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お花のラナァは今日も幸せ  作者: 葉月双
1章

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14/25

14話 ラナァ、ちゃんと確認する


 王城に到着して馬車を降りると、そこには王妃とメイドたちが待っていた。


「聖女様! 早く息子を治してください!」


 王妃がイリナに駆け寄って、イリナの両肩を掴もうと手を伸ばした。

 しかし騎士隊長がイリナと王妃の間に自分の腕を差し込み、王妃の動きを制する。

 王妃は驚いて隊長を見たが、すぐにコホンと咳払い。

 隊長が腕を引っ込める。


「すみません聖女様、取り乱しました」


 王妃はキリッとした表情で言った。


「大丈夫ですよ。息子が病気なのですから、焦るのも仕方ありません」イリナは聖女の笑みで言う。「早速、案内してください」


 ちなみに、一国の王族よりも神殿の方が遙かに大きな勢力である。

 よって、王族であっても神殿の関係者を見下す者はいない。

 特に聖女クラスには下手に出る者も多い。

 基本的には、という注釈が必要だが。


「ではこちらへ」


 王妃が踵を返して歩き始める。

 王妃のメイドたちも一緒に移動を開始。

 イリナ、フレーチェ、隊長、もう1人の護衛騎士の4人もあとに続く。

 聖女が外に出る時は、最低でも2人の騎士が護衛として同行する決まりとなっている。


(ラナァ、ラナァ、退屈ではありませんか?)


 無言のまま歩いているので、イリナは少々退屈だった。


(ラナァ退屈って分かんない)


 ラナァは淡々と言った。


(あ、退屈というのはですね……)


(概念は知ってるよ)ラナァが言う。(でもラナァはそうだったことがないから)


(ほ、ほう……)

(人間ってよく分からないよねー。わざわざ退屈だなんて有り得ない概念を作っちゃうんだもん)

(人間のことは分からなくても! あたくしのことは分かってくださいっ!)

(はぁい)


 ラナァは素直に返事をした。

 ラナァはいつだって素直だ。

 人間のことだって、分からないけど別に否定しているわけじゃない。

 ラナァから見た人間はすさまじく変な生命体だが、別にそれはそれで構わないのだ。


「ここです聖女様」


 王妃が大きな扉の前で立ち止まる。

 合わせて他のみんなも立ち止まった。

 メイドが2人、前に出て扉を開けた。

 王妃が先に中に入って、続いてイリナご一行。

 最後にメイドたちが入った。


(王族、って感じの部屋ですねぇ)


 イリナがこの部屋を見た感想。

 豪華な調度品の数々に、ふかふかのカーペット。

 それから天幕付きの大きなベッド。


 そのベッドに1人の少年が寝ていた。

 年齢は10歳かそこら。

 酷く汗をかいていて、苦しそうに顔を歪め、うめき声を上げている。


「これはっ!」


 イリナはすぐに少年――王子に駆け寄った。


「酷く苦しそうなのです聖女様、何か大きな病気なのでしょうか?」


 王妃は今にも泣きそうな声で言った。


「いえ、これは病気ではなく、魔法による攻撃を受けています。呪い系統に近いかと」


 イリナはハッキリとそう断言した。


「の、呪い!?」


 王妃がフラッと倒れそうになって、メイドたちが両側から王妃を支えた。


「あたくしの力では呪いの進行を止めるのがやっと……ディア様を呼ばなくては」


 イリナは念環に魔力を送り、「ディア様! 緊急です!」と腕を持ち上げて言った。

 しかし返事がない。


「……仕方ありません、とりあえず応急処置をしましょう」



 王子の周囲に黒いモヤが見える。

 少なくとも、ラナァにはそれが見えた。


(これなぁに?)


 初めて見るそのモヤに、ラナァは興味津々である。

 世界図書館に行けば、きっとすぐに答えは見つかるはずだが、ラナァはそうしなかった。

 まずはしばらく観察しようと思った。

 ラナァがモヤを見ていると、イリナが王子のモヤに神聖魔法を放つ。

 そうすると、モヤの動きが止まった。


(ほーん?)


 なぜイリナがモヤを停止させたのか、ラナァには分からない。


(えっと、呪いって言ってたっけ?)ラナァは思考する。(えっと、確か……)


 ラナァは今までの人生で、一度も何かを呪ったことがない。

 当然、呪われたこともないので、パッと概念が出てこなかった。


(よく分かんないから、本人に聞こうっと)



 王子は精神の中で、激しい炎に焼かれ続けていた。

 その炎は確実に王子の生命を蝕んでいた。

 具体的には、王子の命はあと2日ほどで尽きる。


 どうして僕がこんな苦しい目に……。

 王子は絶望しながら焼かれ続け、泣き続け、世界を恨んだ。

 そして思うのだ、早く死なせて、と。


 自分は苦しむために生まれてきたのか、と神様に対して呪いの言葉も吐いた。

 それは本当に酷い呪いなのだ。

 ジワジワと数日かけて生命を奪う凶悪で強力な呪い。

 この精神の中の王子は、右も左も上も下も分からない黒い場所にいた。


「こんにちは!」


 突然、鈴のように美しい声が聞こえた。

 ああ、僕はいよいよ幻聴まで……と王子は死が近いことを感じた。

 それは王子にとっては苦しみからの解放であり、歓迎するべきことだった。

 早く終わらせて欲しい。

 もうそれしか願っていないのだ。


「ねぇ聞こえてないのかな!?」


 さっきよりも大きな声量で、美しい声が聞こえた。

 あれ?

 幻聴じゃない?

 そう思った瞬間、目の前に白い花が出現した。


「わあ!?」


 王子は驚いて飛び跳ねた。

 床がない場所なので、気分だけ。


「あ、ラナァはラナァだよ!」


 白い花が言った。


「花が喋った!?」


 王子は再び驚いて飛び跳ねる。


「ねぇどうして燃えてるの? 趣味?」


 白い花、ラナァがキョトンとした様子で言った。


「そんな趣味の奴がいるもんか!」


 王子は勢いよく否定。


「そうなの? じゃあなんで燃えてるの?」

「燃やされてるの! 僕は!」

「へぇ」


 ラナァは葉っぱを顎に当てて深く頷いた。

 しつこいようだがラナァは花なので顎はない。

 あくまでそう見えるというだけ。


「感心してないで助けて!」

「いいけど、どう助ければいいの?」

「炎を消して!」

「はい」


 ラナァが葉っぱをパンと打ち合わせると、炎が消滅。


「え?」


 王子はポカーンと目を丸くした。

 あれほど自分を苦しめていた業火が、一瞬で消えてしまったのだから当然だ。


「消したよ」

「あ、うん……ありがとう……」


 王子はまだ色々と理解できないでいた。

 でも、今はもう苦しくない。


「それで聞きたいんだけど」ラナァが言う。「どうして燃やされてたの?」


「それは僕が聞きたいかな!」


 王子が言うと、ラナァは茎を傾げた。


「いや、あのね、僕も何がなんだか分からないんだよ」

「そっかぁ、分からないかぁ。じゃあもう用ないから帰るね」


 そう言って、ラナァが消える。

 消える時、律儀に葉っぱを振った。

 そしてラナァが消えたその瞬間、再び激しい炎が王子を包み込んだ。


「ぎゃあああああああああ! 待って待って! ラナァ待って! もう一回来て!」


 王子が切実に叫ぶと、再度ラナァが登場。


「なぁに?」

「なぁに、じゃなくない!? 僕、助けてって言ったよね!?」

「んっと、助けたよね?」


 ラナァが茎を傾げる。


「また燃やされてるけど!?」

「どうして欲しいの?」


 ラナァは両手を腰に当てるみたいに葉っぱを茎に当てて、やれやれという雰囲気で言った。


「消して消して! この炎を永遠に消して!」


 王子が必死の形相で言った。

 ラナァは素直に頷こうとして、だけど止めた。

 こういう時(何かが永遠に失われる時)は、確認した方がいいと前にアビスが言っていた。


 素直さはラナァの長所だが、多くの生命体は勢いで言ってしまうこともあるのだ、とアビスは話していた。

 そう、本気じゃないのにその場のノリで言ってしまうことがあるらしい。


「永遠に消しちゃうの? 本当にいいの?」


 ラナァはアビスに教わった通り、確認作業を行った。


「いいに決まってるよね!? 好きで焼かれる奴なんていないよね!? ってか僕めっちゃ苦しんでるよね!?」

「苦しいのが好きな人間も割といるって前にパメラが……」

「いいから消して!」


 王子が叫び、ラナァは少し強めに葉っぱを叩き合わせた。

 そうすると、王子を包んでいた炎が消える。

 同時に、世界が一瞬にしてお花畑に変貌した。

 青い空に、優しい風。

 揺れる色とりどりの花たち。


「あれ? 天国? 僕死んだ?」

「死んでなーい。じゃあラナァ戻るね」


 そう言って、ラナァはパッと消えてしまう。

 ラナァを探し出してお礼をしなくちゃ、と王子は思った。

 そう、たとえ人生の全てを費やしてでも、またラナァに会いたい。

 てか呼べば来るのでは? と思った瞬間に、王子は現実世界で覚醒した。


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