せっかく転生特典を手に入れたのに、私の冒険は始まりそうにないです
「はぁ〜、また来たんですか。早くここから出してくださいよ」
その姿を視認して、小さなため息を吐く。
この中に入れられてから、もう十日は経つでしょうか?
私はわけあって、今現在この地下牢の中に幽閉されていました。
※ ※ ※ ※ ※
「王よ。城内に無断で侵入していた賊を捕らえました」
「うむ、ご苦労。下がって良いぞ」
広々とした玉座の間の中心に放置され、衛兵は部屋から退出する。
私は両手を後ろで拘束されたまま、王の御前へと献上されていた。
完全にぬかりました。
転生特典の透明化の能力が嬉しくて、無心で使い続けていたらこの有り様です。
異世界の物珍しさから、私ははしゃぎすぎてしまいました。
気づけばこんな立派な城の中へと誘われて、時間制限により能力強制解除。
王宮の真ん中で透明化の能力が解けてしまい、衆人環視の中取り押さえられてしまいました。トホホ。
「賊よ。お前透明化していたとの話だが、まさか…………ワシの裸を見たいがために、このような真似を——」
「…………はぁッ!」
「その様子だと違うのか? ワシが入浴中の風呂場を覗くために、透明化したのではない?」
「——断じて違うッ!!!」
「ワシを浴場で見て、欲情しないのだな」
「それは全く面白くないですよ陛下」
全力で否定した私とは対象的に、王妃は淡々と指摘を入れる。
何とも言えない微妙な空気が漂うも、ただそこは玉座に君臨するだけあって、王様も臆することなく話を進めていった。
「実を言うとな? ワシの身体には王家の紋章がないのだ」
「はあ……」
「これが公表されれば、ワシの立場はあっという間に無くなる」
「へ、へぇ…………」
「本当はそれを確かめるべく城に侵入したんだろう? ワシの裸で国家転覆を狙って——」
「ち、違いますよ! 城に入ったのは、ただの不可抗力です!」
「むう? そうなのか? だがワシの秘密を知ったからには、生かしては返さんぞ!」
「いやアンタ、自分で言っただけだから! 暴露しちゃったんだから!」
自分で全部言っちゃったよ。実は傀儡王なのか。
知りたくもない、どうでもいい事実を勝手に明かされて、転生早々消されるのだけは勘弁。
その場で極刑と言い出しかねない王様に、私は疑問を投げかける。
「よく分かんないですけど。紋章がないんなら、自分で掘れば良いんじゃないですか?」
「嫌だ! だって怖いもん! 掘る時痛いって聞くし、王座から退く時も一生残るんだぞ! 消すのにも苦労するって話だし」
「それはそうかも」
「はぁ〜、私も常々言っているのですよ? いい加減に覚悟を決めて、紋章を刻んでくださいまし、と。それをいつまでも駄々をこねて、私も頭を悩ませていますの…………」
「ま、まあ王妃よ…………その話はおいおいとな? それよりもだ——」
突然玉座を立ち、テクテクと部屋の中心へと歩み始めた王様は、私に耳打ちする。
「後でワシにも、その透明化の技を教えい。さすればお前のように女を覗き放題ッ! うへへッ!!」
「あはは〜、えーっと……」
「——しっかりと! 聞こえておりますよ」
「わっはっは〜〜! 冗談じゃよ、冗談! 王妃もそんな怖い顔をするでない!」
まず、私に覗き趣味はございません!
と、叫びたい衝動に駆られるも、彼らの機嫌を損ねるわけにもいかないので、グッと堪えて。
この世界に導き、力を授けてくれた神様も、この王様と似たようなこと言ってたな〜。
その力でスケベな願望を叶えたい放題じゃぞ——ってね。
とりあえず、この人にだけは絶対に教えないようにしよ。
「まあいい。その能力、希少価値は高そうだ。上手く扱えれば、隠密に特化した部隊が作れるかもしれん」
「では陛下、この者の処遇については不問に?」
「ワシとしては、それでも構わぬと考えるが——」
よしよし。
何事もなくこのまま解放されれば、後は自由の身になれる。
「——しかし王よ。会って間もない、この者を信用するのはどうかと。こいつの力は脅威です。今後透明化の能力が王の元へと、牙を向く可能性も十分にあり得ます」
「ふむ、大臣はそう考えるか」
「へっ…………?」
「この者の処遇についてだが、まあ一旦は地下牢に幽閉で良かろう。大臣の言う通り、信用に値せぬ以上、ワシの秘密を知った存在を野に放つわけにもいかん」
ちょっと待って! 私の異世界ライフがぁああ!
許されそうな感じの流れも、大臣の一言で簡単に一蹴されていた。
そうして私は牢獄に閉じ込められて、今まで獄中生活を余儀なくされますが、ここには毎日のように客人がやって来るのです。
「はぁ〜、また来たんですか王様。早くここから出してくださいよ」
「お前も分かっておるであろう? このままこの地下牢で一生を終えたくはあるまい? だからその透明化を早くワシに会得させよ。さすれば——うへへッ!」
王妃の目を盗んで、わざわざ地下牢まで出向いて、その目的は下心丸出しの欲望を叶えることにあった。
でも、無理なものは無理なんです!
透明化を扱える私ですら、その仕様について把握していないのに、どう教えろというのですか!
しかも王様からは透明化を会得するまで、この牢屋から出すつもりはないと宣言されてしまいました。
初めは仕方なく、王様に協力していましたけど。
そもそも転生特典で身についた能力が、簡単に誰かに覚えさせられるなどと、そんな都合良くもなく。
現に全く進歩のないまま、十日が経過していました。
「絶対に諦めぬぞ。ワシの欲情を叶えるために」
「一人で浴場にでも行って下さい!」
もうお手上げです。つき合いきれません。
上手いこと透明化で、隙を突いて逃げるしかありません。
私のこの異世界での、めくるめく冒険が始まるのはまだ先のようです。




