。
事実、俺がコスタに戻った時点からでも、遠戚のよくわからない人間が、彼女に取り入ろうとしたのをユナが止めているのを何度も見ていた。
「通商路が開通したことで、コスタ領は急速に地理的な重要性を増し始めている。これからは、彼女にとってつらい局面となるだろう。それを、貴様が支えるんだ」
「は、はい」
「なにせ、彼女が信頼できるのは、あの不死種を除けばお前だけなのだからな」
……ん? あれ? なんかエレンから聞いたのと、印象が違うな。
そう思って、俺はちょっと彼の言動を思い出してみる。
――全く……私はお父様が居なくなって大変だというのに、あの髭面は『ついに不死種が乗っ取りを始めたのかと思った』とか『君は若いのだから来る必要も無いだろう』とか……
これ、もしかして『ユナに頼りっきりはダメだぞ』とか『君はまだ若いから、無理せず勉強をしているといいよ』みたいな意味だったんじゃないのか?
そういえば、会議前も「貴方には期待しておきましょう。良き領主となることを」とか言ってたな、もしかしてアレ、皮肉とかじゃなくてそのままの意味か?
「どうした? 何かあるのか?」
「え、あ、いえっ! なんでもありません! 全霊をもって職務に当たらせていただきます!」
「……そうか、では戻れ」
俺は「案外いい人なんじゃないか?」と思いつつ、エレンの元へ小走りで向かった。
いつか誤解が解けると良いんだけど。難しいだろうなあ、第一印象が悪いし……




