3話 ラナァ、量れない
「ひ、広い!」
アヴァロン魔法学園の校門で、シエルが目を丸くした。
シエルの目測だが、ヴェルテール王国の神殿より広い。
キョロキョロしているシエルを見て、他の受験者たちがニコニコとしていた。
「試験は初めてですか?」
突然、ピンクの髪の少女がシエルの肩を叩いた。
シエルはビクッとなった。
一瞬、(あたし早速いじめられるのぉぉ!?)と思ったシエル。
しかしピンク髪の少女は穏やかに微笑んでいる。
どうやら大丈夫そうだぞ、とシエルは小さく息を吐く。
「あ、えっと、初めてです……」とシエル。
「私は2回目なので、案内しますよ」とピンク髪の少女。
アヴァロン魔法学園の試験は年に1回。
受験可能年齢は13歳から19歳まで。
その間なら落ちても何度でも受験できる。
ラナァが調べた最も多い合格年齢は16歳。
そして、13歳で合格したのは歴史上たった1人だけ。
「私はアデリタです。よろしく」
「あ、あたしはシエル……です」
シエルは小さくお辞儀をしてから、ピンク髪の少女を観察。
少女の髪型はセミロングで、雲みたいにフワフワしている。
顔立ちは可愛い系で、男の子にモテそうだな、とシエルは思った。
服装は普通の平民の子供が着る服。
「初めての試験ということは、13歳ですか?」
アデリタが聞いて、シエルが頷く。
「私は14歳なので、お姉さんですね」
ニコニコとアデリタが左手をシエルの背中に当て、軽く押す。
進みましょう、という意味だ。
シエルはゆっくりと歩き始め、アデリタもシエルの隣を歩く。
「シエルは貴族ですか?」
「え? ち、違います……」
「なら支援者がいるのですか? 綺麗な服を着ているのでそう思ったのですが」
「うん……支援者がいっぱい……」
アビス、イリナ、パメラ、そしてラナァの姿を思い浮かべるシエル。
あと名前も知らない妖精たちと、里帰り中のグリフォン2匹の姿も思い浮かべた。
「羨ましいです。とっても優秀なんですね」
「うん! みんな優秀!」
シエルはラナァたちを褒められたと勘違いして嬉しい気持ちになった。
(シエルのことを言ったのですが、まぁいいでしょう)
アデリタはシエルの勘違いに気付いたが、ニコニコと流すことにした。
「さて、それはそれとして、試験はまず魔力量のチェックからです」アデリタが言う。「正直、ここで落ちるような子は滅多にいません。アヴァロンを受験しようと思ったわけですから、みんなそれなりに魔法を学んでいますからね」
ほうほう、とシエルが頷く。
「その次は星を1つ作って一定の時間維持すること。ここで落ちる子は割といますね。ちなみに星を2つ作れたらこの試験はそのまま合格みたいです」
「えっとアデリタさん……」
「呼び捨てでいいですよ、シエル」
「あ、えっと、じゃあアデリタ……その、星5個ってどのぐらいすごいの?」
同じ人間であるイリナが5星なので、なんとなく質問してみた。
「5星!? シエルの支援者は5星なんですか!?」
「え? うん。そうだけど……?」
「めちゃくちゃすごいですよ! 普通の人が到達できる最高点って言われてます!」
「そうなの!?」
「そうです! 6星以上は一部の天才の領域なので、ほとんどの魔法使いは死ぬまでに5星を目指します」
「死ぬまでに……」
あっれー?
イリナってまだ20歳だったような?
そもそも、イリナはいつから5星だったのだろう?
数々の疑問がシエルの中に湧き起こった。
(イリナはね、一緒に住み始めた頃は4星だったよ)ラナァがシエルの心に直接語りかけた。(それでね、聖女時代は教皇になれる器って言われてたみたい)
(めちゃめちゃ偉大な人だったぁぁぁぁぁぁ!!)
シエルはビックリして飛び上がりそうになったけれど、なんとか自重した。
教皇とは神殿の最高権力者で、アデリタ風に言うなら『一部の天才の領域』に到達した人物だ。
政治的な駆け引きだけでは教皇にはなれない。
「でもこのアヴァロンには、5星の先生もいるんですよ」とアデリタ。
「そっかぁ。5星ってアヴァロンの先生レベルなんだね……」
帰ったらイリナ様って呼ぼうかな、とか考えてしまうシエル。
「受験生のみなさんは並んでくださーい!」
アヴァロンの制服を着た者たちが、受験生を誘導していた。
「制服可愛いですよね」
「確かに可愛いかも」
てか、制服が支給されるんだ、とシエルは思った。
アデリタとシエルは同じ列に並んだ。
列は全部で5つある。
「この列の先に」アデリタが言う。「水晶があって、それに触ると魔力量が分かります」
「魔法道具?」
「そうです。触れると光を放って、それから水晶の上に数字が出ます。その数字は魔力量を数値化したものですね。100あれば合格です。私は去年、180あって上位だったんですが、一般知識の試験で落ちちゃいました……」
「そっか……」
シエルにはその理由がよく理解できた。
平民の子にはまともに勉強できる環境が整っていない。
もちろん、国や領地によっては平民用の基礎教育学校があったりもするけれど。
「あ、私の番です」
アデリタが水晶に触れると、水晶が優しい輝きを灯す。
そして200という数字を叩きだした。
その数字に、周囲がざわつく。
「素晴らしい」水晶の前にいた教官が手を叩いた。「魔力量200! 今年は豊作になりそうな予感がしますねぇ!」
◇
次はいよいよシエルの番なのだが、ラナァはふと水晶に触ってみたくなった。
どんな数字が出るのかなぁ? と思ってしまったのだ。
なので、ラナァはこっそり根っこを伸ばして水晶にタッチ。
そうすると、水晶は世界を焼き尽くす勢いで輝きを放ち、集まっていた人々が目を瞑り「目が~!」「眩しい~!」とうめき始める。
水晶の上には9999999という数字が出て、更に9の数が増え続け、やがて水晶が砕け散った。
(あわわ! 壊しちゃった!)
ラナァは慌てて【リペア】を使って水晶を直した。
ついでに人々に【ヒール】をかけて目のダメージも消しておいた。
「い、今何が……?」「はっ、この前痛めた手が治っている!?」
「奇跡か!?」「昨日包丁で切った指が完治してる!」
人々が疑問を口にするが、誰も真相に辿り着けない。
そう、シエル以外は。
(……ラナァ、もしかして水晶に触った?)
(うん。そしたら壊れちゃった♪ 直したけど!)
(そっか……。ラナァの魔力量は、水晶じゃ量れないんだね。すごっ)
◇
「水晶の不具合だ。問題ない。試験を続けろ」
厳つい男性教官が言って、ざわざわしていた場がシンと静まった。
「あの人が5星の先生です」とアデリタ。
「そうなんだ……まだ40歳ぐらい?」とシエル。
「だと思います。死ぬまでに6星を目指している天才でしょう」
「次の子! 水晶に手を置いて!」
水晶前の女性教官が言って、シエルは慌てて水晶に手を置いた。
そうすると、水晶がキラキラと輝いて、300という数字が浮かんだ。
「300!?」
女性教官が素っ頓狂な声を上げて、また周囲にざわめきが広がる。
「300だと!?」
厳つい男性教官が飛んで来た。
文字通り、空を飛ぶような感じだったので、受験生たちが「おぉ」と感嘆の声を上げた。
「貴様、年齢は!?」と厳つい男性教官。
「13歳です……」
シエルはビクビクしながら言った。
「もう一度、別の水晶に手を置け」
厳つい男性教官が隣の水晶を指さした。
シエルはそっちに移動して、水晶に手を置く。
やっぱり300という数字が浮かんだ。
「まさか……世紀の大天才だ……」厳つい男性教官が言う。「13歳で魔力量300は、歴史上たったの1人。つまり学園長……世界唯一の7星魔法使いの彼と同等ということ!」
その言葉で周囲のざわめきが頂点に達した。
シエルはというと、
(あわ! あわわわわ! どうしよう!? 泣きそうだよぉ! パパ~! あたしの魔力はちっぽけって言ってたよね!? イリナお姉ちゃん! あたしの魔力は『まぁ多い方でしょう』程度の言い方だったよねぇ!? なんかそんな感じじゃないんだけどぉぉ!?)
訳が分からずに混乱していた。




