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お花のラナァは今日も幸せ  作者: 葉月双
1章

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9話 ラナァ、相談を受ける


「うぅ……今となっては、あーちゃんに心から感謝してくれるのはラナァだけだよぉ……」


 あーちゃんは涙を拭いながら言った。

 ラナァは葉っぱであーちゃんの頭をナデナデ。


「そういえば、神殿にあーちゃんの像があったよ」ラナァが言う。「でも羽がなかった」


「この羽は飾りだから」


 あーちゃんが言うと、背中の白い翼が消失。


「そうなんだ?」

「そうなんです」


 2人は顔を見合わせ、そして「ふふっ」と笑った。


「ラナァはどうして神殿に?」


 あーちゃんが聞いて、ラナァは事情を説明。


「ふむふむ」あーちゃんが頷く。「転生した植物の魔王に会えたわけね。良かったねラナァ。嬉しい?」


「うん! ラナァはとっても嬉しい!」


「ラナァが嬉しいとあーちゃんも嬉しい!」あーちゃんは花が咲いたように笑った。「世界がまだ残っているのは、ラナァがいるからだよ! 全ての生命体はラナァに感謝するべき!」


 あーちゃんが言うと、ラナァはドヤァと胸を張って左右の葉っぱを腰に当てた。

 ついでに補足すると、張ったのは胸ではなく茎である。


「あ、ラナァそろそろ戻るね! またね!」

「ああ! ラナァのそのアッサリした感じ大好き! だけどもう少し名残惜しんで欲しいな!」


 あーちゃんが言い終わる頃には、すでにラナァの姿はなかった。



 ふあぁ、とイリナは大きな欠伸をした。

 ここはイリナの自室。

 物の少ないシンプルな部屋。


 花瓶に黄色い花を飾っている以外、装飾品はない。

 あとは必要最低限。

 別に清貧を好んでいるわけではない。

 単純にイリナは物欲が薄いのだ。


「ラナァ、もう普通に話しても、お胸から出てもいいですよ」

「はぁい」


 スポン、とラナァはイリナの胸から抜けて床に降り立つ。

 根っこを器用に動かして、部屋の中をグルグルと走り回る。

 なんて可愛いのだろう、と思いながらイリナはベッドに腰掛けた。

 そうすると、急に睡魔が襲ってきた。


「ああ……ラナァ、あたくし少し眠るので……子守歌を……」

「いいよぉ!」


 ラナァは鈴のような美しい声で、眠気を誘う歌を歌った。

 それを聴いたイリナは、すぐに深い眠りに落ちた。

 ラナァはしばらく歌い続け、1番が終わったところで歌うのを止める。

 そしてベッドに飛び乗って、イリナに布団をかけてあげた。


「ラナァどうしようかな?」


 顎に手を当てるように、花に葉っぱを当てて考えるラナァ。

 そして考えること2秒。


「そうだ、探検しよう!」


 ラナァはベッドから降りて、ドアの前に移動。

 根っこを伸ばしてドアノブを握り、カチャッと開けて外へ。

 ササササッ、とあまり音を立てずに移動するラナァ。

 魔力感知の範囲を広げ、神殿全域を把握。


「人がいっぱいのところ、行ってみよぉっと」


 ラナァは一度神殿の庭に出て、人々が集まっている場所を目指す。

 途中、誰かが歩いていたので、ラナァは普通のお花のフリをする。

 そうやってごまかしつつ、目的地へと移動を続けた。

 ラナァが普通のお花のフリをすると、立ち止まって愛でる女性が割といた。


 なので少し時間がかかったけれど、ラナァは目的地へと到着。

 そこでは人々が列になっていた。

 列は全部で4つ。

 列の前には小さな小屋がある。


 どうやら、人々は順番に小屋に入っているようだ。

 小屋は1人ずつしか入れないようで、なかなか進まない。

 ちなみに小屋は5つあるのだが、1つは「クローズ」の札が立てかけてあった。


「なんだろう?」


 ラナァは興味が湧いたので、小屋の裏側に回って、クローズの小屋に侵入した。

 小屋の裏口には鍵が掛かっていたのだけど、ラナァは根っこで器用にピッキング。

 壊すことなく解錠したのだった。

 中は小部屋になっていて、真ん中に仕切りがある。


 椅子があったので、ラナァはとりあえず座ってみる。

 仕切りの向こう側にも椅子がある。

 隣の小屋の中を魔力感知で覗くと、どうやら仕切りのあっちとこっちで話をしているようだ。


「面白そう! ラナァもみんなとお話ししたい!」


 ラナァは魔力を飛ばして「クローズ」の札を引っくり返し、「オープン」に変更。

 少し待つと、男性が入室して椅子に座る。

 ラナァは隣の小屋を観察していたので、作法はなんとなく理解していた。


「あなたの罪を告白しなさい」とラナァ。


「はい司祭様……」

「司祭じゃなくてラナァだよ」

「おお、聖女ラナァ様……俺の罪を聞いてください」


 聖女じゃなくてお花だよ! と思ったけれど、ラナァは言わなかった。

 男が話を続けているので、遮るのも悪いと思ってそのまま流したのだ。


「俺は妻も子もありながら、酒場のウエイトレスを好きになってしまいました……」

「ふむふむ」


 ラナァは頷いたけれど、何が罪なのかサッパリ分からなかった。

 ラナァは妻も子もいないけれど、好きな相手はたくさんいる。

 アビスも、パメラも、骨のあの人も、イリナも大好きだ。

 もちろんあーちゃんも。


「うぅ、俺はどうしたらいいでしょうか?」

「ラナァはいつも幸せだよ。あなたは?」


 ラナァが言うと、男は少し考え込む。


「そう、ですね。ええ。俺は今、幸せです。妻は口うるさいけど、料理の上手ないい女で、ガキは生意気だけど、畑仕事を手伝ってくれる。俺は、今、幸せだった……。この幸せを壊すような愚かな行為は、できねぇ」


 男は涙ぐみ、そして立ち上がる。


「ありがとうございました聖女ラナァ。俺は危うく、幸せを壊すところでした」


 男は満足して小屋を出た。

 ラナァはキョトンと首を傾げた。

 話が終わってしまった。


「まぁいっかぁ」


 ラナァが気持ちを切り替えると、今度は10歳ぐらいの少女が入って来た。


「司祭様……」

「ラナァは司祭じゃないよ、お花だよ」

「……え? ああ、お花の聖女ラナァ様……聞いてください」

「聞いてるよ」


「あたし……どうしてこんなに不幸なんですか?」

「不幸なの?」

「はい。あたしは孤児で、ずっと孤児院で暮らしています。あたしは見た目も小汚いから、養子にしたいって人も現れず……」

「ふむふむ」

「お腹いっぱい食べたことはないし、普通の子たちに『親なし』ってバカにされて……」


 少女は両手をギュッと握って、涙を流した。

 ラナァはまたキョトンと首を傾げた。


「それは状況であって、幸せとは何も関係ないと思うけど?」

「え?」

「自分の外側の状況は、幸せとは何も関係ないよね?」

「ど、どういう意味ですか?」


 少女は戸惑っている様子だった。

 ラナァも戸惑った。


「んーと、ラナァはいつも幸せだよ。植木鉢にいた時も、大地に根付いてからも、雨の日も雪の日も晴れの日も、昼も夜も、パメラがいる日も、いない日も、幸せだよ?」


 ラナァにとっては当然のこと。

 外で何が起きようが、ラナァの幸せは揺るがない。


「……それは有名な、悟りの境地というやつでしょうか? 聖女様はその領域に達しているのかもしれませんけど、普通の子供には難しいです」

「幸せであることが難しい?」


 ラナァは首を傾げた。

 ただ幸せであればいいだけなのに、どうして難しいのだろう?

 人間という種族がそういう特性を持っているのかも、とラナァは思った。


「はい。だから、何かもっと具体的なアドバイスが欲しいです」

「少し待ってね」


 ラナァは急いで世界図書館へと意識を飛ばす。


「あーちゃぁぁぁぁぁん! 人間を創ったあーちゃぁぁぁぁん!」

「どうしたのラナァ! 人間にいじめられたの!? 滅ぼす!?」


 あーちゃんはすぐに姿を現した。


「違うよ! ちょっと聞きたいんだけど、『幸せであることが難しい』って人間の子が言ってるんだけど、どうしてか分かる!?」


 ラナァが言うと、あーちゃんは目を丸くして、それからクスクスと笑った。


「人間は比較をする生物なの」とあーちゃん。


「ほうほう」


「たぶんこの世界において、人間ほど外側と比較する生命体はいない。それは人間を今の地位に押し上げたけど、同時にそれが不幸という名の幻想の始まりでもあるのよね」


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