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お花のラナァは今日も幸せ  作者: 葉月双
1章

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2/25

2話 ラナァ、火を噴く


 魔王城から森に【転移】したラナァは、新しい住処を楽しんだ。

 まず周囲を完全に把握して、それから伸び伸びと揺れ、踊った。

 お昼は太陽が気持ち良くて幸せ。


 でもラナァは別に太陽がなくても生きていける。

 日光は必須ではない。

 夜は月が綺麗で幸せ。

 でもラナァは月がなくても生きていける。


 雨の日はとっても気持ち良いけれど、ラナァは水がなくても生きていける。

 周囲の魔力を吸収しながら、ラナァは生きている。

 この世界に魔力が存在している限り、ラナァは存在できるのだ。


 そして魔力が消えてしまっても、今度は普通の植物のように太陽と水で生きていける。

 ラナァはそういうお花なのだ。

 歌っている間に月日が流れ、踊っている間に昼と夜が入れ替わる。


「あ、そうだ寝よう!」


 ラナァはふと思い付いて、寝ることにした。

 ラナァは特に睡眠を必要としているわけじゃない。

 寝るのはあくまで趣味の範疇。

 スヤァ、と10年ほど眠って、また起きて揺れる。

 虫を観察したり、他の植物を観察したり、毎日がとっても楽しかった。


「今日は歌を歌うね! 天まで届け、ラナァのお歌~♪」


 ラナァが気分良く歌い続けていると、空から巨大な黒い塊が降ってきた。


「わぁ! 大きいトカゲ!」とラナァ。


 ラナァは図鑑を見たことがあるので、沢山の生き物を知っている。

 植物の魔王が、ラナァに多くの知識を与えたから。


「トカゲではない!」黒い塊が言う。「ワシは偉大なるドラゴン、冥竜帝アビス!」


「ラナァはラナァだよ!」

「……ワシは冥竜帝アビスだぞ?」

「うん。ラナァはラナァだよ?」


 しばしの沈黙。


「ワシが怖くないか……?」

「どうして?」


「いや……まぁ、怖くないなら、それでいいのだが」アビスが苦笑い。「ところで、貴様……いや、ラナァの歌が気に入った。もっと歌ってくれないか?」


「いいよー!」


 そうしてラナァは1年もの間歌い続けた。

 アビスはラナァの隣に香箱座りして目を瞑り、ずっとラナァの歌を聴いていた。



「ここからはワシが話そう」とアビス。


「え、あたくしはラナァの話がいいのですが……」


 ラナァに頬ずりしているイリナが言った。

 ちなみに、イリナはラナァに駆け寄った時に手帳と万年筆を落としてる。

 それらをストロベリーブロンドの妖精が拾って、落書きをしていた。


「ワシがラナァの側に着地したのには、理由がある」


「あ、はい……」とイリナ。



 冥竜帝アビスは、人間たちとの戦いで深く傷付いていた。

 心ではなく、身体の方。

 心はいつも元気である。

 なんなら、回復したらまた暴れてやろうとさえ思っていた。


「とはいえ、ワシはもう長くない……」


 空を飛びながら、アビスは死に場所を求めていた。

 強烈な呪いがアビスの身体を破壊し続けている。

 人間たちが、アビスを倒すために用意した手段が、その呪いである。


「さすがはメリン……これほどの呪いを用意できるとは……」


 もちろん、実際に呪いを放ったのはメリンではない。

 メリンは聖女なので、呪いとは無縁だ。

 ただ、人類の精鋭を率いていたのがメリンだった。


 すでにあの戦いから200年ほどが過ぎ去っていて、その間、アビスはただ逃げ隠れしていた。

 なんせ、呪いのせいでまったく力が出せないのだ。


「まったく、実に厄介な呪いだ。忌々しいが、これも運命か」


 そう、アビスはすでに自らの死を受け入れていた。

 だからこそ、隠れるのを止めて死に場所を求めて彷徨っているのだ。

 と、風に乗って歌が聞こえた。

 それはとっても陽気で、楽しげで、幸せな歌だった。


「ふむ……」


 いい声だ、とアビスは思った。

 人間の若い娘だろうか。


「ん? んんんんんんん?」


 身体が変だ、とアビスは思った。


「これは、まさか……呪いが弱まっている!?」


 アビスは驚いて、急停止した。

 キョロキョロと歌の発生源を探す。


「どういうことだ!? このワシですら、どうにもできなかった呪いが、歌だけで!?」


 森の少し開けた場所で、白い花が揺れながら歌っているのが見えた。

 アビスはとっても目がいいのだ。


「行かねば! ワシ、まだ生きられるかも!? ワシ、実は死にたくなかったのだ! ひゃっほー!」


 アビスはとってもいい気分――それこそ200年ぶりの――で白い花の近くに着地。

 踏み潰してしまわないよう、注意した。


(さて、どう声をかけたものか)とアビスが考えていると、


「わぁ! 大きいトカゲ!」と白い花が無邪気に言った。


 誰がトカゲじゃーい!

 ワシは泣く子も黙る冥竜帝アビス様だぞ!?

 あと、トカゲに羽は生えてないぞ!

 アビスは心の中で矢継ぎ早に突っ込みを入れた。



「やっぱり冥竜帝アビスなんですね……」


 イリナが少し怯えたように言った。


「お主、前世は魔王であろう? ワシにビビってどうする」


「前世は前世です」イリナが言う。「こう、なんと言うか、夢のような感じで、ラナァのこと以外はあまり実感がないんですよね」


「そうか。まぁよかろう」アビスが言う。「とにかく、ワシはラナァの歌を聴き続け、そして超健康体になったのだ! ふははははは!」


「ふははははははは!」


 アビスの笑い方を真似してラナァが笑った。


「ラナァの癒やし効果は超最強なのじゃ♪ へいへい♪」


 ストロベリーブロンドの妖精が寄ってきて言った。


「ええ。ところで、あなたは……」

「ん? 妾はパメラ。見ての通り、可愛い妖精女王じゃ」

「妖精女王!?」


 イリナは素っ頓狂な声を上げた。

 冥竜帝だけでも驚きなのに、妖精女王までいるなんて。


「妾とラナァの出会いも、あとで話してやるのじゃ」


「ええ。楽しみです」微笑み、イリナはラナァに視線を向けた。「それで、ラナァはずっとアビスと暮らしていたんですか?」


「そんな感じだよ」ラナァが言う。「アビスはラナァに色々なことを教えてくれたの」


「たとえば?」

「火の噴き方!」


 元気よく言って、ラナァが空に向けて猛烈な火を噴いた。

 イリナはポカーンと口を半開きにして、空を見ていた。


(今の火炎魔法、普通に国一個ぐらいなら消し炭ですが……)


 それは恐ろしいほどの威力だった。

 ハッと正気に戻ったイリナが、アビスに視線を向ける。


(こいつ、可愛いラナァに何を教えてやがるんですか!)


 しかしアビスは自慢気にドヤ顔を披露していた。



 ラナァは今日も幸せだった。

 久々に噴いた火はとっても綺麗で見応えがあった。


「どう? ラナァは火を噴くお花だよ!」


 ラナァはいい気分で言った。


「ええ。すごかったです!」イリナが右手でラナァの花びらをナデナデ。「やっぱりラナァは世界最強になりましたね!」


「ラナァは最強!」


 ラナァが茎をクネクネと動かした。

 嬉しくて身体を動かしたい気分だったのだ。


「ところで気になっていたのですが」言いながら、イリナがラナァのグラサンを取った。「これは……?」


「それはグラサンっていうんだよ」

「ええ、ええ。知ってますよ!? どうしてお花のラナァがグラサンかけてるのかなって! そう思いまして!」


「オイラには太陽は眩しすぎる」急にハードボイルド風な言い方をするラナァ。「そう、オイラのような、闇に生きる者には、な」


「誰の台詞ですか!? 誰ですかラナァに変な台詞教えたのは!?」

「変だった?」

「全然、超可愛い」


 イリナはグラサンを持っていない方の手で、ラナァをちょんちょんと突いた。


「今の台詞は闇に生きるあいつじゃの」とパメラ。

「うむ。あの愉快なスケルトンだな」とアビス。


「愉快なスケルトン!? スケルトンって愉快な奴いますぅ!?」イリナが驚いて言う。「奴らってそもそも知性とかないのでは!?」


「あいつは賢いのじゃ」とパメラ。

「小賢しいとも言うな」とアビス。


「……ふふ……事実だとしたら、ここでは人間の常識は捨てた方が良さそうですね」


 イリナが苦笑いしつつ首を横に振った。


「グラサンも彼がくれたの」ラナァが言う。「彼の話する?」


「ちょっと待ったぁぁ!」パメラが割り込む。「次は妾! 妾がラナァとの出会いを話すのじゃ!」


20時に3話を更新します。

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