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せっかく転生特典を手に入れたのに、私の冒険は始まりそうにないです

作者: 鷹のつめ
掲載日:2026/05/08

「はぁ〜、また来たんですか。早くここから出してくださいよ」


 その姿を視認して、小さなため息を吐く。

 この中に入れられてから、もう十日は経つでしょうか?

 私はわけあって、今現在この地下牢の中に幽閉されていました。



※ ※ ※ ※ ※



「王よ。城内に無断で侵入していた賊を捕らえました」


「うむ、ご苦労。下がって良いぞ」


 広々とした玉座の間の中心に放置され、衛兵は部屋から退出する。

 私は両手を後ろで拘束されたまま、王の御前へと献上されていた。


 完全にぬかりました。

 転生特典の透明化の能力が嬉しくて、無心で使い続けていたらこの有り様です。

 異世界の物珍しさから、私ははしゃぎすぎてしまいました。

 気づけばこんな立派な城の中へと誘われて、時間制限により能力強制解除。

 王宮の真ん中で透明化の能力が解けてしまい、衆人環視の中取り押さえられてしまいました。トホホ。


「賊よ。お前透明化していたとの話だが、まさか…………ワシの裸を見たいがために、このような真似を——」


「…………はぁッ!」


「その様子だと違うのか? ワシが入浴中の風呂場を覗くために、透明化したのではない?」


「——断じて違うッ!!!」


「ワシを浴場で見て、欲情しないのだな」


「それは全く面白くないですよ陛下」


 全力で否定した私とは対象的に、王妃は淡々と指摘を入れる。

 何とも言えない微妙な空気が漂うも、ただそこは玉座に君臨するだけあって、王様も臆することなく話を進めていった。


「実を言うとな? ワシの身体には王家の紋章がないのだ」


「はあ……」


「これが公表されれば、ワシの立場はあっという間に無くなる」


「へ、へぇ…………」


「本当はそれを確かめるべく城に侵入したんだろう? ワシの裸で国家転覆を狙って——」


「ち、違いますよ! 城に入ったのは、ただの不可抗力です!」


「むう? そうなのか? だがワシの秘密を知ったからには、生かしては返さんぞ!」


「いやアンタ、自分で言っただけだから! 暴露しちゃったんだから!」


 自分で全部言っちゃったよ。実は傀儡王なのか。

 知りたくもない、どうでもいい事実を勝手に明かされて、転生早々消されるのだけは勘弁。

 その場で極刑と言い出しかねない王様に、私は疑問を投げかける。


「よく分かんないですけど。紋章がないんなら、自分で掘れば良いんじゃないですか?」


「嫌だ! だって怖いもん! 掘る時痛いって聞くし、王座から退く時も一生残るんだぞ! 消すのにも苦労するって話だし」


「それはそうかも」


「はぁ〜、私も常々言っているのですよ? いい加減に覚悟を決めて、紋章を刻んでくださいまし、と。それをいつまでも駄々をこねて、私も頭を悩ませていますの…………」


「ま、まあ王妃よ…………その話はおいおいとな? それよりもだ——」


 突然玉座を立ち、テクテクと部屋の中心へと歩み始めた王様は、私に耳打ちする。


「後でワシにも、その透明化の技を教えい。さすればお前のように女を覗き放題ッ! うへへッ!!」


「あはは〜、えーっと……」


「——しっかりと! 聞こえておりますよ」


「わっはっは〜〜! 冗談じゃよ、冗談! 王妃もそんな怖い顔をするでない!」


 まず、私に覗き趣味はございません!

 と、叫びたい衝動に駆られるも、彼らの機嫌を損ねるわけにもいかないので、グッと堪えて。

 この世界に導き、力を授けてくれた神様も、この王様と似たようなこと言ってたな〜。

 その力でスケベな願望を叶えたい放題じゃぞ——ってね。

 とりあえず、この人にだけは絶対に教えないようにしよ。


「まあいい。その能力、希少価値は高そうだ。上手く扱えれば、隠密に特化した部隊が作れるかもしれん」


「では陛下、この者の処遇については不問に?」


「ワシとしては、それでも構わぬと考えるが——」


 よしよし。

 何事もなくこのまま解放されれば、後は自由の身になれる。


「——しかし王よ。会って間もない、この者を信用するのはどうかと。こいつの力は脅威です。今後透明化の能力が王の元へと、牙を向く可能性も十分にあり得ます」


「ふむ、大臣はそう考えるか」


「へっ…………?」


「この者の処遇についてだが、まあ一旦は地下牢に幽閉で良かろう。大臣の言う通り、信用に値せぬ以上、ワシの秘密を知った存在を野に放つわけにもいかん」


 ちょっと待って! 私の異世界ライフがぁああ!

 許されそうな感じの流れも、大臣の一言で簡単に一蹴されていた。




 そうして私は牢獄に閉じ込められて、今まで獄中生活を余儀なくされますが、ここには毎日のように客人がやって来るのです。


「はぁ〜、また来たんですか王様。早くここから出してくださいよ」


「お前も分かっておるであろう? このままこの地下牢で一生を終えたくはあるまい? だからその透明化を早くワシに会得させよ。さすれば——うへへッ!」


 王妃の目を盗んで、わざわざ地下牢まで出向いて、その目的は下心丸出しの欲望を叶えることにあった。

 でも、無理なものは無理なんです!

 透明化を扱える私ですら、その仕様について把握していないのに、どう教えろというのですか!

 しかも王様からは透明化を会得するまで、この牢屋から出すつもりはないと宣言されてしまいました。


 初めは仕方なく、王様に協力していましたけど。

 そもそも転生特典で身についた能力が、簡単に誰かに覚えさせられるなどと、そんな都合良くもなく。

 現に全く進歩のないまま、十日が経過していました。


「絶対に諦めぬぞ。ワシの欲情を叶えるために」


「一人で浴場にでも行って下さい!」


 もうお手上げです。つき合いきれません。

 上手いこと透明化で、隙を突いて逃げるしかありません。

 私のこの異世界での、めくるめく冒険が始まるのはまだ先のようです。

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