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お花のラナァは今日も幸せ  作者: 葉月双
1章

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5話 ラナァ、おっぱいに挟まって馬車に乗る


(まるで根付いているかのような安心感!)


 ラナァはその場所をとっても気に入った。

 そう、イリナの胸の谷間である。

 ラナァは今、イリナの胸と胸の間に挟まっていて、花の部分だけが露出している状態。

 まるでイリナが胸元に大きな花を飾っているかのよう。

 実際、そう見えるようにイリナが整えたのだ。


「ラナァ、もうすぐ神殿の人たちが見えますから、彼らの前では喋ってはダメですよ」

「はーい」

「ラナァみたいな可愛いお花は、攫われてしまうかもしれませんから」

「ラナァのお皿が割れる!? でも大丈夫! ラナァはお皿、持ってない!」


 ふんふん、とラナァが鼻息荒く言った。


「面白い冗談ですね」

「でしょー」


 ラナァがモゾモゾと動く。

 いつもの感覚でクネクネしようとしたのだ。


「……んっ」


 イリナがビクッとなる。


「ラナァ、動かないでください……」

「はーい」

「いいですか? これからしばらくの間、ラナァは普通のお花を演じるのです」

「分かった」


 ラナァは元々お花なので、お花を演じるまでもなくお花なのだが、とラナァは思った。

 でもラナァは素直なので、特に何も言わずに頷いた。

 と、イリナが聖域を抜ける。

 そうすると、神殿の馬車と聖騎士たちが待っていた。


「聖女様! 調査はどうでしたか!?」


 騎士隊長が寄ってきて言った。

 隊長は30歳前後の男性で、髪の右半分が白く、左半分が黒い。

 瞳は赤で、顔立ちは悪くない。

 騎士服の上から簡素な鎧、それからマントを羽織っている。


「何も問題はありません。それより、急ぎ神殿に戻りたいのですが?」


「急ぎでありますか?」隊長が首を傾げる。「問題はなかったのですよね?」


「そうなのですが、あたくし、もう聖女を辞めたいなと思いまして」

「ほうほう……え!?」

「辞任の意向を伝えるため、急いで神殿に戻って欲しいのです」

「え? いえ、しかし……」

「命令です。戻りなさい」


 イリナが強い口調で言うと、隊長は敬礼し、「はっ」と返事をした。

 それから、仲間たちに指示を出す。

 イリナが馬車に乗って、イリナの対面にはイリナの世話係の少女が座った。


 少女は14歳の修道者。

 神殿の権力構造の中で、最も低い地位が修道者だ。

 修道者の上が助祭、助祭の上が司祭、司祭の上が大司祭。

 その上に枢機卿がいて、教皇と続く。


 聖女は司祭と同等で、大聖女が大司祭と同等の立場だ。

 ちなみにだが、イリナは10年後には大聖女になれるだろう、と言われるほどの才能を持っている。



 聖女イリナの世話係であるフレーチェは、イリナの胸元をジーッと見ていた。


(な、なんなのこの白いお花……。イリナ様、こんな花飾りは持ってなかったはず……)


 だとしたら、聖域の調査をしている最中に拾ったのだろうか?

 いやいや、仮に拾ったとしても、なんで自分の物みたいに装備しているのか。

 あるいは誰かに貰ったとか?

 フレーチェの頭の中を色々な思考が通り過ぎる。


(てか、このお花の飾り、わたしを見てるような……?)


 まさかね。

 花が本物であれ偽物であれ、花に目はないのだから視線を感じるはずがない。


(でも見れば見るほど、目が合ってるような感覚が……)


 邪悪な感じはしないけれど、何か普通の装飾品ではないのかもしれない、とフレーチェは思考した。


(高く売れたりしないかな?)


 フレーチェはお金が大好きである。



 馬車がゆっくりと進み始める。

 ラナァはボーッと自分の前に座った少女を見ていた。


(……挨拶! したいっ!)


 だがラナァはその欲求を抑えた。

 今は喋ったり動いたりしてはいけないのだ。


(そのうち挨拶する機会があるかもだし、先にこの子のこと調べておこうっと♪)


 ラナァは意識だけで『世界図書館』へと移動。

 そこは異次元に存在する巨大な図書館で、この惑星の全てが記録されている場所。

 あらゆる魔法使いや知者が追い求める幻の場所。


 だけど、誰も辿り着いたことのない場所。

 ラナァにとっては自宅の隣の図書館ぐらいの感覚だが。

 ラナァは根っこを器用に動かして、図書館の中を歩く。


 非常に広い、無限に続くような大図書館だが、ラナァの目的地は近くの椅子である。

 椅子に飛び乗って人間みたいに座ると、必要な本が目の前に出現する。

 本のタイトルは『修道者フレーチェについて』だ。

 ペラペラと本を捲るラナァ。


「へぇ、フレーチェはお金が好きなんだ。創造してあげたら喜ぶかな?」


 言いながら、ラナァは無限の金貨を産み出す。

 宙からジャラジャラと金貨が流れ出て、図書館の床を埋めた。

 ラナァはパン、と葉っぱを叩き、金貨を消す。

 創造も破壊もお手の物。


「イリナのお世話係で、14歳。12歳の時に神殿に入ったんだね」


 ふむふむ、とラナァはページを捲る。


「今はラナァのことを、高く売れるかな? って考えてると」


 ラナァは少し沈黙して、天井を見る。

 そしてまた視線を本に移す。

 まぁ、ラナァに目はないので、雰囲気だけ。


「ラナァはいくらで売れるのかな?」


 そう呟いたけど、まぁいいかと次のページへ。

 しかし段々と読むのに飽きてきて、ラナァは左右に揺れながら歌い始めた。

 そうすると、現実世界でイリナがラナァを撫でていることに気付き、ラナァは意識を現実に戻した。

 撫で撫でされて気持ちいい。

 んー、今日も幸せ!



(イリナ様!? なんでそんな愛しそうに花飾りを撫でてるの!? まるで我が子みたいに! なんでママっぽさを感じるの!?)


 そんなわけないのに、とフレーチェは思った。

 イリナはまだ17歳で、そもそも結婚していない。

 ちなみにだが、神殿は聖女の結婚を禁止していない。

 というか、聖職者みんな好きに結婚していいことになっている。


「あの、イリナ様……」


 フレーチェはいつものように、丁寧だがローテンションな声で言った。

 心の中と違ってフレーチェはあまり元気に喋らない。

 イリナは返事をせず、花を撫でるのに夢中になっていた。


(ええぇ!? 本当にイリナ様、大丈夫!? その花、やっぱり何か変な物なんじゃ!?)


 とはいえ、邪悪さは微塵も感じない。


「イリナ様……イリナ様ぁ……」


 再び声をかけると、イリナがハッとしたように顔を上げ、視線をフレーチェに向けた。


「どうしました?」

「あ……えっと、そのお花の飾りは……一体?」

「可愛いでしょう?」


 イリナは満面の笑みで言った。

 まるで我が子を自慢するみたいに!

 どういうこと!?

 フレーチェはやや混乱した。


(いや、さすがに花飾りが我が子って線はない! わたし、意味が分からないよ!)


「可愛いでしょう?」


 イリナが満面の笑みのまま、同じ言葉を繰り返した。


「は、はい……とっても、可愛いです……」


 そう言わなければヤバい、そんな気がしたフレーチェである。

 イリナは満足したように、ウンウンと頷いた。


(本当、なんなの!? 大丈夫!? 聖女の世話係は出世コースだけど、聖女の頭がアレになったら、わたしどうなっちゃうの!?)


 イリナは『聖女の中の聖女』と言われる人物で、その世話係の座をもぎ取った時、フレーチェは自らの将来を楽観視した。

 したのだけど、今はちょっと揺らいでいる。


「あ、そうそう。今のうちに伝えておきますが」イリナが笑顔のままで言う。「あたくし、聖女辞めますね」


「あー、そうです……か……って! はい!?」


 何を言っているのだこのバカ聖女は、とフレーチェは思った。

 わたしの将来を棒に振る気なのか、と。

 しかしイリナはニコニコしている。


(なに笑ってんじゃーーーーーい!)


 心の中でそう叫んだ時、馬車が急停車。

 フレーチェは危うくぶっ倒れるところだった。

 イリナはさすが聖女、微動だにしない。


「何事ですか?」


 イリナは窓を開けて、即座にそう質問した。


(うーん、こういうところはさすが)とフレーチェは感心した。


「聖女様! 魔物を連れた賊です!」


 外の聖騎士が叫んだ。


(嘘でしょ!? 神殿の馬車を襲うなんて! 聖騎士たちだっているのに!?)


 フレーチェは酷く驚いた。

 だって、この馬車を襲うということは、よほど腕に自信があるということ。


「聖女様! 賊は蛇の旗を掲げています! 『大蛇団』だと思われます!」


 聖騎士が言って、フレーチェは目の前が真っ暗になった。

 なぜなら、『大蛇団』はこの領地で一番の無法者で、魔物使いのボスが率いる超武闘派の盗賊団なのだから。


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