21話 骨、揉む
廃村の中心の広場で、スケルトンがギターを弾いていた。
かつてはこの場所で集会などが開かれていたのかもしれないが、今は中心の切り株に座るスケルトンしかいない。
聴衆はいないけれど、スケルトンは楽しそうにギターをかき鳴らしていた。
「……楽器を演奏するスケルトンだと!?」
分隊長が驚いて言った。
イリナも正直、驚いている。
こんなスケルトンは見たことがない。
(てゆーか、リッチって話だったのでは? え? まさかこの骨、リッチ? というか、あたくし、このスケルトンを見たことがあるような……?)
イリナが首を傾げる。
スケルトンは旅人のマントを装備していて、頭にはウエスタンハットを乗せている。
ウエスタンハットというのは、大陸の西側を開拓していた頃、開拓者が好んで被った帽子のこと。
「分隊長……攻撃しますか?」
聖騎士たちはすでに剣を抜き、臨戦態勢を取っていた。
聖女クラリスも、いつでも神聖魔法を撃てるように準備。
イリナも一応、魔法の準備を開始。
「待て……。うかつに動くな……」と分隊長。
と、スケルトンの演奏が終わって、スケルトンが立ち上がる。
みんなが身構える。
「聴いてくれてありがとう、オイラはもう行くよ」
スケルトンがギターを虚空に仕舞った。
「なっ!?」クラリスが驚いて言う。「【亜空間収納】!? やはりリッチですか!?」
「ん? オイラはリッチじゃないけど、まぁ、なんか君たち剣とか抜いてて怖いから、もう行くよ」
スケルトンがその場を去ろうとしたのだが、分隊長が「待て」と声をかけた。
スケルトンが立ち止まる。
「貴様の討伐依頼を受けてきたのだ」分隊長が言う。「悪いが、消滅してくれ」
その言葉で、一瞬にして空気が張り詰める。
「んー、オイラは戦いたくないけど、どうしてもって言うなら――」スケルトンが分隊長を睨んだ「――仕方ないよね?」
その瞬間、スケルトンは隠蔽していた自らの魔力を解放した。
スケルトンを中心に、人の目で見えるほど濃密な魔力が漂う。
それは人知の及ばぬ超魔力。
「ひっ……」
クラリスが泡を吹いて気絶した。
聖騎士たちもガクガクと震え始め、剣を取り落とす者もいた。
イリナはこの超魔力に覚えがあった。
今世で、ではなく前世で。
「ホレス……」イリナが言う。「不死の魔王ホレス……」
「おやぁ? オイラを知ってるのかーい?」
スケルトン改めホレスは、いつの間にかイリナの目の前にいて、イリナの顎に右手で触れ、いわゆる顎クイをした。
「せ、聖女様……」
ガクッと分隊長が倒れ、聖騎士たちが次々に倒れていく。
「オイラのこの魔力に当てられて平気な顔をしているなんて、君は一体……」
ホレスはイリナをジッと見ていたのだが、胸元のラナァに気付いてそっちに視線を移した。
「……あれ? ラナァ?」とホレス。
「久しぶりホレス! ラナァだよ!」
ラナァが元気いっぱいに言った。
「ええ!? こんなところで何してるの!?」
言いながら、ホレスはイリナの両胸を揉みしだいた。
「何しやがる骨野郎!」
ぶちキレたイリナがホレスにアッパーカット。
ホレスが宙に舞う。
そして地面に落ちてバラバラになった。
「そのアッパーカット……覚えがある……けど、えっと誰?」
地面で骨をくっ付けながらホレスが言った。
「イリナだよ!」ラナァが言う。「ラナァのママ!」
「ええ!? ママ!?」
ホレスが驚いて口をガクガクと何度も開けたり閉じたりした。
まったく何の意味があるのか分からない動きである。
その謎の動きを止めて、ホレスは真面目な様子で言う。
「ということは、お前、植物の魔王か?」
「そうだよホレス」イリナは前世の口調で言う。「久しいじゃないか」
「え? お前、なんで人間の女になってんの? しかも死ぬほど弱体化してない?」
「魔王だった頃の能力はほとんど残っていませんので」
イリナが肩を竦めた。
「てか、オイラ、植物の魔王のおっぱい揉んだのか……複雑な心境……」
「揉まれたあたくしの方が複雑な心境ですが!?」
「まぁでも、割といい感じだった」
ホレスが親指を立てる。
「やかましいわい!」
イリナはホレスの顔面を蹴っ飛ばす。
そうすると、ホレスの頭蓋骨が飛んで行く。
飛んで行った頭蓋骨を身体が追いかけて、地面に落ちる前にキャッチ。
そしてパッと戻ってくる。
「で、なんでオイラのこと討伐しようとしてんの?」
「依頼があったからです。ただ、リッチという話だったのですがね」
「あー、ここに住んでたリッチならオイラがバラバラにしたよ」
「なんで!?」
「生意気だったから」
カラカラとホレスが笑った。
「……つまり、もう討伐対象は死んでいるということですね」
「そういうことー」
ホレスが笑顔で言った。
骨のくせになんで笑顔になれるんだ、という疑問がイリナの頭に浮かんだけれど、イリナはそれをスルーした。
「ではそのリッチの骨を持って来てください。それで、あなたを倒したことにしましょう」
「お、いいね! でもアホみたいな魔力見せちゃったけど、大丈夫? 今のお前にオイラを倒すとか絶対無理だと思うけど?」
「ふふ、そこはほら、ラナァが記憶操作をすれば完璧!」
ニヤッとイリナが笑う。
「うわぁ、陰湿! さすが植物しか愛せない変人!」
「……いえ、今世では割とちゃんと生きてますよ……」
このあと、聖域に引きこもってラナァと暮らすけれども。
結局愛しているのはラナァだけ、ではあるけれども。
「記憶をどんな風に変えればいいの?」とラナァ。
イリナは事故を防ぐため、とっても丁寧に説明した。
聖騎士たちと聖女クラリスの記憶を、この廃村の中心に到着した時点から書き換えるということ。
ギターを弾いていたのはホレスではなく一般的なリッチであった、と。
そして激闘の末リッチを倒した、と。
全ての説明が終わると、ホレスが指をパチンと弾く。
そうすると、リッチの死体が出現。
「よぉし! じゃあ記憶の操作するね!」
言って、ラナァはみんなの記憶をいじった。
しかしみんなまだ気絶したままである。
「あ、ホレス」ラナァが言う。「パメラが会いたいって」
「おっとぉ? パメラちゃん、オイラに惚れちゃったかぁ? まぁオイラってばイケメンだから、仕方ないよねぇ?」
デレデレとホレスが言った。
なんで骨なのに照れてるのが分かるんだ、とイリナは思った。
「自意識過剰な骨ですね……」
「おっとぉ? 植物の……今はイリナだっけ? 女になったからってオイラに惚れるなよぉ?」
「誰がお前なんかに」
イリナはツンと澄まして言った。
「ま、近いうちに寄るって言っといてー」軽い感じでホレスが言う。「てかラナァってこれ本体じゃないよね?」
「うん! ラナァは分体ラナァだよ!」
「そっかそっか」
ホレスがラナァに触れようと手を伸ばしたのだが、イリナがサッと飛び退いた。
「いや、お前の胸を触ろうとしたわけじゃ……」
「汚い手でラナァに触るな、という意味です」
イリナがキリッとした表情で言った。
「……お前、今めっちゃ弱いってちゃんと理解してる? オイラの気分1つでその首、へし折ることも……」
「ラナァがいますが?」
しばしの沈黙。
「ラナァの前でラナァのママを殺すと? ラナァを愛してないんですか?」
「いやラナァのことは超好きだけども! ぶっちゃけお前のことも結構好きだぞオイラ!」
「ええ……」
イリナが両手で胸をガードして2歩後退。
「おいおい、照れ隠しにしても過剰反応すぎだよイリナ」
「照れ隠しじゃありませんが? てか、もう用はないので去ってくれます? みんなを起こせないじゃないですか」
「うーん冷たい! 氷の魔王に鞍替えすれば!?」
「バイバイ」
ラナァがイリナの胸から葉っぱを出して振った。
「うーん! 母娘揃って冷たい! もっと惜しんで! オイラと会えたことを喜んで! そして別れを惜しんで!」
「……まぁ、久々に会えて良かったですよ……」
イリナがそっぽを向いて言った。




