閑話:グリード
「ああああ!!! なんだあのクズどもは!」
カインは誰に当たることも出来ず、部屋で一人怒声を上げていた。
発端はパーティ唯一の支援職であるニールが脱退したこと。それによって支払いの引継ぎが上手くいかず、不渡りを起こしてしまった。
次に起きたのは、モニカの脱退。引継ぎの不手際をモニカの責任にした結果、彼女はその重圧と責任に耐えきれず、夜の誰もが寝ている時間にこっそりとパーティを抜けていた。
そして、今回は――
「全く、うるさいねえ……自業自得だろ? 白金クラスの旅団連合に入れてもらおうってんだから、試験の一つや二つあるだろう」
サーシャが顔を出す。心底迷惑そうな顔で、半ば呆れているといった調子だ。
「お前らもお前らだ! せっかくのチャンスを棒に振りやがって!」
「いや、でもこれアタシ達関係なくない? 自業自得って感じ」
事の顛末はこうである。
ニールが抜け、モニカも居なくなったカインのパーティは、新しく作られる旅団連合に参加し、魔法職の融通をしてもらおうと考えた。
旅団連合とは、ギルドの下位組織であり、複数のパーティが協力して様々な依頼をこなす事を目的とした組織だ。
その連合の加入審査をしている間、一人の魔法職がパーティに加入したいと言ってきた。彼は初級魔法しか使えず、全体的に能力が劣っていたが、カインたちのパーティは魔法職が不在である。彼を拒む理由は無かった。
サーシャとアンジェは温かく迎えたものの、カインは彼の能力が低い事を理由に失敗の責任を押し付け、何かと報酬の分割を渋った。
結果、彼には逃げられてしまい。旅団連合の合否に懸けるしかなくなってしまう。
そして、つい先ほど合否を聞くために会合を行ったのだが……
「言ったじゃない。新人いじめるのは良くないって」
「わかってたなら止めろよ!」
その会合の場にいたのは、連合の中心にいる女首領と、彼らが逃がした魔法職の男が居た。
――話は彼からすべて聞きました。
その言葉だけで、全てが察せられてしまった。
「ま、いい薬になったね。これに懲りたら、そのすぐ癇癪起こすクセを直したらどう?」
手をひらひらとさせてサーシャは部屋を出ていく、その後ろ姿に、カインは言葉にならない罵声を浴びせるのだった。
――
「おい、神託を受けに行くぞ」
その次の日、朝食の席でカインはそう言った。
「良いっすけど、たぶんまだレベル上がってないよ、アタシ」
「カインも剣士のままなんじゃないの? なんか手応えとか不足感とか、感じてないでしょ?」
アンジェとサーシャはまったく乗り気ではないようで、朝食のパンにかぶりついていた。
「いや、今回は魔法を使えるようになっているはずだ。なぜなら俺たちは魔法が必要なのに魔法が使えない状況だからな」
彼の話すことは、全くのでたらめという事は無い。なぜなら適性が無くても魔法を扱いたいと強く思えば、そちらのスキルレベルが上がることもあるのだ。
「いや、アタシ別に死なないし、ね? サーシャ」
「そうねえ、後ろから矢を撃ってるだけだし、特に変化はないと思うわ」
「いいから行くぞ! 文句を言うな!」
カインはそう高らかに宣言し、パンにかぶりついた。
そうして朝食をとり終えると、彼らはギルド提携の教会へと足を運び、神託の儀を受けることとなった。
「そなたは騎士の職業が与えられておるな」
「そなたは弓手の職業が与えられておるな」
二人の神託が終わり、カインは職業に魔法の適性が無い職業が告知されたことで、少し苛ついた表情をしていた。
「そなたは……」
そして、カインの番になり、神官は動きを止める。
言うべきか言わないべきか、神託は教えずとも確定しているため、結果は変わらないものの、告知を迷う素振りは周囲に疑念を抱かせた。
「……強欲者の職業が与えられておるな」
その言葉が発せられた瞬間、周囲の空気が一変した。その場にいる全員がカインの姿を見て、カイン自身も驚きに満ちた表情をしている。
――強欲者
他の者から不当な搾取をおこなう者に与えられる職業。
中程度の剣術マスタリーと低い魔法マスタリーを持ち、他者を蹴落とし隷属させるためのスキルを習得する。
ユニークスキルは「支配」で、意志の弱い者や知能の低い魔物を意のままに使役することができる。
人間よりも魔物に近い職業であるため、即刻修道院へ送り、矯正を行わなくてはならない。
「神官様!」
護衛騎士が盾による殴打で、カインを昏倒させようとするが、一瞬遅かった。彼はすぐに我に返ると、身を翻して教会の外へ出ていく。
「強欲者が逃げたぞ!」
「追え! 絶対に捕まえろ!」
「市民に警戒するように通告しろ!」
教会騎士たちが叫ぶが、カインはそれをものともせず、街並みに溶け込むように逃げてしまった。




