表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お花のラナァは今日も幸せ  作者: 葉月双
1章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

7/25

7話 ラナァ、伸びる


 聖騎士隊長は、【念話】のできる魔法道具を使って王都の警備隊に連絡をした。

 賊を連れて帰るのは大変なので、回収に来てもらうためだ。

 聖騎士たちが賊たちを近くの木に括り付ける。

 すでに聖女イリナによる【ヒール】で、聖騎士たちは元気いっぱいの状態だ。

 ケガも体力も完全に回復している。


「あの……隊長様……」


 フレーチェが隊長に話しかけた。


「ん? 何か?」

「聖女様が……変なのです……」

「あ、ああ……そうだな……」


 隊長とフレーチェは同時にイリナに視線をやった。

 イリナは胸元の花を愛しそうに撫でながら、デレデレしている。


「あの花が……怪しいとわたしは思うのです……」

「確かに。だが邪悪さは感じない」

「わたしたちの……精神が操作されているのでは……?」

「!?」


 フレーチェの推測に、隊長は驚いて目を剥いた。

 もしもそんなことが可能なら、かなり危険な存在ということになる。


「待て世話係よ」隊長が冷静に言う。「まずそもそも、聖女イリナ様はかなりの強者だ。その精神を操るなど、魔王レベルでないと不可能」


 聖域に単独で調査に向かう程度には、イリナの実力は抜きん出ている。


「その昔……」フレーチェが深刻な様子で言う。「植物の魔王……というのがいたそうです……」


「だがその者は当時の勇者に滅ぼされたはず……」


 魔王退治は人類の栄光として語り継がれているので、誰でも知っている有名な話だ。


「ですよね……。わたしの考えすぎでしょうか……」

「いや、一応、神殿に戻ったら大聖女様に報告しておこう。イリナ様の様子がおかしいのは間違いないことだ」


 こうして、大好きなラナァを愛でているだけのイリナは、その言動を大聖女にチクられることが決まったのだった。



 本体ラナァは歌を歌っていた。

 この大地がいかに美しいか、という歌詞の歌。

 ラナァの自作である。

 ラナァの歌に合わせて妖精たちがハモっている。


 その美しい歌声を、冥竜帝アビスがいい気分で聞いていた。

 14番まで歌ったところで、ラナァは歌うのを止めて空を見上げる。

 釣られて妖精たちも空を見た。

 そこには2匹のグリフォンが飛んでいる。


「本体でも挨拶しなきゃ!」


 ラナァはグングンと茎を伸ばして、花の部分が上空400メートルに到達。


「こんにちは! ラナァだよ!」



 グリフォン兄弟が巣に向かって飛んでいると、突如地上から何かが伸びてきた。

 グリフォンたちは驚いて急停止。

 そうすると、その何か――グラサンをかけた白い花が挨拶をした。


(ラナァ様だぁぁぁぁあああああああ!!)


 グリフォン弟の全身の毛が逆立った。


(なぜここにっ!?)


 グリフォン兄は目を剥いて驚き、心臓が跳ね上がった。


「こっちが本体だよ!」


 ラナァが鈴のような美しい声で言った。

 その声を聴くだけで、なぜか活力が湧いてくる。

 あれ? よく見るとそれほど怖くないぞ、とグリフォンたちは思った。


 もちろん、ラナァが超常の存在であることに変わりはない。

 ないけれど、自分たちが考えていたような、恐ろしい存在ではないと感じた。

 と、黒く巨大なドラゴンが舞い上がってきた。


 今度こそ、グリフォンたちは涙目になって震え上がる。

 存在の各が違う。

 ドラゴンの吐息1つで、グリフォンたちは消滅してしまう。


「ふむ。ラナァの知り合いか?」とドラゴン。


 グリフォンたちはコクコクと何度も小刻みに頷いた。


「安心せよ。ラナァの知り合いを食べたりはせん」


 その言葉を聞いて、グリフォンたちは少し落ち着いた。


「ワシは冥竜帝アビス。ラナァの親友にして、まぁ保護者のようなものだ」


 アビスがドヤ顔で言った。


(めめめっめめめめめ、冥竜帝アビス!?)

(あああああ、あの伝説の、史上最強の、呪われたドラゴン!?)


 グリフォンたちは少しだけチビった。

 と、今度は妖精たちが大挙して押し寄せてきた。


「わー、グリフォンだ!」「尻尾引っ張ろう!」

「見て見て、翼が大きい!」


 妖精たちはグリフォンたちの毛を引っ張ったり、周囲をハエみたいに飛び回ったりした。

 本来なら、グリフォンは妖精などに好きにさせないのだが。

 グリフォン兄弟は何も言えなかったし、何もできなかった。

 なんせ、アビスとラナァが見ているのだから。

 僅かでも敵対行動を取ってはならないのだ。


「妾は妖精女王のパメラである」パメラが言う。「ラナァの友達なら、一緒に歌うことを許可しよう。妾たち今、14番まで歌っていたところなのじゃ」


 わぁ、何番まであるんだろう、とグリフォンたちは思った。


「いいね! 一緒に歌おう!」とラナァ。


 グリフォンたちはコクコクと頷いた。



 数日後。

 分体ラナァはイリナの胸に挟まったまま、王都に到着した。


(ラナァ、ここが王都ですよ。都会は初めてでしょう?)


 イリナが馬車の窓から外を見た。

 道が広く綺麗で、歩道と車道が別れている。

 歩道には人々が歩いていて、表情も明るい。


(見たことあるよぉ)とラナァ。


(なぜに!?)

(んーと、この世界を見て遊ぼうと思って、隅々まで見たことある。だからここも知ってる)

(んんんんん!? ラナァ、もしかして世界中全てを見るだけの魔力があるのですか!?)


 ラナァは目で見ているわけではない。

 魔力を展開して、全てを把握しているのだ。


(うん。そうだよー)


 とはいえ、いつも全てを見ているわけではない。

 普段は自分の住む森だけを把握している。

 もちろん、上空から地下まで含めて。


(す、すごい……)


 イリナは心から感動した。

 ラナァはいずれ世界最強になると前世で思っていたが、まさかこれほど成長するとは。

 と、馬車が神殿に到着した。

 イリナが馬車を降りる際、騎士の1人がエスコートした。

 イリナに続いて降りたフレーチェのことも、騎士はエスコート。


「とりあえず大聖女様に会いに行きます。みなさんは休んでいいですよ。フレーチェも」


 イリナが言うと、フレーチェはすぐに「はい」と言って自分の部屋へと向かった。

 フレーチェもイリナも、神殿に自分の部屋がある。

 もちろん、2人の部屋の大きさは全然違うけれど。

 修道者のフレーチェは4人部屋で、聖女のイリナは1人部屋である。


「同行しましょう」と騎士隊長。


「1人で平気ですが」

「今の自分はあなたの護衛が役目。報告が済むまでは任務中です」


 隊長が姿勢を正して言った。

 イリナは溜息を吐き「分かりました。ではよろしくお願いします」と言った。

 イリナが歩き始めると、隊長が2歩ほど離れて付いて来た。


「聖女様!」「イリナ様!」


 すれ違う修道者がイリナに挨拶し、イリナも全てに笑顔を返した。

 そうこうしているうちに礼拝堂に到着。

 今日は一般開放の日ではないので、祈っている人はいなかった。


(あの像はなぁに?)


 ラナァは礼拝堂の奥に設置されている像を見ながら聞いた。


(あれは聖なる神アレクシア様です)


 答えつつ、イリナは礼拝堂の奥へと進む。


(へぇ。神様なんだ?)

(そうです。この世界を創造した神様、という設定です)

(設定?)

(ふふっ、神様なんて本当にいるわけないでしょう?)


 イリナは聖女だが、神の存在を信じていなかった。

 なぜなら一度も会ったことがないし、神様に会った人も知らないからだ。


(そうなんだ)

(そうなんです)


 会話している間に、イリナは礼拝堂奥の関係者専用通路に入った。

 そこを抜けると、大聖女の部屋がある。

 ちなみにこの神殿に教皇と枢機卿はいない。

 彼らはもっと大きな国のご立派な神殿に住んでいる。

 まぁ、この国も小国というわけではないのだが。


「大聖女様、イリナです」


 言いながら、イリナは大聖女の部屋をノックした。


「ああ、入りな」


 落ち着いた声が部屋の中から聞こえ、イリナはドアを開けて中に入った。

 部屋の中では、大聖女がキセルをふかしていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ