シチューができるまで
建築で余った端材と石で簡易的なかまどを作り、拾ってきた枯れ枝を燃やして具材を煮込んでいく。
二〇人近くの人間が作業をしているため、人数分作となれば量もそれなりになる。火属性魔法で火力を調節しつつ、俺は改めて進捗を確認する。
作っている橋は、基本的に木製の吊り橋だ。
ただし、川の途中に数本の柱を打ち込み、ロープにも補強用の鋼線と、腐食に強い油脂が塗られている。
完成形を以前みせてもらったが、あれほどしっかりした造りならば、アーチ形の石造橋にも引けを取らないだろう。
腐食しやすい部分は石材を使い、強度に不安のある部分には鉄板による補強が入っている。これならば人や馬車が十人単位で通ってもビクともしないはずだ。
ちなみに今の進捗としては、柱の建設が終わり、両岸をつなぐ長いロープが張られ、橋げたを渡す作業が進んでいる。これの上に橋板を載せていけば、ようやく完成する形となる。
「人は強いですね……」
メイにシチューの煮込みを任せている間、エレンは俺の隣まで歩いて来てそう呟いた。
「あんな廃墟同然の村しか用意できなかったのに、こんなに活力をもって作業に取り組んでいます」
「……それはエレンもだろ」
コスタに戻った日、ユナから前領主の急逝は聞かされていた。そして、エレンがその後を継いで頑張っていることも。
「私は、ダメになりそうでした。ニール、貴方が帰ってこなかったら、近いうちに職務を投げ出していたでしょう」
そう話すエレンの表情はいたって真面目だ。俺は少しだけくすぐったく感じて、頭を掻く。
「きっと村のみんなも同じだ。開拓者による再襲撃を回避できなければ、よしんば逃げられたとしても、こんなに気力をもって労役には就けなかっただろうな」
家畜化された人間は、まさに尊厳を全て奪われたような生活を強いられる。一度目の占拠時は時期が短かったのもあり、影響は出なかったが、数か月もあの状況で生活すると、本当に何も出来ない無気力な人間になってしまう。それを避けられたのは、本当に良かった。
「と、いうことは、私も、村のみんなも、ニールのおかげでくじけずにいられるって事かしら?」
「いやいや、なんでそうなる」
「だって、私は貴方が帰ってきたから職務放棄せずに居られて、村の方々は貴方が連れ出したから襲撃を免れたのでしょう?」
いや、まあ……確かにそうっちゃあそうなんだが……
「勘弁してくれ、俺が褒められるの苦手だって事、よく知ってるだろ」
気恥ずかしくて誰もいない方向を見る。周囲にはうっすらと雪が積もっていたが、顔の熱さは確かに感じていた。
「ええ、分かっていて言っています。ふふふっ」
「あのなあ……」
からかうなよ、と言おうとした時、丁度メイが声を上げる。
「よしっ、シチューできましたよ。ニールさんみんなを呼んでください! ……って、なんか顔が赤いですけど」
「いや、その」
「ニールはすごいって話をしていたの、メイもそう思うわよね?」
「ええ、そりゃもう! ニールさんが居なかったらアタシたちはここで暮らせてませんから!」
小さな女領主のいたずらは、まだしばらく続きそうだった。
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