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お花のラナァは今日も幸せ  作者: 葉月双
1章

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15/25

15話 王子、惚れる


 イリナは神聖魔法の【解呪】を使用。

 しかし王子を蝕む呪いは消えない。

 ただ、呪いの進行自体はかなり抑えることができた。


「なんて強力な呪い……かなり名のある魔法使いの仕業ですね」


 呪いも魔法の属性の1つだ。

 たとえば『呪詛』やそれに近い属性であることが多い。

 あるいは、まったく呪いとは関係のない属性でも、呪いのように見せることはできる。


 やろうと思えば、神聖魔法でも相手を苦しめて死に至らしめる魔法を使うことが可能だ。

 そういう呪いのような効果の魔法のことも、まとめて『呪い』と呼ばれる。

 王子に使われている魔法がどっちなのかは、今の時点ではイリナには分からなかった。


「なぜ魔法使いが息子を……」王妃が泣き出した。「誰かが依頼したと、そういうことでしょうか聖女様」


「分かりません」とイリナ。


 魔力の痕跡を追えば、魔法使いを見つけることは可能だ。

 とはいえ、今はここを離れられない。

 王子の呪いを抑え続けなくてはいけないから。

 見たところ、イリナが介入しなければ2~3日で王子は死に至るだろう、とイリナは思った。


(あたくしの魔力量では……長くは……)


 とか思ったその瞬間、唐突に王子を蝕んでいた呪いが消えた。


「あれ?」


 まるで最初から何もなかったかのように、綺麗さっぱり消えてしまった。

 苦しみ呻いていた王子も、安らかな表情に変わる。


「聖女様!?」王妃が驚いて言う。「呪いが解けたのですか!?」


「そのようですが……」


 え? なんで? とイリナは首を傾げた。


(術者が解除した? 神殿の介入を恐れたとかですか?)


「ああ、ありがとうございます聖女様!」


 王妃がイリナに抱き付く。

 王妃はまだ若く美人だし、なんだかいい匂いがしたのでイリナは少し照れた。


「あ、いえ、あたくしでは……」

「これ、誰か! 聖女様に用意した金貨を!」


 イリナの言葉の途中で、王妃がイリナから離れて大きな声で言った。

 メイドの1人が金貨袋を持ってイリナに寄ってくる。

 そしてスッと金貨袋を差し出す。


(まぁ、結果的に呪いは消えましたし、受け取りましょうか)


 イリナは聖女スマイルで金貨袋を掴んだ。

 神殿が受けた依頼なので、報酬はちゃんと持ち帰る必要がある。


「あとで神殿にも多くのお布施をさせてもらいますね」


 王妃は晴れ晴れとした表情で言った。

 と、王子がガバッと起き上がる。

 いきなりだったので、みんな少し驚いた。

 王子がキョロキョロと周囲を見回し、イリナの胸を見て嬉しそうな表情を浮かべる。

 王子は立ち上がり、すごい速さで手を伸ばす。


「え?」


 驚いたイリナが、その手を躱そうと身体を動かした。

 そのせいで王子の手が目的から逸れてイリナの胸を掴む。

 王子が目を丸くして、それから手をニギニギ。


(なにさらすんじゃいこのクソガキ!!)


 イリナは王子を蹴っ飛ばしそうになったけれど、そこはグッと堪えた。

 そして聖女スマイルを浮かべる。


「殿下、女性の胸をそのように掴むものではありません」


 優しく、なるべく優しく、とイリナは自分に言い聞かせながら言った。


「あ、ち、違う……」王子が手を引っ込める。「僕は、ラナァがいたから……」


「ラナァ?」


 イリナが視線を自分の胸元のラナァに移す。


「王子! 起きて早々、何を!?」


 王妃が真っ青な顔で叫んだ。


「母上!? だから違うんだって! 僕はただ……」


「言い訳の前にまず謝罪しなさい!」王妃が怒って言う。「聖女様はあなたを救ってくださったのですよ!?」


「え? じゃあ、あなたがラナァ?」


 王子はイリナをジッと見詰めた。


「いえ、あたくしはイリナです」

「だよね? ラナァにしてはオバさんだし」


(なんじゃこのガキ! あたくしの敵なのでしょうか!?)


 イリナは王子にアッパーカットをかましたい衝動をなんとか抑えた。



(ラナァは今、普通のお花のフリをしてるから喋れないよ)


 ラナァは王子の脳内に直接話しかけた。

 王子はビックリしたような表情を浮かべてから、「なるほど」と呟いた。


(ねぇラナァ、僕のお嫁さんになってよ)

(お嫁さん?)

(そう! 僕、ラナァのこと好きだよ!)


 王子は元気よく言った。


(検討しておくね)


 ラナァは人間たちの結婚について、なんとなくの知識しか持ち合わせていない。

 よって、あとで詳しく調べようと思った。



「申し訳ありません聖女様。僕の愚行と発言をお許し下さい」


 王子が急に爽やかな表情で丁寧な礼をした。


「え、あ、はい」


 イリナとしても、ここで「うるせぇ殺すぞ」とは言えない。

 神殿と王家の良好な関係のためにも、一旦なかったことにしようと思った。


「それと僕を助けてくれてありがとうございます」


 王子の視線はイリナではなくラナァに注がれていた。

 王子の頬は少し赤らんでいて、まるで恋人を見るかのような眼差しだった。

 そのことに、イリナは目敏く気付く。


(こいつっ! あたくしのラナァを狙っているのでは!? でもどうして?)イリナはハッと思い付く。(もしかしてラナァ、王子の呪い消しました!?)


(うん。頼まれて消したよ)とラナァ。


 やはりか、とイリナは納得。

 王子を救ったのはラナァで、王子はそのことを知っている。


「いえいえ、お気になさらず。報酬は頂いておりますので」


 イリナは金貨袋を持ち上げて見せた。


「僕の方からも、後日感謝の贈り物を致します」


 王子は爽やかに見えるけど、どこか薄暗い瞳で言った。


「いえいえ、これ以上は過剰です」

「いえいえ、全然足りませんよ」


 お互いに笑顔で言い合った。

 どちらも1歩も引かない構えだ。

 仕方ない、話題を変えよう、とイリナは思った。



 聖騎士隊長は王子の魔の手からイリナを守れなかったことを悔やんだ。

 立ち位置が悪かった。

 まさか王子があのようなうらやま……けしからん行動に出るとは、隊長はまったく思いもしなかったのだ。


 当然、もう1人の護衛騎士も唖然としていた。

 世話係のフレーチェなんて「ふぁ?」という変な声まで出していた。

 とはいえ、王子の謝罪でおっぱいモミモミの件は終了した。


 したのだが、王子が熱っぽい視線でイリナを見ている。

 揉んだことで惚れてしまったのだろうか? と隊長は思った。

 いやいや、そんなわけあるか。

 命の恩人だからだろう、普通に考えれば。


 そもそも本当に惚れているのかどうかも疑わしいが、視線が熱を帯びているのもまた事実。

 もしまた王子が魔の手を伸ばすなら、その時はちょっと強めに掴んでやろう、と隊長は心に誓うのだった。



「さて、王子を呪った人物の調査ですが」イリナは王妃を見ながら言う。「魔法使いなら魔力の痕跡を追えますので、宮廷魔導師を使うのがいいでしょう」


 魔導師というのは、魔法使いのオシャンティな言い方。

 まぁ、貴族しか使われないけれど。

 一般人は基本的に『魔法使い』と呼ぶ。


「宮廷魔導師がやった可能性もありますけどね」


 ニコニコと王子が言った。

 確かに、とイリナは思った。


「ふむ……外部から魔法使いを呼んでいては、痕跡が消えてしまいます」とイリナ。


 魔法使いはそんなポンポン存在しているわけではない。

 意外と貴重なのだ。


「仕方ないのであたくしが追いますね」


 乗りかかった船、というやつだ。


「危ないので、あたくしと聖騎士、それから王城の近衛騎士だけで向かいましょう」


 イリナが言うと、王妃が笛を吹いた。

 そうすると、近衛騎士たちがダッシュでこの部屋に雪崩れ込む。


「王妃様! 何事ですか!?」

「敵襲ですか!?」


 近衛騎士たちが武器を構えて言った。


「違います。これより、我が息子を呪った愚か者を拘束しに向かいます。同行しなさい!」


 王妃はキリッとした表情で言った。


(え? 付いて来るんですか? 危ないって言いましたけれど……)


 イリナは驚いたけれど、まぁいいかと頷く。

 これだけ騎士がいれば平気だろう。


「では痕跡を追いますので、あたくしに続いてください」


 イリナは魔力の残滓を追って部屋を出る。

 何気に王子も付いて来ていた。

 お前は寝てろよ、とイリナは思ったけれど言わなかった。

 さて、イリナたちは無言でどんどん進んだ。

 城の外に出て、庭を横切り、とある建物の前まで移動した。


「この中のようですね」とイリナ。


「第二王妃の宮殿!?」


 王妃が酷く驚いたように言った。

 イリナも驚いた。


(け、権力闘争というやつですか……うわぁ、関わりたくないですねぇ)


 早く聖女を辞めて、ラナァと聖域で幸せに暮らしたい、と切実に思った。


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