治安委員会委員長
中央議会は、エルキ共和国首都のルクサスブルグにある。
目も眩むような彫刻群と、丹念に磨かれたステンドグラスに彩られたそれは、宮殿のようにも見える。
しかし内部はそうではない。白を基調とした、実用性を第一に考えられて会議室は作られており、発言者の声がしっかりと聞き取りやすいように建築され、魔法も付与されている。
「エレン・フォルツァ・フォン・コスタ。議会の招集に応じ、参りました」
エレンがそう言うと、受付の係員は恭しく赤い薔薇のコサージュを手渡す。これがここでの身分証明となる。
俺はエレンに続き、従者用の白い薔薇を貰い、胸に差した。
周囲には何人かの領主たちが既に集まっており、その中には青い薔薇を付けた人々も混じっていた。
「はー……委員長まで出席するのか」
「言ったでしょう? 治安委員の配置や基金の出資率も決めると、委員長が来なければ話が始まりませんわ」
そうぼやくと、エレンはそれに応えるように教えてくれた。もちろん二人とも小声だが。
周囲を気にしながら話さなければならないのは、ある意味依頼中と同じような緊張感があった。あっちは死の危険で、こっちは心理的な危険だ。
「……これはコスタ領主様、今年も参加されるのですね」
あ、こいつ行きの馬車でエレンが散々愚痴ってた奴だ。直感的にそう感じた。
灰色の髪に定規でも当てたかのように揃えられた髭、獰猛な獅子を思わせる風貌だが、ただ粗暴な輩という印象は受けない。内から滲みだすような、確固とした意志を持っていそうな、そういう人だった。
「リドリー委員長、今回もよろしくお願いしますわ」
「うむ……して、こちらは」
「ユナには今回、留守を守るよう命じましたわ、こちらは代わりとなる私の臣下、そして新興した村の代表者、ニールです」
そう言って、エレンは俺を紹介する。俺は頭を下げるだけにして、じっと黙っている。相手の付けているコサージュは青色、下手に発言すればエレンの立場が危うかった。
「なるほど、しかしエレン様には時期尚早だったのでは?」
「……」
あ、エレン怒ってる。多分「貴方がユナに頼りきりはダメだって言うから人選変えたのに、今それを言うんですの!?」とか思ってる。俺は付き合いが長いから分かるんだ。
「ご忠告ありがとうございます。でも、大丈夫ですわ、いつか一人で出来なければならないのですから、私はどんどん経験を積んでいきますわ」
「ほう、それは楽しみだ」
言葉の丁寧さは、一枚めくれば抜身の剣が躍っているように思えた。
しかし、リドリー委員長か……
――セドリック・リドリー
治安委員会の委員長であり、公正にして聡明、法律をそのまま人間にしたような男。冒険者の俺は、そういう評価を聞いてきた。
確かに、彼の纏う雰囲気は厳格そのもので、彼の理念には髪の毛一本分の隙間も無いように見えた。
「……」
そんな姿を見て、俺は改めて「ここに来るんじゃなかった」と思った。商人相手に騙し合いしているほうがまだ気が楽だぞ……




