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掌の眼  作者: 瑠璃雀
夏休みの始まり
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山での修行? 山小屋の朝

 翌朝、鳥の囀りで目を覚ました七海はベッドの上で大きく伸びをした。驚くほどスッキリ目覚められ、朝の空気を堪能しようと着替え始める。

「おはよー‥ナナはやいねー‥でもなんか気持ちよく寝れたー!」

 茜も起き上がって目をこすっている。

「ちょ!茜‥髪!やばい!!」

 ふだん癖のある肩までの髪をポニーテールにしているが、ドライヤーを使えなかったためなのか爆発している。

「う?‥うわあああ!!」

 自分の髪を触り、状況を把握して手櫛で整えようとするが、寝癖と相まって大変なことになっている。

「っ!ふっ‥あはははは!」

「もおお!ふふっ!あはははは」

 七海が自分のリュックからブラシを取り出して髪を梳かす。

「ナナはいいなぁ‥サラッサラのストレート!超うらやま!!」

 茜も着替え、髪をポニーテールに結んだ。洗顔や歯磨きを終えて外に出ると、まだひんやりした空気が心地よい。


「‥あれ?起きたの?」

 声はするが姿が見えず、七海と茜は周囲を見回す。

「鷹兄、だよね?」 

「うん、鷹兄の声。」

 直後に着地音がして振り返ると、髪ボサボサの鷹也が立っていた。

「どこから現れたの!?」

「飛び降りた‥」

 説明する気があるのかないのか分からないまま、てくてくと歩いてゆき、岩から渓流に飛び降りる。

「「ええええええええ!!」」

 七海と茜が慌てて見に行くと、岩場の影になっている淵に飛び込んだらしい。一度水中に潜って再び浮き上がると、盛大に水を滴らせながら岩を登って歩いてきた。

「今の‥なに?」

「え?顔洗っただけ。」

 思わず問いかけた七海に、何かおかしい?といった表情を向けてくる。

「いやあの!顔洗うのに飛び込む必要ある!?」 

「全身ずぶ濡れだったけど!?」

 茜と七海の疑問をよそに、山小屋へと入っていく。


「おはよう!」 

「オハヨー‥」

 テントからごそごそと遊馬と道明が出て来て、爆発している髪に茜と七海は再び大笑いだ。

「んあー朝はこうなるんだよー」

 既にしっかりと目覚めている道明と

「髪?‥あれ?はえてるね?」

 まだ半分寝ぼけている遊馬の対比に、笑いが止まらなくなる。

「はえてるね、じゃないんだわ!!」

 思わず笑いながらつっこむ七海に、道明も笑い出し、茜は笑いながら涙を流している。


「おー!起きたか!おはよう!昨夜はしっかり眠れたかい?」

 既に起きていたらしい圭輔が爽やかに挨拶をしてくる。

「はい!寝落ちしました。」 

「横になってすぐだった!」 

七海と茜がスッキリした顔で答える。

「俺は眠れなかったような‥?」

 呟く遊馬に「秒で寝てたわ!!」と道明がツッコミを入れ、圭輔も笑い出す。


「‥おはようございます‥」

 少しふらつきながらさくらもやってきた。

「え?大丈夫!?さくらちゃん、具合悪い!?」

 七海が心配そうに声を掛けるが、さくらは首を振った。

「低血圧で‥少し落ち着いたら大丈夫です。寝起きはちょっと‥」

 そう言って岩の上に座り込む。



 少し騒がしい朝だったが、昨夜のうちに炭の中に埋めていたアルミホイルの塊を圭輔が取り出した。かなりたくさんあり、何だろう?と覗き込む。

「めちゃくちゃ美味いぞー!」

 軍手をした手で一つ一つアルミホイルを剥くと、中にはサツマイモとじゃがいも、かぼちゃが入っていた。

「塩バターで食うんだよ。」

 七海達も軍手をし、熱々のじゃがいもやサツマイモにバターを塗り、一口食べた。

「「「「うまああああ!!!!」」」」

 ホックホクの身は甘みがぎゅっと濃縮され、バターのコクと塩味が混ざり、食べても飽きが来ない。

「自家製ソーセージもあるからなー!」

 炭火で炙ったソーセージも程よい焦げ目があり、皮はパリッと、肉汁が溢れ出してお口の中が幸せだ。昨夜に引き続き食事を堪能し、食後のお茶がさっぱりと身体に沁みていく。


「あの、鷹兄?まだびしょ濡れみたいだけど‥?」

「うん。そのうち乾く。」

 気になった七海が兄に声をかけたが、鷹也は全く気にしていないらしい。

(鷹兄って、こんな雑なの‥?まだ寝ぼけているのかな?)

 七海は、それ以上どう声をかけたら良いか分からないまま兄の様子を眺めていた。


 全員で昼食用のおにぎりを作り、フィールドワークへと出発する。既に元気になったさくらが、七海と茜の傍に行く。

「山小屋からさほど遠くへは行きませんから、お手洗いに行きたくなった言って下さいね?」

 女子二人は安心して笑顔になり、頷いた。やはり年上の女性がいると心強かった。


 傾斜もさほどきつくはなかったが、やはり木の根や下草のせいで少し歩きにくい。

「この先に祠があってね、山神様がおられるから挨拶に伺うよ。」

 今日のことは当然事前に伝えてはある。それでも山に入った以上は挨拶に行くべきだろう。4人は神妙な表情になり、静かに歩みを進めていった。


 七海達が釣りをしていた渓流の、少し上流に当たる場所。ここには大きな石も多く、ひときわひんやりした空気に包まれているように思う。

「こちら、だな」

 木と岩の間を通り抜けると、そこは微かに霧が出ていた。大木の根本に石の塊が見える。風化していて形が崩れかけているが、どうやら石組みの祠らしい。

<おお‥来たのか‥>

 人型のような淡い光がふわりと現れた。

「お邪魔してます。ご挨拶に伺いました。」

 圭輔がそう言って軽く頭を下げる。そして4人を振り返った。挨拶をしろということだろう。


「おっお邪魔してます。‥騒がしくしてしまってすみません!」

 七海がつい大騒ぎしてしまったことを謝罪する。気を悪くさせてしまったら申し訳ないと思ったのだ。

<ほっほ。そう気にせずとも良い。楽しんでくれたら良いからなあ>

 穏やかな声で答えられ、かなりホッとした。

「お邪魔してます。この山の空気、すごく気持ちよくて!来られて良かったです!」

 茜が元気よく挨拶し、ぺこりとお辞儀をする。

<そうかそうか。それは何より。ゆっくりしていってなあ。>

「こんちゃー!ここの風、何か軽い?感じがしていいなーって思ってます。よろしく!」

 遊馬の話し方はかなりフランクだ。

<ははは!そうか、風が軽く感じるか。ここの風は湿気が少ないのでな?そう感じるかもしれん。>

 へえと遊馬は呟き、慌ててお辞儀をした。

「こんにちは。お邪魔してます。‥ここの雰囲気、俺も好きです。」

 道明も深々とお辞儀をして笑顔を向ける。

<ふむ、地脈を視る目が良いのう。‥せっかくだ、この山をしっかり視ていくといい。>

「ありがとうございます!」


「こんにちは、お邪魔しております。明日までこちらでお世話になりますので、どうぞ宜しくお願い致します。」

 さくらも丁寧に挨拶し、深々とお辞儀をした。

<そんなに畏まらんでもいいのに。だが、気持ちは受け取っておくぞ。気を付けてな?>

「はい、ありがとうございます。」

 さくらも笑顔で下がる。


 挨拶を終えてそっと祠から離れる。ちなみ鷹也は手前で待っており、山神様に挨拶はしていない。

「鷹兄は行かなくていいの?」

「うん。」

 七海が気になって聞いてみるが、理由を説明する気もないらしい。

「ええと、その‥神様に怒られたりしない?」

「?‥しないよ?」

 茜が問いかけても何でそんなこと聞くんだろう?といった様子だ。二人はそれ以上の質問を諦め、困ったように笑い合った。

 神様にご挨拶したことで、単なるレジャーだけではないことを気付かされた。4人はこれからどうなるのだろう?と、不安と期待に満ちた表情で頷きあうのだった。


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