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お花のラナァは今日も幸せ  作者: 葉月双
1章

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22/25

22話 ラナァ、今日も幸せ


「いやぁ、しかしギターを弾くリッチとは珍しかったですね」


 バラバラになったリッチの骨を見詰めながら、分隊長が言った。


「ええ……しかし」クラリスが首を傾げる。「何か腑に落ちない気が……」


 ラナァの記憶操作は完璧だったが、なぜかクラリスは違和感を覚えたようだ。

 さすが聖女ですね、とイリナは思った。


「討伐対象を討伐したわけですから」イリナが言う。「さっさと神殿に帰りましょう」


「そうですね。戻りましょう」と分隊長。


 こうして、イリナたち討伐隊はリッチを打ち倒して帰還することとなった。

 みんなの記憶の中では。


(これで正解のはずです。不死の魔王ホレスが生きていた、なんて知ったら大パニックでしょうし)


 ホレスはずっと昔に表舞台から姿を消していて、人類の中ではすでに死亡したと考えられている。

 ホレスは今でこそ陽気な骨だが、昔は違っていた。

 いや、陽気ではあったが、人類とは思いっ切り敵対していたのだ。



「そんなわけで、イリナもうすぐ帰ってくるよ」


 本体ラナァが言った。

 聖域は今日もいい天気で、空は突き抜けるように青い。


「まさか本当にあの骨がいるとは……」とアビス。

「なーんか妾、予感がしておったのじゃ!」とパメラ。


「それにしてもイリナさん……魔王ホレスにアッパーカットするなんて……」


 シエルがブルブル、と身を震わせた。


「イリナも元魔王だぞ」とアビス。


「え?」


 シエルは一瞬、思考を停止させる。

 聖女でママで、その上、元魔王?

 属性が渋滞してるぅぅぅぅ!


「妾が説明しよう」パメラがドヤ顔で言う。「聖女イリナの前世は植物の魔王で、ラナァの生みの親ってわけなのじゃ」


「ええ!? 本当にママだったんだ!?」


 比喩か何かだと思っていたので、シエルは酷く驚いた。


「ラナァが端折って話すから驚いておるぞ」とパメラ。


 イリナたちがホレスと会ったのは昨日のことである。

 それを今さっき、ラナァはみんなに話したのだ。

 詳細を話したわけではなく、こうして、こうして、こうなった、という感じで、かなり端折っていた。

 しかしなぜかイリナのアッパーカットだけは丁寧に説明したラナァ。


「詳しく話そうか?」ラナァが言う。「イリナがホレスの頭蓋骨を蹴っ飛ばした時のことから」


「なんでそこ!?」とシエル。


「あれ? 人間って戦いの話が好きなんじゃ?」

「あたしは違うよぉ!」


 シエルが両掌を見せて、ブンブンと振る。


「そうなの? じゃあシエルは何の話が好き?」

「……お、王子様とか……お姫様とか……そういうの」

「あ、そういえばラナァ、王子に結婚しようって言われたんだった」


 思い出した、という風にラナァが葉っぱを叩いた。


「なん……だと?」


 アビスがブルブルと震えながら言った。


「妾のラナァと……結婚……?」


 パメラもブルブルと震えている。

 妖精たちは抱き合って震え始めた。


「ゆ、許さんぞぉぉぉぉ!!」


 アビスが天空に向けて吠えた。

 その声は凄まじい声量で、空気を引き裂いて雲を蹴散らした。

 シエルは思わず耳を塞ぐ。


「お城に火を点けるのじゃ! へいへーい! 骨も残さないのじゃぁ!」

「「へいへーい!」」


 妖精たちが一致団結して拳を突き上げる。


「ちょ、ちょっと……ダメだって……」シエルがあわあわしながら言う。「お、王子様と結婚とか……ちょっと羨ましいし……それに決めるのはラナァだと思う」


「じゃあシエルはラナァが王子様と結婚してもいいと!?」


 パメラが両手を腰にあてて、怒ったように言った。

 ちなみにパメラはシエルの顔の前に移動している。


「ラナァが幸せなら……いいんじゃ?」シエルが言う。「ラナァだって女の子なんだから……王子様と……あれ? ラナァって女の子だっけ?」


 沈黙が訪れた。

 なんとなくラナァは女の子だと思っていたけれど、実際どうなのかシエルは知らない。

 みんなの視線がラナァに集中する。


「ラナァは幸せだよ?」


「そこじゃなぁぁぁい!」シエルが突っ込む。「今聞きたいのそれじゃなーい!」


「妾、ラナァは女の子だと思ってたんだけども……」

「ワシもだ……」


 みんながジィーっとラナァを見詰める。


「そんなに見られると照れちゃう♪」


 ラナァが葉っぱで花を押さえ、茎をクネクネと動かした。


「いやーん♪ 可愛いのじゃ♪」


 パメラがその場で卒倒したので、シエルは慌ててパメラを受け止めた。

 妖精たちも次々に墜落していく。

 さすがに助けられない、とシエルは思った。

 妖精たちは地面に落ちるギリギリで正気を取り戻しているようで、特に問題はなかったけれど。


「うむ……それでラナァよ」アビスが言う。「オスなのか、それともメスなのか?」


「ラナァは繁殖しないから、どっちでもないよ」とラナァ。


「そっか! じゃあラナァは女の子ということで!」パメラが言う。「どっちでもないなら、どっちでもいいってことだしのぉ!」


(あれ? どっちでもないってそういう意味だっけ?)


 シエルは首を傾げたが、特に何も言わなかった。


「ラナァはラナァという至高の存在。性別など些細なことです。まぁ、あたくしは娘だと思っていますが」


 聴いたことのない女の声に、シエルがビックリして振り返る。

 そこには美しい聖女が立っていた。

 聖女の胸には分体ラナァ。

 あ、この人がイリナだな、とシエルは即座に理解。


「お、ラナァの【転移】で帰ってきたのか」とパメラ。

「一刻も早く帰りたかったので」とイリナ。


 分体ラナァがイリナの胸からポーンと飛び出して、本体ラナァに近寄る。


「お帰り、分体ラナァ」

「ただいま、本体ラナァ」


 2人はお互いの葉っぱでハイタッチ。

 そうすると、分体ラナァが本体ラナァに吸収されて消える。


「あなたがシエルですね? 初めまして。ドラゴンの子にしては可愛いですね。変身してるんですか?」


 イリナがニコッと微笑んで言った。

 その笑顔は聖女と呼ぶに相応しい。

 だけど、問題はそこではない。


「あたし人間だよ……?」


「ええええええ!?」イリナがビックリして言う。「でもラナァが! シエルはアビスの子だって! 言ってましたけど!?」


「うむ。シエルはワシの子だ」とアビスが胸を張って言った。

「ほら!」とイリナがアビスを指さす。


「あの……あたし……孤児で……」


 シエルはどうしてアビスの養子になったのか、丁寧にイリナに説明した。

 イリナの顔がだんだんと青くなっていく。


「じゃ、じゃあ……神殿に出現したドラゴンって……」

「ワシだ」

「攫われた女の子って……」

「あたしだと思います……」

「お前らかぁぁぁぁぁあああああ!」


 イリナが激しく突っ込みを入れた。


「ダメだった?」とラナァ。


「ぜーんぜん! なーんにもダメじゃないです」ニヘラ、と笑うイリナ。「ちょっと神殿が慌ただしかっただけで……とりあえず報告だけ……って、念環返しちゃった……」


「神殿が何か文句でも言っているのか?」アビスが言う。「焼き払うか?」


「ダメですダメ!」イリナが言う。「あたくしが明日、ラナァと報告だけしに行きますから。気にしなくていいです」


「なんでラナァと行くのじゃ?」とパメラ。


 コホン、とイリナが咳払い。


「ラナァがいないと【転移】できませんからね」


 実に現実的な問題であった。


「えっと……あたし……連れ戻されたりとか……」


 少し不安そうにシエルが言った。

 イリナはシエルをジッと見詰める。


「シエルは今、幸せですか?」

「はい」

「では大丈夫です。ここで一緒に暮らしましょう」


 その言葉を聞いて、シエルはホッと息を吐いた。


「ねぇねぇイリナ、ラナァにも聞いて」

「ん?」

「聞いて聞いて♪」

「えっと、ラナァは幸せですか?」

「お花のラナァは今日も幸せ!」


これで1章は終わりです!

2章は毎週金曜日の18時に更新していきます!


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