13話 ラナァ、歌う
アビスの養子になった少女シエルは、妖精たちの着せ替え人間になっていた。
ツギハギだらけだったシエルの服を、妖精たちが容赦なく脱がし、どこから持って来たのか様々なドレスをシエルに着せた。
白いフリフリのドレスを着せて「微妙!」と言ってまたシエルを全裸に剥いて、次は青いシックなドレスを着せて「似合わない!」と言って全裸に。
(これいつ終わるんだろう?)
疑問に思ったが、シエルは何も考えないことにした。
自分の状況すらよく理解できていないのだから、これ以上何かを考えたら脳が焼き切れてしまう。
ちなみに今は午前中である。
昨日、シエルはこの聖地にやってきて、みんなと挨拶を交わしたあと、なぜか歌ったり踊ったりした。
そうこうしているうちに眠くなって気付いたら朝だった。
そして今に至る、ってわけ。
「では朝の一曲」
ラナァがどこからかギターを取り出す。
(どっから出したの!?)
シエルはビックリしたけれど、物を出し入れできる魔法があるとどこかで聞いた覚えがあった。
なので、きっとその魔法なのだろうと納得。
昨日からラナァには驚かされてばかりだ。
神殿の告解室にいたのはラナァの分体だということにも驚いたし、花が喋ったり歌ったりしていることにも驚いた。
そして、義父となったドラゴンのアビスが、ラナァのことをとっても大切にしていることにも仰天した。
だってドラゴンとお花だよ?
普通はドラゴンの方が格上だと思うじゃん、とシエルは思った。
「ランラン♪ ラナァ♪ ランラン♪ ラナァ♪」
ラナァは器用に葉っぱを使ってギターをかき鳴らす。
(めっちゃギター上手い!)
まるで長年ギター1本で世界を放浪した吟遊詩人のようだ。
「ララララ♪ ラナイト♪ 夜のラナァはラナイト♪ 騎士のラナァもラナイト♪」
歌詞はメチャクチャなのに、歌声はすこぶる美しい。
まるで長年、酒場で歌い続けた歌姫のよう。
アビスがウンウンと大きな首を縦に振りながらラナァの歌を聴いている。
グリフォン2匹も目を瞑って気持ちよさそうにラナァの歌に耳を傾けていた。
グリフォンたちと意思疎通はできなかったけれど、いいグリフォンだとシエルは認識している。
なんせ、昨日はグリフォンたちが妖精たちのおもちゃになっていたから。
あんな揉みくちゃにされても怒らないなんて、いいグリフォンに違いないってこと。
「よぉし、この黄色のドレスめちゃ似合うのじゃ!」
妖精女王のパメラが、どこからか大きな鏡を出してシエルの前に置いた。
そこに映っていたのは、貴族令嬢と見間違えるほど美しい少女だった。
「……これがあたし?」
シエルは信じられず、自分の顔に触れる。
そうすると、鏡の中の令嬢も顔に触れた。
「半端な~い!」パメラが言う。「可愛さ半端な~い! 妾の次ぐらいに可愛いのじゃ!」
「「可愛い!」」
妖精たちがシエルの周囲を飛び回りながら、「可愛い」を連呼。
シエルは照れて頬を染める。
(でも……本当に可愛い……)
汚れ1つない澄んだ肌は絹のようで。
透き通った水色の瞳は宝石みたい。
茶色のくせ毛は貴族令嬢のフワフワした髪のように見える。
髪の長さは背中ぐらいで、頭のてっぺんにはアホ毛が揺れている。
しかしそのアホ毛ですらチャームポイントに思えた。
「か、か、可愛いシエル♪」
ラナァがいきなりシエルを歌に登場させたので、シエルはビクッとなった。
「今日は幸せであれるかなぁ♪」
ラナァはとっても楽しそうに歌っている。
シエルは「割と幸せかも」と思った。
状況はよく分からないけれど、孤児院にいた時よりも気持ちが晴れ晴れしている。
聖域と呼ばれるこの場所は、適温な上に活力が湧いてくるのだ。
果物は死ぬほど美味しいし、水も同じく目が輝くレベルで美味しかった。
それに今のこの自分の姿。
孤児院にいた時のシエルは薄汚れていた。
ジャラララーン、と最後にギターを大きく鳴らし、ラナァの曲が終わった。
妖精たちが一斉に拍手。
アビスは尻尾をダンダンと地面に打ち付ける。
その度に地面が揺れて、シエルはビックリした。
昨日からビックリしっぱなしだな、と思いながらシエルも手を叩いた。
「ところでラナァ」パメラが言う。「聖女ちゃんと分体ラナァはいつ帰ってくるのじゃ?」
「さぁ」とラナァが茎を傾げる。
「では今は何しておるのじゃ?」
「分体ラナァはイリナの胸の間に根付いてるよ」
「何それウケるのじゃ~」
パメラが笑って、妖精たちも手を叩いて笑った。
(何が面白いのか、あたし全然分からないっ!)
そもそも、それがどういう状況なのか想像できないシエルである。
まだラナァ歴が浅いので仕方ないことだ。
「それで馬車に乗って、イリナはこれから王子ってやつの病気を治しに行くんだって」
「王子!?」
シエルは驚いて言った。
「なになに~?」パメラがニヤニヤと言う。「シエルは王子様とか興味ある系かの?」
「娘はやらんぞ王子」アビスが言う。「ワシの娘が欲しければ、まずワシを倒すことだ」
(あたし一生お嫁にいけないじゃん!)
どう考えても、どう控え目に見ても、アビスに勝てる人間がいるとは思えない。
いや、勇者様とかならワンチャン……と真面目に考えてしまうシエルだった。
◇
聖女イリナの世話係であるフレーチェは、やっぱりイリナの胸元の花が気になっていた。
ここは王城へと向かう馬車の中。
フレーチェの対面にイリナが座っている。
そして昨日と同じく、イリナの胸元には白い花が飾られていた。
(やっぱ見られてる気がするぅぅぅ)
白い花には独特の視線のようなものを感じるのだ。
(でも大聖女様が大丈夫って言ってたし……)
そう、フレーチェは早朝から大聖女のディア様に呼び出されたのだ。
「わたし何かやっちゃいました!?」と思いながらビクビクと呼び出しに応じたフレーチェ。
そこにはイリナの護衛である騎士隊長もいた。
そしてディアに説明されたのだ。
イリナは大丈夫、正気である、と。
更に、白い花は聖地に咲く珍しい花だが何の害もない、と。
「フレーチェ、ラナァが可愛くて見てるんですか?」
イリナがホクホクの笑顔で言った。
「あの、イリナ様……ラナァとは?」
フレーチェはいつものローテンションな声で言った。
頭の中では元気なフレーチェだが、実際に誰かと話すのは実は苦手である。
「あ」とイリナが口を開ける。
「あ?」とフレーチェが首を傾げる。
コホン、とイリナが咳払い。
「その、このお花の名前です……」
(このアホ聖女、花に名前付けてるぅぅぅぅぅぅぅ!!)
ビックリ仰天、テンテンテテテン♪
変な音楽が頭を流れてしまったフレーチェ。
(落ち着けわたし、大丈夫、こんなのは、子供がぬいぐるみに名前を……って! イリナ様は子供じゃないけど!? ああ! 大聖女様! 本当にこの人、大丈夫なんですか!?)
イリナが正常でないと、フレーチェの将来がブンブンと棒で振られてしまう。
あれ? 棒で振られるで合ってたっけ? と一瞬悩むフレーチェ。
まぁなんでもいいか。
「あまりの可愛さに驚いたようですね」
イリナは至極真面目な表情で言った。
「ええ……そう……ですね」
曖昧ながらも、フレーチェは同意した。
と、動いている馬車の窓をコンコンとノックする音。
イリナが窓を開けると、馬に乗っている騎士隊長がいた。
「聖女様、もうすぐ王城です。服装の乱れ等、身だしなみを確認してください」
「分かりました」
隊長の言葉に頷いて、イリナは窓を閉める。
「それではフレーチェ、あたくしの身だしなみチェックをお願いします」
「あ、はい」
(こういう感じは、いつものイリナ様なんだよなぁ……)
そんなことを思いながら、フレーチェはイリナの外見をチェックした。




