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お花のラナァは今日も幸せ  作者: 葉月双
1章

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21/25

21話 骨、揉む


 廃村の中心の広場で、スケルトンがギターを弾いていた。

 かつてはこの場所で集会などが開かれていたのかもしれないが、今は中心の切り株に座るスケルトンしかいない。

 聴衆はいないけれど、スケルトンは楽しそうにギターをかき鳴らしていた。


「……楽器を演奏するスケルトンだと!?」


 分隊長が驚いて言った。

 イリナも正直、驚いている。

 こんなスケルトンは見たことがない。


(てゆーか、リッチって話だったのでは? え? まさかこの骨、リッチ? というか、あたくし、このスケルトンを見たことがあるような……?)


 イリナが首を傾げる。

 スケルトンは旅人のマントを装備していて、頭にはウエスタンハットを乗せている。

 ウエスタンハットというのは、大陸の西側を開拓していた頃、開拓者が好んで被った帽子のこと。


「分隊長……攻撃しますか?」


 聖騎士たちはすでに剣を抜き、臨戦態勢を取っていた。

 聖女クラリスも、いつでも神聖魔法を撃てるように準備。

 イリナも一応、魔法の準備を開始。


「待て……。うかつに動くな……」と分隊長。


 と、スケルトンの演奏が終わって、スケルトンが立ち上がる。

 みんなが身構える。


「聴いてくれてありがとう、オイラはもう行くよ」


 スケルトンがギターを虚空に仕舞った。


「なっ!?」クラリスが驚いて言う。「【亜空間収納】!? やはりリッチですか!?」


「ん? オイラはリッチじゃないけど、まぁ、なんか君たち剣とか抜いてて怖いから、もう行くよ」


 スケルトンがその場を去ろうとしたのだが、分隊長が「待て」と声をかけた。

 スケルトンが立ち止まる。


「貴様の討伐依頼を受けてきたのだ」分隊長が言う。「悪いが、消滅してくれ」


 その言葉で、一瞬にして空気が張り詰める。


「んー、オイラは戦いたくないけど、どうしてもって言うなら――」スケルトンが分隊長を睨んだ「――仕方ないよね?」


 その瞬間、スケルトンは隠蔽していた自らの魔力を解放した。

 スケルトンを中心に、人の目で見えるほど濃密な魔力が漂う。

 それは人知の及ばぬ超魔力。


「ひっ……」


 クラリスが泡を吹いて気絶した。

 聖騎士たちもガクガクと震え始め、剣を取り落とす者もいた。

 イリナはこの超魔力に覚えがあった。

 今世で、ではなく前世で。


「ホレス……」イリナが言う。「不死の魔王ホレス……」


「おやぁ? オイラを知ってるのかーい?」


 スケルトン改めホレスは、いつの間にかイリナの目の前にいて、イリナの顎に右手で触れ、いわゆる顎クイをした。


「せ、聖女様……」


 ガクッと分隊長が倒れ、聖騎士たちが次々に倒れていく。


「オイラのこの魔力に当てられて平気な顔をしているなんて、君は一体……」


 ホレスはイリナをジッと見ていたのだが、胸元のラナァに気付いてそっちに視線を移した。


「……あれ? ラナァ?」とホレス。


「久しぶりホレス! ラナァだよ!」


 ラナァが元気いっぱいに言った。


「ええ!? こんなところで何してるの!?」


 言いながら、ホレスはイリナの両胸を揉みしだいた。


「何しやがる骨野郎!」


 ぶちキレたイリナがホレスにアッパーカット。

 ホレスが宙に舞う。

 そして地面に落ちてバラバラになった。


「そのアッパーカット……覚えがある……けど、えっと誰?」


 地面で骨をくっ付けながらホレスが言った。


「イリナだよ!」ラナァが言う。「ラナァのママ!」


「ええ!? ママ!?」


 ホレスが驚いて口をガクガクと何度も開けたり閉じたりした。

 まったく何の意味があるのか分からない動きである。

 その謎の動きを止めて、ホレスは真面目な様子で言う。


「ということは、お前、植物の魔王か?」


「そうだよホレス」イリナは前世の口調で言う。「久しいじゃないか」


「え? お前、なんで人間の女になってんの? しかも死ぬほど弱体化してない?」

「魔王だった頃の能力はほとんど残っていませんので」


 イリナが肩を竦めた。


「てか、オイラ、植物の魔王のおっぱい揉んだのか……複雑な心境……」

「揉まれたあたくしの方が複雑な心境ですが!?」

「まぁでも、割といい感じだった」


 ホレスが親指を立てる。


「やかましいわい!」


 イリナはホレスの顔面を蹴っ飛ばす。

 そうすると、ホレスの頭蓋骨が飛んで行く。

 飛んで行った頭蓋骨を身体が追いかけて、地面に落ちる前にキャッチ。

 そしてパッと戻ってくる。


「で、なんでオイラのこと討伐しようとしてんの?」

「依頼があったからです。ただ、リッチという話だったのですがね」

「あー、ここに住んでたリッチならオイラがバラバラにしたよ」

「なんで!?」

「生意気だったから」


 カラカラとホレスが笑った。


「……つまり、もう討伐対象は死んでいるということですね」

「そういうことー」


 ホレスが笑顔で言った。

 骨のくせになんで笑顔になれるんだ、という疑問がイリナの頭に浮かんだけれど、イリナはそれをスルーした。


「ではそのリッチの骨を持って来てください。それで、あなたを倒したことにしましょう」

「お、いいね! でもアホみたいな魔力見せちゃったけど、大丈夫? 今のお前にオイラを倒すとか絶対無理だと思うけど?」


「ふふ、そこはほら、ラナァが記憶操作をすれば完璧!」


 ニヤッとイリナが笑う。


「うわぁ、陰湿! さすが植物しか愛せない変人!」

「……いえ、今世では割とちゃんと生きてますよ……」


 このあと、聖域に引きこもってラナァと暮らすけれども。

 結局愛しているのはラナァだけ、ではあるけれども。


「記憶をどんな風に変えればいいの?」とラナァ。


 イリナは事故を防ぐため、とっても丁寧に説明した。

 聖騎士たちと聖女クラリスの記憶を、この廃村の中心に到着した時点から書き換えるということ。


 ギターを弾いていたのはホレスではなく一般的なリッチであった、と。

 そして激闘の末リッチを倒した、と。

 全ての説明が終わると、ホレスが指をパチンと弾く。

 そうすると、リッチの死体が出現。


「よぉし! じゃあ記憶の操作するね!」


 言って、ラナァはみんなの記憶をいじった。

 しかしみんなまだ気絶したままである。


「あ、ホレス」ラナァが言う。「パメラが会いたいって」


「おっとぉ? パメラちゃん、オイラに惚れちゃったかぁ? まぁオイラってばイケメンだから、仕方ないよねぇ?」


 デレデレとホレスが言った。

 なんで骨なのに照れてるのが分かるんだ、とイリナは思った。


「自意識過剰な骨ですね……」

「おっとぉ? 植物の……今はイリナだっけ? 女になったからってオイラに惚れるなよぉ?」

「誰がお前なんかに」


 イリナはツンと澄まして言った。


「ま、近いうちに寄るって言っといてー」軽い感じでホレスが言う。「てかラナァってこれ本体じゃないよね?」


「うん! ラナァは分体ラナァだよ!」

「そっかそっか」


 ホレスがラナァに触れようと手を伸ばしたのだが、イリナがサッと飛び退いた。


「いや、お前の胸を触ろうとしたわけじゃ……」

「汚い手でラナァに触るな、という意味です」


 イリナがキリッとした表情で言った。


「……お前、今めっちゃ弱いってちゃんと理解してる? オイラの気分1つでその首、へし折ることも……」

「ラナァがいますが?」


 しばしの沈黙。


「ラナァの前でラナァのママを殺すと? ラナァを愛してないんですか?」

「いやラナァのことは超好きだけども! ぶっちゃけお前のことも結構好きだぞオイラ!」

「ええ……」


 イリナが両手で胸をガードして2歩後退。


「おいおい、照れ隠しにしても過剰反応すぎだよイリナ」

「照れ隠しじゃありませんが? てか、もう用はないので去ってくれます? みんなを起こせないじゃないですか」

「うーん冷たい! 氷の魔王に鞍替えすれば!?」

「バイバイ」


 ラナァがイリナの胸から葉っぱを出して振った。


「うーん! 母娘揃って冷たい! もっと惜しんで! オイラと会えたことを喜んで! そして別れを惜しんで!」

「……まぁ、久々に会えて良かったですよ……」


 イリナがそっぽを向いて言った。

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