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お花のラナァは今日も幸せ  作者: 葉月双
1章

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19/25

19話 イリナ、猫の真似をする


(可愛いラナァ)

(アリゲーターパンチ)


 イリナとラナァは頭の中でしりとりをしていた。


(ち……ち……ちん……いえ、ちょっと考えます)


 うーんとうなるムッツリスケベのイリナ。

 と、マリアの世話係の女性が事務員に寄ってきて何かを耳打ち。

 事務員が頷き、イリナの方へ移動。

 イリナはそろそろ会えるのかな、と思って立ち上がる。


「応接室に案内します」と事務員。


「お願いします」


 イリナがそう言うと、事務員が歩き始めたのでイリナも続く。


(イリナまだぁ~?)

(えっと、あ、チーズ!)

(ズッキズッキのズッキーニ♪)

(肉!)

(草木が揺れるよラナァと一緒に♪ の草木!)

(き……き……)


 イリナが悩んでいる間に、応接室に到着。

 事務員が応接室をノックし、中から「お入りなさい」と冷たい声が聞こえる。


(きんた……いえ、なしで。えっと……)


 事務員が扉を開き、イリナに入るようジェスチャ。

 イリナは小さく頷いてから入室。

 事務員が扉を閉める。

 ソファに座ったマリアがイリナをジッと見詰める。


「キツネ」とイリナ。


 マリアはビックリしたように目を丸くした。

 いきなり何の脈絡もなくキツネと言われたら、多くの人はマリアのような反応をする。


「す、すみません。ちょっと緊張してしまって……」


「はぁ……」マリアが首を傾げる。「あなたは緊張すると『キツネ』と口走るのですか? 変わっていますね」


「ええ、はい……」

「お座りなさい」


 マリアが自分の対面のソファを視線で示す。


「では失礼して……」


 イリナはマリアの対面に腰を下ろした。

 2人の間にはテーブルがある。


(猫ねこニャンニャン♪ 猫にゃんにゃん♪ の猫)


 あへぇ、可愛い~、とイリナの表情が緩む。

 それを見てマリアが訝しむ。

 イリナは小さく咳払いして表情を引き締める。


「お久しぶりですマリア様」

「ええ。あなたが聖女になった時以来ですね」


 聖女候補の教育中にマリアの授業も何度かあったし、修了の日にはマリアの演説も聴いた。


 そのことを思い出して、イリナは少し懐かしい気持ちになった。


(次は「こ」だよー?)

(あ、ラナァちょっと1回終わりましょう。あたくし、マリア様とお話するので)

(そっかー、じゃあ本体と続きやるね)


 分体ラナァは本体ラナァとしりとりを始めた。


「早速なのですが、本題に入りたいと思います」イリナが言う。「あたくしは聖女を辞めたいと考えています」


「却下です」

「はやーい! 超はやーい!」イリナが突っ込む。「もう少し考えてください!」


「イリナさん」マリアがとっても冷たい声で言う。「聖女らしからぬ言葉使いです」


「あ、すみません……」


 マリアに睨まれ、イリナがキュッと身を縮めた。

 聖女候補の時から、マリアは怖くて苦手だった。

 まぁ、前世の記憶を思い出した今は以前ほどの恐怖はない。

 ないけれど、苦手が克服されたわけではない。

 だってこの人、魔王を前にしても態度を変えなさそうだもの、とイリナは思った。


(猫ちゃんの前なら態度を変えるよー)とラナァ。


(あ、猫には優しいという話でしたね、マリア様は)

(猫の真似してみたら?)


 ラナァがそう言ったので、イリナは両手を持ち上げて自分の頭に当てる。

 そして猫の耳に見立ててぴょこぴょこと指を動かす。


「にゃんにゃん♪」


 そう言った瞬間に、空気が凍ったのをイリナは感じた。


「イリナさん。わたくしをバカにしていますか?」

「い、いいえ! 違います! 猫が好きと聞いていたので!」

「……あなたは人間でしょう……」


 マリアは酷く呆れた様子で言った。


「はい、そうでした……」


 イリナが俯きながら言って、マリアは長く深い溜息を吐く。


(あんまり似てなかったね)とラナァ。


「あなたはとっても優秀な候補生でした」マリアが言う。「まさに理想の聖女。わたくしもあなたには目をかけていました」


「そ、それはどうも……」

「聖女になってからも、あなたの噂は聞こえてきました。『聖女の中の聖女である』と」

「よく言われます……」

「あなたは最年少で大聖女を目指せるし、最年少枢機卿、そして教皇にさえなれる器なのです」

「あ、はい……」


 別になりたいと思っていないけれど、とイリナは思った。

 前世を思い出す前から、権力や地位にあまり興味がなかった。


「だというのに!」


 バン、とマリアが両手でテーブルを叩いた。

 イリナはビクッとなった。


「なんですかその態度は! 枢機卿命令です! 3日間懺悔室に入りなさい!」

「えええええ!?」


 イリナは過去、懺悔室に入ったことは一度しかない。

 それも聖女候補の時に体験として1日入っただけである。

 祈る以外にやることがないので、イリナ的にはちょっと楽だったのを覚えている。

 今はラナァもいるし、3日ぐらい余裕だ。


「しっかり聖なる神アレクシア様に祈りを捧げなさい」

「それはいいのですけど」

「いいのですか!?」


 マリアがビックリして目を丸くした。


「そのあとは聖女辞めますね?」

「却下したはずですが!?」

「却下を却下しますっ!」

「あなたにそんな権限はありませんが!? キリッとした顔で言っても無駄ですが!?」

「でもあたくし、本当に辞めたいんです」


 イリナが真剣に言うと、マリアが姿勢を正す。


「理由を話しなさい」

「一緒に暮らしたい相手がいます」

「なるほど。恋人ですか。若い頃にはありがちですが……」

「いえ、娘です」

「むすめぇぇぇぇ!?」


 マリアが勢いよく立ち上がった。

 そしてコホン、と咳払いして座り直す。


「この身体で産んだわけでは、ありませんが……」


 言いながら、イリナは胸元のラナァを撫でた。


「……その大きな花は娘からの贈り物ですか?」

「え? いえいえ、これが娘……あ、違う、えっと、そうですそう。娘からのプレゼントですはい」


 慌てるイリナに、マリアがまた訝しげな表情を浮かべた。


「とにかく、あたくしには義理の娘がいて、森の中でスローライフを送りたいのです」


「なるほど」マリアが頷く。「しかし娘のためにも、神殿で一緒に暮らした方がいいのでは? 神殿なら飢えることもなく、教育だって受けられる。わざわざ森で暮らす意味が?」


「娘は自然が好きなのです」


 ってゆーか、本体ラナァは森から動けなーい、とイリナは思った。


「あなたの神殿にも庭園はあるでしょうに」

「ありますが、違うんです。大自然がいいんです!」


 イリナが強い口調で言って、マリアがしばらく考え込む。


「……わたくしが何を言っても、決意は変わらないようですね」

「はい。最悪、逃亡します」

「……それは止めなさい。捜索隊を組むことになるので、本当に止めなさい」

「あたくしも、できればちゃんと辞めたいのです」


 逃げると両親も心配するし、とイリナは思った。

 イリナの父親はとある国の騎士だ。

 ちなみに母は平民。


「……分かりました」


 マリアが溜息交じりに言った。


「では!」

「ええ。辞めてもいいですが、まずは3日間、懺悔室に入りなさい」

「喜んで!」

「そんなキラキラした瞳で懺悔室に入る子は初めてですが!?」

「バラ色の森林が待っていますから!」

「お待ちなさい。懺悔室を出たら、1つだけ仕事をしてもらいます」

「ええ……?」


 イリナのテンションがだだ下がった。


「最後の奉公です。いいですね?」

「いいですが、何をするんです?」

「難しいことではありません。とあるアンデッドの討伐隊に参加しなさい」

「そんなことですか。いいですよ」


 アンデッド退治は神殿の仕事である。

 通常の魔物は国が対処することが多いのだが、アンデッドに関しては基本的に神殿が担当している。

 聖女の魔法属性がアンデッドに有効だからだ。


 ちなみに、聖騎士たちはただ『聖』と付いているだけで、普通の騎士なので特に有効ではない。

 国所属の騎士との差別化として、神殿所属の騎士を聖騎士と称しているだけのこと。


「……油断しているようですが、相手はリッチかそれよりも上位のアンデッドです。気を引き締めなさい」

「はぁい」


 ラナァがいれば余裕、とイリナは思った。


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