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お花のラナァは今日も幸せ  作者: 葉月双
1章

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20/25

20話 ラナァ、春を作る


 イリナが懺悔室に入ると、ラナァが胸からポーンと飛び出す。

 そして狭い懺悔室を走り、そのまま壁を走って天井で逆さまに立ち止まる。


「ラナァに重力は関係ないようですね」


 イリナが天井のラナァを見上げて言った。


「身を任せることもできるよ」


 ラナァがふわぁっと落ちて来たので、イリナがそれを受け止める。

 イリナはラナァをナデナデしたあと、久しぶりの懺悔室を見回す。

 かなり狭い部屋で、隅の方にトイレが備え付けられている。

 それ以外には、聖なる神アレクシアの小さな像が置いてあるだけ。


「さぁて、ちょっと寝ましょうかね」


 早起きしたので、少し眠いイリナである。


「じゃあ子守歌、歌ってあげる~♪」


 そう言って、ラナァが綺麗な声で歌った。

 イリナは床に寝転がって目を瞑り、ラナァの歌に耳を傾け、そしてすぐに眠りの国に落ちた。

 夜、念環からイリナを呼ぶ声が聞こえ、それでイリナは目を醒ました。


「うーん、うるさいですね……」


 ぼやきながら、念環に魔力を送ってこちらの声もあちらに届くよう作動させる。


「なんですかディア様」とイリナ。


「イリナ、いつ戻るんだい?」

「あー、えっとですね……」


 イリナは目をこすりながら身体を起こし、ディアに現状と今後の予定を説明。


「ふむ。ではしばらく戻らんか」

「はい。何か?」

「いや、聖女ラナァに会いたい人々がな……」

「ああ、無視しておけばいいですよ」


「まぁ、そうするしかあるまい……」ディアが溜息を吐いた。「以上だ。アンデッドの討伐、気を付けろよ」


「はぁい」


 念環での会話が終了したので、イリナは魔力を送るのを止めた。


「あれ? ラナァ?」


 姿が見えなかったので、イリナはキョロキョロと首を振った。


「ここだよぉ」


 天井から声が聞こえたので、イリナが上を見る。

 そうすると、ラナァはコウモリみたいに天井に逆さまに張り付いていた。


「天井、気に入ったのですか?」

「割と」



 翌日の朝。


「リッチか何かを倒せば、イリナは帰ってこれるみたい」


 本体ラナァがみんなに現状を報告した。


「リッチなどワシなら秒で勝てるな」とアビス。

「ラナァなら刹那で勝てるであろう」とパメラ。


「聖女でママのイリナさん……楽しみ」


 ニコニコとシエルが言った。

 シエルは昨夜、自分の部屋の自分のベッドで眠ったので、とっても気分がいい。


「リッチといえば骨じゃ」パメラが言う。「実はリッチではなく、例のあの骨だったりしたら面白いのじゃ」


「あの骨は人間と敵対などせんだろう」とアビス。


「分からんぞ?」パメラが言う。「骨の方にその気がなくても、人間はアンデッドが大嫌いだからのぉ」


「あの骨って?」


 シエルがキョトンと首を傾げて言った。


「あー、シエルは知らないかぁ」パメラがシエルの周囲を飛び回る。「えっとねー、妾たちの友達に骨がいるのじゃ」


「スケルトン……って魔物?」

「えーっと、まぁ似たようなもんじゃの」

「ラナァにグラサンくれた骨だよ」


 ラナァが右の葉っぱを上げながら言った。


「前から言おうと思ってたけど、ラナァってグラサン似合うね」とシエル。


「ありがとう。シエルも分体ラナァの花飾り似合うよ」


 シエルのポニーテールを括っているのは、サイズを小さくした分体ラナァ2号である。


「ラナァ」パメラがラナァの葉っぱに着地。「もしもあの骨だったら、たまには顔見せに来るのじゃ、って言っといておくれ」


「分かったー」

「いや、そんな都合良くあの骨が討伐対象だとは思えんが……」


 アビスが大きな首をやれやれと左右に振った。


「えっと、友達が討伐対象だったら……」シエルがおっかなビックリ言う。「どうするの……?」


「討伐する♪」とラナァ。


「するの!?」


 シエルが驚いて身体を仰け反らせた。


「あの骨は討伐したぐらいじゃ死なんのじゃ」パメラが淡々と言う。「心配しなくても平気じゃよ」


「そうそう! それにラナァとは討伐ゴッコしてたよ!」ラナァが言う。「ラナァが勇者役で、骨を何回も砕いた!」


「そ、そうなんだ……過激な遊びだね……」とシエルは苦笑い。



 イリナが懺悔室を出る日。

 イリナは背伸びをしながら懺悔室を出た。


「随分と元気そうですね」


 待ち構えていたマリアが言った。


「あ、マリア様。特に不自由はなかったですよ」イリナが笑顔で言う。「【クリーン】で身体も部屋も清潔に保っていましたし、食事も水も修道者が持って来てくれましたし、床で寝ることも聖女候補時代に何度も経験してますしね」


「……そうですか。アンデッド討伐隊はすでに編制を終えています。すぐに合流しなさい」

「え? 今からすぐですか?」

「そう言いましたよ?」


 マリアは冷たい声で淡々と言った。


「分かりました……って、どこで合流すれば?」

「東転移門前です」


 ちなみに、イリナがこの大神殿にやってきたのは西転移門からだ。


「ではすぐ行きます」


 イリナはノンビリとした足取りで西転移門へと向かう。


「駆け足!」とマリアが怒鳴った。


「ひぇ……」


 イリナは仕方なく走った。


(くっ、あたくし、運動能力はそれほど高くないというのにっ! てゆーか、運動嫌い!)


 そして正直に言うと、イリナは戦闘も苦手だったりする。

 あー、しんどいぃ、と思いながらも、イリナは目的地まで走った。

 イリナが東転移門前に到着した時、すでに聖騎士の分隊と聖女1人が待機していた。

 分隊というのは10人前後の部隊のこと。

 今回集まった分隊はピッタリ10人だった。


「マリア様の命令で討伐隊に加わることになりました、ヴェルテール王国、王都神殿のイリナです」


「聞いています」分隊長が言う。「聖女の中の聖女、イリナ様とご一緒できて光栄です」


「「光栄です!」」


 聖騎士たちが声を揃えて言った。


「こちらこそ、大神殿の聖騎士たちとご一緒できて嬉しく思います」


 イリナは優雅にお辞儀しながら言った。


「イリナさん、わたくしは大神殿所属の聖女、クラリスと申します」

「よろしくお願いします、イリナです」


 クラリスとイリナはお互いに聖女スマイルを浮かべた。

 クラリスの年齢は20歳前後で、イリナより年上に見えた。


「では早速、現地に向かいましょう。転移門の調整は済んでいます」


 分隊長が言うと、転移門の周囲に立っていた助祭たちが転移門に魔力を注ぐ。

 起動した転移門を分隊長が最初に潜って、続いて聖騎士たち。

 イリナとクラリスは並んで転移門に入った。


 転移した先は、小さな廃村だった。

 ほとんどの家はところどころ崩れていて、謎の蔦植物が壁を侵食している。

 かつて畑だった場所は、好き放題に伸びた雑草が天下を取っていた。

 生活感はまったくないし、そもそも人の気配がしない。


「ここは……」とイリナ。

「ベルン王国の片隅ですわ」とクラリス。


 イリナは頭の中で大陸の地図を広げて、ベルン王国の位置を確認。

 北方の小さな国だ。


(なるほど、少し寒いわけですね)


(暖めてあげよーか♪)とラナァ。


 その台詞にキュンキュンしてしまうイリナ。


(よろしくお願いします!)

(はぁい)


 ラナァは周囲を春にした。

 気温が上昇し、花が咲き乱れ、優しい風が吹く。


(や、やりしゅぎぃぃぃぃぃぃぃ!!)


 イリナは思わず突っ込んでしまった。

 イリナ以外のメンバーが動揺している。

 当然だ。

 いきなり春が訪れたのだから。


(あれ? ダメだった?)

(んーん! ラナァにダメなことなんてなぁぁい! けど! もう少しこう! ラナァは手加減を覚えよう!)

(分かったー)

(これは! 『分かった(分かってない)』というやつなのでは!?)


 聖域に帰ってからでもいいけど、ゆっくり手加減について教えようとイリナは思った。


「これは……一体どういうことだ?」と分隊長。

「分かりませんが、邪悪な感じはしませんね」とクラリス。


「そそそ、そうですね」イリナが言う。「邪悪などころか、かか、かなり神聖な感じが、ががが、します! 気にしなくて、平気ですよ! ええ!」


「大丈夫ですか? 酷く動揺しているようですが?」


 クラリスがイリナの顔を覗き込む。


「大丈夫! あたくし元気です! さぁアンデッドを探しましょう!」


 イリナはズンズンと歩き始める。


「聖女様、危ないので1人で先に行かないでください」


 分隊長に制止され、「あ、はい。すみません」とイリナは頭を下げた。


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