16話 ラナァ、実況する
「そんなわけで、これから第二王妃の宮殿に突入するところ~」
本体ラナァが、分体ラナァとイリナの現状をみんなに話した。
「ワクワク……」
シエルは手に汗握って話の続きを待った。
「人間の権力闘争、おもしろ~いのじゃ~♪」
パメラがクルクルと舞いながら言って、妖精たちも次々に「おもろー!」と叫びながら舞った。
「ワシは少しも興味ないが」アビスが言う。「早く突入するのだ」
「あ、今入ったよ」とラナァ。
◇
分体ラナァたちは第二王妃の宮殿へと足を踏み入れた。
まぁ、ラナァはイリナの胸に挟まっているだけだが。
宮殿に入ってすぐ、メイドたちが寄ってきた。
「王妃様!? それに騎士たちまで、何事でしょうか!?」
この宮殿のメイド長が言った。
「第二王妃はどこです!?」と王妃。
「第二王妃様は寝室にいらっしゃいますが、今は誰も入れるなと……」
メイド長の言葉の途中で、王妃が歩き始める。
騎士たちもそれに続く。
ラナァは魔力の視界を広げて、宮殿全体を把握。
そうすると、交尾している人間たちがいた。
(わぁ! 人間の交尾だ! パメラたちに詳しく話してあげよっと!)
ラナァは交尾している人間たちの動き、声、その他もろもろを認識し、本体ラナァの方で実況中継した。
(あれ? 交尾してる人たちの方に向かってる?)
もしかして、今交尾しているのが第二王妃なのかな? とラナァは思った。
まぁ誰でもいいか!
実況♪ 実況♪
ラナァにとって、人間の交尾も他の動物の交尾も大差ない。
どちらも見かけたらなんだか面白くて観察する。
ラナァは交尾をしないので、余計に興味深く感じるのかもしれない。
と、王妃たちが交尾している人間たちの部屋の前に到着。
王妃が合図をして、騎士たちが扉を蹴破って中に入った。
交尾をしていた人間たちが酷くビックリして飛び上がった。
「な、あなた! こんな昼間っから浮気を!?」
王妃も酷くビックリした様子で言った。
「王子、見てはいけません」
女性の近衛騎士が背後から王子の目に自分の手を置いた。
「しかも浮気相手が……宮廷魔導師!?」と王妃。
どうやら、交尾をしていたのは第二王妃と宮廷魔導師だったらしい、とラナァは理解。
「ななな、なぜいきなりここに!?」
第二王妃が急いで掛け布団を自分の身体に巻いた。
はぁ、と王妃が溜息を吐いた。
「わたくしの息子を呪ったでしょう?」王妃が言う。「その痕跡を辿ってきたので、言い訳は無用ですわ」
その言葉に、第二王妃が目を丸くした。
それから宮廷魔導師を睨む。
「ちょっと! 絶対にバレないって話だったでしょう!?」
「そのはずだ! 痕跡だって消していたんだ俺は!」
宮廷魔導師が全裸で叫んだ。
「聖女を甘く見ましたね」イリナが言う。「あたくしたちは単に属性が【神聖】なだけではありません。魔法使いとしても非常に優秀なのです」
「神殿の聖女とて……この俺の……いや、お前は聖女の中の聖女イリナか……」宮廷魔導師がイリナを見て言う。「クソ……聖域の調査だか何かで留守だったはずだ……」
イリナは淡々とした表情で宮廷魔導師を見ていた。
(残念帰ってきましたー♪)
(ましたー♪)
心の中ではラナァとハイタッチしてニコニコしていたけれど。
「2人を拘束しなさい!」
王妃が命令して、騎士たちが第二王妃を拘束。
宮廷魔導師は炎の魔法を放って騎士たちを攻撃した。
もちろん全裸で。
「イリナ! よくも邪魔を! 許さんぞ!」
宮廷魔導師はイリナめがけて強力な【ファイアーボール】を放った。
それは宮廷魔導師の全魔力を込めたもので、この部屋ごと焼き尽くすほどの威力を秘めていた。
いたのだが、パシュン、という情けない音とともに【ファイアーボール】は消滅した。
「は……? え……?」
宮廷魔導師が固まった。
他のみんなも固まった。
(……ラナァですか?)
(何が?)
(消しました? 【ファイアーボール】)
(うん。イリナがヤケドしちゃうでしょ?)
ちなみに、ラナァはあの程度の炎では葉っぱの1枚も燃えない。
(ヤケドでは済みませんけれども! いえ、そんなことより! ありがとうラナァ! だいしゅき!)
イリナは今すぐラナァに頬ずりしたい衝動に駆られたが、時と場合を考えて自重した。
「ば……化け物……」
宮廷魔導師が震える腕を伸ばし、イリナを指さした。
「誰が化け物ですか!」イリナが怒って言う。「こんなに可愛いのにっ!」
イリナはラナァのことを言ったのだが、みんなはイリナが自分を可愛いと思っているんだなぁ、と理解した。
王子だけはラナァのことだと察したけれど。
「いいから早く捕まえなさい!」
王妃が言って、騎士たちが宮廷魔導師を拘束。
ひとまず、これで一件落着である。
「クソ……お前の息子を殺して……」宮廷魔導師が王妃を見ながら言う。「俺の息子を……」
「バカ!!」
第二王妃が大声で叫んだ。
宮廷魔導師がハッとした表情を浮かべる。
「もしかして……あなたの息子、第二王子も本当は彼の子なの?」
王妃は酷くショックを受けた様子で言った。
(これ以上は関わりたくないですね。帰りましょう!)
(ましょー!)
◇
「という感じで、ラナァたちは今、馬車で神殿に戻ってるよ。お仕舞い」
本体ラナァが言った。
「こわっ! 権力闘争こわっ!」シエルが大きな声で言う。「でも面白かった!」
「特に交尾の実況!」とパメラ。
「「人間の交尾、おもろー!」」
妖精たちがクルクルと宙を舞いながら楽しそうに言った。
シエルはちょっと照れたように頬を染めて地面に視線を移した。
「ワシらは魔力の結合によって子を成す」アビスが言う。「故に、交尾というのは実に面倒そうだな、と思ったが」
「妾たちは魔力を結合するのに交尾っぽいことするのじゃ!」
言いながら、パメラが近くの妖精を抱き寄せた。
「するする! 人間みたいに激しくはないけど!」
妖精がパメラの額にチュ、と唇を当てた。
「ラナァはどうやって繁殖するの?」とシエル。
「ラナァ繁殖しないよ?」
「そうなの!?」
「うん。ラナァはラナァだけだよ」
「そ、そっかぁ……」
残念なような、そうでもないような、よく分からない感情にシエルは陥った。
◇
イリナが神殿に戻ると、早速ディアに呼び出された。
とりあえず、イリナは報酬の金貨をディアに渡そうとした。
「ご苦労だった。その金貨はあんたのもんだ」
「はぁ……別にいりませんけれど……」
ここはディアの私室。
ディアはキセルを吸っているが、窓を開けているので部屋が煙いということはない。
「まぁでも取っておけ」ディアが肩を竦める。「神殿にはあとでお布施があるんだろう?」
ディアはソファに座って足を組んでいる。
「ですね。王子もあとで何か贈ると言っていました」
「そうか。ではこの件は終わりだ」
「……何か別の件が?」
イリナが聞くと、ディアが頷いた。
「微妙な話とかなり微妙な話があるんだが、どっちから聞きたい?」
「どっちも微妙なんですか!? 片方はいい話なのが定番では!?」
イリナはとっても驚いて突っ込んだ。
「事実、微妙なのだから仕方あるまい。それでどっちから聞く?」
「……では微妙な話から」
「うむ。実はな、告解に来た信者どもが『聖女ラナァ様と話したい』、『ラナァ様に話を聞いて欲しい』とうるさいんだ」
ディアはイリナの胸元の白いお花――ラナァを見ながら言った。
「……ラナァ?」
イリナが視線を胸元に落とす。
「はぁい」
ラナァが可愛らしく返事をした。
「もしかしてですけど、告解……いえ、外の小屋で人間たちとお話とかしました?」
「うん」
「したんかーーい!!」
ディアが勢いよく立ち上がった。
「ダメだった?」とラナァ。
「全然、ラナァにダメなことなんてありません」キリッとした表情でイリナが言う。「愚かな人間どもは、ラナァと話せたことを感謝するべきですよ」
「おい止めろ! 信者どもを愚かな人間とか言うな!」ディアが慌てて言う。「思ってても聖女はそれを口にしてはいけないぞ!」
「ディア様も思ってるくせにぃ~♪」
「可愛く言ってもダメだぞ! あとディア様は思ってても思ってるとは言わないぞ!」
(つまり思ってるってことじゃないですかぁ)
しかし話が進まないので、イリナは言わないことにした。
「それでディア様、かなり微妙は話とは?」
「うむ……。あんたの進退だが……却下された」
「はい?」
「聖女を辞めるな、ということだ」




